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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第75話 ワイン

ひかりを家まで送り届けて、塔の最上階に戻ってきた。リビングはもう静かで、シノもユキもハヤテも、各自の部屋に引き上げた後らしい。


俺も自分の部屋に向かおうとしたところで、尻尾がすっと視界を横切った。


「お主、ちょっと来るのじゃ。」


リンドヴルムが廊下の先に立っていた。用件も言わずに背を向けて歩き始めるので、仕方なくついていく。


リンドヴルムの部屋に入るのは、改装してから2回目だった。暖炉の火が揺れていて、絨毯の手触りが足裏に柔らかい。革張りのソファ、重厚な書棚、その横にワインセラー。ローテーブルの上に、クリスタルのグラスが2つ並んでいた。


「前にわらわの頼みでわいんを買ってきたじゃろう。アレを飲む。付き合え。」


「え、今から?」


「今からじゃ。」


ワインセラーの扉を開ける。中には赤と白のワインがぎっしり詰まっていた。結構な量を適当にまとめ買いしてきた結果である。


猫又がリンドヴルムの膝の上で丸まっていたが、リンドヴルムがワインの瓶を取り出して栓を引っ張り始めたあたりで、耳がぴくりと動いた。2本の尻尾が落ち着きなく揺れる。それから、ぽん、と小さな音を立てて消えた。


……珍しいな。



リンドヴルムは栓を引っ張り出すのをあきらめたのか、瓶の首を掴んで親指でコルクを押し込んだ。ぼこん、と間抜けな音がして、コルクが瓶の中に沈む。


「……いや、それ中に落ちてるけど。」


「問題ない。」


グラスに赤い液体が注がれる。

リンドヴルムがグラスを持ち上げ、1口。


紫の瞳が少し見開かれた。


「……悪くない。前の世界で飲んだものはもっと質素な味わいじゃったが、これはいけるの。」


「そりゃよかった。」


俺もグラスに口をつけた。渋い。コンビニワインにしては悪くないが、まぁ、安物だ。


1本目が空になるのは早かった。リンドヴルムはグラスを傾けるペースが明らかに水を飲む感覚で、あっという間に2本目のコルクを親指で沈めた。


「ペースはやくないか。」


「竜は頑丈じゃ。」


2本目も赤だった。リンドヴルムの頬がうっすらと色づき始めている。



3本目に突入したあたりから、様子が変わった。


「お主。」


「なんだ。」


「わらわの群れに入れ。」


「……は?」


「群れじゃ。わらわの群れに入れと言っておる。お主はわらわの群れの一員じゃ。あの猫と3人で群れじゃ。」


いきなり何を言い出すんだこいつは。


「いや、群れとか言われても。」


「返事は『はい』か『わかりました』の2択じゃ。」


選択肢がない。俺がどう返すか考えている間に、リンドヴルムの尻尾がするりと俺の腰に巻きついた。鱗の感触がシャツ越しに伝わる。かと思うと、ギチギチと締め上げ始めた。


「いででででで。痛いって!」


これでも俺はかなりのステータスだ。普通の人間なら半分にちぎれてるぞ。


「わらわはの。」


「うん?」


「わらわはの、若い頃に山を3つ越えて武者修行をしたことがある。」


「おい、なんの話だ。」


「いや、4つじゃったかもしれん。」


「どっちだよ。」


「そう、5つ山を越えたんじゃ。その先にの、巨大な砂漠があっての。砂漠の民が暮らしておった。わらわが降り立ったら全員逃げたがの、1人だけ立ち向かってきた勇敢な奴がおっての。」


