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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第67話 歴史の目撃者

ひかりが、カメラを構え直した。


「えー……次は、食堂エリアと、森エリアの、間です。ここに、二つ目のエリアを作ります。……ただ、今回は、ちょっと、特別らしくて。」


ひかりが、カメラを後ろに――食堂の扉の方へ、ぐるりと振った。それから、その先の宿泊エリア、工房エリア、物資補給エリアの方へ、道案内のように、カメラを舐めさせていく。


「入口から、ここまでの、通路。ここが、全部、変わるそうです。」


『え?』

『全部?』

『どゆこと?』

『何がどうなるの?』


「よし、いくぞ。」


「はい。」


俺はもう一度、目を閉じる。ダンジョンの輪郭を、今度は広く開く。入口から今立っているここまでの、長い長い通路。その両脇のエリアの外壁、天井。その全部の輪郭を、これから、書き換える。


「湯治エリア、生成。」


ずぅん――と、さっきよりもずっと重たい音が、足の裏から、体の芯まで響いた。


最初に変化が走ったのは、目の前の空白だった。ふわりと、硫黄の香りを含んだ湯気が立ち上る。それが、通路の天井に触れ――触れた先から、天井そのものが、溶けて消えた。


「えっ、え……?」


ひかりがカメラを、ゆっくりと上に向ける。


消えた天井の先に広がっていたのは、夜空だった。深い藍色の空に、無数の星が散っている。月も、少し欠けた形で、ぽつんと浮かんでいる。


天井の消失は、そこで止まらなかった。湯気が道をなぞって、奥へ奥へと流れていく。湯気が通った場所の天井が、順繰りに溶けていく。食堂の屋根。その先の宿泊エリアの天井。さらに奥の工房。最後に、入口の物資補給エリアまで。俺たちが通ってきた全ての場所の「天井」が、ゆっくりと、夜空に変わっていった。


足元にも、変化が訪れる。通路の石畳が、ほんの少しだけ磨り減った古いものへ置き換わっていく。旅情のある、湿った石の道。その脇には、浅い側溝が掘られて、湯が、ちょろちょろと流れ始めた。


両脇の石壁は、木造の梁と、白壁と、瓦屋根を持った古い湯屋造りの町並みへと形を変えていく。軒先から、暖色の提灯が垂れ下がった。ぽっ、ぽっ、と、順番に、灯が入る。湯屋ののれんが、風もないのに、ふわりと一度だけ揺れた。


湯治のエリアからは、幾つもの岩風呂と、木造の渡り廊下が立ち上がり、その隙間から、途切れない湯気が街路に流れ出す。湯気と、提灯の灯りが混じり合って、道がほんのりと白く発光しているように見える。


シノが手を上に向け、その掌から生まれたコンシェルさんが、持ち場に向かって無数に走り出していった。


「あ――」


ひかりが、カメラを構えた姿勢のまま、固まった。口を半開きにして、足を一歩、踏み出して、振り返る。


「……みなさん、見てください……。すごい……!」


カメラが、ひかりの視線を追って、ゆっくりと石畳の道を、遠くまで舐めていく。提灯が点々と灯る道の、ずっと先に、食堂ののれん。そのもう少し奥に、宿の入口の軒灯り。さらに奥に、工房のアーチ。道の両脇には、湯治から流れ出した湯が、細い溝を走って、かすかに白く光っている。


「ほう。」


リンドヴルムが鼻を鳴らして、迷いもせず一番手前の岩風呂に歩み寄った。袖をまくって、湯に指先を浸す。


「ふむ――なかなか、よい湯じゃ。戦の後に浸かるには、これ以上のものはあるまい。」


『は?』

『空……どこ行った』

『天井が消えた』

『外と繋がった?』

『いや、これダンジョンの中だよな!?』

『街になってるんだが』

『まんま、温泉街』

『提灯!提灯あるやん!』

『湯気に灯りが溶けてる……』

『景色がエグい』

『旅行番組はじまったw』

『石畳の質感やばい』

『角の姉さん即レビュー入ってて草』

『もう山じゃないだろこれ』

『聖地巡礼する』

『泊まりに行く』


「……これで裏山ダンジョンは、物資補給、工房、宿泊、食堂、湯治エリアがすべて、繋がりました。」



「さて、ここから先は、場所を大きく飛ばさせてもらう。」


目配せをすると、ユキが静かに右手を挙げた。足元に、銀色の転移陣が、ふわりと浮かび上がる。


「みなさん、場所を移動します!これから向かうのは――ダンジョンの、一番奥です。」


ひかりが機材を抱え直して、カメラを回したまま、俺たちに続いた。

転移陣の光に包まれて、視界が切り替わる。


次に目を開けたとき、足の下には乾いた砂利と、砂があった。

ここは、火山・大空洞エリアの最奥。そのさらに先に、今から新しい空間を開く。


「海洋エリア、生成。」


ずん、と空気が震えた。

壁が崩れたわけではない。むしろ、空間の境界が、穏やかに押し広げられる感覚だ。俺たちの目の前で、巨大な洞穴の奥が、ゆっくりと開いていった。そして、その先に広がっていたのは――


「海……。」


ひかりの声が、微かに震えた。


眼前に広がったのは、どこまでも続くような水平線。浅瀬の波が白く寄せては返し、さらに沖では深い藍色の水面が月の光を受けて揺れている。塩の匂いと、湿った風。波の音が反響して、ゆったりと耳の奥に届く。


