ノー紫織ノーライフ
どうしてこうなったのだろう。
どこで間違ったのだろう。
俺が専属契約を結んだからか、力にうぬぼれたからか。いや、俺なんかが紫織と出会ってしまったからか。いや、俺が生まれてきたからではないのか?
全ての歯車が狂い始め、負の方向に向かっていく。
「神様ァ…。助けてくれよぉ…。」
血まみれの紫織を抱えながら嘆く。彼女は既に息も絶え絶えの状態だ。
事の始まりは10分前に遡る。
「フン、恐れをなしたかと思ったぞ、人間。」
「フッ、誰が。テメエこそビビってんじゃねえのか?」
俺達は、決闘とは名ばかりのケンカをするために、高天原内の巨大な道場のような場所にいた。
「時間無制限の一本勝負!相手を戦闘不能にすれば勝ち。よろしいですね?」
立会人はアマテラスに務めてもらう。
「ああ。」
「承知しました。」
「それでは…始め!」
ピシュンッ
ドカカカッ!!
掛け声と同時に二人の姿が消える。道場中を線が駆け巡り、それがぶつかったかと思えばすごい音と衝撃波が、皆の鼓膜を揺らす。
その線の正体は、もちろん司とタケミナカタ。目にも止まらぬ速さで、次々と互いに攻撃を仕掛けていく。何より恐ろしいのは、まだお互い素手であり、まだまだ本気でないことだ。
「人間にしてはやるな!しかし甘い!」
「くおっ!」
避けきれず、腹に一撃もらう。神の一撃は一つ一つがとんでもない威力だ。全身に激痛が走る。いくら司が人間離れしていると言っても、ダメージが大きすぎる。
「やっぱ、素手じゃ力負けするか。紫織、来い!」
「ハイッ!」
ボフンッ
「影人形!」
魔法を発動させると、タケミナカタの影が実体をもって現れた。タケミナカタを全体的に黒くしたようなソレは、自らの姿の元となったタケミナカタに襲いかかった。
「ええいッ、ちょこまかと!」
影法師、影武者などの言葉があるように、影とはまさに本体の写し。影タケミナカタには、本物のタケミナカタのデータがそっくりそのまま入っている。次にどんな攻撃をするか、どう避ければいいか。すべて影、更にはそれを操る俺にも筒抜けなのだ。
「ええいッ、卑怯者めぇ!」
「うわあっ!」
ドスーン!!
タケミナカタが地面をブッ叩く。すると地面にヒビが入り、俺達は足をとられる。
「フンッ!」
足をとられ動けない影人形は、本物にあっさり倒された。実際のところ、影なので耐久力は全くない。しかも時間をおかないと再び呼び出せないのだ。まあ、多少の時間稼ぎにはなったし良しとしよう。
「何つーバカ力…。こりゃ格闘技よりも、剣技で戦うか。刀華!」
「うむ!」
ボフンッ
「いくぞ、付与魔法雷、対象刀華!」
刀華の刀身が電撃を纏う。俺はそのまま走りだし、ジャンプして空中でひねりを加えながら斬りかかる。
「遅いッ!グアアアッ!」
タケミナカタは、真剣白羽取りの要領で刀華を受け止める。しかし刀身に触れた瞬間、すさまじい電気がタケミナカタの体を駆け抜ける。
「電気が流れてる刀に触るとかマゾかよッ!テヤアッ!」
相手が怯んでいる間に二振り目を振り下ろす。今度は受け止めずに避けたが、避けきれず顔に多少の切り傷が入った。
「へっへへ、どうよ!…あ?」
さっきからタケミナカタはずっとうつむいている。そしてブツブツ言っている。
「傷つけたな、私の顔を、私の顔を、傷つけたなぁぁああ!」
その瞬間、タケミナカタの体が真っ赤に染まり、全身からものすごい霊力が流れ出ていた。完全に怒りで我を忘れている。
「グホオッ!?」
俺の腹にさっきよりも鋭い一撃が入る。痛みで目の前が反転する。俺は、その場に膝をついてしまったが、その隙に顔面に膝蹴りがお見舞いされる。口や鼻から大量の出血をしてしまった。
「くそッ、時乃!」
「ハイなのじゃ!」
ボフンッ!
「対象決定 タケミナカタ、 均衡回復!」
ガキャンッ
天秤を傾けるが、タケミナカタは元に戻らない。
「おいッ、どうした?」
「ダメなのじゃ!相手の力が強すぎて、妾の技が通用しないのじゃ!」
「フンッ!」
「うおおっ!」
タケミナカタの拳が襲ってくる。俺がさっきまでいた場所は、粉々に破壊されてしまった。俺としても、避けるのに精一杯だが、このままではじり貧だ。
「こうなったら、来い!玻璃!」
「はい~!」
ボフンッ
「百色眼鏡!」
玻璃の鏡面に幾何学模様が浮かび上がり、少しづつその形を変化させていく。百色眼鏡とは、万華鏡の別名である。この技は、相手に特殊な幾何学模様を見せ、それを一定のリズムで変化させることで、催眠状態に陥らせる技である。
「ウガアアッ!」
しかし、タケミナカタには全く効かなかった。精神のイカれたやつには、幾何学模様なぞ、ただの模様と何も変わりがないのであった。つまり、幾何学模様に仕込まれた催眠効果に、気づく脳みそがないのである。
「このおっ、鏡返し!」
「グアアッ!」
鏡返しは、自分に向かってくる霊力を、そっくりそのまま弾き返す技だ。ただし、この技も万能ではなく、それなりの霊力を消費するし、あんまり相手が強すぎると跳ね返せない。今の一撃で、俺の霊力の大半が持っていかれた。2度目はない。
「ウガア!」
「うわあああっ!」
急激な霊力の消耗に、俺の体が悲鳴をあげている。そのせいで反応が遅れ、タケミナカタの攻撃を避け損なった。刀華も、時乃も、玻璃も、そして俺も、皆地面に突っ伏している。
「そこまで!タケミナカタ、もう止めなさい!タケミナカタ!」
アマテラスの制止が入る。しかし、その言葉はタケミナカタには届かない。
タケミナカタは、地面に倒れて動けない俺に、とどめをさそうと腕を振りかぶる。その拳が俺に届こうとしたその瞬間
「カハッ!」
視線をあげると、俺の目の前で血飛沫が舞った。俺の顔を濡らしたのは、紫織の血だった。
「ゴプッ」
腹を貫かれ、口から血を垂れ流しながら、紫織は地面に力なくくずおれる。
「おいッ、おいッ紫織!」
「司さん…。よかった…。あなたが、いきててくれ…て…。」
紫織は、そのまま光の粒子となり、本の姿に戻っていきつつある。その身からはほんの少しの霊力しか感じない。
「紫織イィィィィ!!!」
俺は、慟哭する。自らの不甲斐なさを呪いながら。
そして話は、冒頭に戻るのであった。
感想、要望等ドシドシお寄せください。ブックマークも待ってまーす!




