表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/70

第66話 初配信

翌日の夜。


居住エリアのリビングには、俺、ひかり、眷属たち全員が集まっていた。

ひかりが小型の撮影機材をテーブルの端に据え付けて、何度もアングルを確認している。ノートを脇に置いて、付箋が何枚も貼られた台本らしきものを手に唇を動かしている。本番直前の緊張だ。


「ご主人、ちょっとここに座るっす~。」


ハヤテに腕を引っ張られて、俺はリビングの真ん中に誘導された。そこには見覚えのない、やたらと背もたれの高い椅子が置かれている。木彫りの装飾が施された、古城の謁見の間にでも置いてありそうな代物だ。


「なんだこれ。」


「わらわが持ってきた。」


背後から腕を組んだリンドヴルムが、何食わぬ顔で答える。


「ダンジョンマスターを名乗るのじゃ。それなりの座に腰掛けておくべきじゃろう。」


「とりあえず何のツッコミから入ればいいのか分からん。」


言われるがままに腰を下ろすと、椅子の背もたれが俺の頭よりも高い位置まで伸びている。完全に玉座だった。


「はい、ご主人、これっす。」


ハヤテがガサガサと布袋を漁り始めて、中から金属光沢のある何かを取り出した。


「自分の部屋から、キラキラしたやつ、沢山持ってきたっす~。ご主人、首にかけてほしいっす!」


「いや、いらないだろこれ。」


制止の声も虚しく、ジャラッと音を立てて首に掛けられたのは、よく分からない金属のプレートが連なった首飾りのような何かである。さらに手首に腕輪のような光り物も巻きつけられていく。


「光り物は多い方が偉そうっす!」


「待て、何で偉そうにしなきゃいけないんだ?」


「ふっ……くっ……。」


シノが顔を背けて肩を震わせている。


「……ふふ、ごめんごめん、とっても似合ってると……ふっ……思うよっ。」


「シノ、頼むから笑わないで助けてくれ。」


シノは袖口で口元を押さえて、明後日の方向を向いて噴き出した。全く頼りにならない。

そして視線を横にずらすと、ユキが姿勢正しく立っていて、静かに頷いた。


「ご主人様、とても立派でございます。」


「ユキ、お前もか。」


「?」


もう一切のフォローは期待できそうにない。諦めて姿勢を正す。


膝の上には、いつの間にか猫又が寝そべっている。灰色がかった白い毛並みが、玉座の上で完全に安らぎの形に丸まっている。猫からしてみれば、誰が座っていようが玉座は玉座である。試しに撫でてみると、富豪がデカいペットを飼うアレみたいになった。


「はいっ。」


足元から小さな声がして、コムギが焼きたてのパンを籠ごと差し出してきた。身長30センチの土精が、見上げる角度で両手にパンを乗せているので、その絵面だけでもう十分におかしい。


「……コムギ、ありがとな。いただくよ。」


「パン。」


コムギは満足げに籠をテーブルに置いて、また足元にちょこんと座った。


「遥さん、そろそろ準備OKです。き、緊張しますね。」


ひかりが機材のチェックを終えて、こちらに振り向いた。


「おう、もっと力抜いていいぞ、俺はもう諦めた。」


「配信はこっちで開始するわ。」


昨日俺が適当に買ってきたプロジェクタを使って、壁に配信を映す。

モニタの左半分に配信画面、右半分にコメント欄。一番下に視聴者数のカウンター。


配信先はこの国で最大手の動画プラットフォームだ。料理動画からゲーム実況、旅行記まで何でも流れる、要はどこの国にでもある一般向けの動画サイトである。その中の一ジャンルに『Dtuber』――攻略者が自分の攻略や日常を動画にして発信する、この時代に生まれた新しい職業が根付いていて、上位層は専業でそれなりに食えているらしい。ひかりがこれから立つのは、そのど真ん中だ。


「はい、それじゃひかりちゃん、お願いね。」


そう言って、シノはすうっと玉座の左隣に並んだ。画面の中央に、にこやかに微笑む狐耳の美女の姿がしっかり収まっている。

ひかりが大きく息を吸い込んで、吐いた。それから機材に向き直って、ぴっと背筋を伸ばした。


「――みなさん、こんばんは。新人攻略者の、空月ひかりです。」


視聴者数のカウンターは4桁に入るのが画面の端で見えた。おそらく裏山ダンジョンの名前に釣られてきた層だろう。


「今夜は、特別な配信をお届けします。ここは、裏山ダンジョンの最深部。ダンジョンマスターの居住エリアです。」


コメントが流れ始める。最初はぽつぽつと、それから雪崩を打ったように。


『は?』

『ダンジョンマスター?』

『最深部ってどういうこと』

『今、裏山の中から配信してるってこと?』


「今日、みなさんにお伝えすることが、たくさんあります。まずは――ご紹介させてください。」


ひかりが半歩横に退いて、カメラが玉座に座った俺を捉えた。


「裏山ダンジョンのダンジョンマスター、鷹峰遥さんです。」


視聴者数のカウンターが、ひとつ桁を跳ねた。


「……えー、どうも。鷹峰遥だ。このダンジョンのマスターをやってる。」


絶対に滑稽な恰好になっているに違いない。とりあえず、光り物を巻いたままの左手を軽く上げて会釈しておいた。


「背後にいるのが、俺の眷属だ。」


ユキが両手を身体の前で揃えたまま姿勢よく頭を下げた。リンドヴルムは腕を組んだまま鷹揚に頷く。シノは俺の肩の横で、片手を小さく振ってみせた。ハヤテは翼をぴんと張って「これがハイシン?っすか?映ってるっすか?」と元気よく手を振っている。シノが隣から「映ってるよ、ばっちり」と返した。


