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projectMOTHER~異世界転生したら女神の主と呼ばれている~  作者: 鴉野碧
1:お気楽異世界神様代理就任編
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第二話:神様という名の無理ゲー

「……『プロト・ワン』……ですか」


股間を隠したまま、思考がフリーズした。


転生勇者じゃない?


魔王を倒す冒険も、ギルドでのランク上げもない。


いきなり「プロト・ワン」という、いかにもシリーズ1作目の最強主人公みたいな称号を与えられて、全裸で神の座に放り出されたのだ。


究極の初期状態(全裸)からの神様スタート。


これは新機軸だ。


有名出版社の編集者が札束を持って駆け寄ってきて書籍化決定、コミカライズからアニメ化、印税生活確定レベルの新機軸に違いない。


……浮かれている場合じゃない。


生活の知識も、娯楽の記憶もある。なのに、自分の人生だけがすっぽり抜け落ちている。


まずは服。そして説明。

この二つくらいは、仮に転生勇者ではなくても要求していいはずだ。


そう決めた時、群衆を割って1人の男が歩み寄ってきた。


薄い金髪を完璧に後ろに流し、滑らかな光沢を放つ衣装を纏った、20代後半のように見える美男子。


まさに「ザ・エルフ」といった佇まいだが、群衆の中、ただ1人、その瞳に熱狂はない。


そこにあるのは、冷徹で「嘆かわしい」というオーラを隠そうともしない、氷点下の空気感だった。


「プロト・ワン。貴方様が現状を安っぽい娯楽劇(コメディ)として解釈しようとしている事には、一定の理解を示しましょう。非常に『人間』らしい混乱方法と言えるでしょう。ですが」


男は一歩、ポッドの縁まで歩み寄った。


その目ヂカラはもはや光学兵器の域に達しており、僕の頭頂部から順に下半身へと精密誘導レーザーのような視線を這わせた後、僕の顔へレーザーをロックオンした。


「全裸で膝を抱え、妄想に逃避しながら『転生勇者』を自称されるのは、我らエイリスの尊厳に関わります。まずはその……抽出されたばかりの哺乳類小動物のような震えを止め、こちらをお召しください」


彼は傍らに控えていた美女から受け取った純白のローブを差し出した。


僕は医療用ポッドから重い体にムチを打ち、這い出た。


「あなたは?」


「私はエイリスの評議会議長を務めさせていただいているヴィンセントと申します。以後お見知りおきを」


「……わ、わかりました。ええと、ヴィンセントさん?」


恐る恐る名前を復唱してみた。


「私への敬称は不要です。ヴィンセントとお呼びください」


慇懃(いんぎん)に一礼するが、口調には隠しきれないトゲがある。


彼はローブを羽織るのを見守りながら、耳元で吐息混じりに囁いた。


「皆が見ております。毅然とした態度を要求いたします」


いきなり見知らぬ場所に放り出されて、顔見知りのいない状況で横柄な態度をとれってか?


どんな社会不適合者や!


まあいい。


この状況に放り出されたら、誰だってするであろう気になる質問をヴィンセントに尋ねる事にした。


「ここはどこですか? 何故こんな場所に? こんなポッドに入った記憶もないんですけど……」


ヴィンセントは顔を向けず、眼だけをこちらに向けて、続きを促す。


喋る人の方を向けよ、この野郎。


「自分が誰で何者なのか。名前も、以前、何をしていたのかも……解らない……それ以外なら、おぼろげに覚えているのですが……」


ヴィンセントはやっと顔どころか体までこちらに向け、「不安ですかな?」と尋ねてきた。


とても短いが、全てを網羅する良い質問だ。


「ええ……もちろん不安です。買い物の帰り……だったような……それが、いきなり気付けばここにいたので」


そこからは言葉が出てこなかった。


「貴方のターンは終わりましたか?」と言わんばかりに、ヴィンセントは言葉を発する。


「よろしいですか、プロト・ワン。そう焦る必要はないと考えます」と、事もなげに告げる。


こちらの反応を確認し、続ける。


「理由は二つ。一つ目は覚えている事の方が多く、現状、生活や意思疎通に支障がない。二つ目、我々は貴方様が何者かを知っており、その我々は貴方様を保護する事を目的としている。以上二点をもって問題ないと考えますが、如何ですか?」


一つ目は確かにそうだ。


ただ、二つ目は確信が持てない。


だが、危害を加えてくる様子はないように見える。


ゆっくり馴染めばいいのか……釈然としないが。


「解りました。お陰で少し気持ちが楽になりました」


これが今の、とても素直な気持ちだ。


「それは結構。この程度の問答でメンタルが保たれるなら安上がりです。貴方様への対応に労力を割かずに済むのは大変喜ばしい事です」


……こいつ、絶対僕の事『メンヘラ』か『ポンコツ』だと思ってるよね? 僕だってそれくらい気付くぞ!


