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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第79話 招かれざる客

side:???


東京の繁華街、その路地裏に身を潜めるように店を構える、小さなバー。


店内は薄暗い。煙草の煙が天井に張り付き、ぼんやりとしたスポットライトを白く滲ませている。カウンターでは初老のバーテンダーがグラスを拭く手を止めて、一点を見つめていた。視線の先は、店の奥のボックス席。


そこに、騒がしい一団がいた。


円卓をぐるりと囲む革張りのソファに、5人。いずれも体つきが普通の客とは違っている。骨格の太さ、眼光――何より、纏う空気が違う。ただ座っているだけで、威圧感を振りまいていた。


そして、もう1人。


円卓とは少し離れた壁際の死角になる位置に、フードを目深に被った人物がひとり、ぽつんと座っている。黒のローブが体の輪郭を完全に覆い隠していて、性別も体格も読み取れない。グラスに刺さったストローを、指先で時々ゆっくりと回している。


店内には他にも客がいた。カウンターに座る疲れた顔の中年男性、奥の二人席で何やら囁き合っている若い男女、出入り口近くで立ち飲みしているスーツ姿の3人組。誰もが、ボックス席の方に意識を向けないように努めていた。


5人組のうちの1人、髪を派手に立てた、装飾の多いコートを羽織った男が、トン、と空のショットグラスをカウンターの方に向かって置く。彼が日本語に切り替えて、英語訛りのべったりついた声で、若い女性スタッフに呼びかけた。


「ねえ、お姉さん。同じやつ、もう一杯。」


若い女性のスタッフが、強張った笑みで応えた。


「は、はい、ただ今……。」


「お姉さん、カワイイね。どうかな?この後ホテルで二人でゆっくりさ……。」


「お、お仕事中なので……。」


「マジマジ?つれないなあ、絶対後悔させないのに。」


男――マーカスは、髪を片手で大袈裟にかき上げて、にやけた笑顔を作った。彼はそのまま英語に切り替えて、隣に座る、軍服のような上下を着た長身の女に肩を寄せる。



「リサ、ボクどうだった?」


「キモかったわよ、いつも通り。」


リサと呼ばれた女が、長い前髪を指で梳きながら、嘲るように笑った。視線がふと、カウンターの方の他の客に流れる。


「……ねぇブルーノ、あのカウンターの奴、さっきからこっち見てない?」


リサの視線を追って、別の男が声を上げた。テーブルにブーツの足を投げ出して座っている、Tシャツの大柄な男だった。胸板が分厚く、二の腕が上着の裾を押し上げている。短く刈り上げた髪の下で、眉間のあたりが不愉快そうに歪んでいた。


「お?なんだお前、ガンつけてんのか?」


カウンター席の中年男性が、びくりと肩を揺らして視線を逸らした。彼にブルーノの英語は通じていない。それでも、向けられた声の温度だけは、はっきりと伝わっていた。


「い、いえ、別に……。」


「あぁ?」


ブルーノが、テーブルに投げ出していた足を下ろして、半ば立ち上がりかけた。


「俺の顔になんか文句あんのか?あぁ?」


「す、すみません、本当に何も……。」


中年男性は、震える手でグラスを置いて、財布から札を抜こうとし始めていた。


「おい、やめろ。」


低く、短い声がした。


円卓の中央、もたれかかるように椅子に座っていた男だった。葉巻を口の端にくわえている。革のジャケット、無精ひげ。骨太の手で、葉巻の灰をテーブル上の灰皿にとんと落とす。


「ジェイク、なんだよ、ボスぶんなって。」


「目立つのはやめろと言っているんだ。暴れたいなら一人で、よそで、やるんだな。」


「うるせぇな、ビジネスなだけで、俺はあんたの下についたつもりはねぇよ。」


ジェイクは葉巻を一度口から離し、それから低く、静かに言った。


「ビジネス中だから、やめろっつってんだ。座れ。」


ブルーノが舌打ちをした。テーブルを軽く蹴って、ソファに体を投げ戻す。


「ちっ。」


中年男性が、その隙にそそくさとバーから出ていった。出入り口近くのスーツ姿の3人組も、視線を合わせないようにしながら、すうっと出ていく。残ったのは、カウンターの中の店員と、そして渦中の6人だけになった。


