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比奈野烈火の独白 後編

 「スッキリって……バカなの?!そんな事したられっかちの脳にいじょうが出てもおかしく無いんだよ?」


 ゆるりさんがわたしを心配してる。

 意外……いや、そうでもない。


 彼女の目的は、今の学園を維持することでしょう。

 洗脳耐性を上手に使って、やりたい放題したい。


 ゆるりさんの目的はそれ以上でも、それ以下でもない。


 手段は邪悪であったとしても、彼女の目的は邪悪ではない。

 だから、私が必要以上の自傷をするのに驚いたのでしょう。


 好都合です。


 「覚悟の上ですよ」


 ゆるりさんも、洗脳されてしまった他の皆も、私に気を取られて固まっている。

 朱里さんを逃すなら今!!


 「わ、委員長?!」

 

 朱里さんの腕を無理やり引っ張る。

 乱暴でごめんなさい。

 でも、これしか方法が無いんです。


 『……レムを。私達の……に』


 いつまで私が正気でいられるかは結局分からず終い。

 手をこまねいていたらまたさっきと同じになります。


 視聴覚室のドアを開けて、廊下を走る。

 他の教室の窓がバタバタと開き、うつろな目をした人達がこっちを見ている。


 まぁ学園全体を洗脳してるんですもんね。

 他のクラスの生徒、先輩、果ては先生まで。

 目に映る全ての人間が敵です。


 「朱里さん。ここは撤退です」

 「逃げるって言ったって、どうやって?」


 普通に逃げるのは不可能。

 学校のあちこちから洗脳された人間が集まってしまいますから。


 でも、私は知っています。

 他の人が普段は意識しないであろう脱出ルートを。


 「この廊下の先には、避難はしごが置いています」

 「避難はしご?もしかして、避難訓練のビデオで見るやつ?」

 「はい。朱里さんは梯子をつかって、窓から外へ逃げてください」


 多分これが一番速い。

 そこの窓を開けて、ぱっとはしごを下す。


 「朱里さんはって、委員長はどうするの」

 「烈火は……いつまで正気か分からないので」

 「馬鹿言わないで!!外に出たら、ウチがまたもとに戻すから、諦めちゃダメ」

 「朱里さん」

 「絶対二人で逃げるの。良いわね」


 さっとはしごに足をかけながら、朱里さんは降りていく。

 こんなに高いのに、怖がりもしない。


 凄いなぁ朱里さんは。

 きっと心の強いあなただからこそ、洗脳耐性を得られたのでしょうね。


 「分かりました。二人一緒に逃げましょう」


 ごめんなさい、朱里さん。

 烈火は嘘を付きます。


 きっと、今の学園から二人では逃げ出せない。

 いざという時は……烈火は自分を犠牲にします。




 「とりあえず正門に走ろう」

 「えぇ。幸いにも誰も立っていません」


 はしごから降りた後は平和だった。 

 洗脳された生徒はグラウンドを追ってこない。


 洗脳の範囲外に逃げられたと考えていいのでしょうか?


 「最後まで気を抜いちゃだめよ、委員長」

 「えぇ。分かっています」


 朱里さんと声を掛け合いながらグラウンドを走る。

 正門まではあと少し。

 2,3歩でー


 「へぇ、そんな所に梯子なんかあったんだ」


 この声はゆるりさん?

 一体何を?

 

 「でもさぁ、二人を逃がすのはちょっとねぇ」

 「な?!」

 「ちょ、ゆるり??」


 窓から、身を乗り出してる??

 何でそんな、自殺行為ですよ??

 洗脳でいくら頭が良くなっても、格闘技術を覚えても、人の体の限界は超えられないでしょう?

 

 「よいしょ……見ててねしゅりち」

 「アンタ、馬鹿な事やってないでー」

 「学園のルールを利用すれば、こんな事だって出来るんだから」


 ひょいっと。

 ゆるりさんが飛び落ちる。


 このままでは、彼女が死んでしまう。

 そう思った矢先の事。


 「まったく。人使いの荒い」

 「それを言うならさぁ、虫使いの荒いじゃない?」


 ブーン。

 ブーン。


 うるさい羽音が響く。


 「ミ=ゴっち……と言うより、黒幕ちゃん的には死はNGだからねぇ」

 「だからと言って飛び降りる馬鹿はお前だけだろう」

 「え~。何か冷たくない??」


 なんなの。

 あの生命体は??

