委員長と情報共有
「ねぇみのりっち……おなかすいたぁ」
「ど、どうしたの黒川さん?ジャンプしても何も出てこないよ?」
「え~嘘だぁ。あのみのりっちがお菓子持ってきてないわけないじゃん」
ゆるりの奴……あんな事があったのに普通に生活してる。
ウチが大胆には手が出せないと踏んでるんだ。
状況は良くない。
委員長のおかげで、少なくとも洗脳ループが昼休みに起こってるのは確認できた。
でも、ゆるりのせいで昼休みの何がトリガーだったのか分からなかった。
その上、委員長は洗脳状態に戻った。
「でも、ウチらだって何もしてないわけじゃない」
とりあえず、視聴覚室にはウチ一人では行かない。
まずは、委員長の洗脳を解いてからだ。
◇
「どうしたんですか朱里さん?部活の悩みで私と話がしたいと」
「そうね」
適当な理由で委員長を呼びだす。
ウチはポケットから委員長から預かったお守りを取り出した。
「委員長。このお守り、見覚えあるでしょ?」
「これは……」
ウチらだって、無策で乗り込んだわけじゃない。
そもそも、委員長が洗脳されるのは想定の範囲内よ。
当然、対策だってばっちりよ。
「それは私の……なぜ朱里さんが?」
「あんた、このお守りに財人の髪の毛入れてるでしょ」
「え?いや、私は……烈火はそんな事……しない」
「思い出しなさい!!アンタは財人が好きな変態ストーカー女よ!!」
まぁ、その対策がこのお守りなのはちょっとねぇ。
委員長曰く、『財人君への想いで烈火は何度でも蘇るでしょう』って言ってたけど。
「イタタ」
「委員長、大丈夫?」
「私は……いつから洗脳されてましたか?」
良かった。
ちゃんと委員長の洗脳が解けてる。
「昼休みよ。ごめん、洗脳ループのトリガーは分からなかった」
「貴方が謝る事はありませんよ。ありがとうございます、私を正気に戻してくれて」
委員長の背中をさすり、水を飲ませる。
「午前中の記憶もあやふやで思い出せませんね。確かに、これでは洗脳を自力で解いても洗脳ループに気づけません。厄介ですね」
とにかく、委員長に共有しないと。
特に、ゆるりの事を。
「目が覚めたばかりで申し訳ないんだけどさ。情報共有したい」
「えぇ。私もそう思ってました。心配はいりません。ドンと来てください」
◇
「ゆるりさんが黒幕の一人」
「意外でしょ?」
「えぇ、普段の彼女からは想像が付かないです」
手をつないで委員長と歩く。
また委員長が洗脳されてしまった時に素早く反応できるように。
トラブルがあった時に一人にならないように。
「黒幕を自称するゆるりさんもまた洗脳されていると言う可能性は?」
「低いと思う。あの時のゆるりの目は虚ろじゃなかったし」
ゆるりの居る視聴覚室まで、あともう少し。
あいつが黒幕の側に居るのは間違いない。
でも、仮にゆるりがこの洗脳ハーレム事件を起こした犯人だったとして、動機は何?
そこが上手く繋がらない。
それが余計に怖い。
「朱里さん、まずは情報を得ることです」
「委員長」
「動機なんて、傍から見て分かるはずないですよ。実際、私が財人君をどれだけ愛してるかなんて普段の態度から想像できないでしょう?」
委員長が言うと嫌な説得力があるわねぇ。
でも、一理ある。
「開けるよ」
「えぇ。準備は出来てます」
ゆっくりと。
慎重に。
ウチは視聴覚室の扉を開ける。
『日本の就活!!終わりすぎててシヌゥ!!』
「は???」
ウチの耳に入ってきたのはふざけた機械音声。
そして、視聴覚室のパソコンで動画を見ているゆるりの姿だった。
「お、しゅりち。まってたよ~」
「ゆるり、アンタ」
「れっかちの洗脳も解いたんだぁ。本当は二人っきりが良かったけど……まぁ、いっか。ドア閉めてよ~」
委員長が周囲を警戒しながらドアを閉めてくれる。
それにしても何?
この雰囲気は?
「あ、クラスメイトの皆からお菓子ふんだくって来たんだ。しゅりちも食べる?」
「ふざけてるの?アンタ、今どんな状況か分かってる?」
「ふざけてなんか無いよ。言ったじゃん。ゆるりはしゅりちと話がしたいだけ」
ゆるりの目はやっぱり虚ろじゃない。
洗脳を解いた時の委員長の目に近い。
「殺伐とした話をする気は無いの」
「はぁ?」
「ゆるりはね、しゅりちにこの学園での過ごし方を教えてあげたいだけ」
「どういう意味よ」
今のゆるりは、悪い意味で自然体よ。
クラスメイトが全員洗脳されているこの異常な学園の中で、呑気な顔してお菓子を食べてる。
「ゆるりとしゅりちはね、この学園で好き勝手出来る権利を得たも同然だってはなしだよぉ」
ゆるりは一体、何を考えてるの?




