第6燐 シェイド・ブレイズの終焉
20、30、40――次々と襲い来る刺客たちを殺し、満身創痍な俺たちの前方に明るい光が確かに見えた。
「出口だ――!!」
俺たちは傷だらけになった体になんとか気合いを入れ、血と汗を垂れ流しながらも、確かな希望の光目掛けて歩みを進める。
さっきまで力を失いそうになってた両脚が、今は羽のように軽く感じた。実際には、一歩一歩を進むことに必死なのだけれど、そんな現状を感じられないくらいには、その光は俺たちの希望になった。
「まぶし――――」
地下通路とのあまりの明るさの差に、俺は目を瞑る。視界が真っ白に飛んで、目頭が安堵で熱くなって――その先に映った光景に心臓を凍らせた。
「メガロポリス王国騎士団――」
どこまでも広がる草原を埋め尽くすように……将軍たち率いる数千の軍勢が待ち構えていたのである。
一人の将校が、口の端をニヤリと釣り上げて笑うようにいう。
「シェド・ブレイズ――並びに、その仲間一行……貴様らを、竜族に人類を売り国家を裏切ろうとした罪――国家転覆罪で逮捕する」
俺たちは決死の逃避行の末、どうにもならない数の兵を前にし、捕らわれの身となったのである。
―――
仲間たちの悲痛な叫び、正義の訴え、呪詛を込めた断末魔――いろんなものが青空に響き渡っては消えていくのが、俺の耳にも届いたはずだ。だが、もはや俺にそれらを聞き届ける気力はなかった。似たような問いが俺の頭の中を渦巻き続けていたからだ。
どうして、こうなってしまったのだろう?どうして、俺たちは処刑される羽目になっているのだろう?どうして――俺たちは、人類にとっても竜族にとっても素晴らしい未来を提案しようとしていたはずだったのに、
それはきっと、竜族のプライドだけがそうさせるわけじゃないだろう。それはきっと、人類の呪詛のみがもたらした結末というわけではなかったはずだ。そこにはきっと――よからぬ陰謀の渦がうずまいているはずだった。
誰かが得をするのだろう。誰かが野望を叶えるのだろうか?誰のどんな望みや夢だとして――それがこれから無駄に流れるであろう幾千もの人類と竜族の血に釣り合うものなのだろうか……?
「俺は……どうして生まれてきた……こんな終わりを迎えるために人類と交流をして……」
「滑稽ですなぁ……シェイド・ブレイズ――」
俺は聞いたことのあるその声に、人の地で、ましてや処刑されようとしているまっただ中で聞くことなど絶対にありえないその声音に、虚ろだった意識を覚醒させられた。
俺は今、断頭台の前に立っていた。これから頭をその上に乗せ、飛来する刃によって首をおとされるのだ。
俺には金属製の首輪、腕輪、足かせがつけられていて――鎖で俺の腕輪を引っ張って前に進ませる黒髪の少年こそが、件の声を発した人物であった。
「おまえはまさか――人に化けているゼノ・イグニス……君なのか?」
「【頂火】ヴァルカニックにはがっかりさせらました……。思った以上に手ごたえがなかったのです……。やはり、神龍様より力をお借りした私にとって、もはや地上に相対するべき宿敵などいないのかもしれません」
「っ!?!?!?どうして、君が神龍様の力をっ……?」
「もちろん、あなたとヴァルカニックの事を告発し、その事態を治めるために力を授けてもらったに決まってるじゃないですか……。あなたたちが竜族を裏切り――人類が勝利した後に、人類に貢献した竜族として特別な地位につけてもらおうとしていることを……」
「ち、違う!!!!俺たちは……いや、俺は――人類と竜族の同盟を……」
「詭弁ですか?方便ですか?私には効きませんよ、シェイド・ブレイズ?私には……あなたの嘘が、本当の思惑が手に取る様にわかっているのです!」
「ほ、本当にちがっ――」
俺は必死に訴えようとするが、青年に化けたゼノ・イグニスは、俺の頭を断頭台に押し付ける。
どうにか信じてもらおうと声を荒げようとして――声をツバと一緒に呑み込んだ。
「ゼノ・イグニス……もしかして、今、君は笑っているのか……?本当は俺が嘘などついていないことを知っていて、その上で俺の仲間と父上を――俺を嘲笑い、殺そうというのか……?」
「さぁ、何を言ってるんでしょうねぇ~。死にゆく者にとっては真実など、どっちでもいいでしょう、シェイド・ブレイズ。あなたとヴァルカニックの名は永遠に【竜族】の裏切者として歴史に刻まれることでしょう……」
「ゼノ・イグニス……。俺たちは昔――」
「ああっと言い忘れてました……」
風切り音が鳴って、首に鋭い痛みが走った。視界がありえないくらいクルクルと宙を舞って、自分の首が切り落とされたのだと知る。迸る真っ赤な血潮――真っ赤な噴水のその先に、確かにゼノ・イグニスの世界で最も底意地の悪そうな笑顔を見ることになった。
「神龍様によって、あなたは罰を受けることとなる。――ただ、死ぬだけでない、呪いを……」
―――
――その日、俺と10人の仲間たちは広場にあるギロチンによって首を落とされ、公開処刑となった。
俺たちがいなくなった後、世界はどうなったのか知る由はない。たった一人残されたシャリア姫が何を思い、何を為したかなど知る方法も何一つあるはずもなかった。




