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魔導書使いの調伏師  作者: 和泉ふみん
第一章 司、調伏師となるまで
21/38

ノー紫織ノーライフ

どうしてこうなったのだろう。

どこで間違ったのだろう。

俺が専属契約を結んだからか、力にうぬぼれたからか。いや、俺なんかが紫織と出会ってしまったからか。いや、俺が生まれてきたからではないのか?

全ての歯車が狂い始め、負の方向に向かっていく。


「神様ァ…。助けてくれよぉ…。」


血まみれの紫織を抱えながら嘆く。彼女は既に息も絶え絶えの状態だ。


事の始まりは10分前に遡る。





「フン、恐れをなしたかと思ったぞ、人間。」


「フッ、誰が。テメエこそビビってんじゃねえのか?」


俺達は、決闘とは名ばかりのケンカをするために、高天原内の巨大な道場のような場所にいた。


「時間無制限の一本勝負!相手を戦闘不能にすれば勝ち。よろしいですね?」


立会人はアマテラスに務めてもらう。


「ああ。」


「承知しました。」


「それでは…始め!」


ピシュンッ


ドカカカッ!!


掛け声と同時に二人の姿が消える。道場中を線が駆け巡り、それがぶつかったかと思えばすごい音と衝撃波が、皆の鼓膜を揺らす。


その線の正体は、もちろん司とタケミナカタ。目にも止まらぬ速さで、次々と互いに攻撃を仕掛けていく。何より恐ろしいのは、まだお互い素手であり、まだまだ本気でないことだ。


「人間にしてはやるな!しかし甘い!」


「くおっ!」


避けきれず、腹に一撃もらう。神の一撃は一つ一つがとんでもない威力だ。全身に激痛が走る。いくら司が人間離れしていると言っても、ダメージが大きすぎる。


「やっぱ、素手じゃ力負けするか。紫織、来い!」


「ハイッ!」


ボフンッ


影人形(シャドーマリオネット)!」


魔法を発動させると、タケミナカタの影が実体をもって現れた。タケミナカタを全体的に黒くしたようなソレは、自らの姿の元となったタケミナカタに襲いかかった。


「ええいッ、ちょこまかと!」


影法師、影武者などの言葉があるように、影とはまさに本体の(コピー)し。影タケミナカタには、本物のタケミナカタのデータがそっくりそのまま入っている。次にどんな攻撃をするか、どう避ければいいか。すべて影、更にはそれを操る俺にも筒抜けなのだ。


「ええいッ、卑怯者めぇ!」


「うわあっ!」


ドスーン!!


タケミナカタが地面をブッ叩く。すると地面にヒビが入り、俺達は足をとられる。


「フンッ!」


足をとられ動けない影人形は、本物にあっさり倒された。実際のところ、影なので耐久力は全くない。しかも時間をおかないと再び呼び出せないのだ。まあ、多少の時間稼ぎにはなったし良しとしよう。


「何つーバカ力…。こりゃ格闘技よりも、剣技で戦うか。刀華!」


「うむ!」


ボフンッ


「いくぞ、付与魔法雷(サンダー)対象(ターゲット)刀華!」


刀華の刀身が電撃を纏う。俺はそのまま走りだし、ジャンプして空中でひねりを加えながら斬りかかる。


「遅いッ!グアアアッ!」


タケミナカタは、真剣白羽取りの要領で刀華を受け止める。しかし刀身に触れた瞬間、すさまじい電気がタケミナカタの体を駆け抜ける。


「電気が流れてる刀に触るとかマゾかよッ!テヤアッ!」


相手が怯んでいる間に二振り目を振り下ろす。今度は受け止めずに避けたが、避けきれず顔に多少の切り傷が入った。


「へっへへ、どうよ!…あ?」


さっきからタケミナカタはずっとうつむいている。そしてブツブツ言っている。


「傷つけたな、私の顔を、私の顔を、傷つけたなぁぁああ!」


その瞬間、タケミナカタの体が真っ赤に染まり、全身からものすごい霊力が流れ出ていた。完全に怒りで我を忘れている。


「グホオッ!?」


俺の腹にさっきよりも鋭い一撃が入る。痛みで目の前が反転する。俺は、その場に膝をついてしまったが、その隙に顔面に膝蹴りがお見舞いされる。口や鼻から大量の出血をしてしまった。


「くそッ、時乃!」


「ハイなのじゃ!」


ボフンッ!


対象決定(ターゲットロック) タケミナカタ、 均衡回復(バランスリターン)!」


ガキャンッ


天秤を傾けるが、タケミナカタは元に戻らない。


「おいッ、どうした?」


「ダメなのじゃ!相手の力が強すぎて、妾の技が通用しないのじゃ!」


「フンッ!」


「うおおっ!」


タケミナカタの拳が襲ってくる。俺がさっきまでいた場所は、粉々に破壊されてしまった。俺としても、避けるのに精一杯だが、このままではじり貧だ。


「こうなったら、来い!玻璃!」


「はい~!」


ボフンッ


百色眼鏡(ひゃくいろめがね)!」


玻璃の鏡面に幾何学模様が浮かび上がり、少しづつその形を変化させていく。百色眼鏡とは、万華鏡の別名である。この技は、相手に特殊な幾何学模様を見せ、それを一定のリズムで変化させることで、催眠状態に陥らせる技である。


「ウガアアッ!」


しかし、タケミナカタには全く効かなかった。精神のイカれたやつには、幾何学模様なぞ、ただの模様と何も変わりがないのであった。つまり、幾何学模様に仕込まれた催眠効果に、気づく脳みそがないのである。


「このおっ、鏡返し!」


「グアアッ!」


鏡返しは、自分に向かってくる霊力を、そっくりそのまま弾き返す技だ。ただし、この技も万能ではなく、それなりの霊力を消費するし、あんまり相手が強すぎると跳ね返せない。今の一撃で、俺の霊力の大半が持っていかれた。2度目はない。


「ウガア!」


「うわあああっ!」


急激な霊力の消耗に、俺の体が悲鳴をあげている。そのせいで反応が遅れ、タケミナカタの攻撃を避け損なった。刀華も、時乃も、玻璃も、そして俺も、皆地面に突っ伏している。


「そこまで!タケミナカタ、もう止めなさい!タケミナカタ!」


アマテラスの制止が入る。しかし、その言葉はタケミナカタには届かない。


タケミナカタは、地面に倒れて動けない俺に、とどめをさそうと腕を振りかぶる。その拳が俺に届こうとしたその瞬間


「カハッ!」


視線をあげると、俺の目の前で血飛沫が舞った。俺の顔を濡らしたのは、紫織の血だった。


「ゴプッ」


腹を貫かれ、口から血を垂れ流しながら、紫織は地面に力なくくずおれる。


「おいッ、おいッ紫織!」


「司さん…。よかった…。あなたが、いきててくれ…て…。」


紫織は、そのまま光の粒子となり、本の姿に戻っていきつつある。その身からはほんの少しの霊力しか感じない。


「紫織イィィィィ!!!」


俺は、慟哭する。自らの不甲斐なさを呪いながら。


そして話は、冒頭に戻るのであった。

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