呪文 攻略開始
「まさか……ウチのスマホが使えなくなるとは」
「まぁ、あの雨の中だったからなぁ」
財人と零に協力を取り付けた。
そんな時、ちょっと冷静になって思い出したのは家の事。
友達の家に泊まるとは言ったものの……あんな感じで出て行ったんじゃ、家族が心配するわよねぇ。
いま大事になったら面倒だし、連絡しないとって考えたんだけど。
『濡れていて大変危険なので充電できません』
「こんな事で出鼻をくじかれるなんて」
「でもほら、自然乾燥で直るっぽいしさ。元気出せよ」
それって何時になるのよ。
まぁ、零が家族へは連絡してくれたらしいし……おとなしくスマホは封印ね。
「てか、話戻すみたいで悪いけど……洗脳ってぶっちゃけガチ?」
三人で食べたカップラーメンの容器を捨てながら零が問いかける。
まぁ、普通はそんな反応よね。
「信じられないだろうけど、本当よ」
「う~ん。何かの勘違いって線は?」
「ありえないでしょ」
「そうとも言えない。いつぞやのこっくりさん事件みたいに集団ヒステリーの可能性がある」
零がスマホに移した記事にはその『こっくりさん』に関する事件の詳細があった。
精神状態が集団で伝播する……ねぇ。
「お前の言う洗脳が同人誌とか、ファンタジー的な何でもありな洗脳なのか……さっきの集団ヒステリーなんかを利用した現実的な洗脳なのか……まずそこをハッキリさせといた方が良いんじゃない。しらんけども」
そうか。
洗脳って言っても色々種類があるものね。
まぁ、学園にかかってる洗脳は100%ファンタジー系の洗脳であってると思うけど。
「確かに……ウチはまだ洗脳の原理は知らない」
ウチが見た洗脳は2種類。
学園内で生活をしていると必ず昼以降に洗脳される洗脳ループ。
後はゆるりが使ってた呪文。
「問題は確かめ方ね」
洗脳ループを解析するのは正直難しいわ。
ウチや委員長が失敗してるって言うのも一つ。
なにより、洗脳ループを調べるならどの道学園に行かなきゃ駄目よ。
今のウチはゆるりに目を付けられてる。
前より学園での動きが制限される。
「う~ん。学園の外で洗脳の解析が出来ればいいのに」
「ま、そう簡単に都合の良い答えは出ないのが世の中。いきなり核心には迫れないって話だな」
零の言うとおりね。
なら他の策を考えないと。
時間を無駄にするわけには。
「なぁ、その洗脳の解析……出来るかもしれないぞ」
「財人?」
いや、そうはいってもどうやって。
洗脳は学園内でしか発動できないし。
「ほら、赤山言ってたろ?黒川が呪文使って洗脳してくるって」
「えぇ」
「俺も黒川にやられた記憶、何となくだけどあるんだよ。それも学園の外で」
「外?!アンタ今外って言った??」
マジかぁ。
ゆるりの呪文は学園の内外関係ない……って事は、ここに引きこもってもゆるりに出会った瞬間アウトじゃない。
「絶望的な情報ね」
「いや、これは逆にチャンスだ。この呪文と洗脳についてなら学園に行かなくても検証できる可能性があるって事だろ」
そりゃ、理屈の上だとそうだけどさ。
解析するにしたって具体的な方法が。
「ふ~ん因みに財人。どんな呪文だった?ワンチャンネットで調べたら出て来るんじゃない」
「何でも試すしかないよな。えぇっと……たしか、いやいやくるくるグダグダとかなんとか」
「ちょっと待ちなさい。全然違うわよそれ」
急に頓珍漢な事言わないでよ。
まぁ財人の記憶が不安定ってのはあるんだろうけど。
「あはは……実はあんときの記憶があやふやで」
「まったく……確かゆるりが言ってたのは」
悪夢で散々聞いたから覚えてるわ。
たしかー
「イヤ、イヤ、カストルム、フタグン」
「あぁそうそう。そんな感じだった気がする」
てか、イヤイヤって何なのかしら?