リサが出ていった客の背中を眺めながら、口の端をつり上げた。


「やぁだ、お客さん、逃げちゃった。」


「お前のせいだろ。」


ぼそりと、毒のある声が割り込んだ。サングラスをかけた細身の男――カイルだった。サングラスのレンズの奥は、店の薄暗さでは何も読み取れない。


「カイル、あんたが暗いから客が逃げたのよ。」


「お前は態度だけじゃなくて頭も悪い。娼婦にでもなったらどうだ。」


「殺すわよ。」


リサがカイルの腿を蹴る。カイルは表情を変えずに、煙草を口に運んだ。


ジェイクが、葉巻をくゆらせたまま、テーブルの中央に視線を落とした。

そこには、何枚かの紙が広げられていた。地形図、写真、英語と日本語の混じった注意書き。

一番上には、ある場所のドローン撮影のような俯瞰写真が乗っている。


「話を戻すぞ。」


ジェイクは写真の一枚を指でとんと叩く。


「依頼の話だ。ターゲットは、通称裏山ダンジョン。ここ日本で最近急に話題になったダンジョンだ。」


ブルーノが、ソファの肘掛けに頬杖をついて、面倒そうに目を細めた。


「シンプルだろ。あいつらの依頼通り、デカいトカゲの首を持って帰る。それだけだ。」


「トカゲってあんたねぇ、映像みたの?鯨みたいのと暴れてたでしょ。」


「見掛け倒しだろ。」


カイルが、ぼそりと言った。


「報酬は?」


「成功報酬で1人100万ドルだとよ。」


リサが、爪を眺めながら、薄い笑みを浮かべた。


「ふぅん、命を懸けさせておいて、ずいぶん足元見られたものね。まぁ、日本までの旅費も宿泊費も全部あいつら持ちでしょ?帰りに男でも漁って帰ろうかしら。」


続けてジェイクが、紙の束の中から一枚のプロフィールカードのようなものを抜き出して、円卓の中央に置いた。そこには、若い男の顔写真が刷られていた。鋭い目、整った顔立ち、下に漢字とローマ字の名前。


「今回の成功率を上げるために、日本のある攻略者を目立たせる。」


KAZAMI HAYATO.


「カザミ……ハヤト?知らないねぇ、ボクのような一等星とは程遠いようだ。」


マーカスが首を傾げて、写真を覗き込んだ。


「日本のAランクだ。」


ジェイクの説明は短い。リサが補足する。


「最年少Aランクパーティ『烈風』のリーダー。日本国内の若者人気はぶっちぎり。」


「へぇ?でもAランクだろ?雑魚じゃねえか。」


ブルーノが半身を起こして、テーブルに顔を近づけた。


「で、こいつをどうすんだ?」


「目立たせる。それだけ。」


「目立たせる?」


「あぁ。表舞台に引っ張り出す。」


「……何だそれ。」


ブルーノが、ぱちぱちと瞬きをした。脳の処理が追いついていない、というのが、傍目にも分かる顔だった。

リサが、深いため息をついた。


「これだから脳筋は。日本のあの裏山ダンジョン、最近めちゃくちゃ目立ってんでしょ?マスターが顔出しして、挙句に、竜が掲示板で煽り投稿までしてる。」


「今回のターゲットだろ?で?」


「こんだけ目立ってる場所に、アタシたちが堂々と乗り込んだら、目立つでしょ?」


「あー、そりゃそうだ。」


「目立つと、邪魔が入るのよ。日本の協会とか、メディアとか、面倒な連中がいっぱい。」


「あー、なるほど。」


「だから、こっちに視線を集めないように、別のところに視線を逃がす。それが、こいつ――風見隼人。」


リサが、写真を指でとんと叩いた。


「こいつが今回の表のチャレンジャーってわけ。あいつらが言うには、あの竜に因縁があるんだってさ。その隙に、アタシたちはしれっと奇襲して、竜の首だけ持って帰る。それで、終わり。」


