モモ -告- 後半
「朱里ちゃんが学校に来てないのは……ゆるりちゃんと喧嘩したから?」
「まぁ、ある意味では間違って無いわ」
喧嘩なんて生易しいものじゃないけどね。
今のウチにはゆるりへの対抗策が無い。
無策で会えば次は終わってしまう。
「ねぇ朱里ちゃん。どうしてそこまでゆるりちゃんを怖がっているの?」
「そう見える?」
「その可愛いお顔には出て無いわぁ。ただ、何となくそう思っただけ」
こっちの感情を見透かしてくる。
その上で、洗脳がモモの違和感を消し去ってしまう。
やっぱり、財人や委員長の時みたいに簡単に事は運ばなさそうね。
でも、ウチは諦めない。
今更諦められないわ。
危険な橋を渡ってくれた財人の為にも。
部外者なのに協力してくれる零の為にも。
ウチを命がけで逃がしてくれた委員長の為にも。
「さっきも言ったでしょ?ゆるりが学園を洗脳した黒幕と繋がってるからよ」
「きっとそれは朱里ちゃんの勘違いよ」
モモの声色が柔らかくなった。
「朱里ちゃんとゆるりちゃんの間で何があったのか、私は知らないわぁ」
考えなさい。
洗脳っていう認知の歪みを通した上で、モモがウチをどう見ているのかを。
「もし、二人が大喧嘩してて……クラスメイトの子が皆ゆるりちゃんを支持したり……考えたくないけれど、皆が朱里ちゃんの陰口を言うようになってても、それは洗脳って程大きなものじゃないわぁ」
なるほど。
これがモモの本心。
洗脳で認知を歪められた結果、『学園が洗脳されている』って事実が『ウチとゆるりが喧嘩してて、皆がゆるりの味方をするようになった』って考えにされてるのね。
「気づいてあげられなかったのはごめんなさい。だからー」
「ちょっと待ちなさいモモ。アンタ、話が脱線してるわよ」
OKよ。
その考えなら覆せる。
「そもそも、アンタは勘違いしてる」
「勘違いって、何を?」
「ウチが言ってる、洗脳の内容よ」
「洗脳の……内容?」
モモの意見である『ウチとゆるりが喧嘩してて、皆がゆるりの味方をするようになった』って言うのは明確に今の状況と矛盾してる。
「今学園にかかってる洗脳はね、とある人物を中心としたハーレムを作る為のものなの」
「ハーレム?」
「そうよ。女子はその人物を好きになって、男子はその人物に嫉妬を抱くことすらしない」
「朱里ちゃん、そんな現実離れした事あり得ないわよ」
「本当に心当たりは無い?特にウチやアンタを含めた六華のメンバーは洗脳の影響を強く受けてるはずよ」
さすがのモモも動揺してる。
でも、それだけじゃない。
モモは信じられないと言った顔のまま、うつろな目線を動かしている。
ウチの隣に立っている財人に視点を合わせて一つ、言葉をこぼす。
「まさか、財人君を中心にしたハーレム?」
瞬間、モモが頭を抱え始める。
洗脳が解け掛かっている合図だ。
「この頭痛……それに、朝の皆の様子……ハハ。凄いわぁ朱里ちゃん。貴方の荒唐無稽なお話、筋が通りそうよ」
「あたりまえよ。ウチは嘘なんて言って無いんだから」
「なら……朱里ちゃんが言っている事が本当だとして、私だけを呼び出したのは何でかしら?」
これを答えないと信用しないって顔ね。
「アンタに助けてほしいのよモモ」
良いわ。
ウチの気持ち、全部アンタにぶつけてやる。
「ウチも財人も、この洗脳ハーレム学園を止めるために戦ってきた。でも、手詰まりなの。認めたくないけど、今のウチ達じゃかなわない……だから助けてほしい」
「それ、私じゃなくても良いんじゃないかしら?」
「アンタじゃなきゃダメなのよ」
ポケットからスマホを取り出す。
これがモモの洗脳解除に仕える最後の武器。
『てかさ、認識阻害だっけ?消してよ黒幕ちゃん。ゆるりとも結構長い仲じゃん』
『ごめんね。僕の正体は君にも教えられない。保険なんだ』
「朱里ちゃん、その音声は?」
「ゆるりと黒幕の会話を盗聴した時の録音データよ」
委員長が残してくれた切り札。
使わせてもらうわよ。
『淡野モモは、僕の計画に支障をきたす存在だった』
『ももちが?洗脳耐性も持っていないのに??』
『彼女の厄介さは、君や赤山朱里が持つ洗脳耐性とは違う』
相変わらず……認識阻害がキツイ。
ウチの頭も割れそうだけど、モモの様子はもっと厳しそう。
「おい朱里!!その音声いったん止めろ。モモって子、酷い顔してー」
「大丈夫よ、知らないお姉さん。」
モモを心配する零の言葉が飛び交う。
それを遮ったのは、他でもないモモ本人だった。
「聞かせて朱里ちゃん。私も、ここまで来たら引き下がれないの」
「えぇ。もちろんそのつもりよ」
気づけば財人がモモの背中をさすっていた。
アンタだって認識阻害を受けてる癖に……無茶しすぎよ。
まぁそれが財人の人柄なのよね。
洗脳なんて関係なしに、あいつは不器用ながらも他人を気遣える人間なのよ。
『モモは……僕の計画を止めてきた。彼女への対応が一歩でも遅れたら、僕はこの洗脳ハーレム学園を作れなかった』
「……なるほど、これが私を呼び出した一番の理由なのね」
音声を止める。
ぐったりとした様子のモモに駆け寄った。
「もう一回言うわ……モモ、助けて」
ウチが用意したものはこれで全部。
これでもモモの洗脳が解けないって言うなら……もうやけくそで頭を叩くしか。
「やけくそで頭を叩くなんて、怖い事考えないで朱里ちゃん」
「え?」
ウチが考えてる事、ドンピシャで当てた?!
「財人君も、そんなに罪悪感を感じる必要ないわ」
「え?!俺!?」
「俺のせいで六華の皆を傷つけたなんて……貴方が思う必要は無いの」
財人の考えてる事まで??
「そう……そうよね。この惨状を見れば嫌でも分かる……私は失敗したのね」
というか、爆弾発言のせいで気づくのが遅れた。
モモの目が虚ろじゃなくなってる。
「朱里ちゃん、ありがとうね。私の洗脳を解いてくれて」
洗脳が解けたんだ。