コメント欄が、処理落ちを起こしそうな勢いで流れ始めた。


『ちょっと待って』

『白銀の髪の子、めっちゃ綺麗』

『本物のエルフ……?』

『紫の髪のお姉さん、なんか角生えてない?』

『羽生えてる子もいる!』

『あれ、この子、たまに森エリアで交通整備してなかったっけ』

『狐耳のお姉さんは誰!?』

『美女しかおらんやんw』

『マスター、なんやその格好』

『なんでそんなピカピカしてんねんw』

『中二病みたいな首飾りしてない?』

『なんか目死んでねw』

『成金か?』

『ハーレム確定でワロタ、羨ましすぎる』

『いや、待て、なんか普通の人やんか』

『え、マスターってこんなんなの?』


「……ハヤテ。」


「なんすか?」


「これ、取ってもいいかな。」


「駄目っす!」


即却下された。ハヤテが後ろで「ご主人、似合ってるっすよ!」と親指を立てている。誰か助けてほしい。

コメントの流れは止まる気配がない。仕方ないので、椅子に深くもたれて覚悟を決めた。ここで俺がまごまごしていても、何も始まらない。


「ということで、今日はみんなに発表することがある。」


カメラを正面から見据えた。


「裏山ダンジョンは、今夜、4つのエリアを一気に新設する。――今日はそれを、中から見てもらう。」

一瞬、コメントが止まった。それから、ぶわっと、文字が滝のように流れ始めた。


『は?』

『新設ってなに』

『ダンジョンって増やせるの!?』

『初めて聞いたんだが』

『待って、ダンジョンって元からある形で固定じゃないの?』

『俺今まで何を攻略してたんだ』

『そもそもマスターが中から見せるとか前例なくない?』

『ダンジョンマスターってこんな風に出てくるもんなの?』

『顔出し初じゃね?』

『協会のお偉いさん、今頃どんな顔してんの』

『学校で習った話と違うやんけ』

『これ歴史的瞬間では?』

『ドッキリじゃね』


「じゃ、始めようか。」


俺は椅子の肘掛けに手を置いて、立ち上がった。光り物が体の上でじゃらりと音を立てる。猫又が名残惜しそうに膝から降りて、ぽんと消えた。

居住エリアの転移陣を使って全員で宿泊エリア付近まで飛び、エリアの手前の通路で、俺は足を止めた。


そこには、何もない。ただ、石壁が続いているだけの、空白の一角。このあたりが昨日シノの幻覚で確認した、工房予定地だ。

今回は建設だけでなく、補給エリア・宿泊エリアを巻き込んだ大改革になる。

ひかりがカメラを両手で構え直した。


「えー……ただ今、物資補給エリアと、宿泊エリアの、間に来ています。ご覧の通り、今は何もない、ただの通路です。ここに、これから、新しいエリアが生まれる、とのことです。」


ひかりが一度、俺の方にカメラを向け直した。コメントは各自のスマホから、時折拾うくらいでいいだろう。


『現地きた』

『ひかりちゃん実況モード』

『本当に何もない通路やん』

『ここに?本当に?』

『ここ知ってる、てか泊ったことあるぞ!』


「遥さん、お願いします。」


「ああ。」


俺は空白の壁に向き直り、目を閉じた。意識をダンジョンの輪郭に沈めていく。コアの位置、既存のエリアの繋がり方、まだ空白になっている場所。頭の中に、ダンジョン全体の形がぼうっと浮かび上がる。


「工房エリア、展開。」


体の奥で、蓄積魔力がごっそりと削り取られていく感覚があった。同時に、目の前の石壁が、ふわりと向こうへ押し退けられた。床が一段沈み、新しいアーチ状の入り口が立ち上がる。アーチの奥から、熱を孕んだ空気と、鉄と油の匂いが漏れ出してきた。

ひかりが、カメラを壁の変化に食い入るように追いかけた。


「あ、あ、壁が……床が……!」


アーチの奥に、石造りの広い作業場が姿を現す。中央には大きな金床と炉。壁には工具が整然と並び、奥には鍛冶用の水場と素材の保管棚が見える。

ひかりがゆっくりと中に一歩踏み込んで、カメラを金床、炉、工具棚と、順番に舐めさせていった。


「工房、です……本当に、工房、ができました……!さっきまで、ただの通路だったのに……!」


コメント欄が炎のような勢いで流れていく。


『は!?今の何』

『空間が生えた』

『ほんとに増築したぞ』

『工房!?ダンジョン内に工房!?』

『攻略中に武具整備できるってこと?』

『もうここで完結するやつじゃん』

『協会「」』

『ひかりちゃんわたわたしてて可愛い』

『解説が天使』


ひかりが頬を赤くして、なんとか平静を装おうとしている。


「つ、次、行きましょう!皆さん、ついてきてください!」


ひかりがカメラを構え直して、小走りで先導を始めた。照れ隠しだな。


次の予定地は、食堂エリアから森エリアへ抜ける手前の通路。食堂の扉を潜り、パンを焼いていたコムギが小さく頭を下げてくるのを、視線で返しながら抜けていく。そして、森の入口の手前の通路で、もう一度、足を止めた。


ここも、まだ何もない空白地帯。だが、今回は、この空白に「エリアを作る」だけでは終わらない。


――――

貯金残高:33,440,000円 / ダンジョン蓄積魔力:1,275

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)


【ダンジョン構成】

入口 → 物資補給エリア → 工房エリア(管理:コンシェルさん&ダンジョン機能)★New! → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:シノの式神「コンシェルさん」&猫又)→ 食堂エリア(管理:コムギ)→ 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