第65話 Dtuber
「じゃあ、塔の中、続き詰めよっか。」
シノが指を振ると、立体投影の塔が薄く輪切りにスライスされた。断面図が層ごとに並ぶ。40層、縦にずらりと積み重なった姿だ。
シノが塔の断面をとんとん、と指先で叩いた。
「40層分の中身、こうしない?」
塔の断面が4色に塗り分けられた。1~10層、11~20層、21~30層、31~40層の4帯に、それぞれ異なる色がついている。
「1から10層はハヤテちゃん担当。初級者向けの対モンスター。11から20層はユキちゃん担当。中級者向け。21から30層はうち担当。中級者向けに、モンスターとトラップを組み合わせる応用編ね。31から40層はリンドヴルムちゃん担当。思いっきり上級者向けにしちゃってよ。」
リンドヴルムの瞳が面白そうに細まる。
「歯ごたえのある層にしてやろう。今回は殺すつもりで考えてよいのじゃな?」
「ああ、容赦なくやってくれ。塔は共鳴石で魂だけの挑戦、死んでも肉体に戻るだけだ。死の緊張感ごと設計に入れてほしい。」
「うむ、承知した。」
ユキが静かに頷いた。
「私は中堅攻略者に手応えを感じさせつつ、挫折はさせない塩梅で組み上げます。」
「じ、自分も10層っすか!?大丈夫っすかね~……。」
ハヤテが少し慌てた顔をしている。
「気軽に作って大丈夫だぞ。ハヤテの担当は、初心者の心が折れないくらいに、絞ってやる感じだな。」
「うーん、やってみるっす!ご主人、分からなかったら相談に乗ってほしいっす~。」
「おう、いつでも聞いてくれ。」
「環境はこんな感じで、仮決めしてるよ。」
シノが4帯それぞれに情報を流し込んだ。
「1から10層は、平地・森・湿地。11から20層は、凍土・密林・霧。21から30層は、砂漠・毒沼・幻影回廊。31から40層は、重力強化・無重力・水中・空中。この枠内で各担当が自由に組み合わせて。で、モンスターの配置方法は、ダンジョンの通常機能に任せちゃっていいと思うの。」
シノが情報端末を軽く叩いた。
「ねぇ、君、モンスターって確か勝手にリポップするんだよね?」
「ああ、確か翠嶺洞のつむぎがそう言ってた。」
久々にあいつの所に顔を出してもいいかもしれないな。と、思考がそれた。
「……あ、なるほどです。便利ですね。」
ひかりがうんうんと頷いて書き取った。
「トラップも同じよね。カタログに載ってる床穴・矢・毒霧・幻惑・小規模召喚。これを各層にぱらぱら撒く。うちの担当帯は特に、モンスターとトラップの合わせ技で引っかけてやるわ。」
シノの尾がひとしなり揺れた。悪戯心が乗っている。
「――で、コストの話ね。ここは、ダンジョン防衛の基本的な機能だからか、思ったより割安だったわ。」
シノが塔の断面を指で軽く叩いた。
「塔本体の基礎分800に、40層化の拡張差分で267。計1,067。各担当に渡す予算は、こんな感じね。」
立体投影の横に4つの数字が並んだ。
「ハヤテちゃん、1から10層、100万円。初級者向け、1層あたり10万円が目安。」
「おー太っ腹っす!」
「ユキちゃん、11から20層、200万円。中級者向け、1層あたり20万円が目安。」
「承知いたしました。」
「うち、21から30層、400万円。中級者向け、1層あたり40万円が目安。トラップ設計含む。」
「最後にリンドヴルムちゃん、31から40層、800万円。上級者向け、1層あたり80万円が目安。」
「ふむ。」
リンドヴルムが尻尾の先で椅子の脚を軽く叩いた。中々ご機嫌のようだ。
「わ、わりやす……。」
ひかりが眼を白黒させているが、慣れてもらうしかないな。
「合計1,500万円。各帯の中で、モンスターの種類・密度・トラップの配置、全部担当の裁量に任せる。――こんな感じでいいかな?」
「ああ、オーケーだ。俺が全部やるより、こっちの方が面白そうだし、みんなの色が出ていいと思う。」
それから、ノートをぱらぱらと見返して、ひかりが「あ、あの……」と小さく口を開いた挙手した。
「ずっと、引っかかってたことがあって。」
「おお、教えてくれ。」
「塔って、魂の状態で入って死んでも戻るだけで、素材も現物化して、経験も積めて……って、凄く便利じゃないですか?」
「ああ、めちゃくちゃ便利だな。」
「森エリアと火山エリアって、皆使うのかなって……思っちゃいました。」
ひかりが申し訳なさそうに、ちらちらと眷属たちの顔色を伺ったが、いい指摘だと思う。
「ひかりちゃん、良いとこ突くね。でも、塔には1日1回制限って致命的なボトルネックがある。」
「あ……そっか。」
「1回使い切ったら、その日はもう入れない。でも攻略者は、1日の訓練を1回で終わらせたいわけじゃない。むしろ何時間も動きたい。」
シノが片目を閉じた。
