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projectMOTHER~異世界転生したら女神の主と呼ばれている~  作者: 鴉野碧
3:お気楽異世界外遊オーツ編
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第二十二話:交易都市オーツと、巫女長の譲歩

魔導馬車――もとい、二頭の銀狼型の「移動機」に引かれた御車が、交易都市『オーツ』の巨大な防壁をくぐり抜けた。


「うわあ……! すごい、本当にファンタジーの街だ!」


僕は御車の窓から思わず身を乗り出した。

視界に広がるのは、ひしめき合うレンガ造りの建物、石畳を鳴らす馬車の音、そして市場の喧騒だ。

ネオ・エデンが「完璧に管理された未来都市」なら、ここは「生きて、呼吸している中世都市」という風情だった。

通りでは、犬や猫の特徴を持つ『異種族』の人々が、荷運びや商売に精を出している。耳や尾以外はエイリスによく似た人もいれば、全身に獣の特徴が色濃い人もいた。

空を舞う小さな鳥は、城門と塔の間を何度も往復している。伝書鳥だろうか。羽ばたきの間隔が、妙に揃って見えた。


「カイ、あまり身を乗り出すと危ないわ。この街は聖都ほど治安は良くないわよ」


シェリルが僕の襟を優しく掴んで引き戻す。襟を引かれた瞬間、布越しに微かな静電気のようなパチリとした刺激が走った。シェリルが手元の小さな端末に触れると、すぐにその感覚は消えた。加護の調子を見ているのだろうか。


僕達が宿泊する事になったのは、街の中央広場に面した古色蒼然たる高級宿『黄金の竪琴亭』だ。

神殿の様なハイテク機器はないが、重厚な木製家具と、手入れの行き届いた暖炉が、いかにも「冒険者の休息地」といった雰囲気を醸し出している。

僕の様に調度品の鑑定に明るくない人間から見ても、高級かつ歴史のある逸品であるのが見てとれる。だが……。


「……ふん、不浄ですわ。空気が淀んでいます。カイ様のような貴きお方が、このような野蛮な者たちの残り香が漂う場所に……」


イツモアはご機嫌が斜めである。彼女は僕の腕をがっしりと抱え込む。彼女の瞳は、周囲の異種族たちを「路傍の石」か「排除すべきノイズ」としてしか見ていない。


「いらっしゃいませ。ようこそ黄金の竪琴亭へ」


ロビーに入り、声のする方へ視線を巡らせると、カウンターの奥に座る犬の特徴を色濃くした人物から発せられた言葉が届いたと気づく。


「受付はこちらでお願いいたします」


声が野太いので男性(オス?)だろうか? 僕には性別の区別がつかない。女性の特徴を持つ同種を見るまではこの件は保留だ。

しかし、やはり言語は単一の様だ。そうなると以前、シェリルが言っていた


「この言葉は、女神が定めた『聖なる共通言語』。……女神が貴方の事を案じ、そう定めたのよ」


と言う言い回しがとても意味深に感じてくる。


カウンターに座る人物とシェリルが交渉。その後、この建物の最上階らしき広い部屋に案内された。恐らくスイートルームだろう。


「ふぅ……。いくら振動のない乗り物でも長時間の移動は腰にくるね……」


僕はふかふかのソファに沈み込んだ。


「カイ様。腰がお辛いのでしたら、今すぐ私が『加護の力』で深部まで解きほぐして差し上げますわ。さあ、衣服をお預かりいたします……あっ」


鼻息を荒くするイツモアとシェリルの目が合い、シェリルの冷ややかな視線に気づいたのか、イツモアが急速に萎んでいく。そして3人はテーブルを囲んだ。


「さて、カイ。まずは少し休憩して、今後の予定を立てましょうか」


シェリルは一連の流れに、一旦区切りをつけた。今だ! 僕の旅の密かな目的を宣言するには、ここが唯一無二のタイミングだ。


「シェリル、僕さ、どうしても行ってみたい場所があるんだ」


言った瞬間、シェリルの表情に慈愛溢れる微笑みが張り付いた。まるで遊園地に家族で行き、「お母さん! 僕ね! あれに乗りたい!」と鼻息を荒くしている、やんちゃな男の子を見ている母親の様な雰囲気だ。しかし気にしない!


