表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/81

第73話 バベル配信 Part2

side:ひかり


階段を上がっていく。岩肌の冷たさが踏み込むたびに足の裏から伝わってくる。最後の一段を踏み切った瞬間、視界が一段と白く霞んだ。


「うわっ、これ……霧、すごい。」


つま先がぐにゅっと沈む。湿地だ。片足を踏み込むたびに、ぬぷ、と地面に持っていかれる。視界はせいぜい5メートルあるかないか。


「皆さん、この層は霧で見えにくいかもしれません。映像が悪かったらごめんなさい。」


耳を澄ませる。霧の中、自分の踏むぬかるみの音と、もう一つ――ぼた、ぼた、と重い水滴の音。それから、ゲコ、と低く太い鳴き声。

ぞわ、と背筋を何かが這い上がった。直後、霧の奥から細い影が、ひゅっと伸びてきた。


「うわっ!?」


身体を反射的に低く落とす。頬の真横を、空気を裂いてピンクの長い舌が通り過ぎていった。掠めた頬が、じわっと熱を持つ。指先で触れると、しゅわ、と小さな音がした。


「あつっ、これ酸ですか!?」


『ジャイアントトードや!』


舌が引っ込んで、霧の奥に消える。気配だけが、ぬぼ、と動いて場所を変えた。見えない。

息を整えた。耳を、できるだけ澄ます。泥が跳ねる音、風切り音……。


来る。


舌が伸びてきた瞬間、私は左手の剣を逆手に持ち直して、舌の中ほどを地面に縫い止めるように深く突き刺した。湿った地面に、ずぶ、と刃が深く沈み込む。カエルがびく、と反応するのが伝わった。地面が緩い分、長くは持たないが、十分だ。


「捕まえました!」


舌のラインがぴんと張る。引こうとする力に逆らって、舌の張力でカエル自身が前のめりにずり、ずり、と霧の向こうから引き寄せられてくる。重い体が泥に擦れる音。

『お、止めた!』

『反射神経すごいな。』


霧の中、真っ直ぐ伸びた舌のラインだけを目印に、カエルの元へ。舌に気を取られているカエルの懐へ、滑り込むように。


「いきますっ!」


残った右の剣を逆手に持ち替えて、低い姿勢のまま、顎の下――喉元へ向かって、下から上へ突き上げる。刃が湿った皮を貫いて、奥まで届く感触。そのまま勢いで反対側へ駆け抜ける。数歩走って、足を止めて、振り向きざまに低い構えで残心。


カエルが、どさり、と崩れ落ちた。


『やるなぁ。』

『虫はダメなのに、カエルは平気なん?』


「え?カエルは可愛いですよね、つるんとしてて!モンスターは、危ないから倒しちゃいますけど。」


ふぅ、と一度息を整える。けれど、安心するには早かった。霧の奥から、ゲコ、ゲコ、と別の鳴き声が、いくつも重なって聞こえてくる。


「……まだまだいますね。」


『マジか。』

『これ見えないから厄介だよなー。』


舌に頼ってばかりじゃ、いずれ通じない相手も出てくる。それに、霧で見えないのは、こっちだけじゃないはずだ。

さっきから、立ち止まっている間は攻撃が来ない。


音……?


足元を見回すと、半分泥に埋まった岩が転がっていた。大きく振りかぶって、左の短剣の柄で叩きつける。

火花が散り大きな音がする。手も多少しびれたが、少し離れた場所で慌てたような、ばちゃばちゃと泥が跳ねる音がした。


「そこですね!」


音の元へ駆けつけると、半分目を回したカエルがのたうち回っていた。


「ごめんねっ!」


素早くとどめを刺す。


『なかなかの脳筋だ……。』

『ひかりちゃん、けっこう思い切りがいいよねww』


けれど、霧の奥にはまだ複数の鳴き声が散らばっている。一体ずつ釣るのは効率が悪い上に、視界が悪いので5層への階段も把握できていない。


湿地の縁に、枝の多い高木が一本、霧の薄いところに辛うじて見えた。あれなら登れる。


樹皮を蹴って、一気に駆け上がる。3メートル、5メートル、霧が薄くなる。視界がぱっと開けた。


階段は、あそこか。

更に進路上にカエルと思しきシルエットがいくつか。


「見えました、5層への階段!一気に駆け抜けます!」


階段までの直線、カエルの位置を頭に置いた。あとは、最短距離で。


霧の中を疾走する。足場が悪い。踏み込みを深くしすぎないように、なるべく足全体が着地するように意識して走る。


最初の1体は、右脇から駆け抜けざまに首を斬る。返す双剣で、次の1体の背を、上から斜めに薙ぐ。3体目は舌を伸ばしてきたところを、側面に払いのけて懐に飛び込み、喉を突いた。最後の1体は、こちらの足音に姿勢を立て直そうとしたが間に合わなかった。横っ腹に、深く一刀。


