第十四話:再燃する生命(いのち)と、騎士たちの足音
「……カイ様、お体の芯まで、私の熱で解きほぐして差し上げます」
イツモアの囁きはもはや巫女ではなく、1人の女としての甘い誘惑だった。
浴室から寝室へと移ると何度も何度もお互いの名前を呼び合った。
その夜は、イツと演習場での話をした。
「木剣は当たったんだよ。ちゃんと」
「はい。カイ様はよく頑張られました」
「そこで褒められると、余計に情けないんだけど」
彼女が笑う。僕も笑った。
普通のどこにでもいる男と女として、ただ今日あった事を話すだけで、胸のつかえが少しずつ取れていく。
灯りが落ちた後も、しばらくその穏やかな時間は続いた。
翌朝、肩に演習の疲れを感じながら目を覚ました僕を待っていたのは、昨夜の穏やかな空気とは一変した、張り詰めた緊張感だった。
イツモアに促されて向かったのは、会議室だった。一際大きい円形金属板。それが無音で四方にずれて開かれた。
室内には10人以上の気配があり、恐らくネオ・エデンと呼ばれる国家の重鎮たちが顔を揃えていた。
議長ヴィンセントを筆頭に、騎士団長テトライル、その部隊の者、評議委員、何らかの要職についているであろう人物、そして巫女の幹部たち。
「プロト・ワン、お目覚め早々失礼いたします。昨日の演習場でのご活躍は伺っておりますが、今は急を要する事態です」
ヴィンセントの嫌味な眼鏡越しの視線(眼鏡はしていないが)が、僕を射抜く。嫌味にいつもの語彙力がない。それ程深刻なのだろう。
偵察部隊と思しき人物が、空中にホログラムの地図を展開した。
「ネオ・エデンの外縁部にて、『鉄骸』と我が騎士団が接触。小規模な戦闘が発生しました。近隣の住民の避難を進めています」
地図の一角が拡大された。細い道と、集まった家々。その端に、折れた荷車が映る。
昨日歩いた街にも、ああいう荷車があった。荷物の持ち主は、無事なのだろうか。それに……
「『鉄骸』……?」
僕が聞き返すと、テトライルが重厚な鎧を鳴らして立ち上がり一歩前に出た。
「『鉄骸』や『黙鉄』と我らはそう呼んでいます。目的や意図も不明、知能があるかも疑わしいですが、我らエイリスに敵意を向けている存在です」
会議室に投影された映像には、無機質な金属の光沢を放つ部分と生物が合わさった巨体が映し出されていた。
……なんだあれ。ファンタジーの魔物じゃない。あれは……軍事兵器!?
僕の背中に冷たい汗が流れる。異世界転生の世界に不相応な科学の腐敗した臭いが漂ってきた気がした。
そして勢力を2分して争っているのか?
僕の「ご都合主義な異世界ライフ」の色合いが変わる予感があった。
「騎士団は直ちに出撃準備に入ります。……カイ様、どうか我らに女神のご加護を」
テトライルの言葉を合図に、静かなるネオ・エデンが戦火の予感に染まりつつある。