駄目だ、完全に酔っ払いだ。とりあえず話を合わせて助けを呼ぼう。


「そ、それで?」


「蹴散らした。」


「なんの話なんだ!」


「わらわは竜じゃからの。」


ワインをぐいっと呷る。グラスの底の赤い液がすっと消えた。


「強さの順番をつけるぞ。」


「は?」


「まずわらわ。」


「うん。」


「次にわらわ。」


「待て。」


「3番目もわらわじゃ。」


「全部自分じゃねえか。」


「ユキとリヴァイアサンは4番目以降じゃな。」


「リヴァイアサンには言うなよ。」


リンドヴルムは得意げに鼻を鳴らした。頬がだいぶ赤い。



「赤は戦の色じゃ。飽きた。白を開ける。」


白を一口飲んで、リンドヴルムの眉間にしわが寄った。


「……白は降伏の色じゃ。気に入らん。赤に戻せ。」


「さっき全部空にしただろ。」


「なぜ在庫を切らした。」


「お前が飲んだんだよ。」


リンドヴルムは不満げに唇を尖らせたが、結局白をぐびぐびと飲み始めた。降伏の色でも飲むらしい。


暖炉の火を眺めていたリンドヴルムが、不意に目を細めた。


「ぬるいの。わらわのブレスの方が美しい。」


「は?」


口を開けた。喉の奥で紫の光がちらついた。


「やめろ!」


左手でリンドヴルムの顎を押さえた。全力だ。


「部屋ごと吹き飛ぶだろうが!」


「ちっ。」


舌打ちされた。



「攻略者とか言ったの。お主は何ランクじゃ。」


「Cだな。」


「低い!」


身体に巻き付いた尻尾をぐんぐんと揺すられる。


「わらわの群れの最低基準に達しておらん!」


「基準!?」


「今作った。」


「作るな。」


リンドヴルムはぷいっとそっぽを向いた。


「あの猫。」


「猫又のことか?」


「なぜ2本尻尾がある。ずるいのう。わらわは1本じゃぞ。」


「いや、種族の問題だろそれは。」


「数が多い方が偉いのか。ならばあの九尾は相当偉いことになるの。」


「そういう話じゃないと思うぞ。」


リンドヴルムは納得していない顔でワインを飲んだ。


「あの鯨に言っておけ。わらわの海域に入るなと。」


「リンドヴルムの海域じゃないだろ。」


「入ったことがある。それはわらわの海域じゃ。」



駄目だ、この竜、酒乱だったんだ。早く切り上げないと。



不意に、リンドヴルムが俺のスマホに手を伸ばした。ソファの肘掛けに置いていたそれを、するりと取り上げる。


「おい。」


「ちょっと借りるぞ。」


リンドヴルムは普段から情報端末やスマホを触っている。難なく操作はできる。

何をしているのか覗き込もうとしたが、尻尾で腰を締められて動けない。


「……返せ。」


「もう遅い。」


スマホの画面がこちらに向けられた。ダンジョンボードのアプリが開いている。公式アカウントから、投稿が1件。


『妾はリンドヴルム! 強者を待つ!』


投稿済み。


「何やってんだ!」


深夜のダンジョンボードが一瞬で荒れる未来が見えた。


「この、離せ、それを消せ。」


「消さん。」


あの公式アカウントからの投稿だ。深夜とはいえ、目に留まる人間は多いだろう。明日の朝にはそこそこ騒ぎになっているかもしれない。


「ほんとに喧嘩売られたら自分で何とかしろよな……。」


「ふふ、楽しみじゃのう。」



それからしばらく、リンドヴルムは断片的に脈絡のないことを喋り、何本目かもわからなくなった頃、急に静かになった。


「……リンドヴルム?」


返事がない。


次の瞬間、激しく揺さぶられたかと思うとソファに押し倒された。

リンドヴルムの頭が、俺の腹の上に乗った。紫がかった長い髪が広がる。重い。さらに角が脇腹に当たって滅茶苦茶痛い。


「いででで……!」


それきり、リンドヴルムは動かなくなった。

寝やがった。しかも酒臭い。


そこで、騒ぎを聞きつけたのか、半開きの扉の外、メフィスと目が合った。


「っ!メフィス!助けてくれ!」


「あっ、あっ、あっ……。」


「メフィーーース!」


野郎、逃げやがった。

……朝まで、このままか。


覚悟を決めて目を閉じた。



翌朝。


シノの声で目が覚めた。


「あっら~。」


目を開けると、シノがリンドヴルムの部屋の入口に立っていた。手にスマホを持っている。


俺はソファの上で仰向けのまま、リンドヴルムに上から押さえつけられた状態だった。リンドヴルムはまだ眠っている。髪は乱れ、片方の角がソファの隙間に引っかかっていて、口が半開きだ。左手はワインの瓶、右手は俺の服を掴んだまま。尻尾だけは依然として俺の腰に巻きついている。


控えめに言って、ひどい寝姿だった。


シノのスマホのシャッター音が鳴った。


「おい。」


「犯人はこの方、っと。」


「待て、何して……。」


「ダンジョンボード。」


昨夜のリンドヴルムの投稿に対する返信として、寝姿の写真が貼り付けられた。「昨夜の犯人はこの方」のキャプション付きで。

『妾はリンドヴルム! 強者を待つ!』の犯人が世間に公開された。


「助けてくれ。」


「やだ~。」


シノは満面の笑みで部屋を出ていった。


後から確認したところ、ダンジョンボードはそこそこ盛り上がっていた。深夜の投稿には「公式、乗っ取られた?」「これって竜の人だっけ?」「あんなのとケンカできるわけ無いだろ!」等のコメントが付いていて、シノの写真投稿後は「これは酒だな」「犯人草」「寝姿ちょっとかわいいんだが」「いや美人すぎて二度見した」等で別方向に盛り上がっていた。一部の男性コメントに至っては、乱れた寝姿に妙な熱量の反応が寄せられている。


……もうどうにでもなれ。


リンドヴルムが身じろぎした。うっすらと目を開けて、俺の顔を見上げる。


「…………ぬ。」


「おはよう。」


「…………頭が、割れそうじゃ。」


竜でも二日酔いになるらしい。


リンドヴルムはしばらく動かなかったが、やがてのそりと体を起こし、乱れた髪を左手で掻き上げた。昨夜の記憶があるのかないのか、何も言わずにワインの空き瓶を眺めている。結構な数が転がっていた。


「……水、持ってくるよ。」


尻尾がようやく腰から離れた。立ち上がると、背中がバキバキに固まっていた。


当初は威厳のある竜だったのに、段々化けの皮が剥がれてきてる。

根は自由気ままなやんちゃ竜じゃねえか。


禁酒を言い渡さなければ。


――――

貯金残高:7,125,000円 / ダンジョン蓄積魔力:942

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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