少し落ち着くと、今度は呼ばれ方が気になった。


「その、プロト・ワンという呼び方なんですが。実験体のコードネームみたいで落ち着かないんですけど……」


名前を思い出せない以上、代案はない。

それでも人を呼ぶたびに試作機の起動確認みたいになるのは、どうなのだろう。


「……左様ですか。では何とお呼びすれば?」


ヴィンセントの顔に「やれやれ」というテロップが見えそうなほどの諦念が漂う。


その瞬間、僕の脳裏に古いノイズが走り、様々な会話のような声が聞こえ、視界が歪む。


「プロト・ワン! いかがなさいましたか?」


先ほどの女性がこちらに素早く駆け寄り、僕の体を支えた。


どうやら体勢を崩したらしい。


立ち眩みか?


その時、ふと脳内を流れた音声の中に、妙にしっくりくるフレーズがあった。


「……カ……イ? カイ……そう呼ばれていたような……気がする……」


思わず口から言葉が漏れ出した。


その言葉を聞いた瞬間、ヴィンセントの瞳の奥にある「青い環」が激しく明滅し、一瞬だけ、ほとんど表情のない顔からさらに色が消えた。


「……『カイ』、ですか。なるほど、承知いたしました。しかし我々エイリスにとっての神の代理の御名はプロト・ワン。どうしてもとご要望でしたら、我ら側近のみの場合に限り、カイ様とお呼びいたします」


ヴィンセントは瞳の奥に「薄暗い何か」を湛えたまま、弾かれたように群衆の方に向き直り、広間に響き渡る声を張り上げた。


「皆の者、お聞きなさい! プロト・ワンがお目覚めになられた。我らエイリスの次なる進化をもたらすお方を、お迎えするのです!」


「プロト・ワン!」

「我らの女神の主、プロト・ワン!」


地鳴りのような歓声が上がる。


「……で、ヴィンセント。さっきからこちらの女性が僕の事を……その、瞬きもせずに凝視してるんだけど。これは?」


そう、目覚めて最初に目に飛び込んできた絶世の美女。


その彼女からずっと熱い視線を感じる。


「この者はイツモア。我らの種族エイリスの巫女です。我々はイツと呼んでおります」


イツさんか。


綺麗な人だな。


どこか懐かしいような……僕が雛鳥ならお母さんと思ってしまうところだ。


ふぅ、危ない危ない。


「で、イツさんは何を?」


「因子情報の解析と、我々への定着の為には……。ふむ、プロト・ワンにもご理解いただけるようお伝えするのは非常に困難ですね」


隙あらば蔑んでくる。


もしこれで新しい性癖の扉が開いたら責任持てよ!?


「つまり、彼女との肉体的な……言葉を選ばずに言えば『交配』の為の検査ですな」


ヴィンセントは表情を変えず言い放った。


僕は理解した。


これは「異世界転生の大冒険」なんて愉快な話じゃない。


恐らく僕を転生させたのは女神と呼ばれる存在か?


だが、その女神がまだ登場していない!


普通、転生前に女神から説明を受け、「どのチート能力が要る?」や、もしくはその女神と敵対のフラグが立つのがセオリーだろ!?


その前にいきなりエロ展開?


それが異世界転生の目的?


新機軸だ。


有名出版社の編集者が札束を持って駆け寄って……それはもういいか。


ふとポッドへ目を戻すと、中の薬液は殆どなくなっていた。

周りにこぼれて、水浸しだ。


どんな開け方をしたんだろう……。


だが、今はそれよりも気になる事があった。


『カイ』。

僕がその名を口にした時、ヴィンセントは確かに動揺した。


あれは、初めて聞く名前への反応だったのだろうか。

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