それは違うよ
「今、はっきり聞こえましたね」
「あぁ……赤山の言葉が聞こえた」
委員長も、財人もパッと顔を上げる。
よかった……ウチの作戦は成功した。
これで皆は洗脳から解放された。
今なら、認識阻害に邪魔されずに統香に話を聞ける。
何で黒幕をしていたのか。
何がアンタをこうしたのか。
全部聞かせてもらうわよ。
「皆、待ってよ」
「な?」
ウチが統香と距離を詰めようとした時だった。
実が統香を庇うように立っていた。
「アンタ一体何を……実の洗脳だって解けてるはずでしょ?」
「そうだね。私も、自分がさっきまで洗脳されてたんだって事は分かったよ」
「じゃぁ何でウチの邪魔をするの」
実は動かない。
じっとウチを見据えて、息を調えている。
「赤山さんは言ったよね。黒幕は天上さんだって」
「そうよ。そう言ったわ」
「なら……言わせてもらう」
ゴクリと実の喉が鳴った。
「それは違うよってさ」
キッと実は指を突き刺した。
何でこのタイミングで実が反論してくるのよ?
だってアンタは、洗脳の被害者なのに。
「だって、天上さんが洗脳なんて……そんな事するはずがない!!」
「この後に及んで感情論?!アンタだって状況分かってるんでしょ?」
「……でも、それでも赤山さんの推理には突っ込める余白はまだある。今の状況だけで天上さんが犯人とは言えないよ!!」
なんで、頑なに認めないのよ。
まさか、まだ実に洗脳が?
「そんなに天上さんを黒幕にしたいなら……私を論破してみせてよ」
「論破って……ゲームやってるんじゃないのよ」
そう言いかけた瞬間だった。
ポンと、誰かの手がウチの肩に乗る。
「受けてあげましょう朱里ちゃん」
「モモ?!でもー」
「人間……素直に現実を受け止められない事もあるわ」
そう語るモモの目は神妙だった。
「実ちゃんには、心を整理する時間が必要よ」
そうか。
実は統香と同じ放送部員。
いつも一緒に居た。
ウチらなんかより、ずっと統香と仲が良かった。
「分かったわ……実、アンタの挑戦受けてやろうじゃない」
信じられないんだ。
統香が黒幕って事実が。
「まず……赤山さんだけが認識阻害に耐性があるのが怪しいよ」
「何でそこから怪しくなるのよ」
「だって、それを証明できる人が居ない。なら、何とでも言えるよ」
実の両眼には涙が溜まっていた。
つっかえる声で、矢継ぎ早に統香が黒幕じゃない可能性をまくしたてる。
「本当は赤山さんが黒幕で、認識阻害って言ってるのが洗脳だとしても辻褄があうよ」
「だったらウチがこの話し合いを始める必要が無くなるわよ」
「う……でも、縁欲君も淡野さんもグルなら成立する」
「仮に財人とモモがグルだったとして、委員長はどうなるのよ」
「そ、それこそ洗脳だよ。というか、洗脳があれば何にだって理屈が付く」
「だからこそこの場を用意したんじゃない。決定的な証拠が出せるこの場を」
「アレは違う……とにかく、とにかく」
もう、話し合いって言える状況じゃないじゃない。
ここまで来たらただのいちゃもんよ。
「実……あんただってもうとっくに気づいてるんでしょ?」
「違う……私はまだ納得してない」
「統香の事が大事なら、あいつの間違いを正してあげなきゃでしょ?」
「違う……天上さんは……違うの……違う」
実の声がどんどん小さくなっていく。
もう、違う以外の単語が出てないじゃない。
「もう良いんですのよ」
瞬間。
統香が実の口を優しく塞いだ。
「あなたの真っすぐな性格は長所ですわ……でも、そこまでピュアだと今後苦労しますわよ」
それはもう、自白も同然だった。
「ゆるり……ごめんなさいね。こんな計画に巻き込んでしまって」
モモに捕まっているゆるりを見ながら一瞥。
そして、統香の瞳がウチを捉えた。
「認めるのね。アンタが黒幕だって」
「ここまでされたら、言い逃れできませんもの」
そこまで言って、統香は首を傾げた。
「わたくしの演技が悪かったのかしら?いや、僕の魔法が未熟だったせいだ」
統香はまるで一人芝居でもするような口調で話す。
「それにしても、朱里に負けるだなんて思いもしませんでしたわ。僕を負かすのはてっきり淡野モモだと思っていだけど、いやはや……やはり僕は愚かだな」
「アンタ……なんなのそのしゃべり方」
ふざけてるんじゃないわよって。
そう言いかけた瞬間だった。
「しゅりち。あれが黒幕ちゃん……というか、とうかっちの素だよ」
「は?」
「認識阻害のせいで忘れてた……久しぶり見た気がするよ」
あれが統香の素ですって?
あんな、2つの人格が混ざったみたいな喋り方が。
「でも、こうなった以上は僕たちは撤退かな。わたくし達の計画も終わりですわね。今にして考えれば身勝手計画だった。でも、わたくしの計画を止めたあなた達には伝えておくべきですわね」
それはまるで、アニメに出て来るラスボスを真似する子供の様だった。
大げさに両手を空に掲げ、統香は宣言する。
「僕とわたくしが、この事件の黒幕。この学園は僕とわたくしの為に作った洗脳ハーレム学園なんですわ」