 

 カニみたいなハサミ。

 エビみたいな体。

 虫みたいな足。

 蝙蝠みたいな羽。


 「ミ=ゴっちからしてもさぁ。二人が外に出たら手が出せないわけじゃん?」

 「貴様の代わりにあの二人を捉えろと?」

 「代わりにって、ゆるりは別に黒幕ちゃんの仲間って訳じゃないし」

 「……まぁ良いだろう」

 

 怖くて思考がまとまらない。

 あれを見たくない。


 「な、なによ。アレ」


 そんな気持ちより、隣の朱里さんが目に映った。

 余りの恐怖に尻もちをついて固まっている。


 「私であれば、あの二人を傷つけずに捕まえる事はたやすい」


 ここで朱里さんを逃がさないと、全部終わってしまう。

 そんな気がしてー


 「逃げて!!朱里さん」 

 「え?」

 

 彼女の体を力一杯押し出した。

 

 「ちょっと」

 「そのまま走って逃げてください……烈火の事は置いて行ってください」

 「駄目だよ。そんなの」


 その瞬間の事でした。

 耳障りな音が聞こえて……頭がぼーっとしてきます。


 「委員長、早くこっちに」

 「駄目です朱里さん、行ってください」

 「でも!!こんな状況で委員長を置いていったって」

 「何の解決にもならないですね」

 「分かってるんじゃん。なら」

 「でも、詰みにはなりません」


 朱里さんは、きっと分かってくれます。

 ここで私が落ちても、洗脳に耐性を持つ貴方が逃げれば何とかなるんです。


 逆に、貴方が捕まって私が逃げても意味はありません。

 洗脳されてお終いです。


 「でも……嫌だよ」

 「烈火では、財人君を助けられないですから」

 「委員長」

 「私の代わりに、財人君をお願いします」


 そう言って、スカートのポケットに入っていたお守りを投げました。

 

 「バカ!!」


 あぁ、良かった。

 朱里さんがちゃんと逃げてくれた。

 あの目はきっと諦めない。

 きっと朱里さんは、財人君を助けてくれる。


 「彼女には逃げられたか」

 「まぁ良いんじゃない?しゅりちはどうせ戻ってくるよ」

 「何故そう思う?」

 「だって、こんなやりたい放題な学園ほど楽しい所ないんだもん。しゅりちも分かってくれる」


 体がもう、動かない。

 きっと、すぐに私は洗脳されてしまうんでしょうね。


 視界の先には、ゆるりさんと、さっきの化け物と。


 「ごめんね、カストルム。僕の失敗だ」

 「マスター」


 もう一人。

 虹色のシルエットがこちらに歩み寄ってくる。


 「朱里さんが洗脳耐性を持っていると気づけなかった」

 「仕方のない事だろう。マスターも、普段の学校生活は自己洗脳をかけた状態で過ごしているのだから」

 「てかさ、認識阻害だっけ?消してよ黒幕ちゃん。ゆるりとも結構長い仲じゃん」

 「ごめんね。僕の正体は君にも教えられない。保険なんだ」


 あれが……黒幕。


 「……」

 「……」

 「……」


 もう、彼女らが何を言っているかすら聞き取れない。 

 洗脳のせいで、音を認識できなくなってるって所でしょうか。


 なら、スマホなら録音できるでしょう。

 バレないように録音して、バレないように朱里さんに送るぐらいなら。


 最後の足掻きぐらい、させてもらいましょう。


 ごめんなさい、朱里さん。

 またあなたを一人にしてしまいます。


 「……」

 「……」

 「……」


 ごめんなさい、朱里さん。

 私、この期に及んであなたに嫉妬してるみたいです。


 財人君を直接助けるのが私じゃなくて、貴方であることに……ちょっと焼いています。


 「……」

 「……」

 「……」


 ねぇ、財人君。

 烈火は立派にやれたでしょうか?


 きっと烈火はまた、貴方とそのハーレムを維持する一因として洗脳されてしまいます。

 きっともう、洗脳に抗う事すら出来ません。


 それでも烈火は……出来ることを精一杯できたでしょうか?


 『あぁ、比奈野は凄いよ。俺だったら絶対に出来ないもん』


 きっとあなたは笑ってそう言ってくれるでしょうね。

 なら、やはり烈火は精一杯やったのでしょう。


 「後は頼みます。朱里さん」

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