虚空零
「ストーキングの基本は、色んな所から相手を観察する事です」
翌日。
ウチらは簡単な変装をして駅前にきた。
変装と言っても、サングラスを付けたりするぐらい。
大げさな変装はせず、あくまで普通の服装で顔を一部隠す程度だ。
「さて、ぼちぼち財人君が来る頃ですね」
「噂をすれば、来たよ委員長」
スマホを見ているふりでずらした視線の先。
見た事ない笑顔で走る財人の姿があった。
「零、お待たせ」
「やっほ~。もうちょいでタバコ吸い終わるから待ってて」
財人が向かったのは喫煙所。
そこに白シャツとジーンズをダボっと着た女の人が一人。
「あの人が虚空零ね」
「はい……財人君との待ち合わせでタバコを吸うなんて、やっぱり碌でもない女ですよ」
まぁ、確かに。
話に聞いたヤバイ女っぷりよね。
「あれ?タバコの箱が前と違う?」
「あ、気づいた?」
「どうせまた、ネットで不人気なやつ買ったんだろ?」
「正解正解。アンチするなら一度この身で体験しないとね」
「相変わらずだなぁ。もう」
えぇぇ。
何?
わざと嫌いなタバコ吸ってたって事??
「それより、珍しいじゃん。財人が誘ってくれるなんて」
「前にこの映画見たいって言ってただろ?たまたまチケットが手に入ってさ」
絶対たまたまじゃない。
買ったわね。
今日の告白の為に。
「あー!!今あほほど炎上してるやつじゃん。これ見たかったんだよねぇ」
「零ならそう言うと思った」
どんなデートよ。
ツッコミどころが多くて頭痛くなるわ。
「タバコ吸い終わったら行こう」
まったく。
どうしてあんなに楽しそうな顔してるのかしら。
◇
「いや~酷かったねぇ」
「零、途中で寝てたろ?」
「映画館で寝るって言うのはクソ映画見るときの醍醐味じゃない?」
財人と虚空零はショッピングモールの映画館にてクソ映画を鑑賞。
委員長の提案でウチらも同じ映画を見ながら二人を監視してたんだけど。
「ひ、酷い映画だったわね」
「虚無をずっと眺めてる感じでしたね。財人君が居なかったら私も多分寝てましたよ」
最悪だったわ。
金の無駄使いってこういう事を言うのね。
んで、二人がフードコートに移動したからウチらも移動。
少し離れた席で昼を食べながら監視を続けている。
「まぁ、これで書きたい内容もまとまった。後はSNSでぼろくそ書いてやろう」
「本当、SNS好きだよなぁ。レスバトルだっけ?」
「そうそう。財人も一回やってみ?捨てアカの作り方教えてあげるからさ」
終わってる。
会話が全部終わってる。
「グス……グス……気づいて、財人君。あんな女と結ばれたって良い事は無いのに。烈火なら、烈火ならぁ」
余りの光景に委員長が静かに泣いてる。
まぁ、ちょっとは委員長の気持ちが分からなくもないし。
あとで慰めてあげー
『あぁ、落ちていた財人君の髪の毛を何本か入れて作ったお守りです』
委員長も大概だったわ。
財人は何??
やばい女を引き付ける運命なの??
「ほら、隣座りなって」
「え?!」
「対面だと私のスマホ見づらいっしょ?」
ぐいっと虚空零に引き寄せられる財人。
ちょっと顔を真っ赤にしながら。
それでも嬉しそうに会話を続けている。
「う~ん。展開が間延びしすぎて退屈だったとか?」
「甘いねぇ財人。それはただの感想、アンチって言うのはこうやってやるのさ」
会話が終わってる事を除けば、微笑ましい光景では……ある、わよね。
少なくとも、洗脳を使う様子は見えない。
◇
「あ~負けた!!あんなにコインがあったのに!!」
「あの馬にしてやられたな」
「絶対遠隔だ!!ある事ない事グーグルレビューに書いてやる」
「また出禁になるぞぉ」
あの後、財人はゲーセンで虚空零と話してた。
なんか大きな画面を椅子に座って見ながらコインを増やすゲームやってたわ。
あれ、何が面白いんだろう。
ウチも委員長も大量にメダル貰ったけど、ぶっちゃけ要らない。
「てか、財人が最後に寄りたいって言ってたのはどこ?」
「ついてからのお楽しみと言うか……あ、ついた」
どこに向かっているのかと思ったら、公園?
「ちょ、委員長。隠れる場所なくない?」
「大丈夫です。朱里さん、こちらへ」
ウチらはさっと茂みの中へ移動。
慣れてんな委員長。
突っ込んだら余罪が出そうだし、今は追及しないでおこう。
「この公園、覚えてる?」
「覚えてるも何も、私はよくここで酒飲んでるよ」
「そうなのか?」
「深夜だから財人はこれないけどね」
二人がベンチに座る。
「昔さ、ここでよく零が遊んでくれたんだ」
「あ~、そんな事もあったねぇ」
「俺は今でも覚えてるよ。大事な思い出だからな」
話半分と言った顔でうなづきながら虚空零はタバコを取り出す。
カチっというライターの音が、静かな公園に響いた。
「実はさ……今日、零を誘ったのは別の理由があるんだ」
明らかに、空気が変わる。
財人の奴、顔には出してないけど緊張してる。
その気持ちが雰囲気を通りてこっちまで伝わってくる。
虚空零もその空気を読み取ったのか、口を付けたばかりのタバコの火をすっと消した。
「言ってみ?」
「零……俺」
さっきまでのアンチがどうとか言ってた態度はどこへやら。
じっと、財人の言葉を虚空零は待っている。
「ずっと前から好きだった……俺と、付き合ってください」
公園は一層、静かになった。
隣で血涙を流している委員長の心の声があっちまで聞こえるんじゃないかと思うほど、静かな空間の中。
「そっか……こんなどーしようもない私の事、好きになっちゃったのか」
こう言葉にした虚空零の顔は、今日一番の優しい顔をしていたと思う。
「まず、ありがとね。気持ちを伝えてくれて」
「……」
「でも、ごめんね」
その言葉を聞いた瞬間、ウチは反射的に財人の顔を見ていた。
あぁ……本当に、どうなってるのよ。
今日、ウチがしないといけない事は……財人が洗脳の黒幕かどうかを確かめる事なのに。
今の財人の顔を見たら、とても洗脳の黒幕には見えないじゃない。