外国語?
それとも何かを嫌がってる暗示なのかしら?
「イヤ、イヤ、ミ=ゴ」
「えぇっと……確か……そうだったよな。てかあれ、これ何してるんだっけ?」
ちょっと、言い出しっぺの財人がボヤっとしてるんじゃないわよ。
言い切らないと忘れそうだから変な事言うのやめてよね。
「ミ=ゴ・カストルム、フタグン」
そうそう。
確かこれであってたはず。
「お疲れ様」
「いうほど疲れて無いわよ。それより財人の方が大丈夫なの?さっきぼーっとしてたけど」
「そう言えば朱里。今日どうした学園に来なかったんだい?」
「はぁ?!さっき言ったでしょ。ウチはー」
ちょっと待って。
さっき、財人はうちの事なんて呼んだ?
「急に朱里が来なくなったからびっくりしたんだ。皆の何かあったのかなって」
間違いない。
朱里って呼んでる。
「お、おい財人?大丈夫か?」
「零!!大丈夫?!洗脳されてない?」
「は?へ?ちょ、お前らいきなり」
よし、零は大丈夫そう。
財人の方は……目がうつろ。
洗脳されてる。
でも何で?!
ウチはただ呪文を詠唱しただけよ。
特別な力なんか持ってないのに。
「さぁ朱里。帰ろう。僕らの学園に」
「おいおい財人。流石にこの子も怖がってるって」
「えっと、君は誰だ?」
「は?」
零の事も認識出来てない。
そりゃそうよね。
財人が学園でハーレム作るって言うのに、学園外で好きな人がいるのなんて不都合。
洗脳された状態だときっと財人の中で零の存在が消えるんだ。
「まぁ良いか。どうでも」
「どうでもってお前」
「そうだ。君も学園に来ようよ。そうすれば俺達と同じになれる」
「いい加減、正気に戻りなさいよ!!」
零を押し倒そうとした財人の頭を叩く。
上手くいくかどうかは分かんないけど……やるしかない。
「朱里?」
「アンタ、零の事が大好きなんでしょ?他の誰が文句言っても大丈夫って、告白の時言ってたじゃない」
「な……なんで、そのことを」
ウチと委員長の事を思い出せ。
洗脳が解ける条件は、頭を殴るかそいつにとって大切な事を叩きつける事。
「それに、ウチに罪悪感感じてるんでしょ?ウチの代わりに学園を何とかするって言ってたのは嘘だったの?!」
「いや……それ……は」
駄目押しでもう一回頭を叩く。
ちょっと痛いだろうけど、我慢して財人。
「だったらさっさと戻ってきなさい!!」
「痛……あ、あれ」
明らかに財人の目が変わった。
よし、上手くいったんだ。
「財人、ウチの名前呼んでみて」
「赤山……俺は一体」
よし、赤山呼びに戻ってる。
財人はキョロキョロと周囲を見渡している。
そして、怯えた目でこっちを見る零の姿を見て……全部を悟った様な目をしてた。
「そうか、俺はまた」
「アレはウチも悪かった。というか、ウチが呪文を言ったせいで」
「オーケー!!分かった」
ウチと財人の言葉を遮るように、零がわざとらしく大声を上げる。
「想像以上に厄介な案件抱えてやがったな。正直ビビった」
「零、俺はー」
「大丈夫だよ財人。うんでもって、朱里……この洗脳やばいわ、絶対集団ヒステリーじゃない」
零はバタバタと周囲を歩き回りながら声を上げる。
「とりあえず、お前ら今日は寝ろ。財人はウチに泊れ」
「え?」
「これはマジでやばい案件だろ。こっちもマジで対抗しないとな」
バッと投げてきたのはベッドの代わりになるマット類。
「いいか、こういう時夜更かしするとおかしな方向走るからな。今日は寝るぞ。んで、明日からだ」
「何をするのよ」
「決まってるだろ。さっきの呪文の解析だよ」




