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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第62話 化け物

協会第七支部のロビーは、いつもの朝の時間帯の攻略者でざわついていた。受付のカウンターには行列ができている。朝は依頼を受ける攻略者が多い。

ユキは相変わらず黙って立っているだけで周囲の男性攻略者の視線を集めるが、俺もユキも、もう慣れたものだ。


換金窓口に並んでいると、ほどなく俺たちの順番が回ってきた。カウンター越しに顔を上げたのは、朝霧さんだった。


「鷹峰さん、お久しぶりで――あ。」


朝霧さんが声を途切れさせた。栗色の髪を後ろで一つに結わえた、いつもの制服姿。俺とユキを順に見て、それから俺の右袖の、肘の下で空になっている部分に視線が止まった。


「……鷹峰さん。」


書類を握る指が、強張った。


「その、お身体は――」


「あー、ちょっとやらかしました。命に別状はないから、大丈夫。」


「大丈夫って、そんな!」


朝霧さんの眉が下がった。一度唇を噛んで、ゆっくり息を吐いて、仕事の顔を取り繕う。


「……生きていて何よりです、鷹峰さん。ユキさんもご一緒ですね。」


「ありがとう、今日は依頼じゃなくて換金なんですよ。というか、依頼は少しの間お預けかもです。」


「換金ですね、かしこまりました。」


俺はポーチから魔石を取り出して、カウンターに置いた。

普段納品する魔石より、二回り以上大きな深い紫色の塊。内側で青い光が脈打っている。ロビーの照明の下でも、淡く発光しているのが見えた。


「……失礼します。」


朝霧さんが魔石を両手でそっと受け取り、カウンター下の鑑定装置に載せた。パネルを覗き込んで、一度眉をひそめる。角度を変えて、もう一度確認し直した。

顔を上げた朝霧さんの笑みが、わずかに引き攣っていた。


「鷹峰さん、こちらの魔石、窓口の規定を超える水準でして――支部長の立ち会いのもとで査定を進めさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」


「分かりました、お願いします。」


シノに言われた通りになりそうだな。


「ありがとうございます。少々、お待ちください。」


朝霧さんが魔石をトレイに載せて、カウンターの奥のドアに消えた。戻ってくるのに、5分もかからなかった。代わりに連れてきたのは、50代くらいの男性。白髪混じりの短髪に、眼鏡をかけている。スーツを筋肉が押し上げていて、威圧感がある。協会のバッジらしきものを胸に付けていた。


「支部長の井筒だ。」


井筒の視線がまず俺を捉え、次いでユキを見た。


「朝霧、魔石なんぞより大物がいるじゃないか。」


「え?」


「何でもない。続けてくれ。」


「はい、それでは奥の査定室へ向かいます。鷹峰さん、ユキさん、こちらへどうぞ。」


奥に通された。6畳ほどの小さな部屋に、机と椅子が数脚。壁には換金レートの表が貼ってある。朝霧さんが魔石を机の中央の専用機器のような物に置いて、井筒の後ろに控えた。


