第4燐 碧閃の貴公子
アスタ・ヴァレンティンは、俺たちを引き連れて、謁見の間のすぐ右にある縦横30メートルもあるかという広さの立派な応接室へと連れていく。
俺と11人の仲間たちすべてが完全に中に入ったのを確認すると、小さくうなずいたアスタの合図によって近衛兵が出入口のカギをかける。
部屋の中には、俺を含めた仲間たち12人と出入口とアスタのそばにつき従う兵士4名、そしてアスタ本人の計17名となった。
「――ですから、アスタ様、我々は突如兵士たちに襲われて――」
「はい、分かっています。シャリア様。なんとなくではりありますが、あなたたちがしようとしていることも、あなたたちを狙ってきた王城兵たちの目的も――。あなたたちを信用していなければ、こんな密室に連れ込んで人数不利な状況なんてつくらないでしょう?」
「じゃ、じゃあ、俺たちが危機的状況に陥っているのは分かるよな、アスタ?国王に話をつけてくれるのか……?」
俺が声をふるわせて、縋るように言った言葉に対し――青髪細身の大将軍は、小さく首を横にふった。
「先ほどの騒動の音と光景、床に伸びた王城兵たちの姿を、多くのものが目にしてまったでしょう。目立ちすぎてしまった。もはや、完全なる口止めなど不可能……。国王様や側近たちを説得できるか、否かという問題じゃないのです。状況が現場証拠が――あなたたちを法を犯した者と断定し、罰さねばならない」
「じゃ、じゃあ、アスタ様……私たちをどうして、この部屋に――」
「……逃げて――もらうためです……」
アスタが部屋に入って左の壁――何の凹凸もない足元にほど近い場所に触れ、それを押し込む。
たちまち、四角いスイッチのようにその壁の部分が凹み、ズガガガガガガガ、と音を立てて床が開いて、秘密の地下へと続く階段が現れたのであった。
「こ、これは……まさか――」
「ええ、そうです、シャリア様。――これは、本来、王族を緊急時に逃がすための逃走経路として用意された地下通路……。今回の場合、シャリア様が含まれていますから、まあ本来の用途からあまり離れてはいないでしょう。この入り口を知る者は、ごく限られた数人だけ……。いくら、敵の情報網が広いとしても、さすがにここは知られていないでしょう」
「だ、だが……この場所から逃げるってことは――父上を見捨てるってことで……」
「ヴァルカニック・シェイド――いや、シェイド・ブレイズ……」
「――っ!?そこまで、調べがついてるとはな……」
アスタの青色の眼光が、俺を射竦める。彼は真面目なだけでなく柔和な面もあり、知り合ってから比較的すぐに打ち解けれた相手だ。性格的な硬さをあまり感じない。威厳のようなものは感じず、どこか飄々としているような雰囲気すら感じられる。しかし――その実態は、この王国の大将軍というだけでなく、人類の中でも五本の指に入るほど武勇をとどろかせる実力者。さらに言えば、俺たちが説明するまでもなく俺たちの作戦を知っていたように、情報網とそれを用いた策謀に王国一長けている参謀だ。
彼はいつから俺の事を竜族だと見抜き、その柔らかな笑顔の下で殺意を秘めていたのだろう?
そして、いつ俺が害のないものだと判断し、銃に手をかける事をやめてくれたのだろうか?
少なくとも俺の方は、俺が竜族だと見抜かれているだなんて、さっきの発言を耳にするまでは疑念にすら思っていなかった。殺意や敵意を完璧に隠していたのだろう。改めて、【碧閃の貴公子】ことアスタ・ヴァレンティンの底知れなさに心臓をわしづかみされた思いだった。
「本当、俺たちの味方でよかったよ、アスタ……」
「それは、こちらのセリフですよ、シェイド・ブレイズ……。あなたは、両種族を裏切り続けているような身の上でありながら、少なからず竜族にも人類にも友人を抱えているようだ。――人並外れた人望力。それこそが、あなたの真価でしょう。なにせ、この私でさえ、助ける必要のないあなたたちを助けて危険を犯そうとしている……」
「ウフフ、シェイド様はすごいのです……!なにせ、いずれ私の夫――この国の国王となる方ですからっ!!!!」
「「ん……?」」」
「「「「「は……?」」」」
「なるほどなるほど、シェイド君たちはそういう関係だったんだねぇ~!めでたしめでたし……!」
「シェイド・ブレイズ……!俺は……俺は……!」
「……シェイド・ブレイズ、君たちを逃がした後、しばらく経ってほとぼりが冷めてからでいい。少し話がある……ッッッッ!!!!」
「……?????どういう意味だ?分からねえが、ああ、分かったぜ、アスタ……」
シャリア王女が胸を張って何かを堂々と言い放った途端、突如その場の空気が凍り付いたのを感じた。なんか、特に女性陣からの視線が怖いのだが、気のせいだろうか……?何はともあれ、俺だけはちょっと意味が分からず、少しだけ弛緩してくれたその状況に感謝を覚えた。
「ありがとう、シャリア、場を和ませてくれたんだな……?」
「いいえ、シェイド様……、私は大真面目に――」
「少し黙ってようかしら、シャリア姫ぇ~?」
「なんか私の杖が血を求めて唸り始めたなぁ~……」
「アッハッハッハ、シェイシェイ、全然分かってないみたいだよぉ~?残念だったね、お姫様ぁ~!!」
「この大槍――シェイシェイにふるうべきか、お姫様にふるうべきか……」
「シェイドちゃぁん……?大丈夫よ、あなたの事は私たちが守ってあげるからぁ~……?」
「……???よくわかんねえけど、とにかく、ありがとう、皆――」
「――このアスタが、君たちを逃がすと言っているんだ、意味は分かるな?シェイド?」
俺は「ああ、もちろん!」とうなずいた。悩みが吹っ切れた。いや、完璧に晴れたわけではない。けれど、こういう土壇場でアスタがいるときはいつだって、俺はアスタの意見を信じてきたんだ。
「俺たちは逃げる――!しかないんだろう?」
「ああ、君たちがいない間に、私が舞台を整えよう――人類と竜族との和平同盟は、そのあとだ…!!」




