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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第72話 バベル配信 Part1

塔最上階のリビング。大型モニタに映っているのは、海風に揺れる椰子の影と、簡素な木造の建屋。浜辺に建てた共鳴施設だ。

シノが配信卓の前で、長い髪の片側を耳に掛けたままノートPCを叩いていた。


「施設のコンシェルさんたちも待機OKっと。」


モニタの中で、海風に栗色のショートボブを揺らしながら、ひかりが共鳴施設の入り口に立った。背中に双剣、腰に小ぶりなポーチ。その隣に、ひかりを中心に距離を保つドローンが浮かんでいる。


「あ、こちらの音、聞こえてますか?」

「聞こえてるよー。バッチリ。」


シノがマイクのスイッチを入れて応える。これは配信には乗らない、内部回線。


「よかったぁ。じゃあ、始めますね。」


ひかりが胸の前で軽く拳を握って、自分を一度落ち着かせる仕草。それから顔を上げて、ドローンのレンズに視線を合わせた。


「みなさん、こんにちは!裏山ダンジョン公認Dtuberの、空月ひかりです!」


その瞬間、シノのモニタの脇で視聴者数のカウンタがぐん、と跳ね上がる。


「Dランクの新人攻略者で、得意な武器は双剣です!今日はバベルの塔のオープン前に、皆さんに先行で攻略の様子をお届けしますね。新人の私がどこまで進めるのか――よければ、最後まで見ていってください!」


ぺこり、と頭を下げる。コメント欄が一気に流れ出した。


『おお、ついにキタ!』

『Dランクってマジ?若いのにやるな。』

『可愛い……。』


「ありがとうございます。その前に、皆さんにご説明しておきたい仕組みがあって。」


ひかりがドローンに向き直って、施設の入り口を片手で示す。


「私の後ろにあるのが、共鳴施設です。バベルの塔は、ここからしか挑戦できません。」


施設についてや使い方は、事前にひかりと打合せ済みだ。


『共鳴施設?』

『なにそれ?』


「皆さん、共鳴石ってご存じですか?攻略者の魂だけを身体から切り離して、ダンジョン内を探索できる、特別なアイテムなんです。身体は寝台に横たえたまま、魂がアバターになって塔の中で攻略する仕組みで――万一やられても、石が魂を引き戻してくれます。寝台の身体は無傷で起きられる。1人1日1回までです!」


