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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第78話 神社

鏑木さんと島田さんが来てから、3週間ほど経った。

朝、塔最上階のリビングの窓を開けると、ひんやりした空気が室内に流れ込んでくる。


「ご主人、おはようっす~。」


「おはよう。今朝もキッチン使ってたのか?」


「自信作っすよ~。自分、このままだといいお嫁さんになっちゃうっす!」


「自分で言うやつは初めて見たよ。」


ハヤテがエプロンを脱ぎながら配膳の最後を整える。テーブルには湯気の立つ味噌汁と焼き魚、炊きたての白飯に漬物まで並んでいた。最近のハヤテの和朝食シリーズである。食卓に揃ったのは、ユキ、シノ、リンドヴルム、メフィス、それに俺。


「いただきます。」


味噌汁を一口。温い。出汁がしっかり効いていて、落ち着く仕上がりだ。


「美味しいです、ハヤテ。」


ユキの素直な反応に、ハヤテが照れたように頬を緩めた。


「えへへ、島田さんに出汁の引き方教えてもらったっすよ。」


「お、もう交流あるのか。」


「最近、毎日厨房に顔出してるっす。」


シノが箸の手を止めずに、横から口を挟んだ。


「あの子、今や厨房の女王様って感じだよね~。」


「コムギも可愛がってもらってるしな。」


「そうそう。あれは良いコンビだよ。」


リンドヴルムが、向かいで魚の身をゆっくりと解しながら、小さく頷いた。


「この前、火山のほうを見に行くついでに食堂に寄ったのじゃが。」


「うん?」


「鱗をくれと言われたのじゃ。」


「鱗?食べるつもりか?」


「揚げると言っておった。尻尾も見つめておった。食欲を向けられるのは初めてじゃ。」


「おいおい……。」


島田さんは精力的にダンジョン内を回って素材の研究を進めているらしい。最初の面接の時のあの興奮ぶりを思い出すと、納得しかない。



「君、最近はだいぶ潤ってきたね~。」


「ダンジョンに来る人も、金を落とす場所も増えたからな。」


「鏑木さんの工房も忙しいみたい。武具メンテだけで一日20件近く。でも、別で雇った子たちもよく働いてるし、本人も充実してるみたい。」


「鏑木さんも島田さんも、元々経験者だからな。ありがたいよ。」


「その分初期投資もかかったけどね~。ここ3週間で出ていったのが、寮の建設で蓄積魔力ちょっと、工房と食堂の追加設備で200万くらい、給料が頭2人と手足4人の3週分でだいたい400万、食材買取の運転資金が100万強、ポーション補充がいつも通りで……。」


シノが指を折って数える。


「合計で、900万くらいかな?」


「投資した甲斐があったな。」


「だね~。」



ハヤテが、皿を流しに運びながら、後ろから振ってきた。


「ご主人、最近、平和すぎるくらい平和っすね~。」


「だな。」


「ちょっと張り合いないっすよ、自分。」


「そうか?」


リンドヴルムが、目を細めて茶を含んだ。


「同感じゃ。骨のある奴が来ぬ。攻略者どもも、20層を抜けたものすらおらんではないか。」


「ユキ基準の中級者向けが、なかなかの難易度みたいだな。まぁ、いいんじゃないか?」


「無事にお過ごしいただけることが、何よりです。」


「そうだな。」



「あ、そうそう。」


シノがマウスを操作して、PCの画面をこちらに少しだけ見せてきた。


「最近、こんな書き込みも増えててね。」


ダンジョンボードの一スレッドが映っていた。目に入った範囲ではこんな感じだ。


『マスターの顔出しって、今思うと舐めプじゃない?』

『リンドヴルム、煽ってきたくせに誰が来ても出てこないんだろ』


「おー。」


「煽られてるね。」


「煽られとるな。」



俺はざっと画面を眺めて、肩をすくめた。顔出しの代償として、こういう声がついてくるのは想定の範囲内だ。リンドヴルムの煽り投稿の件も、そもそもの発端があれだから言われても仕方ない。むしろ、この程度の温度なら可愛いものだ。


