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第四十一話:旅の荷物と、血刃様の指定席

ナギの屋根が見えなくなった頃、イツモアが足元の鞄を開いた。


中から包みが出てくる。一つ、二つ、三つ。

まだ出てくる。


僕は彼女の顔を見た。イツモアは何もおかしな事はしていないという顔で、膝の上へ包みを並べている。


「……それ、全部香草?」


「こちらは香草ですわ。こちらは乾かした果実。こちらは調理の際に使う種でございます」


全部違うらしい。

僕の目には全部『茶色いものが入った袋』なのだが。


シェリルも隣で小さな箱を開けた。湿った布の間に苗が収まっている。ナギで分けてもらったものだそうだ。

二人とも何だか嬉しそうだ。

僕は自分の紙束を見た。


料理人は食材を、研究者は植物を、僕は自分の取扱説明書の下書きを持ち帰る。

旅の成果としては悪くない。僕のだけ注意事項が多いのが気になるが。


スペックがピーキーだから仕方ない。まるでΖガンダムみたいだ。


「次に試す時、布を探さなくて済むようにしておこうかな」


僕が空いた袋へ清潔な布を入れると、イツモアが顔を上げた。

すぐに別の包みを出し、僕の袋へ加える。


傷を押さえる物。汚れを落とす物。手を覆う物。

僕が一つ入れる間に三つ増えた。


冒険者の装備を整えていたはずなのに、完成したのは往診鞄だった。

しかも患者は僕で固定らしい。

脳内のアイテム欄は「布・布・布・紙」だ。

次の街にたどり着けそうにもない。


「助かるけど、こんなに使う予定はないよ?」


「使わずに済めば、その方がよろしいですわ」


もっともである。


非常に優秀なマネージャーとはこのような人物なのだろう。

準備がよい人に予定の話で対抗してはいけない。

僕の予定表には『指から血が出る』すら書いていなかった。


シェリルが僕の紙へ目を向けた。


「何に使いたいか、考えていたの?」


僕は一番上の紙を取り出した。

指先から小さな刃が出ている絵。その隣には、途中で諦めた大きな剣らしき物がある。


絵心がないせいで、右側だけ物騒なシャベルだった。


「刃物になるなら便利かなと思って。でも、普通の小刀の方が使いやすそうなんだよな」


自分で言って少し悲しくなった。

能力の発見から数日。早くも市販品との比較で劣勢である。


イツモアが絵へ指を添えた。


「何も持っていない時でも使えるのは、よいところではありませんか?」


なるほど。

持ち物欄を消費しない。装備を奪われても使える。


その代わり僕の血を消費する。


持ち歩かなくていい。MPというよりHPを払う装備か。

……持ち物より大事な欄を減らしている気もするが。


「まずは小さな物を切るところからかしらね。形を保てる時間も、まだ短いでしょう?」


シェリルに頷き、僕は紙の端へ書き足した。


『細い紐。試す』

『厚い物。まだ分からない』


二人が見ていると、派手な技名より先に具体的な課題が増える。

地味だ。非常に地味だが、昨日の僕よりは賢い。


「聞きましたか?血刃様。まずは日用品部門からだそうです」


イツモアが僕の右手を見た。

少し迷ってから、真面目な顔で小さく頭を下げる。


「あまりカイ様を傷つけ過ぎないよう、お願いいたします」


向かいでシェリルの肩が揺れた。


僕も笑ってしまった。

真面目なイツモアのやや天然の入った言動がとても愛おしい。

この御車の乗客名簿には今、三人と、まだ出ていない刃物一名が載っているらしい。文章だけだとホラーだ。


そうこうしている内に、街道は緩やかに上っていた。

窓の下を草の穂が流れ、遠くには低い山が重なって見える。


紙をしまうと、今度はカウガでの予定の話になった。


図書館。学院。薬草を扱う店。

イツモアは保存食の種類を調べたいと言う。

元々料理は得意だったイツモアだが、旅に出てからの学習意欲がとても高い。


「古い仕組みを復元している場所もあるわ。歯車を組み合わせて動かしたり、水の力を使ったり」


その言葉に僕は顔を上げた。


「歯車? 実際に動いてるところを見られるの?」


シェリルが頷く前に身を乗り出してしまった。

手元の板へ映ったのは簡単な施設の配置だけだ。絵はない。それでも期待は膨らむ。


いや、神殿の設備が凄いのは分かっている。最新だ。近未来だ。

だが、歯車が噛み合って動いているのを見られるなら、

それはもうロボなのだ、メカなのだ。

そう、それは別腹なのだ。


ピカピカ光って音もなく静かに動くのも凄い。

ただ、グルグル回ってガリガリ鳴るのには別の栄養がある。


「そんなにお好きでしたか?」


イツモアが不思議そうに尋ねる。

僕は頷き、手で車輪を回すような動きをした。


「どう動いてるのか見えると、ずっと眺めてられるんだよ」


永久機関や変形するギミックなどは大好物だ。

何だったか?子供の頃、見せてもらった動画……。

そうだ!「ピタゴラスイッチ」だ!

ああいう仕掛けを見て、物理や数学が面白そうだと思った気がする。

誰と見たのかは出てこないのに、転がる玉や動く仕掛けばかり浮かんでくる。


説明になっているだろうか。

なっていない気もする。


それでもシェリルは施設の場所へ印をつけてくれた。

イツモアも真剣な表情で紙に何か書き足している。


覗くと『カイ様。回る物』とあった。


だいぶ雑にまとめられたが、おおむね正しい。

他のページがとても気になる。


だが、何故か釈然としない……。

お読みいただきありがとうございます。


食材と苗と、自分の取扱説明書を積んで、三人の旅が続きます。


カイの好みを記したイツモアの手帳。他のページには何が書かれているのでしょうか。


作者X:https://x.com/karasunoaoi

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