第5燐 血の海に伏す
――見渡す限り、年中降る雪によって白銀に染まる平原にて。
「グッ……!!」
竜族の中でも、有数の体躯を持つ立派な赤竜――シェイドの父竜であるヴァルカニック・ブレイズは、真っ赤な血の雪に伏していた。
彼の周囲を囲むのは――数多、その数1000は超えるであろう魔物たち。
足元には、それと同じ数の魔物の亡骸が倒れ伏していて――真っ白な雪を体からあふれ出す血で真っ青に染め上げていた。
そして、それら全ての魔物の体の周囲を白いオーラが纏っていた。
「炎竜の中でも最も力を持つ竜族に贈られる、【頂火】の二つ名を冠する貴殿も、圧倒的数の前にはこのざまか……」
「貴様……まさか……」
雪原に似合わぬ、真っ黒な鳥が飛来する。カラスという名のまったく魔力を身に持たぬ、この世界に古くからいる原住生物である。
しかし、そのカラスからは並々ならぬ魔力のオーラが発せられていて――黒鳥は次の瞬間、宙空で音を立てて姿を変えた。
その質量とサイズ、さすがにヴァルカニックには及ばぬが、周囲の魔物よりかは圧倒的に大きい、25M程度の大きさである。
同じ竜族――それも真っ黒な竜燐に全身を覆い、冥界の魔力を操る片手で数えられるほどしか数のいない特異な亜種――冥竜族。
真っ黒な魔力を全身に纏いながら、生きている魔物たちごと踏みつぶし、その禍々しき流派ヴァルカニックの前に顕現する。
そして、ヴァルカニックの頭に鋭利な爪の右腕をグリグリと押し付けて、卑しい笑みをうかべたのである。
「貴殿たちの好きなようにはさせん……!人類ごときに頭を下げるような行為、絶対に――!!」
「【破界】ゼノ・イグニス――!!」
その二つ名の意味は、神龍が予知の力で見た未来の光景をそのまま二つ名としたもの。
ゼノ・イグニス――またの名を、【世界を破壊せしもの】……。
―――
左右の壁に灯された炎石灯のみが周囲を照らし、足音一つ立てればどこまでも奥まで響いていきそうな地下通路――。
「はぁっはぁっ……」
当初の予定では、この緊急避難通路とでもいうべきこの道を通って、シェイドたちは安全に王城セントラル・フォートレスから逃げ出すはずだった。
けれど、シェイドは今、必死に魔力を込めた大剣を振るい、汗をまき散らしながら闇に潜む刺客たちをのしている。
シェイドたちが進んできた背後には、十数人の刺客――王城兵の恰好をした者たちが血の海に伏している。否、それは実際に王城兵だったものたちでろう。王城兵たちに紛れて潜入し、この日までスパイとして何者かに情報をバラまき続け、そして今日この日を待ち続けた伏兵たちだろう。
「まさか、王国の大将軍であるこの私まで、罠にハメてくるとは――今までの功績と、陛下との信頼関係がある。さすがに、この私が大将軍の座を降ろされるようなことはないと思うが……しばらくは碌に動くことができなくなるだろう」
「人類と竜族との和平同盟はこれで、更に先延ばしになった……ってわけか……。しかし、なんだって、こんな先を読まれるような――」
言葉は続かなかった。次の刺客が襲い掛かってきて、俺がそれを切り払ったからだ。
一体、これはいつまで続くのだろう。どこまで、俺たちは先回りされてしまっているのだろう。
俺たちは――そもそもこの地下通路を無事に抜けることはできるのだろうか……?
昨日は投稿できませんでした。姪っ子が遊びに来たり、母ちゃんに車運転道案内を頼まれたりで、昨日と今日が忙しかったせいです。(頭痛いし、さすがに寝たのであった)




