第二十四話:冒険者ギルドと、読めない気配
交易都市の北側に位置する、巨大な岩をくり抜いたような無骨な建物。
扉の上には、交差した剣と盾を象った古びた看板が掲げられている。いい味だ。
『冒険者ギルド・オーツ支部』。
「ついに来た……!」
気付けばこの世界に来て、転生と気付き、すぐに脳に浮かんだキーワード。それは「勇者召喚」「魔王打倒」そして「ギルド登録と冒険者稼業」だった。実物を体験できる……。いざ!
僕が重厚な木製の扉を押し開けると、中からは「むわっ」とした、酒と汗、そして焦げた油の匂いが漂ってきた。
一瞬で静まり返る店内。
テーブルを囲んでいた強面の冒険者たちが、一斉にこちらに視線を向ける。
キタキタキタ……! 『新入りが迷い込んできたぜ。ボウヤの様なひよっ子が来るところじゃねぇ。ウチに帰ってママのオッパイでも飲んでな!』っていう、このお約束の展開はあるのか?!
僕は内心でガッツポーズを作った。
しかし、冒険者たちの反応は、僕の予想とは少し違っていた。
反応は2種類。約8割の冒険者風の利用者は予想通り、喧嘩を吹っかけては来ないが小馬鹿にしたような嫌らしい笑みを浮かべている。
しかし、少数の歴戦を思わせる人物たちは「理解不能のモノ」を認識した警戒を見せていた。
シェリルによれば、この世界の人々は、周囲のナノ・マナの反応から相手の力量をある程度測れるらしい。
しかし、僕の周囲ではその反応が違う。
シェリルの言う「僕特有の特殊な気配」というやつだろう。魔法を使えない事と関係があるのか、まだよく分からない。
それを、ある程度誤魔化す為、シェリルが偽装を施してくれているのだが、一部の冒険者には違和感があるのだろう。
やがて周囲から、ひそひそと声が漏れた。
「なんだ? どうした?」「? ……なんだ、あいつは……??」
「おい、見ろよあの女。只者じゃないな」
「それより何だ? 誰もいない方向から寒気を感じねぇか?」
ざわめきがじわじわと広がる中、僕は一番奥にある受付カウンターへと向かった。
そこには、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性――外では見かけなかった特徴の種族の受付嬢が書類整理をしている。
そうだ。兎の特徴、「レプス族」だ。
「あ、あの! すみません! 冒険者登録ってできますか?」
僕が明るく声をかけると、受付嬢は違和感を感じ取り、訝しげに答えた。
「はい……こちらで受け付けております」
なんだか値踏みをするかの様に上から下まで視線を巡らせ答えた。何だか申し訳ない気がしてきた。
「僕はカイ。こちらの女性は上司のシェリル。……ええと、登録には試験とかあるの?」
努めて明るく、惜しみない笑顔で話しかけた。
「試験はございません。ただ適性を調べる為の簡単な調査と質問がございます。すぐに手続きをいたしますか?」
僕が笑顔を見せれば見せるほど、レプス族の彼女は耳をピンと立て、警戒を緩めない。
……おかしい。僕の笑顔はそんなに怖いだろうか? 鏡で見た時は、20代中頃の、どこにでもいそうな「人の良さそうな青年」のはずなんだけど。
「ごめんなさいね。お嬢さん。この子は少し……遠い場所から来たばかりで、この土地の『マナ』に馴染んでいないだけよ」
シェリルがそっとカウンターに手を置くと、柔らかな光の波動が彼女の指先から広がった。彼女の落ち着いた声に、僕の肩からも少し力が抜けた。受付の彼女に、落ち着く為の加護を使ったのだろうか。
受付の彼女は大きく深呼吸をし、ようやく顔を上げた。
「失礼いたしました。こちら、『魔力測定の原石』です。これに手を触れていただけますか?」
差し出されたのは、掌に乗るサイズの半透明なクリスタル。ファンタジーの定番アイテムだ。
これを握れば、「ピコーン! 驚異の魔力測定不能!」とか、「伝説のSランク確定!」とかになるんだろうか。
「この測定器の反応で素質や適性を測り、ランクを決定いたします。安全管理と品質管理の観点から決定したランク以上の依頼は受ける事ができません」
なるほど。この測定器に直接ランクが表示される訳ではなく、ステータスの様な数値が表示され、そこからギルドの規定に基づいてランクが振り分けられる訳か。
勿論、評価基準の測定方法は社外秘だろう。
「あ、私は結構よ。他の都市で登録済みなの」