『なんやそれ。』

『SFかな?』

『じゃあ初心者も気軽に挑めるってこと?』

『ヤバすぎ!』

『裏山ダンジョン、また仕組みがおかしい。』


「塔で手に入れたアイテムは、なんと持ち帰ることが出来るんです!」


『そんなんアリか!?』

『至れり尽くせりすぎる。』

『協会、これどういう顔して見てんだろうな。』


「では、お邪魔します。」


ひかりが施設の中へ入っていく。木の床、入り口の脇では手のひらサイズのキツネ型の思念体が会釈で迎えていた。コンシェルさんだ。


『出たなキツネ野郎。』

『コンシェルさん!』


ひかりが寝台の横で、コンシェルさんから一片の水晶を受け取った。表面が薄く脈打つように光っている。


「これが共鳴石です。寝台は内鍵付きの個室なので安心してくださいね!」


ひかりが寝台に身体を横たえて、両手で共鳴石を胸の前に握り目を閉じる。



――――



side:ひかり


次に目を開けたときには、景色が変わっていた。


明るい平原。

足元はやわらかな草、頭上は青い空。風がさらさらと丘の向こうから吹いてくる。塔の中なのに、空が広い。


「うわぁ……綺麗。皆さん、見えてますか?気持ちのいい平原です!」


『塔のはずやろ……?』

『これダンジョン内なん?』


ぷるん、と前方の草陰でスライムが3体、跳ねた。続いてゴブリンが2体、棍棒を担いで丘の上から駆け下りてくる。


「あ、来ましたね。1層は皆さんもよくご存じの相手みたいです。簡単なダンジョンの浅層で見かけますよね。」


すらっ、と双剣を抜いた。右手を順手、左手を逆手に。


「いきます!」


地を蹴る。スライムの間を縫うように駆け抜けて、すれ違いざまにコアを撫で切りにする。3つが同時に弾けて、霧のように溶けた。

続いてゴブリン2体、大ぶりの棍棒を半身で躱し、喉を掻っ切る。

息を整えて、双剣を払った。


「うん、久々ですけど、良い感じです!」


『はや。』

『もはや散歩じゃん。』

『これでDランク?』

『やるやん!』


「えへへ、照れちゃいますね。ありがとうございます!」


『天使かな?』

『アカン、好きになってまう!』


「1層は初心者が動きを覚えるのにぴったりですね。」


その後は草原の空気を楽しみながらコメント欄と雑談したり、

1層のモンスターで軽く肩慣らしをした後、順調に2層への上り階段を発見した。



2層は森だった。

頭上は枝葉に覆われて、地面はじっとりと湿っている。下生えがざわり、と揺れて、私の足首にぬるりとした感触が触れた。


「えっ。」


見下ろした先で、長さ50センチほどの芋虫が、私のブーツに這い登ろうとしていた。


「ひぇっ、ちょ、イヤーーーー!」


『うわ、でっか!』

『キモ過ぎる……。』

『涙目で草』

『芋虫はキツい、わかる。』



脚をぶんぶん振って芋虫を吹き飛ばした。

慌ててステップを刻んで距離を取る。同時に上から、ひゅるるっ、と細い糸が飛んできた。木の上にもいる。糸は私の双剣の刃に絡みついて、ぐん、と引っ張られる感覚。


「うっ、結構パワーありますね……!」


『おっ、こういう感じか。』

『うわーいやなエリアだな……。』


「離せ、この……っ!」


糸を断とうとして剣を引く。意外と切れない。だったら――糸の先の本体を叩く!

近場の木を蹴り上げ、頭上の蜘蛛に向かって剣を振る。柔らかい感触、飛び散る緑の体液……。


「うっ、ううっ……。いやぁ。」


『泣きながら殲滅してる……。』

『これはキツイ。』


地面の何匹かは、視界の隅に映った瞬間に剣を走らせて片付ける。直視はしない。これは生きていくための知恵だ。

その後はそれはもう逃げるように、全力で森を疾走した。



「はぁ、はぁ、2層、クリア、です……っ。」


『よく頑張った。』

『めっちゃ早くて草』

『どんだけ嫌だったんだよ。』


3層への階段を上がると、足元の感触が硬く乾いた岩肌に変わった。

岩の入り組んだ通路。奥から、低い唸りが幾つも重なって響いてくる。続いて、爪が岩を引っ掻く音。

半人半犬の魔物、粗末な槍を持っている個体もいる。


「これは、コボルトですかね?結構いそうです……。」


胸の奥で、昔の自分が小さく身を縮めるのを感じた。群れにはちょっとしたトラウマがある。

囲まれて足が竦んで、何もできなかったあの感覚。視界の半分が敵で埋まる、あの息苦しさ。


でも、もう大丈夫。


「いきますっ。」


通路の最初の一群が槍を構え、一斉に踏み込んでくる。整列した動きじゃない。


「先手、もらいます!」


私は床を蹴って、低い姿勢で一気に距離を詰めた。先頭の3体を横一文字に薙ぎ払う。コボルトの耐久力はそこまで高くない。

続けて壁を蹴ってターン、後列の槍が突き出される瞬間に脇をすり抜けて、回り込みながら突きを放った。


『Dランクってこんな強いの?』

『いや、ぶっちゃけ上澄みだと思う。』

『カッコよすぎる!』


奥に、一回り大きい個体がいた。首から赤い布を巻いている。あれが、群れの指揮役か。


「潰します!」


地を蹴って、最短距離。指揮官の口が開きかけたところで、間に合った。順手の右で喉、逆手の左で胸。ひと呼吸で2刀を叩き込む。

崩れ落ちる前に身体を捻って、後続の3体に切り返す。指揮官を失った群れは、もう揃って動けない。最後の数体は、通路の角に追い込んで一気に崩した。


「よし!」


剣を払って、鞘に納めながら、私は小さく笑った。


『TUEEEEEEEE』

『新人とは?』

『お疲れ様!』


「ありがとうございます。少しだけ、休憩させてくださいね……。」


岩肌の通路に腰を下ろして、ふぅ、と長く息を吐く。額の汗を手の甲で拭う。

奥に、4層への階段が見えた。湿った空気が下りてきていて、足元に薄い霧が漂い始めている。


「皆さん、見えますか?次は、4層――なんだか霧っぽいのが流れてきてますね。」


立ち上がって、双剣の柄を確かめるように軽く握り直した。深呼吸を一つ。


「では――行きます!」


『気を付けてね!』


階段の先、白い霧の向こうへ。


――――

貯金残高:6,325,000円 / ダンジョン蓄積魔力:542

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)/ メフィス(契約の悪魔)/ リヴァイアサン(祖鯨)


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治)→ 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――


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