「塔の1回を使い切った後の鍛錬場として、むしろ塔と組み合わせることで価値が上がるのよ。」
「あ、なるほどです。塔の残りの時間を、森と火山で埋める、って感じ、ですか?」
「というよりは、森と火山で沢山鍛えてから、塔に挑戦してほしいわね。」
「なるほどです!」
「あとは、塔が40層になると、毎回1層から挑戦するのは不毛よね。ユキちゃん、何とかできないかな?」
「なるほど。転移陣の応用で可能かと思います。塔の各層に転移陣を設置して、共鳴石に反応させるようにしましょう。」
「じゃあ、無くさない様に注意喚起しないとだな。」
設計詰めはそれから小一時間ほどかかった。
「よし、あらかたまとまったな。総コストの最終確認だ。シノ、ざっくりまとめてくれるか?」
「はいはい。」
シノが立体投影の横に、数字をずらりと並べた。
「全部で2,300万円ってところかしらね。今ある魔力を全部使って、1,300万円くらい残るかしら。」
ひかりが「に、にせんさんびゃく……」と小さく唱えて顔を引き攣らせた。気持ちは分かる。だが、これは投資だ。
「俺も正直ちょっと胃が痛いけど、ダンジョンのお披露目にふさわしいな……。派手に行こう。」
「そうね。でも、段取りも要るし、建設は明日かな。」
シノが情報端末に指を走らせた。宿泊エリアの予約一覧が壁面モニタに映る。
「今夜、宿泊客が4組いるわ。明日だけ宿泊はお断りして、夜にやりましょうか。」
「そうだな。」
リビングが少し落ち着いたあと、俺はひかりに声を掛けた。
「ひかり、ちょっと相談がある。」
「相談ですか?」
「昨日、ダンジョン運営を手伝ってほしい、って言ったろ?」
「はい、覚えてます。」
「具体的に頼みたい役があるんだ。それを伝えておこうかと思って。」
「はい!私、何でもやりますよ!」
ひかりはふんすと気合を入れてやる気満々だ。
「ひかりに、Dtuberをやってほしい。」
「Dtuber、ですか?」
「攻略の映像や攻略者の生活を撮って、動画サイトで発信してるあれだ。知ってるか?」
「もちろんです!学校でもみんな見てますよ。」
「お、じゃあ話は早いな。それをひかりにやってほしい。一般攻略者の目線で、裏山ダンジョンを紹介する役。初心者が入ったら何が見えるか、森と火山の攻略感はどうか、温泉でどう寛ぐか、塔に魂だけで挑むのがどんな体験か。中にいる人間として、外に向けて発信してほしい。」
「……わ、わたしがですか……!?」
「もちろん、最初は俺たちがダンジョンを宣伝するから、その後裏山ダンジョン公認Dtuberとして、ダンジョン内部を紹介してほしい。」
「私で大丈夫でしょうか……?」
「ひかりは攻略者として伸びしろがあるし、若くて可愛いだろ。適任だと思うんだ。」
「か、かわ……!」
ひかりが何か言いたそうにもじもじしている。あと一押しか。
「報酬もちゃんと出す。詳細は相談させてほしいが、ひかりの生活を安定させるのが大前提だ。」
「そ、そんな……わたし、恩返しのつもりで、お金なんて……!」
「恩返しと対価は別だ。そこはしっかりした方が、きっとうまくやっていける。」
ユキがお茶を運んできて、ひかりの前にそっと湯飲みを置いた。
「ご主人様の仰る通りです。ひかりさん、これはお仕事です。胸を張って、受け取ってください。」
「わかりました……!私、頑張ります!」
ひかりが頭を深く下げた。
「ねぇ、提案してもいいかな?」
「うん?」
「ひかりちゃんの初配信――明日の建設、丸ごとコンテンツにしちゃうのはどう?」
ひかりが「え?」と声を漏らした。
「街が生まれて、海が出来て、塔が空に生えていくところ。きっとすごいよ。」
「……なるほどな。」
掴みとしては、これ以上ないくらい派手な画だ。
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貯金残高:36,440,000円 / ダンジョン蓄積魔力:1,325
スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3
眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)
【ダンジョン構成】
入口 → 物資補給エリア → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:シノの式神「コンシェルさん」&猫又)→ 食堂エリア(管理:コムギ)→ 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋
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