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projectMOTHER~異世界転生したら女神の主と呼ばれている~  作者: 鴉野碧
3:お気楽異世界外遊オーツ編
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第二十七話:女の過去と、最初の仕事

しばらくは、僕の知らない土地や、僕の知らない人の名前が続いた。

橋を渡るのを嫌がった仲間。

料理は上手いのに、必ず鍋を焦がす宿の主人。

シェリルに勝負を挑んでは負け続けた冒険者。


僕が質問するたび、シャトーリは楽しそうに話してくれた。

シェリルも時々、細かい間違いを直す。


英雄譚というより、旅先での失敗談。

けれど、話す二人の様子を見ていると、それが大切な思い出なのだと分かった。


シェリルにもこんな一面があるのかと、とても新鮮な気持ちになった。


やがてシャトーリが、お茶を一口飲んで言った。


「そういえば、以前のお話ですが」


「なぁに?」


「いつか、ご一緒に世界を見て回りたい方がおられると。……そのお話は、今も進めておいでなのでしょうか」


おや。

急に話の種類が変わったぞ。


僕はカップを口元に運びながら、聞いていないふりをした。


シェリルにも、そういう相手がいるのか。

そりゃ、いるかもしれない。

長い人生だ。僕が知っている彼女なんて、ほんの数週間分でしかない。


「どうかしらね」


シェリルは、いつもの調子で答えた。


微笑みも変わらない。

ただ、その目が静かにシャトーリに向けられている。


「……これは、立ち入った事を」


シャトーリは穏やかに笑い、僕のカップを見た。


「お茶のお味はいかがですかな。少し香りは強いものですが」


「あ、はい。美味しいです」


危ない。

完全に聞く姿勢になっていた。


(女の過去の詮索は、褒められたものじゃない)


さっき教わったばかりだ。

ここで質問を重ねたら、僕は学習能力のない男になってしまう。


僕はお茶を飲み直した。

少し渋くて、その後に甘い香りが残る。

元の世界にも、似たものがあったような気がした。


隣では、いつの間にか四つ目のカップの位置が少し変わっていた。


……飲んだのか、イツ。

その瞬間を見逃した。


気になる事は沢山あるが、全部聞けばいいというものでもないらしい。


*


「ところで、カイ殿はどのような依頼をお考えですかな」


シャトーリが尋ねた。


ついに来た。

新人冒険者、進路相談のお時間である。


「まずは、僕でもできるものから……とは思っているんですけど。どんな仕事があるのか、まだよく分からなくて」


魔獣討伐。

遺跡探索。

盗賊団の壊滅。


心の中では、その辺りの単語が元気よく手を挙げていた。

だが、測定器を光らせる事すらできなかった男だ。

ここで格好をつけると、翌日には捜索依頼の対象になるかもしれない。


「それでしたら、まず依頼板をご覧になるとよいでしょう。採取、運搬、清掃、修繕のお手伝い。人手を必要としている仕事は、色々ございます」


「清掃も、冒険者の仕事なんですね」


「誰かが困っていて、報酬を用意できる。その間を取り持つのも、私どもの役目ですからな」


なるほど。

冒険者ギルド、思ったより地域に密着している。


「戦うばかりが冒険ではございません。何ができるか、何を知らぬか。それを知る事も、最初の大切な仕事です」


シャトーリはそう言って、壁の古い杖を見た。


「私も、最初から自分に向いた道が分かっていた訳ではありませんので」


僕もそちらを見る。

何度も修繕された、駆け出しの頃の杖。


最上位に近い冒険者だって、始まりはそこだったのだ。


「……じゃあ、ちゃんと選んでみます」


「ええ。それをお勧めいたします」


僕が頷くと、シェリルがカップを置いた。


「分からない事は聞いていいのよ。分からないまま引き受ける方が困るのだから」


「はい。上司」


背筋を伸ばし、右の手のひらを右こめかみにビシッと添えて敬礼をした。


「ふふ。その返事だけは、いつも立派ね」


信用がない。


まだ何もやらかしていないはずなのに。

……いや、数えるのはやめよう。


*


部屋を出る時、シャトーリはシェリルに深く頭を下げた。


「お立ち寄りいただき、ありがとうございました」


「また来るわ。今度は、もう少しゆっくり」


「楽しみにしております」


それから彼は、僕にも向き直った。


「カイ殿。どうぞ、よい経験をなさってください」


「ありがとうございます。まずは迷子にならないようにします」


「ふぉふぉ。それがよろしい」


シェリルが横で笑った。

シャトーリも、今度は少し照れたように笑う。


階段を下りる途中、僕は小声で尋ねた。


「いい人だね、シャトーリさん」


「ええ」


「あの部屋に入れてもらってよかったのかな。僕、ほとんど昔話を聞いてただけだけど」


「あなたが話を聞いてくれて、嬉しかったと思うわ」


そういうものなのか。


昔の自分を知っている人に会えて、その話を誰かに聞いてもらう。

それだけでも、嬉しい事があるのかもしれない。


一階に戻ると、ギルドのざわめきが一気に耳へ入ってきた。

依頼を相談する声。報酬に文句をつける声。

さっきと同じ場所なのに、少しだけ違って見える。


僕は登録証を確かめてから、依頼板の前に立った。


紙が、ぎっしりと貼られている。

大きな文字。小さな文字。

読めるものもあれば、説明を聞かないと分からないものもある。


(さて。僕には何ができるんだろう)


水晶は答えてくれなかった。

なら、自分で確かめるしかない。


僕は一枚ずつ、依頼の内容を読み始めた。


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