※ とあるえいゆうのはなし 3
※3話連続投稿。こちらは3話目となります。
……そこから先は、良く覚えてなくてさ。
戦場に立った気はするんだよね。俺にはもうそれしか残ってなかったからさ。
例え自分がこの先どうなろうと、それでも最後の最後にみんなが託してくれたものを無駄にするわけにはいかなかったから。
痛みは感じなかった。ただがむしゃらに、ひたすらに、自暴自棄に、戦場を駆けた。
でも、覚えてないんだよ。結局。
最後の記憶はジークの背中の上。
剣の重みだけを頼りに、ただひたすらに進んでいた。目の前に立ちふさがるものをただ切って。斬って。
俺の名前を呼ばれた気がする。振り返った先で、矢が構えられていてね。咄嗟に反応できなかったのかな。
目の前が真っ赤になって。脇腹がすごく熱くて。熱くて。
ジークの手綱を離してしまった。
目の前が真っ暗になってく中、誰かに名前を呼ばれた気がするけど、良くわからなかったんだ。
でも、どこか。
妙に安心できたような気もする。
そうして気が付いたときには、俺は森の中に倒れていて、横にこのサイズになったジークが転がってたんだよね。
うん、本当に驚いた。だってさっきまでいた城の中じゃないんだもの。夢じゃないかって何度も思ったよ。実際今でも少し疑ってる。
服装はぼろぼろのままでさ。ジークもちっちゃくなってるし。あれは参った。もしあの時、たまたま森に入って山菜を採っていたおじいさんに会わなければ、俺あのまま動けなかったよ。
おじいさんがすごく親切な人でさ。明らかに不審な俺を、何かあったと思ってそのまま自分の家に連れ帰ってくれたんだよね。
おじいさんの家は宿屋で。一緒に切り盛りしてるおばあさんがいた。おばあさんもすっごい驚いてた。
その二人に拾われて俺、助かったの。
そこからしばらく二人が世話してくれた。
見当違いなこと話す俺を見て、何かあったんだと悟ってくれたのかな。いろいろ教えてくれたよ。
ジークも見せたよ。すっごい驚いてた。それですごく怯えるから、あぁジークって見せちゃいけないんだなーってその時悟った。
そうして、おじいさんとおばあさんにお世話になってね。二人とも子供が巣立ってしまったから寂しくて、だから世話するのは楽しいんだって言ってくれて。
でも、俺の心はぽっかり空いたままだった。
国はどうなったのだろうとか。あの後俺はどうなったのだろうとか。
戦争はどうなったのだろうとか。
ずっと考えて、ずっと悩んで。
でもなんか。
どうする気力も残ってなかった。
戻らなきゃと思うよ。普通に考えれば戻る方法を探すべきだ。
でも、なんでかそうする気にならなかった。
なれなくて。
だから、旅に出ることにした。
このままお世話になりっぱなしじゃ迷惑だろうと思ったし。
旅をしていれば俺がここに来た理由とか、その後の話とか、もしかしたら分かるかもしれないし。……帰る方法も。
おじいさんとおばあさんは本当にいい人でね。俺が旅に出ること、なんにも聞かなかった。ただ、また来てねって言われた。俺が家を出るとき少しお金もくれた。旅の足しにしなさいって。
だからいつかお礼をしに行かないと、って思っているんだけどね。
家を出るとき、おじいさんとおばあさんが言った。聖王都へ行きなさいって。そこに道はあるからと。
俺はその言葉に従った。
あとはアルフィも知ってる通り。
目的のない旅で、あてのない旅にするつもりだった。
だからアルフィには感謝してる。理由をくれたから。
俺が旅をする理由をくれた。だから、ありがとう。
……思うんだけど。俺、あの時に死んだのかもしれないね。
今なんで生きているのかわからないけど、もしかしたら今でも俺はもう生きていないのかもしれないけど。
でも〝銀竜の英雄〟ユークレース・ヴァルクレイはたぶんあの時、死んだ。
そうなるとさ。俺、結局、幼馴染との約束すら果たせなかったことになるんだよね。
最後の最後で。
……最後の戦い、か。指揮官がいなくなればどうなるかなんて、分かっているのにな。
一応は俺の補佐官を置いておいたのと、俺が万が一居なくなった時の引き継ぐ役もいたし、戦況は有利な状況ではあったけれど――――
……それなのに、こうして呑気にしてる。
どうして、なんだろうね。
誰も守れなかった。
英雄なんて謳われながら、結局自分の大切なものはなにひとつ守れなかった。
なによりも叶えなければいけない約束があった。
その約束すら、手放してしまった。
分かってるんだよ。本当は。俺は、自分の過去と、犯した過ちと、向き合いたくないだけだ。
戦争がどうなったか、あの後みんなが、国が、世界がどうなったか、知りたくないだけだ。
……俺はね、知らなければいけないことから、ずっと逃げているんだ。
……俺は、最低で、最悪の、臆病者なんだ。
ねぇ。
……なぁ。
なんでお前、俺に代わって一騎打ちなんてやったんだよ。
なんでお前、あの時笑ったんだよ。
約束したじゃないか。
俺が戦争を終わらせるから、お前らは俺を支えてくれって。
誓ったじゃないか。みんなでまた、故郷に帰ろうって。
なのにさ、なんでお前ら、いないんだよ。
なんで、俺独りだけ残して、逝っちまったんだよ。
そんなの、……おかしいだろ。
……なぁ。
ずっと苦しいんだ。
眠れないんだ。
眠ろうとしても怖いんだ。暗くて冷たい闇に引きずり込まれそうで、そのまま二度と戻って来れなくなりそうで、怖いんだ。怖くて怖くてたまらないんだ。
誰かが俺を責めているんだ。
約束したのに。平和な世界にしてくれるって言ったのに。それなのに、って。
耳元でずっと、呪うように、恨むように、ずっとずっと俺を責めるんだよ。
わかってるよ。逃げてるってことぐらい。
でも足がすくむんだ。怖いんだ。目をそむけたまま、俺はずっと逃げているんだ。
どうしろっていうの。
どうすればいいの。
……なぁ、答えろよ。
……答えて、くれよ。
ずっと、がむしゃらに走ってきたんだ。
ただ自分の信じる道を、まっすぐに走ってきただけなんだ。
それなのに、何処で間違えてしまったんだろう。
俺は、
……――――どうしたら、この罪を償えるんだろう。
「あーよく寝た。おはようユーク。ジークもな」
「キュ」
「おはよ、アルフィ。寝癖ついてるよ、ココ」
「なっ」
「……あーあ、真っ赤になっちゃって。あー、アルフィー?
俺、今のうちに着替えるから、洗面所から出てくるときひと声かけてねー?」
「……キュ?」
「ん? どしたのジーク」
「……」
「…………大丈夫だよ」
「……キュウ」