「あー、なるほど、なるほど!頭いいな!」


ブルーノが手を叩いた。


「で?」


リサが、皮肉気に笑ってジェイクを見た。


「ジェイク、あんた、その竜と本当に殺り合えると思ってんの?」


ジェイクはくゆらせた煙を見ながら言う。


「対策は十分にする。それは、あの鯨も同じだ。」


カイルが、煙草を指で挟んだまま、ぼそりと言った。


「過剰戦力でしょ。これだけのSランクを集めるなんて、あいつらどうかしてる。」


マーカスが、髪をかき上げる。


「Aランクパーティの何倍ものドル箱仕事を、ボクらは捌いてきた。ジャイアントの始末も、ハーフェズ大瀑布の悪魔も、フェニックス湖の女王も。竜なんて、過去に何匹も挽肉にしてきた。」


「楽勝ってことね。」


リサが頷いた。


「楽勝楽勝!」


ブルーノが手を叩いた。


「で、その竜のいるダンジョンってのは、どんなとこなんだ?」


「マジで田舎。」


カイルが、ぼそりと言った。


「東京から電車で結構かかる。コンビニしかない、田舎。」


「は?」


「ダンジョンの中は温泉街らしい。」


「マスターがね、変なことしてんのよ。」


リサが、爪を眺めながら笑った。


「攻略者を殺さない。利用料を取る。観光地化してんのよ、ダンジョンを。」


「頭おかしいんじゃねぇか。」


マーカスは写真を覗き込みながら、不快感をあらわにする。


「ボクは、納得いかないなぁ。」


「何が?」


「ダンジョンを観光地化。それはつまり、ダンジョンの本来の姿を汚してるってことだ。ダンジョンは、攻略者の鍛錬の場であり、絶望の場であり、栄光の場だ。あってはならない。」


マーカスが、髪をかき上げる。


「ダンジョンマスターは、攻略者の敵であるべきなんだ。倒すべき絶対悪、それでこそ、攻略者の物語は美しい。まずはあの竜を殺して、マスターの心を折る。」


「マーカス、貴方、急にいいこと言うじゃない。」


リサが、感心するふりをして拍手した。


「美学は、人生のすべてさ。」


ブルーノが、両手の拳を握り締めて、肩を震わせた。


「最近、おとなしくしすぎてっからさぁ、ストレス溜まってんだよ、俺。竜の首、引きちぎってやりてえ。」


「マスターは、誰がやるんだ?」


「あいつらから、マスターはほっとけと厳命されてる。」


「ふぅん。まぁいいんじゃない?楽で金がもらえるなら、アタシは何だっていいわ。」


リサが、ふっと笑って、グラスの中身を一口飲んだ。それから、ふと、視線を斜めに動かした。

円卓の端、フードを目深に被ったまま、ストローを指先でゆっくりと回している人物の方に。


「ねぇ。」


リサが、わざと甘ったるい声を出した。


「あんたも、そう思うでしょ?」


フードの人物は反応しない。


「ねぇってば。聞いてる?」


リサが、爪で円卓をかつかつと叩いた。


「アタシ、無視されんの嫌いなのよね。あんた、何しに来たの?てか喋れる?」


返事はない。

リサが、長いため息をついた。それから、グラスをテーブルに置いて、頬杖をついた。


「……はぁ。」


リサが、フードのやつを横目で睨んだ。


「ちっ、気味の悪いやつね。」


返事はない。


「ねぇ、ジェイク。あれ、本当に連れてかなきゃダメ?」


「上の指示だ。」


「だから、それは聞いた。何のためにって話。」


「監視か、保険か、何かだ。」


「貴方も知らないの?」


「知らない。」


「最悪。」



5人が、それぞれの動きで、立ち上がる準備を始めた。マーカスは髪を直し、リサはコートを羽織り、ブルーノは伸びをして、カイルは煙草を消した。

ジェイクが、最後に伝える。


「決行は1週間後、まずは風見と接触する。」


各々が適当に返事をし、バーを後にする。


――――

貯金残高:9,650,000円 / ダンジョン蓄積魔力:6,130

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治/神社)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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