真珠!
「チョコダーマと真珠のコラボ?」
私は早速、昨夜に思いついたアイデアを打ち合わせで発表した。
「そう、チョコダーマはみんなも知っているでしょ」
「金や銀のタートルを集めると、おもちゃの缶詰が貰えるチョコレート菓子ですよね」
毛利くんが答える。
「そうそう。それでね、まず期間限定のチョコダーマとして、真珠のようなホワイトチョコバージョンのチョコダーマを売り出すの」
期間限定という言葉に、日本人は弱いのだ。当然、私も例外ではない。
「そんなんインパクトに欠けるけん。前のじゃこ天くんのようにバリバリっといかんと」
清家が忘れかけていたトラウマを引き釣り出してくる。だが、ここでめげてはいけない。
「もちろん、それだけだと、ただの白いチョコダーマで終わるよね。でも、チョコダーマの最大の特長ってなにかしら」
「さっき毛利くんが言ったおもちゃの缶詰がもらえることですよね」
亜利紗が答える。
「そうそう。おもちゃの缶詰が貰えること。このおもちゃの缶詰も期間限定で変えるの」
「何に変えるんか」
「本物の真珠に変えるのよ」
みんながぽかーんとしている。
私はホワイトボード前に立ち、思いついたことを書きなぐる。
「期間限定のホワイトチョコがかかったチョコダーマ。この商品は金や銀のタートルを集めれば、1粒の真珠に変えられる。そして、もらった真珠はネックレスなどのアクセサリーに加工してもらえるの」
亜利紗が私の考えに頷く。
「なるほど、1粒で終わるのではなくて、数を集めてもらって商品の購入をリピートさせるのですね」
「そうそう。そして、パッケージには『南海市産の真珠が当たる!』みたいにして、南海市をPRするの」
「た、確かに面白そうですね」
越智くんが賛同してくれる。
「最近、真珠養殖も元気がないから、話題作りにいいかもしれません」
毛利くんも乗り気だ。
「景品で当たった真珠だったら、愛着が湧きますよね。私もこの企画にチャレンジしてみたいです」
亜利紗が味方に加わった。
残すは、清家だ。
「で、真珠はどうやって集めるんか」
清家がホワイトボードに近づき、私の書いた文字や図に注文を付けてくる。
「真珠は誰が仕入れるんか」
「誰って、市役所がPRをするんだから、市役所で買ってチョコダーマを作っている会社にプレゼントしたらいいじゃない」
「そんなんできるわけないわ。ここはな、南海市役所やけん。税金でそんなもん買える許可が下りん」
反論しようとしたが、すぐに思いつかない。
「仮に真珠を買える許可が下りても、チョコダーマを作っている会社への交渉もせんといけん。それに真珠いうても、ピンキリやけんな。いいもんやと一粒数万円いく。そこまで高いものやなくて、まあまあの真珠をそろえるとしても、お菓子のような景品の予算ではたくさん購入できんやろうけん、プレゼントできる人数が減る。すると当たりが少なくなって、話題にならんか、文句たれるやつが出てくるやろう。逆に悪いものやと安いかもしれんが、そんなもんくれて誰が嬉しいんか」
清家の意外な正論に、言葉が出てこない。
「清家さんが話していた『南海市役所が真珠を購入できないこと』ですけど、別に南海市役所は真珠を買わなくてもいいんじゃないですかね」
毛利くんには妙案があるらしい。
「真珠業者と製菓会社を直接結びつける、いわゆるビジネスマッチングで対応すればいいと思います」
毛利くんの言葉に、亜利紗が頷く。
「なるほど、南海市役所が仲介役をするということですね。それなら、上席の方々にも説明がしやすそうです」
亜利紗は呑み込みが早く、もう利点を理解しているようだ。
「ビジネスマッチングっても、上手くいくとは限らんわ」
「でも、少なくとも市役所が真珠を買い取るより、現実味がありますよ。採算についても、各自の企業が考えると思いますし」
意外にも毛利くんが引き下がらない。頑張れ、毛利くん。
清家が悩み始める。お前は私たちの上司かと突っ込みたくなる。
「お前らで、真珠業者と製菓会社を説得できるんか」
「清家、あんたもやるのよ」
「まじか」
こいつはやらない気だったのか。
「と、とりあえず、ダメもとで、真珠業者と製菓会社に企画案を話してみませんか」
大人しい越智くんも、最近は積極的に意見を言ってくれる。
毛利くんが越智くんの言葉に頷き、立ち上がる。
「それなら、真珠業者から話してみて、どのくらいの価格になるのか見積もってもらいましょう。課に業者リストがあるので、もってきます」
毛利くんは小走りで出ていく。クマのような体形が、今は頼もしく見える。
しばらくして、毛利くんはリストを脇に抱えて戻ってくる。
「越智さん、ビジネスマッチングは産業振興課でやっていますよね」
毛利くんが越智くんに尋ねる。
「うん、課長に許可を貰えれば、動けると思う」
「それじゃあ、お願いできますか」
「分かった」
越智くんが頷く。
産業振興課の許可が下りれば、チョコダーマの企画が動き始める。航空会社でも企画なんてしたことがなかったから、少し気恥ずかしい。しかし、成功させるため自分のできることを精一杯やると、私は心に誓った。
産業振興課で審議した結果は、チョコダーマ企画の承認だった。上司や関係部署への説明に、越智くんと毛利くんがかなり頑張ってくれたらしい。
私たちは承認が下りた翌日から、毛利くんの持ってきたリストを元に、市内の真珠業者を回っていた。
私は清家とペアを組んで真珠業者を回ったが、結果は散々だった。
ほとんどが話を聞いてもらえない。話を聞いてもらえたとしても、素案を話すと難しいと断られる。にっちもさっちもいかない状況だった。
「どうすんのか、これ」
清家がやる気なく問いかける。
「あんたの態度がいけないのよ」
「さすがに訪問先では真面目にやっとるけん」
企画が無謀すぎる、清家はそう言いたげにスマホの地図を見ている。
「もう俺らの担当している業者は終わりやけんな」
あとは亜利紗たち三人組に任せるしかない。
私と清家は一足先に市役所に戻ったが、亜利紗たちがいなかったので、各々自分の部署で残務をこなす。
かなり時間が経過して、亜利紗たちが帰ってきたと電話があった。
「亜利紗、どうだった?」
打ち合わせスペースに入ってすぐに、亜利紗に声をかける。
「二社から見積もりを貰えました~」
思わず、私と清家が驚きの声を上げる。
「すごいじゃない」
「やっぱり、こっちには若さが足りんかった」
清家をぶん殴りたくなる。ただ、ここは我慢だ。
「でも、喜んでばかりもいられません」
毛利くんが二社の見積書の中身を説明する。
「やっぱり真珠の単価が高いです。そうなると景品として使えるかどうか」
確かに、金額を見ると想定よりも高かった。
「もちろんグレードの高い真珠は使えませんから、安い真珠を使うことになりそうです」
「安い真珠でも、製菓会社が納得してくれたらいいですけど」
亜利紗が少し不安そうに見積もりを見ている。
「三人ともありがとうね。あとは私が製菓会社に企画案を聞いてもらえるように交渉してみるから」
自信はなかったが、やれることをやってみる。そうすれば、きっと道は開けるはずだと自分を勇気づけて、その日の打ち合わせは終わった。