僕は期待に目を輝かせ、この世界に来てからずっと温めていた野望を口にした。


「冒険者ギルドだよ! この街にはあるんだろ? 荒事や依頼を取り仕切る、あの荒くれ者たちが集まる酒場みたいな場所が!」


そう、この願望は先日の会議にて報告にあった「ギルド」という単語を聞いた時に生まれた物だ。

しかし……

その瞬間、室内の空気が「凍りついた」。

イツモアの瞳からハイライトが消え、深い、深い深淵のような「何か」が覗く。


「……ギルドですか、カイ様。あそこには、素性の知れない者も出入りするのでしょう? 旅への同行はお約束しましたが、そのような場所までは……」


イツモアの声が少し硬くなった。

神殿を出る事と、知らない人々の中へ入る事は、彼女の中では別の問題らしい。


「面白そうだなぁ……と。それに今の情勢を僕も知っておく必要があるかな? ……と思って。実際よくわかっていないし」


恐る恐ると言った風にイツモアにお伺いを立てるも、


「いけません! あそこは『力こそが正義』という野蛮な論理が支配する場所。万が一、不逞な輩が貴方様を傷つけでもしたら……私は……私を抑える自信がございません」


さらに僕を焚きつける概念が。「力こそパワー」。それだ、それを体験したいのだよ。

しかし。


イツモアの背後に、黒い炎のようなオーラが見える。本気だ。この人、僕を守る為ならマジで街を一つ消し飛ばしかねない。

何だか髪の毛が逆立って、金色に変わりそうになってきた。そんな時。


「イツ。少し落ち着きなさい」


そう。この女、シェリルである。

シェリルが優雅に口をつけていたカップを静かに置いた。その落ち着き払った態度には、全てを掌の上で転がしているような余裕がある。


「カイ、行ってみたかったのよね。ギルドには、この土地の暮らしや困りごとも集まってくる。何かできる事を探すには、いい場所だと思うわ」


シェリルは僕の顔を見て、小さく頷いた。

神殿で話した、僕にもできる事を探したい、という希望を覚えていてくれたらしい。

そして、少しの時間、思慮を巡らせ、置いたカップに合わせていた目の焦点を僕達に戻し、言った。


「……いいわ、私達が同行する形で、ギルドの視察を許可しましょう」


そんな彼女の口から出てきた折衷案。だが、勿論イツモアの懐柔には程遠く、


「シェリル様!? 正気ですか!?」


予想に近い反応が返ってきた。しかしそこはシェリル。視察許可の正当性を挙げた。


「いいかしら? イツ。私にとってもそうだけど、貴女の大切なカイは、この世界を知って日が浅い。私達には言わないだろうけど、カイなりに不安を抱えているはずよ」


そう言うと、イツモアは下を向いてしまった。更に続ける。


「現在のネオ・エデンを取り巻く環境も考慮したの。あのテトラをもってしても手こずったと言わしめた外敵がいて、近年その被害が増加の一途をたどっている」


言葉を区切り、無言の僕達を見渡し続けた。


「いくら私達で対処可能だとしても、カイ自身にも思う所があるでしょう。自分にできる事を探したい気持ちもあると思うの」


そして、と続け、


「カイにも息抜きが必要でしょ?」


言い終わると、先程とはうって変わった慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、僕にウインクしながら締めくくった。


「ただし、カイ1人で行かせる訳にはいかないのはイツと同じ気持ちよ。ただ、今の高ぶった力のコントロールでは、話しかける前に皆が逃げてしまうわ」


ええ? そうなの? そんな事になれば敵対勢力が増えちゃう。


「だから、貴女には『影』として、カイの周囲半径5mの監視をしてもらうわ。表向きは私とカイの2人で入る。いいわね?」


「……。仰る通りです。私は自分の事ばかりを考え、カイ様のお気持ちを少しも考慮に入れておりませんでした。巫女長失格です」


そうか、これが「半べそ」と言う表情か。文章では知っていたが実物を初めて確認できた。


「そんな事はないわ、イツ。貴女は貴女なりに、私は私なりにカイの事とカイの為になる事を考えている。正解はないわ」


その言葉を聞き、顔を上げた。


「ですが、本当に危険があれば、すぐにカイ様をお連れして離れます。そこはお許しくださいませ」


イツモアは渋々と、しかしどこか獲物を狙う猟犬のような鋭い目で承諾した。

さて、話はまとまった。シェリルの説得でイツモアの了承が得られた。これで大手を振ってギルドに行ける。


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