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交渉!

 製菓会社へのアポは奇跡的にとることができた。

 ひょっとすると、こちらの熱意が伝わったのかもしれない。


 ただし、今は新型コロナウィルスが蔓延しているため、直接会っての交渉はできない。代わりに、ネット上のWeb会議サービスを使用してプレゼンすることになった。


「Web会議の準備はできた?」


 初めての試みに心配になり、越智くんに声をかける。


「はい、もうすぐログインできると思います」

 越智くんはパソコンが得意のようで、ネットで設定方法を見ながら淡々と作業している。


「ああ、緊張するな」


 話す予定のない清家がそわそわしている。


「ちょっとうろうろすると邪魔だから座ってなさいよ。あんたが動いていると話す内容が飛んじゃうじゃない」


 清家に文句を言う。


「プレゼン資料を作ったのは俺やけん」


「いえ、僕がほとんど作りましたけど」

 毛利くんが苦笑いする。

 一番年下の毛利くんが体格的にも精神的にも、もっとも年長者に見える。


「つながりました」

 越智くんの声に、みんながパソコンに視線を向ける。


 大手製菓会社のロゴマークが、パソコンの画面に映っている。

 その横には、私たちのどこか間延びしたような顔が映っていた。


「まだ、先方はWebカメラを起動していないようですね」

 越智くんがこちらのカメラもオフにする。

 すると、パソコンから相手方の声が聞こえた。


「こちら長永(おさなが)製菓の橋爪(はしづめ)です。聞こえていますでしょうか」


 私がアポを取った男性の声が聞こえる。


「はい、聞こえています。南海市役所の山本です。本日はお忙しい中、お時間を取っていただきありがとうございます」


「それでは、Webカメラをオンにします」


 お互いにWebカメラを起動する。


「改めまして、長永製菓の橋爪と申します。本日はよろしくお願いいたします」


 カメラに映ったのは、私好みの爽やかなイケメンだった。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 少しドキドキしながら、挨拶する。


「時間も限られていますので、早速ですがプレゼン資料を共有画面に映しますね」


 私は毛利くんが作ってくれた資料に沿って、プレゼンを始めた。





「こちらの説明は以上です。ありがとうございました」


 なんとか話し終える。

 事前に練習していたおかげもあって、伝えたいポイントはきちんと説明できたはずだ。橋爪さんも時々頷きながら、真剣に聞いていたように思う。


「プレゼンありがとうございます。それでは、こちらから質問してもよろしいでしょうか」


 橋爪さんが鋭い眼差しをこちらに向ける。


「はい、お願いします」


「まず、景品となる真珠の単価ですが、これ以上は下げることができないでしょうか」


「品質の低いものでよければ、単価は下げることができます」


「サンプルの写真はありますか。あと、見積もり表もお願いします」


「いま映しますね」


 準備していたグレードの低い真珠の写真と見積もり表をアップする。


 橋爪さんはじっと画面を見て、電卓を叩きながらメモを取っている。


「この品質でもけっこうするんですね」


 メモを書き終えた橋爪さんが、難しそうな顔をする。


「ざっと計算してみたのですが、採算が取れそうにないですね」


「そうですか……」


「それにこのままの値段だと、そもそも法律にも抵触します」


「法律ですか」


 橋爪さんは景品表示法という法律を説明してくれる。それによると、チョコダーマの単価や売上総額の一定割合までに景品の金額を抑えなくてはならないらしい。


 その後、橋爪さんはいくつか質問して、結論を伝えてきた。


「面白い企画だとは思うのですが、商品化は難しそうですね」


「でも、真珠の単価をもっと下げれば、検討の余地はありそうですか」


 このまま引き下がることができなくて、思わず食い入るような言い方になる。


「そうですね。先ほど写真で見せていただいた品質を維持した上で、単価を下げられるのであれば検討はできると思います」


 橋爪さんは具体的な真珠の単価を告げる。それは、かなり厳しい金額だった。


「それと、真珠の単価をクリアできても、これから先は他の企画と競合になります。もちろん私も最善は尽くしますが、商品化のお約束はできません」


「分かりました」


 私は真珠の単価を下げる交渉を続けると宣言して、Web会議での打ち合わせを終えた。





「で、お前はあてがあるんか」


 清家が聞いてくる。


「ないけど、あそこで無理とは言えないでしょう」


「でも、市内の真珠業者はすべて回りましたよね」


 毛利くんが冷静な発言をする。


「それは、そうなんだけど」


 言葉に詰まる。

 

 そんな私たちを見ていた越智くんが何かに気づいたらしく、話しかけてくる。


「そ、そういえば、清家さんたちはかなり早く戻っていましたけど、旧田吉町(たよしちょう)は終わったんですか」


「旧田吉町?」


 私の疑問に越智くんが答えてくれる。


「20年ほど前に市町村合併があったのですが、そのとき当時の田吉町は南海市と合併しました。田吉町の海沿いはここから離れているので、あの時間で行けたのかなと」


 清家に視線を向ける。


 清家が気まずそうに目線を逸らす。


「清家、あのとき全部訪問したっていったよね」


「いや、あれは市内だけかと思ってたけん。田吉町は頭に入っていなかったんよ」


 清家がリストを見ていたので、除外したのはわざとだろう。きっと遠くて面倒くさいと思っていたに違いない。


「清家、あんたね」


 険悪な雰囲気になりそうなのを、亜利紗が止める。


「でも、まだ希望はあるってことですよね。だったら、すぐに行ってみませんか」


「じゃあ、最後のあがきで、私が行くから」


「私もついていきます」

 亜利紗も同行してくれるらしい。

 しかし、亜利紗は企画課の業務が忙しく、帰りがますます遅くなっていた。


「亜利紗は残業続きだし、無理しなくていいよ」


「大丈夫です。一人より二人の方が、よい知恵が浮かぶかもしれません。それに運転も任せてください」


 私は運転できないことを、すっかり忘れていた。田吉町の海沿いは市役所から車でも20分以上はかかる。


「そうね、亜利紗に運転をお願いするわ」


 亜利紗の好意をありがたく受け取って、私たちは田吉町に向かった。





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