「一応モニターはしとくよ。煽り返したくなったら言ってね。」


「火に油注ぎそうだから、頼まないでおく。」


「残念。」


茶を飲みながら、ふと、シノの方に目をやった。リンドヴルムもユキも召喚した頃に比べると全快と言っていいほど力を取り戻している。

ただ、シノだけは召喚した時から変わらないように見えていた。


「……シノ。」


「ん?」


「ちょっと、聞いていいか?」


「なに、改まって。」


「あぁ、いや、シノって九本の尾が本来の姿なんだよな?中々回復しないのが気になってさ。」


シノの3本の尻尾は、召喚されてからずっと3本のままだ。


「あー、それね。」


シノが湯飲みをテーブルに置いた。


「うちはね、ちょっと事情が違うのよ。」


「事情?」


「君、九尾の力の源泉って何だと思う?」


「魔力じゃないのか?」


「外れ。うちの力の源になっているのはね、信仰。うちは忘れ去られたって話、したっけ?」


「あぁ、確か聞いた気がする。」


「そう。うちは、もともと祀られて、祈られて、そういう形で力を蓄えてきた存在だからね。だから、いくらここで魔力を浴びても、時間が経っても、それが力につながることはないんだよね~。」


「……あー、そういう仕組みなのか。」


「だから、ここに来てからも、3本のままなのよ。」


シノは特別残念そうな顔もせず、いつもの飄々とした口調で言った。

リンドヴルムが視線を上げた。


「信仰か。存外侮れぬものじゃ。」


「リンドヴルムさんも祀られてたんすか?」


「わらわの場合は、どちらかというと鎮める対象じゃったの。」


「流石っすね~。」


俺はシノに向き直った。


「……じゃあ、シノを祀ればいいのか?」


「へ?」


「いや、温泉街に神社でも建ててさ、各エリアに祠も置いて、祀ればいいんじゃないのか?」


シノがゆっくりと瞬きした。琥珀色の瞳が、見開かれている。


「……君、本気で言ってる?」


「本気だよ。」


「待って待って。」


「俺も日本人だから、温泉街に神社があるなんて風情があっていいと思うんだよなぁ。」


「それでうちがその神社の御神体って?ちょっと、いや、結構、申し訳ないっていうか。」


シノが珍しく言葉を選んでいる。


「お互い遠慮なんて今更する必要ないと俺は思ってるよ。シノの気持ちだけ、知りたいんだ。シノは、どうなんだ?戻りたくないのか?」


シノが3本の尾を抱えるように撫でる。すぐには答えなかった。

ユキが膝の上に手を揃えたまま、静かに口を開いた。


「シノさん、ご主人様のお考えに、私も賛成です。」


「ユキちゃんまで……。」


「シノ。」


「うん?」


「これは、俺のわがままでもあるんだ。」


「君の?」


「シノを呼んだのは俺だ。なのに、本来の力を取り戻せてないシノに俺は頼り続けている。俺は、シノに何も返せてない。」


「……君、本当にずるいよね。」


「え?」


「そんな言い方されたら、断れないじゃん。」


ふっと笑って、肩から力を抜いた。


「分かった。お言葉に甘えるよ。」


「よし、じゃあ、早速。」


「あ、待って。」


「ん?」


「うちが、もっときれいになっても、知らないからね?」



俺は湯飲みを置いて、立ち上がった。


「もう?せっかちだね~。」


「思い立ったが吉日だ。」


「君、こういう時は行動が早いよね。」


軽口を返しながら、シノも立ち上がった。



転移陣で、温泉街の入口まで一気に降りる。光がふっと収まると、湿った石畳の感触がブーツの底に伝わって、ぐっと一段下界に戻されたような感覚があった。


温泉街は、思っていたより人通りが多い。湯気が誰かの足元から立ち上がって、提灯の淡い光と混じり合う。

鏑木さんの工房の前では若手の職人2人が金属を打つ音を響かせていて、向かいの食堂からは島田さんの「いらっしゃいませー!」の声が漏れている。

湯治帰りらしいパーティーが、肩のこわばりを解しながら、缶ビール片手に石畳の縁に座っていた。シノが、隣でひとつ伸びをした。


歩いている間、すれ違う攻略者がちらちらとこっちを見てくる。顔出ししてしまった以上、温泉街で堂々と歩けば気付かれる。