「これ……ダンジョンの中、ですか……?」


「そうだ。海、作ってみた。」


我ながら、口から出たコメントが軽すぎる気がする。だが他にどう言えばいいか分からなかった。


『は?』

『海ぇぇぇえええ』

『おい、裏山、山捨てたぞ』

『山ダンジョンなのに海作るの意味わからん』

『いやもう裏山じゃないだろ』

『マスター、やりすぎでしょ』

『ひかりちゃんの顔がすごいことになってるw』

『水中モンスター出るってこと?』


ひかりは口を半開きにして、言葉を探している。


「仕上げだ。」


俺は海の沖合に視線を向けた。そこにはまだ何もない、あるのは月明かりと波だけだ。

意識の最後の一塊を、そこに預ける。

沖合の水面が盛り上がり、そこから石造りの巨大な基部が立ち上がった。一層、また一層、積み上がっていく。10層、20層、30層、40層。上へ、上へ、雲を貫く高さまで。


最上階が雲の中に隠れる頃、ようやく塔の生成が止まった。

ひかりは、もう、言葉が出ていなかった。ただカメラを空に向けて、ゆっくりと首を傾けて、塔の全体を捉えようとしている。


『は?』

『なにこれ』

『なんだこれは』

『塔ぁ?!』

『高すぎだろ』

『上が見えない』

『海から生えてる塔、バベルじゃん』

『バベルかよwww』

『視聴者数20万超えた』

『マジで絶句してる』

『もう理解が追い付かねぇよ』


バベルか。


確かに、言われてみれば、そんな雰囲気はある。


「ああ――じゃあ、名前はバベルでいいか。」


ついでに決めてしまった。ひかりがカメラ越しに俺の方を振り向いた。


「えっ、本当ですか!?」


「バベルの塔。分かりやすくていいじゃないか。」


『おい』

『そんな雑に命名すんなw』

『適当でいいのかよ』

『視聴者のコメントで決まる名前』

『ダンジョンマスターが民主主義すぎる』

『まあ、似合ってるけど』


「――みなさん、以上が、今夜の裏山ダンジョン、大型アップデートの全容です。工房エリア、湯治エリア、海洋エリア、そして、バベルの塔。明日からは、これらのエリアも順次開放されていきますが、バベルの塔だけは7日後オープンとなります。」


「俺からも。彼女、空月ひかりを"裏山ダンジョン公認Dtuber"に任命する。みんなも応援してやってくれ。あと、工房エリアは、運用開始まで少し時間がかかるかもしれない。まぁ、長い目で見てくれ。」


「これから、この裏山ダンジョンの日々のこと、新しいエリアのこと、そこで過ごす方々のことを、いち攻略者の目線でみなさんにお届けしてまいります。」


ひかりが一度、カメラに、ぺこり、と頭を下げた。


「――そして、次回配信のお知らせです。空月ひかりが、さっそくバベルの塔の攻略に、挑ませていただきます!ぜひ見てくさいね!」


『7日後の一般オープンまで焦らされる』

『お披露目&攻略デモってなんだ、気になりすぎ』

『通知オンにしたわ』

『デモ配信、待機するぞ』

『絶対見る!』


「配信日は改めて告知します、お楽しみに!」


もう一度、ぺこり、と、頭を下げて。


「それでは、本日はありがとうございました。」

カメラが止まった。配信終了のマークが、モニタの端でぽつんと灯った。


ダンジョンボードの裏山ダンジョンスレを開く。


『裏山ダンジョン、バケモンだった件』

『マスター出てきたぞ、見たか?』

『やべー明日、絶対行く』

『予約戦争始まるぞ、急げ』

『チャンネル登録した』

『ひかりちゃん可愛すぎた』

『俺は今、歴史の目撃者なのでは』

『公認ちゃんの初仕事が塔アタック、漢気あるな』


シノが振り返って、にっこりと笑った。


「君、これでもう完全に隠せないよ。」


「ああ、覚悟の上だ。」


ひかりもようやく緊張が解けたのか、その場にしゃがみ込んでしまった。


「ひかり、大丈夫か?」


「はい、最後の方は私もノリノリでした。えへへ。」


足に力が入らないのか、立てないまま、ひかりが、それでも真っ直ぐ俺の目を見て答えた。


「それに、こんなにわくわくして、凄いことを一緒に出来るなんて、これで恩返しになるのかなって思っちゃうくらいです。」


「ひかり。」


「はい?」


「ひかりなら大丈夫だよ。今時珍しいくらい、まっすぐで、明るくて。視聴者もすぐにひかりの魅力に気付くよ。だから、俺はひかりに任せたい。」


瞬間、ひかりの顔がみるみる赤くなった。


「あ、あうあう、あわわ……。」


ちょっと恥ずかしいこと言ったかな。本音だからいいか。


――――

貯金残高:13,440,000円 / ダンジョン蓄積魔力:8

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)


【ダンジョン構成】

入口 → 温泉街エリア(補給/工房/宿泊/食堂/湯治)★New! → 森エリア / 火山・大空洞エリア / 海洋エリア&バベルの塔 ★New! → 居住エリア(塔最上階)→ コアの小部屋

――――

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