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projectMOTHER~異世界転生したら女神の主と呼ばれている~  作者: 鴉野碧
2:お気楽異世界こんにちは編
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第十八話:崩壊した砦、そして「新妻」という名の誤認

「さあ、カイ様。まずは栄養を摂っていただきませんと。本日は私が、女神様の慈悲という名の加護を込めて作り上げた、特別なお料理ですわ」


難攻不落だったはずの「イツモア砦」が陥落してから数時間後。僕の自室は、かつてないほどの熱気に包まれていた。


目の前には、女神の祝福によって絶妙な火加減で調理された、見た事もないほど豪華な料理が並んでいる。

それを運んできたイツモアは、先程までの怒りなど微塵も感じさせない、とろけるような笑みを浮かべていた。

……? 瞳の形がハートマークに見えるが、気のせいか?


「はい、あーん。……ふふ、どうですか? 女神様より授かりしこの力……私の真心をたっぷり込めたお味は?」


「お、美味しいよ。でもイツ、自分で食べられるから……」


「ダメです。今のカイ様は、外界への旅という大義を控えた大切な御身。指一本動かす必要などございません。本日は『全て』私が『お世話』いたします」


何だろう……? 『全て』と『お世話』に強めのイントネーションがあったような気が。気のせいか?


それにしても、外で見かける彼女は、「流石は巫女長」といった趣がある。しかし、今はセリフの語尾に「はぁん」といった吐息が混ざっているように聞こえる。

部下の巫女衆が見たら、二度見や三度見する人くらいは出るんじゃなかろうか。


しかし、ここ最近は「職務としての献身」とは明らかに違っていた。

つい口から出た「好きなんだ」という僕の告白が、彼女の奥底にあった「何か」に火をつけてしまったらしい。

食事の最中も、彼女の手は甲斐甲斐しく僕の汚れてもいない口元を拭い、時にはそのまま僕の頬を愛おしそうにダイレクトに撫でる。

その指先からは、微かな光の粒子――僕の目には「魔法」にしか見えない不可思議な輝きが漏れ出し、触れた指の温かさが肌に残った。


「……カイ様。お外に出たら、本当に私と2人きりになってくださるのですね?」


「あ、ああ。まあ約束だからね。でも、まずは視察が目的だし……それにシェリルもいるよ? わかってる?」


「分かっております。ですが、一緒に歩く時間くらいは……楽しみにしても、よろしいでしょう?」


両手を胸元で合わせ、そう尋ねる彼女に、僕は頷いた。


「もちろん。僕も楽しみだよ」


その返事で、また笑顔が明るくなる。

この照明、調光できないのだろうか。眩しい。


食事が終わると、イツは棚から包みを幾つも取り出した。


タオル。着替え。手のひらほどの容器。

まだ外遊の許可も出ていないのに、支度だけは着々と進んでいる。


「……これ、全部持っていくの?」


「必要なものだけでございます」


彼女は真剣な顔で答えた。

必要なものの定義について、後でシェリルを交えて会議が必要そうだ。


「荷物くらい、僕にもまとめさせてよ」


僕が手を伸ばすと、イツは一瞬為らった後、畳んだ布を渡してくれた。


「では、こちらを。その袋の底へお願いいたします」


「はい。巫女長」


「もう……カイ様」


二人で少し笑った。

だが、次の包みを取る彼女の手は、いつまでも落ち着かなかった。


「何か、心配?」


声を掛けると、イツは手を止めた。


「外には、私の知らないものもございます。カイ様が困っていらしても、気づけなかったらと思うと……」


いつもの断言と違う、弱々しい声だった。


「困ったら言うよ。分からない事ばかりだから、すぐ聞いちゃうと思う」


僕は畳み直した布を袋へ入れた。


「イツも、困ったら教えてね。何でも一人で引き受けなくていいから」


彼女はしばらく、僕の手元を見ていた。


「……私が、カイ様に?」


「うん。一緒に行くんだから」


そう伝えると、曇っていた表情が少しずつほどけた。背後から400Wくらいの照明がついたような笑顔へ戻るまで、さほど時間はかからなかった。


こうして甲斐甲斐しく支度をするその姿は、僕の目にはまるで、憧れの「新妻」そのもののように映っていた。結局、未婚だったのかな? 僕は……。


「……カイ様は、私がお守りします。ですが、旅が終わった後も……お役目だけでなく、こうしてお傍にいてもよろしいでしょうか」


「もちろん。その為にも、無事に帰ってこよう」


イツは頷き、僕の畳んだ布を大切そうに押さえた。


「少し、曲がっておりますね」


「そこは見逃してほしかった」


「ふふ。これでは、私のお仕事が残ってしまいます」


彼女が端だけを整える。

全部やり直すのではなく、僕が入れた形を残したまま。


荷物を揃え終えた頃には、二人とも少し眠くなっていた。

僕は袋の口を閉じ、彼女の隣へ腰を下ろす。


イツが僕の肩へそっと頭を預けた。


寝室に戻れば、そこからはいつもの「データのアップロード」の時間だ。職業「USBメモリスティック」の真骨頂だ。

だが、今夜のイツモアは、僕の水分を2割どころか、半分以上持っていこうとするほどの情欲を爆発させていた。ビュッフェスタイルのおかわり自由。イツモアやりたい放題だ。


まずは、会議で許可をもらうところからだ。


手伝ってくれる人が増えた分だけ、旅の実感が近づいていた。



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