「あれ、マスターじゃね?」

「マジで?実物、初めて見た……!」

「隣、配信に映ってたお姉さんだよな?実物綺麗すぎ……。」



「うちら、いま結構目立ってない?」


「だな、でも、自分のダンジョンでこそこそするのも変な話だし、まあいいか。」


「腕でも組んじゃう?」


シノがにやにやしながら聞いてくるが、遠慮させてもらう。100%からかわれている。

軽口を叩きながら、湯治と食堂の間の空き地まで歩いた。提灯の列の下、石畳が少し広く取られている一角。


「神社、ここはどうかな?」


「悪くないね。それなりに人通りもあって、中心地からは離れてるから静かで良い。」


「だな。」


俺は目を閉じて、ダンジョンの輪郭に意識を沈める。木の鳥居、短い参道、手水舎、奥に社殿。檜の色、石灯籠、絵馬掛け。


「神社、生成。」


地面が一段沈み、そこから木組みが立ち上がる。鳥居が太い柱を伸ばし、参道の石が一枚ずつ並んでいく。社殿が屋根を持ち上げて、棟瓦に湯気が薄く絡んだ。最後に絵馬掛けの白木が現れて、すべてが止まる。


通りすがりの攻略者が、目を見開いて立ち止まった。


「え、こんなとこに神社あったっけ?」


「いや、いま生えたぞ!」


「ここは相変わらずめちゃくちゃだな、もう慣れたけど。」


ざわめきが広がっていく。気にせず、シノと顔を見合わせて笑った。

シノが鳥居をくぐって、参道に立った。


「どう?似合う?」


「馴染みすぎて怖いくらい、ほんとに神様みたいだ。」


「これでもホントに半分くらい神様なんだからね!も~。」



次は祠だ。シノを連れて、森エリアの入口に転移する。


森の朝は薄日が木々の間から差し込んで、湿った苔と土の匂いがした。案内板の脇、攻略者が腰を落ち着けるための切り株が並んでいる空き地に立つ。


「ここでいいかな?」


「うん、入る前に手を合わせやすそう。」


「祠、配置。」


簡素な木の祠が土の上に組み上がる。屋根の角度を森の枝振りに馴染ませて、鈴の紐を一本垂らす。


火山エリアでは、岩肌の窪みに祠を埋め込む形で置いた。熱気の通り道から少し外して、参拝者が膝をつけられる平場を残す。


海洋エリアでは、浜辺の入口の岩棚の上に。塩を含んだ風が祠の周りをゆっくりと巡って、リヴァイアサンの念話が頭の奥に短く返ってきた。


「おや、祠ですか。どなたを祀るのでしょう。」


「うちだよ~。」


「祠はよいですね、祈りと、癒しと。海にぴったりです。」


リヴァイアサンはそれきり念話を切り上げ、遠くで水しぶきが上がった。


バベルの塔の1層、平原の小高い丘の上にも、最後の一つを置いた。空が広く、祠の白木が遠くからでも目立つ位置になった。


そのほかにも、広いダンジョンの中を散策し、シノが「ここがいい」と頷くまで場所を決めて、それぞれ置いていく。



最後の祠を置き終えて、シノが俺の隣で長く息を吐いた。


「ふ~終わり!」


「効きそうか?」


「参拝してくれる人が増えれば、着実にね。……ねぇ、君。」


シノが俺の方に向き直って、深く頭を下げた。


「ありがとう。」


いつもの軽さがない声だった。


「いいんだよ、これくらい。」


「これくらい、じゃないけどね。」


シノが顔を上げて、いつもの笑い方に戻った。琥珀色の尾が、ふわりと一度だけ揺れた。


「九尾になったうちは凄いよ~?楽しみにしててよね。」


「ああ。これからも頼むな。」



転移陣で、塔最上階のリビングに戻った。


「神を増やすか。お主も、なかなか良い趣味じゃな。」


「俺の趣味ってわけじゃないけどな。」


シノの尾は3本のまま。けれど、その3本が、いつもより少しだけ落ち着いた間隔で、ゆらりと宙に浮いていた。


――――

貯金残高:8,950,000円 / ダンジョン蓄積魔力:5,780

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治/神社★New!)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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