雨宿り
「イヤ、イヤ、カストルム、フタグン。イヤ、イヤ、ミ=ゴ。ミ=ゴ・カストルム、フタグン」
暗い世界の中で、目の前にゆるりが立っている。
「イヤ、イヤ、カストルム、フタグン。イヤ、イヤ、ミ=ゴ。ミ=ゴ・カストルム、フタグン」
あの呪文を唱えて立っている。
ウチに語り掛けて来る。
諦めなよって。
一緒に楽しい事やろうって。
まぁ、そうね。
アンタらに勝てるビジョンは見えないわ。
きっと、ウチ一人の問題なら……今頃折れてそっちに行ってたかもしれないわ。
「じゃぁこっち来なよしゅりち。ゆるり達は特別なんだよ」
そうすればきっと楽になる。
ウチの気持ちとか押し殺して、楽しい事だけ見てればきっと楽なんだ。
でもー
『私の代わりに、財人君をお願いします』
ウチはもう背負ったから。
そっちに行くわけにはいかないの。
「じゃあどうするのさ?」
どう……するべきなんでしょうね。
ウチは……ウチは。
「何をしたら……どうすれば良いのよ」
あれ……さっきのは夢?
そうだ、ウチは公園で。
「ここはどこ?」
毛布の中?
知らない匂いだし……と言うか、ジャージ?
制服は?
「お、起きたか」
声がした方向に振り向く。
あれって確か。
「虚空……零?」
「ん?なんで私の名前知ってるんだ?もしかしてバクサイとかに私の悪口のってるとか?」
「バクサイ?」
「あ~違うのね。うん。今のは忘れろ。覚えてても害しかないから」
どんな状況よ、これ。
ウチは確か公園に居て……財人に会って。
「そういえば、財人は?」
「あいつならコンビニ。色々買いに行ってもらってる」
「アンタを呼んだのも財人なの?」
「ま~な。ビックリしたよ。お前びしょぬれで気絶してたんだし」
制服は今洗ってるから、と言って虚空零はスマホを見始めた。
そっか。
財人がウチをここまで。
「ウチ、あいつにあんなひどい事言ったのに」
「な~んか訳アリっぽいよな。財人も同じ事言ってたし」
「え?」
「赤山に酷い事したかもしれないってさ。ま、高校生なんかまだガキだし、こんなこともある」
それってどういう事?
財人に今のウチの事情が分かりっこないのに。
なんであいつが。
「ちょっと私、タバコ吸いに行くからゆっくりしてろ」
「はい?」
「好きにくつろいでていいから」
「ちょっと」
ウチの言葉も聞かずに虚空零は立ち去る。
てか、雨降ってんのよ。
外でタバコって吸えるの?
「零。帰ったぞー」
「おい財人、私はタバコ吸いに行くから留守よろしく」
ガシャンとドアの音が響く。
虚空零と変わるように姿を現したのは財人だ。
「聞かれたくない事あるなら今のうちにしとけよ」
「零……ありがとう」
「別に。私はタバコ吸いたいだけだ」
未成年が居る部屋で吸えるかよ、と毒を吐いて虚空零は外に出る。
狭いアパートに残されたのはウチと財人の二人だけ。
「財人……ウチ」
「ごめん!!!」
ウチが何か言う前に、財人が大声で謝り始める。
土下座までして。
「ちょっと、やめなさいよ」
「俺、さっきの赤山の言葉で目が覚めたんだ」
「目が覚めたって……一体」
「さっき言ってただろ?学園でハーレムがどうとかって」
まさか。
うそでしょ?
「アンタ……どこまで思い出したの?」
「記憶がぼんやりとはしてる。でも、学園での生活を……なんていうのかな、正確に把握できるようにはなったっていうか」
あの時のウチの言葉で、財人が正気に戻ってる?
「赤山がずっとうなされてるのを聞いてた」
「……なんて言ってた?」
「どうしたら良いのって……多分、ずっと戦ってたんだろ。その……異常な学園に」
コンビニ袋に入った飲み物に食べ物。
それを丁寧に床に置いて、財人は切り出した。
「だから話してくれないか。学園で起こってる、洗脳について」




