↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/71

第四十二話:新人冒険者と、同じ食卓の人々

街道の先で荷車が止まっていた。


道を塞いではいない。ただ片方の車輪が浅い溝へ落ち、引き出すのに手間取っているようだった。

御車が速度を落とすと、犬に似た顔の男性がこちらへ片手を上げた。


僕達が降りた頃には、荷物の一部が道端へ移されていた。


急ぐ旅ではない。人(人?)との出会いは一期一会。


手伝う事にした。


「その箱はそっちへ。ああ、底を持ってくれ。蓋だけだと抜ける」


言われた通りに持ち直す。

危なかった。初手で人の商品を地面へ展開するところだった。

しかしイツモアは少し変わったな。

以前なら「いけません!カイ様がそのような雑事を!!他の者にやらせればよいのです!」とプリプリ怒っただろう。

僕に対する信頼度が上昇したのか、興味がなくなったのか。

前者だ。前者に違いない。


箱には布が詰まっていた。見た目より軽い。

運び手のカニス族の男性は、足場へ石を入れながら車輪を確かめている。


近くではレプス族の女性が荷物を数えていた。

僕が箱を置くと、その上へ小さな札を戻す。


「ありがとうございます。三つとも、こちら側で大丈夫です」


三つ?

僕は振り向いた。後ろでイツモアが残りの二つを持っていた。


仕事が早い。


彼女、と言うかエイリスはその見た目に反してかなりの怪力だ。


その最たる存在がテトライルなのだそうだ。


実際、夜のイツモアの拘束には逆らえた試しがない。

僕が箱の底を見つける間に、彼女は現場の全体像を把握していたらしい。


銀髪の青年も荷車を支えていた。

長い耳。エイリスだ。


シェリルとイツモアを見た途端、青年の背筋が不自然なくらい伸びる。

口を開きかけた彼へシェリルが先に微笑んだ。


「今は車輪をお願いしてもいいかしら」


青年は慌てて頷いた。

持ち上げかけた車体へ視線を戻し、運び手と呼吸を合わせる。


余計な挨拶より安全確保。正しい。


車輪が溝から抜けると、運び手は額を拭って笑った。

僕達も近くの宿泊所へ向かうと知り、そのまま同じ道を進む事になった。


休憩の時、僕の登録証が話題になった。


「冒険者か。若いのに、いい連れがいるな」


運び手の視線が二人へ動く。

僕は登録したばかりだと答えた。


「最初の仕事は何だった?」


紐を結ぶ事です。まぁクエストではなかったが。

そう答えるには少し勇気が要った。


事情を話すと彼は笑い、小刀を収めた腰の袋を叩いた。


「結べて切れれば、道中は案外それで助かるもんだ」


馬鹿にされた訳ではなかった。

その人の手には細かな傷があり、爪の端に土が残っていた。


僕は自分の指を見た。

紐を結べるだけでも、ちゃんと使い道はあるらしい。


夕方に着いた宿泊所は街道から少し引いた場所にあった。

低い建物の脇に荷車を置く広場があり、煮炊きの煙が軒の下へ流れている。


イツモアは荷物を置くなり厨房へ顔を出した。

持参した香草を使えるか相談しているらしい。しばらくすると宿の女性に呼ばれ、シェリルまでそちらへ行った。


僕は入口の長椅子に座って待つ。


研究主任と巫女長が揃って夕食へ取り組んでいる。

この世界の重要会議、案外厨房で開催されているのかもしれない。


そういえば僕がよく接するネオ・エデンの首脳陣は、ヴィンセント以外女性だ。


女性の社会進出が進んだ良い国家だ。


しかし、その理由が少し気になった。


ヴィンセントが任命している風でもない。一番発言権がありそうなのはシェリルだ。

色々な部門の事に口を出せる立場らしいが、部下を連れているところは見た事がない。肩書は「研究主任」だ。


いつ、誰の意思でこの構成になったのだろうか?


などと、久々に脳内会議を開催しているとイツモアからお呼びがかかった。


出来上がった料理は、根菜と肉を煮込んだものだった。

湯気の中にナギで覚えた香りが混じっている。


「少し乾いた葉でしたので、入れる量を変えてみました」


イツモアが僕の反応を待っている。

一口食べると、肉の脂の後からすっと香りが抜けた。


「美味しい。ナギのとも少し違うね」


彼女の口元が緩む。いつも思う。イツモアの喜んだ時の表情は可愛い。

向かいでシェリルも頷き、宿の女性へ使った野菜の名を尋ねた。


隣の卓ではレプス族の商人が、空になった皿の底を名残惜しそうに見ている。

イツモアが鍋を見て宿の女性へ目配せすると、お代わりが運ばれた。


食卓の話題は道の様子へ移った。


予定していた品が届かない。

いつもの街道を避けた荷車がある。

橋の先を通らない方がいい。


と、様々な情報がもたらされた。


どれも理由ははっきりしなかった。

シェリルは食事を続けながら、場所と聞いた時期を一つずつ確かめている。


その後は僕達の御車を引く銀色の狼型の移動装置が話題になった。他種族にとっては憧れのようだ。


銀髪の青年は、次の町で親類と落ち合う予定だと話した。

何を届けるのか尋ねると、箱の中の布を指す。


「子供が増えたので。服に使える物を」


僕は道端で運んだ箱を思い出した。

あれにも行き先があったのだ。


僕にとっては見知らぬ街道だが、この人たちには日常の途中らしい。


食べ終わった器を重ねながら、そんな事を考えた。

お読みいただきありがとうございます。


本日20時に、第43話「夜の約束と、血刃様のお仕事」を公開予定です。

旅先で少しずつ変わるイツモアと、カイの小さな練習の続きをお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。