議論ー罠ー
「えぇっと……黒川さんが黒幕で??」
「モモが超能力者、ですのよね」
モモがゆるりを抑えてくれた。
学園が洗脳されてるって情報も伝えた。
黒幕の心を折る土台としては十分よ。
後は時間。
今は11時45分か。
想定より時間がかかったけど、大丈夫よ。
「先ほどの騒ぎの間に情報を黒板にまとめておきました」
委員長、いつの間に。
すっごい丁寧な板書で助かるわ。
【この学園は洗脳されている】
【黒幕は自己洗脳をしながら学園生活を行っている】
【黒川ゆるりは黒幕の協力者である】
【学園には自動的に全生徒を洗脳する仕組みがある】
【この仕組みを洗脳ループと呼んでいる】
情報は色々あるけど。
大事なのはこの情報ね。
これだけ実と統香の頭に入れて。
そうすれば次の話題に行ける。
「この情報から分かる通り、今学園はかなり危険な状況です」
「ほぼ詰み、と言っても差し支えないですわね」
「それに加えてもう一つ、烈火たちには時間がありません」
「時間が無いって、どうしてなの比奈野さん」
ごくりと唾をのむ音が教室に広がった。
委員長は息を軽く吐いて、一言。
「洗脳ループがあるからです」
そう。
委員長からしてみればあまりに時間が無いわ。
洗脳ループが始まるのは昼以降。
それが始まればこの討論の意味も無くなってしまう。
「でしたら、モモの力でゆるりさんの心を読めば良いんじゃありませんの?彼女が黒幕の協力者なら、そこから答えまで導けるでしょう?」
「そうしたいのはやまやまよぉ。でも、黒幕には認識阻害って奥の手がある。私の人の心を読む力ではそれを超えられない」
見れば、委員長がガリっと唇を嚙んでいた。
「大丈夫よ委員長。勝算はあるわ」
今はまさに大手の一歩前。
ここからはウチのターンだ。
「だってウチには、認識阻害が効かないんだから」
みんなの視線がウチに集まる。
それじゃあ畳みかけるわ。
「それに加えて、黒幕の正体は六華の中に居る」
「それって……犯人はこの中に居るってやつ?」
「そうよ実。そして今、洗脳の影響下にある人物は2人だけ」
「わたくしと実ですわね」
やっとここまで持ってきた。
黒幕は自己洗脳して教室にいるはず。
だから【財人の仕掛け】が作動するまでは黒幕では無いと弁明するはずよ。
そして洗脳されているもう一人も、ウチの考えをひっくり返そうとして来るはず。
洗脳の影響下にある以上はウチの味方はしないだろうから。
「ちょっと待ってよ赤山さん」
「ちょっと待ちなさい、朱里」
だからきっと。
「黒幕が六華の中に居るって本当?」
こういう話の流れになるはずよ。
だから、ウチがこれからするのは討論だ。
本当の狙いがバレないようにしながら。
真っ向から意見を否定してくる二人を相手するんだ。
「そもそも、黒幕が六華の中に居るという根拠はありますの?」
「ある。ウチが黒幕の正体を知ってる」
「知ってるって貴方、今それを言えば良いじゃありませんの」
「それじゃ意味が無いの。黒幕には認識阻害がある。ここで名前を言っても皆んなの記憶に残らないんだ」
あと10分。
「で、でもそんなチート能力があるなら最初から勝ち目がないですよ?」
「だからこの場を用意したの。認識阻害で誤魔化しきれない核心の証拠を叩きつけるために」
「でも、洗脳に読心に耐性まであったらまともな証拠なんて出てこないんじゃ無いですか?」
あと5分。
焦った顔で委員長が見守ってる。
当然かもね。
委員長には作戦を伝えてないし。
実とは統香の洗脳が解けそうな気配が無いし。
「朱里。ここまで現実離れした現象があるとまともな推理なんて出来ないですわ」
「そうですよ。ノックスの十戒ってやつです」
あと、2分。
財人とモモ何ジッとウチを見つめてる。
「話し合いなんて無駄なんじゃ無いかしら?」
「話し合いなんて、無駄だと思います」
あと、1分。
ゆるり。
あんたは今、心の中で勝利を確信してるでしょうね。
だってもうすぐ洗脳ループのタイムリミットだもの。
『放送部が送ります。皆のラジオです』
今、教室に響いたこのラジオ。
これが洗脳ループの正体。
本来ならここでタイムリミット。
ウチらの負けで、黒幕の勝ち……でもね。
『それでは、今日の一曲です』
悪いけど、そうはならないわ。
『|It’s over—you lost!《てめぇの負けだ!!》』
「え……このシャウトは何?」
「え、天上さん?」
ラジオから流れる、洋楽ロック。
学園の昼休みには似合わない、相手を罵るような爆音。
黒幕であるアンタはそれに反応せざるを得ない。
『| Now listen up and hear my song《俺の歌を聞け!!》』
「驚くわよねぇ。自分が流そうとした音楽と違うんだから」
「朱里……貴方」
瞬間、みんな一様に頭を抱える。
当然よ。
「ね、ねぇ天上さん。ラジオの内容が変わってるなんて今はどうでも」
「どうでもよくありませんわよ……だって、これは」
こんな状況、誰が黒幕か教えてるようなものよ。
認識阻害が発動しないはずがない。
『|I’m sick of hearing your song《テメェの歌は聞き飽きた》』
「そもそもずっと不思議だったのよ。何でウチが洗脳ループから抜けて、正気のまま一夜を過ごせたのか」
「ちょっと待ってよ赤山さん。その言い方じゃー」
「それでね、一回思い出したの……前にも昼のラジオで流される曲が勝手に変えられてた事があったって」
思えばその日が始まりだった。
その日、洗脳ループは発生しなかった。
だからこそウチは……正気の状態で家に帰れた。
「だからそれを再現したの。ウチが好きなバンドの曲を使って」
「ありえないですわ……だって、放送室は部員以外に入れない」
「忘れたの?この学園は今洗脳されてるのよ。皆が財人の事が好きで好きでたまらないハーレムになるように」
「まさか……財人を使って、他の放送部員の子を動かしたの?」
皆が邨ア鬥?を見ている。
邨ア鬥?の名前を呼んでいる。
「そうよ。黒幕であるアンタをハメる為に!!」
認識阻害は発動しているみたいだけど、皆の目は邨ア鬥?に向かっている。
もう、アンタに逃げ場はない。
「改めて告げてやるわ!!この学園を洗脳した犯人は、おぞましい魔法を振りまく黒幕の正体は!!」
『|From now on, this stage belongs to us!《こっからは俺達のステージだ》』
「アンタよ!!螟ゥ荳顔オア鬥?!!」




