第十七話:巫女長の陥落と、女子会の裏交渉
こんにちは。僕、プロト・ワン。20代半ばか後半のオスです。詳しい年齢もいずれ思い出す事でしょう。
買い物帰りに気づいたら異世界にいた男です。前職は思い出せませんが、今の職業ならわかります。……「喋るUSBメモリースティック」です。
シェリルとの「外遊プロジェクトミーティング」は数回に及んだ。
危険な場所には近づかない。連絡を欠かさない。調査の目的を決める。
最初は観光案内を期待していたのに、議題は思ったより堅実だ。
そして、最大の議題だけが残っている。
イツモアに、どう説明するか。
さて。本日はシェリルを伴って、イツモアを呼んでいた僕の自室へとやってきた。
女性を伴って、別の女性の元へ行く。普通なら修羅場の気配が漂うシチュエーションだが、そうはならない。
なぜなら僕は「女神様の何か」だからだそうだ。
「絶対に行かせません! カイ様のお体に傷一つでもついたら、私は生きてはいられません! シェリル様までどうされたのですか? 貴女らしくもない!」
イツモアはお怒りだった。大層お怒りである。
例えるなら、自分の子供におねだりされた誕生日プレゼントの高級ゲーム機本体と、ソフト数本を買い与え「暫くはおねだり無しよ」と言い含め、
子供が元気よく「うん!!!!!」と言った翌月に「次は車が欲しい! レクサスで」と言い出した子供を叱る母親のようだ。
しかし、その無理を押し通す事こそが、恐らく日本人であろう僕の使命。そう! サムライの末裔の生き様!! 「死ぬ事と見つけたり」だ。
中空に浮かぶベッドに腰掛けるイツモアに対し、僕とシェリルが挟み撃ちにする形で並び立つ。僕はゆっくりと彼女の左隣に腰を下ろし、耳元まで顔を近づけて囁いた。
「イツ……。君がそばで守ってくれるなら、僕はどこにいても安全だと思うんだ。君の力を信じているから。それに……外なら、誰の目も気にせず2人きりになれると思うんだ」
……何だか、ホストみたいな言い方になってしまった。
甘い言葉だけで押し切るのは違う。僕は一度息をついた。
「もちろん、危ない事を何でも君に任せるつもりじゃない。外で、誰がどんな暮らしをしているのか知りたいんだ。自分で見て、自分にもできる事を考えたい」
するとイツモアは僕の言葉をゆっくり反芻する様に呟く。
「2人きり……?」
イツモアの動きが止まった。すかさず、反対側に座ったバディー(シェリル)が右耳の「攻略」を開始する。
「イツ、私も一緒に行くわ。体の確認も続けられるし、お役目の日程も相談できる。危険があるからこそ、準備をして、私達で支えてあげましょう」
そこまで聞き、明らかに揺れている彼女。腰の入ったボディーブローが深々と刺さっている。そうだ! これは世界統一タイトルマッチだ!
そこで挑戦者はこの好機を逃さない。
「カイが楽しみにしている景色を、あなたも隣で見られるのよ。それは、悪くない話でしょう?」
イツモアは僕を見た。袖を掴んでいた手が、少しだけ緩む。
「……一人で遠くへ行かない事。お体の不調を隠さない事。約束してくださいますか?」
「うん。約束する」
「では、私もお供いたします。カイ様が見たいと仰る世界を、私も……見てみたいです」
……その瞬間、難攻不落と恐れられた「イツモア砦」の正門が、内側から粉々に吹き飛んだ。
砦の左右で2人の策士が、そっと安堵の息をついた事は、言うまでもない。
けれど、扉を開けたのはイツモア自身だ。
その約束だけは、忘れないようにしよう。




