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projectMOTHER~異世界転生したら女神の主と呼ばれている~  作者: 鴉野碧
3:お気楽異世界外遊オーツ編
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第二十一話:銀狼の御車と、湖畔への旅

聖都ネオ・エデンの巨大な白亜の門が背後に消え、僕達の旅がいよいよ始まった。


現在、僕達が揺られているのは、この世界の一般的な移動手段だという「馬車」の中だ。……馬車、と言っても馬はいない。彼らは『移動機』と呼んでいる。


僕達の乗っている御車は地面から30cm程の高さで浮遊しており、先頭で「動く物体」に引っ張られる方式で進む。

そして正面で御車を牽引しているのは、銀色に輝くしなやかな装甲を持つ、二頭の狼を模したような美しくも無機質な「ゴーレムの様な物」だ。

時折「ウィィィン」という微かな唸りと共に、魔法の輝きを放ちながら、荒野を滑るように進んでいく。

(……すごいな。振動が全くない。この世界に来る前に乗った高級車より快適なんじゃないか? 数年前に恐らく母国であろう日本で運用開始したリニア新幹線もこんな乗り心地なのだろうか)


車内の豪華なソファに背中を沈めながら、僕は窓の外を流れる景色を眺めていた。

見渡す限りの緑。だが、その木々は時折、クリスタルのような光沢を帯びて輝いている。大気中に満ちる魔力の濃度が高いせいだろうか。


「カイ、顔色が優れないようだけど? お疲れかしら」


向かい側に座るシェリルが、悪戯っぽく微笑みながら僕の顔を覗き込んできた。


今日の彼女は、いつもの白衣姿ではなく、旅慣れたシックなローブを纏っている。だが、隠しきれない気品と、その瞳の奥に宿る「全てを見透かすような理」は相変わらずだ。


「い、いや、大丈夫だよ。ただ、聖都を離れるのは初めてだから、少し緊張してるだけさ」


おおよそシェリルの言う通りなのだが、イツモアが落ち込むので嘘をついた。


「……カイ様。緊張など、私が溶かして差し上げますわ。さあ、こちらへ……」


隣に座るイツモアが、隙あらば僕を抱き込もうとじりじりと距離を詰めてくる。


彼女もまた、普段の幾重にも重ねられた高級な生地の巫女長の正装ではなく動きやすい旅装だ。

しかし、新鮮だ。僕から見たイツモアは全裸or厳重な巫女長装束の「オールオアナッシング」スタイル。「中間」を初めて見たのだ。


御車へ乗り込む前、イツモアは大きな荷物を片手で軽々と持ち上げていた。僕には魔力の気配は分からないが、見た目通りの華奢な人ではない事くらいは分かる。

将棋で例えるとテトライルが「飛車」、イツモアは「角」と言ったところだろうか。ヴィンセント? あんなもん「歩」だよ。

シェリルは……棋士かな? 何だか僕達を意のままに操っている感じがする。盤上にはいない雰囲気がある。不思議だ。

しかし、この将棋、「王将」がしょぼいんだ。戦法が今のところ「角」へのデータ転送しかしてないから。

などと脳内でキャッキャウフフしている場合ではない。


「イツ、今は移動中だから。……それよりシェリル、目的地の事だけど。『交易都市オーツ』って、どんなところなの?」


僕が話を逸らすと、シェリルは手元の板状の魔法具を空中で操作し、光り輝く地図を展開した。


「オーツは、ネオ・エデンから湖に沿って南下した場所にあって、あらゆる種族が集まり、独自の進化を遂げた動植物の素材や、古代の遺物が取引される場所。

……そして、このネオ・エデンから派生した、独自の『女神の加護』が発達しているわ」


「独自の……。面白そうだね」


それにしても、この「湖」、本当に「湖」か? 海と言われても納得しそうだ。と言ってもこの世界に海があるのかも知らないんだけど。


「ええ。でも、最近は少し物騒な噂も絶えないの」


シェリルの表情が、ふと真剣なものに変わった。彼女が操作する地図の上に、不穏な赤い霧のようなマークが点在し始める。


「ネオ・エデンの外縁部で、正体不明の存在――『鉄骸』の目撃例が急増しているわ。

彼らは異質な力を操り、遭遇したエイリスを執拗に排除しているという報告が入っているの」


鉄骸。騎士団長のテトライルが、血相を変えて迎撃の準備をしていた相手だ。


「オーツの街も、彼らの影響を警戒して厳戒態勢を敷いているはずよ。……カイ、街に入ったら私の指示に従ってね。貴方のその『特殊な波長』を、変な輩に嗅ぎつけられないようにね」


「わかってるよ。僕はただの『新米助手』。シェリルの後ろをついて歩くだけさ」


僕がそう答えると、イツモアが僕の手をギュッと握りしめ、少し低い、艶を帯びた声で囁いた。


「大丈夫ですわ、カイ様。もし不埒な輩が貴方様に指一本でも触れようものなら、私の『女神より授かりし戒め』で、塵一つ残さず分解して差し上げます……。ふふ、そして恐怖に震えるカイ様を、私が優しく介抱して……」


前半はとても頼りになるし、凛としている。後半がなければ「聖都防衛の要、巫女衆の長」なのになぁ……。


「駄目よイツ。街中でその力を使ったら、関係のない人まで巻き込むでしょう。まずはカイを連れて離れる事。お転婆はそこまでにしてね」


「そんな……シェリル様。申し訳ございません。お許しください……」


おお!!! なんだ! この長女に「めっ」て叱られた末っ子みたいな豹変は!! 外見上、イツモアの方がお姉さんに見えるのに。

そういえば会議でもシェリルの一言に、「あの」ヴィンセントも黙ってしまったな。


シェリルはあくまで「研究主任」。少なくとも、僕は彼女が部下をぞろぞろ連れているところを見た事がない。

大勢の部下がいるヴィンセント、イツモア、テトライルよりも立場は上なのだろうか? 不思議な立ち位置だな。

それにしても、今にして思えば良くできている。ヴィンセントは行政、テトライルは軍部、イツモアはさしずめ「王室の長官」と言ったところか。行政、軍、祭祀で役割が分かれているわけだ。

ではシェリルは? ん~~「ご意見番」? 「一人元老院」? って感じか。シェリルがOKを出せばみんなも安心、みたいな。


などと考えていると、


「うふふ……イツ、貴女がいい子なのは良く知っているわ。わかってくれたらいいのよ。心配しなくても貴女からカイを取り上げたりしないから」


シェリルからそう言われて、心の底からの安堵の表情に変わるイツモア。


そんな緩い空気の御車が、微かな駆動音を奏でながら、輝く森を抜けていく。

地平線の先には、巨大な湖と、そのほとりに聳え立つ異形の摩天楼――交易都市オーツの影が見え始めていた。


僕の「異世界ライフ」第二幕。それは、魔法と神秘が支配する未知の領域への第一歩だった。


22話は2026.10.13投稿予定です。よろしくお願いたします。

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