敗走
「朱里、朝ごはんもういいの?」
「いい。おなかすいてないから」
委員長と別れて、何日経っただろうか。
「おかあさん。今日、友達の家泊るから」
「え?」
「じゃ、行ってきます」
ドアを開ける。
行先は学園じゃない。
ウチには……今の学園に向かう勇気なんか……ない。
◇
『それでは発車いたしま~す』
電車に乗って、適当な駅。
だるき回ったらどっかに公園があるから、そこで暇つぶし。
「ねぇ、委員長」
ぽっけに入れたお守りを見る。
委員庁はあの時、ウチに託してくれた。
財人を助けてって。
この狂ったハーレムを壊してって。
「でも、無理だよ。ウチには……無理だ」
毎晩寝るたびに、ゆるりの呪文が脳裏をよぎる。
あんな言葉一つで、皆洗脳状態に戻ってしまう。
モモも。
統香も。
実も。
委員長だって、次は洗脳に抗えないかもしれない。
「それにあんな化け物、どうやって」
ゆるりの後ろに立ってた気持ち悪いやつ。
あれって、人間が戦っていい生き物なの?
ウチはずっと、犯人は人間だと思ってた。
何か特別な力、洗脳の力だけを持った人間。
それなら、何とか勝てると思ってた。
でも……洗脳は想像以上に怖い。
黒幕やゆるりのバックには、人じゃない化け物が付いている。
それを洗脳耐性を持っているウチ一人でどうにかするの?
そんなの……無理に決まってるじゃない。
「ハックション」
なんか……寒いな。
あぁ、雨降ってるじゃん。
こんなに雨音が鳴って、こんなに濡れてるのに、全然気が付かなかった。
雨宿り……いや、いいや。
もう、面倒臭いな。
このまま公園のベンチで。
「赤山?」
誰?
ウチの知り合いが何でこんな所にー
「お前、濡れてるじゃん。大丈夫かよ」
「財……人」
「てか、学校どうしたんだよ。最近ずっと休んでさ」
うつろな目はしてない。
なんか、アニメの絵が描かれた袋を持ってる。
あぁ、もう放課後なんだ。
もうこんな時間なんだ。
「とりあえず、どっかで雨宿り」
「いい」
「良いわけないだろ?まってろ、今すぐ」
「良いからほっときなさいよ!!」
あぁ、駄目だなぁ。
財人は悪くないのに。
財人もウチと同じ洗脳の被害者なのに。
「大体、全部全部アンタが悪いんじゃない」
「え?俺、お前になんかしたか?」
「何でアンタがターゲットになったかとか、黒幕が何考えてるかとか、そんなの分かんないわよ!!でも、アンタ中心に起こってる事なんだからアンタが悪いのよ」
もう、感情を抑えられない。
コイツの顔を見たら、こいつだけ今のほほんと生活しているのを見たら、気が狂いそうだ。
「黒幕って……というかいったん落ち着け」
「落ち着ける訳ないでしょう!!委員長がまた洗脳されて、ウチはゆるりの手のひらの上で!!」
「もしかした皆と喧嘩したのか?なら俺が相談に」
あぁ。
財人がこんなにウチに寄り添ってくれてるのに。
「ハハ……相談したって意味無いわよ」
ウチは感情に任せるままで。
「だってアンタ、何も覚えてないんでしょ?」
「えぇ?!俺に関係ある話ー」
「知ってる?アンタ学園ではウチの事朱里って呼ぶのよ?」
滅茶苦茶な理屈でまくしたてて。
「なんだよ、それ」
「財人、アンタはね。学園内だとハーレム作ってよろしくやってんのよ」
「ハーレム……なんだ、それ」
「良かったわね!!誰かがアンタの為に皆を洗脳してくれたおかげで、アンタの学園生活はバラ色よ!!」
最低な事言った。
この事実を知ったら、きっと財人だって悲しむはずなのに。
「ちょっと待て……なんか、前にも、黒川から同じような事を」
「良いじゃない。うちなんか見捨ててどっか行きなさいよ!!」
「赤山……朱里……なんだ、コレ、頭が」
「アンタは勝手に六華の皆と遊んでればいいわ。洗脳で皆の心をしばりつければいいじゃない」
ごめんね、委員長。
ウチ、やっぱダメみたい。
もう、本当に疲れたな。
もう、意識がー
◇
「なんだ……これ」
赤山の話を途中から聞いてなかった。
いや、聞いてなかったって言うか……耳に入らなかった。
「こんな記憶……知らない?いや、知ってる?」
赤山の言葉を聞いてから、ずっと頭が痛い。
流れてくるのは、学園での生活。
記憶の中にある、何の変哲もない学園生活。
それに酷く違和感がある。
何だこれ。
記憶の中の俺が、俺じゃないみたいだ。
「洗脳」
赤山がそんな事を言っていた。
眉唾だ。
でも、なんだろう。
「俺の子の記憶は……洗脳されてたって事だったら辻褄会うよな」
だったら俺は……最低な事をしてる。
六華のみんなを、洗脳で捻じ曲げて。
赤山はそれに気づいたからこそ、こんなに傷ついて?
「とりあえず……助けないと」
雨が降る中、地面に横たわる赤山を見る。
早く助けないと。
でも、きっと俺一人じゃ酷い事になる。
「こんな時に頼れるのはー」
振られたばっかで、ちょっと電話かけにくいけど。
こんな事情を呑み込んでくれるのは……きっと零だけだ。
『……どうした?』
「零、助けてくれ!!隣町の公園で友達の女の子が倒れてる」
『ちょ、緊急事態じゃん。レンタカー借りてそっち行くから、その女の子雨宿りさせといて』