『うっそだろ。』

『はやくCランク受けようね。』

『協会の人見てる~??』


階段の手前で、ふっ、と足を止めた。霧の中、自分の踏むぬかるみの音以外、もう何も聞こえない。


「ふぅ。」


息を整えていたら、頭の片隅に、ふわっ、と、温かい光が灯るような感覚があった。


「……あ。」


何かの響きが、すっと、頭の中に染み込んでくる。スキル【気配察知】Lv.1、【悪路走破】Lv.1。


「皆さん、私、スキル芽生えました……!しかも2つも!」


『すげー!』

『はえー、こんな感じなんや。』

『俺もバベル行きてえ、はやくオープンしてくれ!』


私は、5層への階段に、足をかけた。



次の階段を上がりきると、足の裏に水気がじわっと染みてきた。足首まで埋まる泥沼。空はどんよりと曇っている。その沼の中央に、こんもりと盛り上がった泥の小山があった。


その小山が、ゆっくりと立ち上がる。


「……お、大きい……。」


身長3メートル超の大型の亜人。泥が体表を伝って、ぼた、ぼた、と滴り続けている。腕は太く、片手に丸太のような棍棒を握っていた。授業で習ったことがある。マッドオーガだ。新人が返り討ちにあうケースも報告されている、強力なモンスター。


『でけぇ。』

『初級の半分でこの相手かよ……。』

『中ボスか?』


オーガが、ぐおお、と低く吼えて、棍棒を振り上げた。動きは大きい。けれど、一撃の重さは見るからに桁違い。


「受けるのは無理ですよね……!」


身体を斜めに走らせて、最初の振り下ろしを避ける。地面が、ずぅん、と陥没する。泥と水しぶきが顔にかかった。

避けたまま、横っ腹へ滑り込んで一閃。確かに刃は通った。けれど――斬った傷の縁に、じわ、と泥が寄ってきて、見ている前で塞がってしまう。


「修復……!」


オーガは痛みを感じた素振りもなく、棍棒を立て直した。今度は逆袈裟。地面の泥を巻き上げながら、肩口を狙って振り下ろされてくる。


「うっ、っ……!」


身体を捻って躱す。風圧に耳が痺れた。すれ違いざまに、相手の肩へ、もう一閃。肉を裂く感触はある。けれど、その傷からもまた泥がゆっくりと寄っていった。


「これ、効いてない……?」


オーガが棍棒を握り直した。一歩、こちらへ踏み出してくる。私は大きく後ろへ跳んで、間合いを切った。

息を整えながら観察する。浅い斬り傷は、もう跡形もない。けれど、最初に入れた横っ腹の傷は、まだ完全には塞がりきっていなかった。


「……傷の深さで、塞がる速さが違う、ってことですよね。」


『ひかりちゃん、手数タイプだよね。』

『どうする!?』


「……ある。前に遥さんがやってたアレだ……。」


前に遥さんとダンジョンに行ったとき、堅い相手に使っていた技を思い出していた。


棍棒が二度目の振り下ろし。今度は横払い。地を擦るような軌道。それを飛んで躱す。風圧で髪が舞った。

横払いの振り抜きには、戻りの一拍がある。


振り払いの後、態勢が整っていないマッドオーガのもとへ跳ぶ。

首元へ短剣を突き刺す。


『それじゃダメだ!』

『やっぱり威力が……。』


空中。オーガの肩を足場にして一回転。


「ここ!」


同時に、腰を思いっきり捻る。捻った勢いを軸足から肩、腰、踵へと一直線に通す。突き刺さったままの右の剣の柄頭へ、回し蹴り。


衝撃で剣が首の内側へさらに深く押し込まれる。蹴り抜けた勢いで、私はそのまま横っ飛びに離脱する。

オーガは、立ったまま硬直している。それから、首の傷から、どぷ、と泥が噴き出した。内側から押し出されるようにあふれ出ている。


膝が地面に落ち、続いて巨体そのものが、ぐらり、と泥沼の中央に倒れ込んで、輪郭がゆっくりと霧散していった。

息を整えた。剣を拾って鞘に納める。


「よし!」


『は?』

『思った以上に脳筋で草』

『滅茶苦茶強いやん。』


ふぅ、と長く息を吐いた。それからドローンに向かって、ぺこり、と頭を下げる。


「やりました!中々強力なモンスターでしたね。さて、私の攻略お披露目はここまでにさせていただきます。6層から先は、ぜひ皆さんの目で確かめてみてくださいね!」


『もう終わりか~あっという間だった!』

『手に汗握った。攻略者って大変なんだな。』


「あ、それと、一つお知らせです。」


姿勢を直して、続ける。


「裏山ダンジョンでは現在、料理人と鍛冶師の方を募集しています。それぞれボスとなる方が1人ずつ、それから従業員の方を何名か。詳しくはダンジョンボードの公式アカウントから、応募フォームへどうぞ。」


『募集ぅ!?』

『ダンジョンに就職する世界線。』

『中々エキセントリックだけど、このダンジョンは今更か。もともと変だしww』


「明日、いよいよバベルの塔、一般オープンです。皆さんのレベルやパーティ構成に合わせて、ぜひ挑んでみてくださいね。それでは、本日はありがとうございました!」


ぺこり、ともう一度頭を下げた。


――――

貯金残高:6,525,000円 / ダンジョン蓄積魔力:642

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン(祖鯨)


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