井筒の眼鏡の奥の目が、魔石の内側の脈動する青い光を追って、細くなる。


「……鷹峰君といったな。これは、どこのダンジョンで手に入れたものかな。」


「鬼哭砦の10層ですね。降りて、奥にボスっぽいのがいて、それを倒して回収したものです。」


「……鬼哭砦か。」


「はい。」


井筒が魔石には触れず、両手を机の上で組んだ。


「単刀直入に言わせてもらう。この魔石は、本来鬼哭砦の10層程度にあるべきものではない。もっと深い階層ならあるいは、といったところだ。」


「……そうではないかと、思っていました。」


「色・密度・魔力含有量、いずれも当協会の基準ではS級下位相当のモンスターが残すレベルだ。もう少し上の可能性もある。」


「うーん、鬼哭砦は中級者向けのダンジョンと聞いていましたが。」


「そうだ。君が生きて帰ったのは奇跡的と言っていいだろう。部下からの報告で面白いルーキーがいるとは聞いていたが、」


井筒が眼鏡の位置を直した。


「ダンジョン内に本来いないレベルの個体が現れる現象は、稀ではあるが、時折ある。過去同様の例では殆どのケースで死亡例となってしまっているがな。」


「……。」


正直、俺には何となくの心当たりがあった。ダンジョンマスターが動いたのだろう。

自分のダンジョンを破竹の勢いで突破していく存在がいれば危機感を感じて当然だ。防波堤として抜かれないだけの戦力を投下したと考えるのが自然だ。

まぁ、それを話すことは出来ないが。


「この魔石、こちらで買い取らせてもらう。ただ、承知しておいてほしいことがある。」


「はい。」


「私の推薦でAランク昇級試験を受けてほしい。このランクのモンスターを狩れる攻略者を。」


「お待ちください。」


ユキが絶対零度の視線とともに割り込んだ。


「この身体で試験は無理があります。承服いたしかねます。」


「……分かっている。すぐにとは言わん。回復したら、という前提付きで、期限は無期限。これでどうだ?」


「ユキ、大丈夫だ。」


「……かしこまりました。」


「鷹峰くん。失礼を承知で訊くが、この魔石、本当に一人で?」


「ソロです。まぁ、このざまですよ。」


俺は右腕の袖をひらひらと振って見せる。


「……そうか。」


「朝霧、応接室で待ってもらえ。30分もすれば正確な査定が終わる。」


「はい、支部長。」



応接室のソファに座った。ユキは俺の右隣。朝霧さんが茶を置いて、一礼して出て行った。

待つこと30分、今度は井筒支部長が戻ってきた。査定書を持っている。


「待たせたな。」


井筒が机の上に査定書を置いた。金額の欄が目に飛び込んでくる。


――50,000,000円。


「……5,000万、ですか。」


「ああ。協会口座から鷹峰くんの登録口座へ振込となる。本日中に着金する。それで問題ないかな。」


「はい、大丈夫です。」


中々夢のある数字だ。ただ、代償は右腕だ。今の実力では大きなリスクが伴うが、安定して狩れればすごいことになる。まぁ、ユキやリンドヴルムがこのクラスを倒してきていないことを考えると、見つける方が難しいかもしれないな。



side:井筒



応接室のドアが閉まり、廊下の足音が遠ざかっていく。それを耳で追って、完全に気配が消えたのを確認してから、私は椅子の背もたれに身体を預けた。


「……はーー。」


大きく、長く、息を吐く。


「……朝霧。」


「はい、支部長。」


「お前、さっきの女性、どう見た。」


朝霧は数秒、言葉を探すような顔をして、それから困ったように眉を寄せた。


「とても、お綺麗な方だな、と……。」


「そうだな、綺麗だ。綺麗だが。」


私は眼鏡を外して、目頭を揉んだ。


「化け物だぞ、あれは。」


「……は?」


「私は仕事柄Sランク攻略者に何人か会ったことがある。だがあれは、別格だ。ものが違う。」


言葉にすると、指先がわずかに震えた。


「昇級試験の話を切り出した瞬間だ。声を荒げたわけでも、殺気を放ったわけでもない。それなのにだ。」


「それなのに?」


「殺されると思った。本気でだ。俺はこれでも腕が立つ。現役の頃はSランクに手が届きかけたくらいには。」


朝霧が青い顔で、小さく口を開いた。


「鷹峰さんは、気付いてらっしゃったんでしょうか。」


「気付いていたに決まっている。だからすぐに制したんだ。あの青年は、手綱を握っている側なんだよ。あれを、従えている。」


眼鏡をかけ直す。


「鷹峰遥。――何者だ、あの男は。」


独り言のつもりだったが、声に出ていた。机の上の査定書を、指先で軽く叩く。


「朝霧。今日の件、書類はルール通りに回せ。ただし、口頭で流していい範囲は最小限にしろ。余計な尾ひれを付けられると困る。」


「……かしこまりました。」


私は椅子から立ち上がって、窓辺に向かった。

窓ガラスに映る自分の顔は、少し、疲れていた。


――私はすぐに知ることになる。あの青年が、何者なのかを。



side:遥


ダンジョンに戻ったのは昼過ぎだった。

居住エリアのリビングに戻ると、シノとハヤテが情報端末のモニタの前で何か話し込んでいた。リンドヴルムは大型高背椅子に戻って、本を読んでいる。最近は図鑑なども好んで読んでいるようだ。主にサバンナの猛獣などを眺めている。どうするつもりだ。


「おかえりなさいっす、ご主人!」


「おう、ただいま。」


「どうだったっすか?」


「……5,000万だった。想像以上だな。」


3人が揃って動きを止めた。

リンドヴルムが本から顔を上げた。


「ふむ。」


「ふむじゃなくて。」


「めでたいではないか。」


シノが首を傾げた。


「君、エリクサーのコスト、覚えてる?」


「交換メニューに出てたよな。蓄積魔力5,000。換算で2,500万円相当。」


「うん。一気に突き抜けちゃったね。やるじゃん。」


「だな。ユキとリンドヴルムにも協力してもらったのに、何か悪いな。」


「もっと骨のある相手がおればよかったんじゃが。」


「ご主人様、さっそくエリクサーを準備されますか。」


「そうだな。善は急げだ。」


「ゼンハイソゲ?」


ハヤテが聞きなれないことわざに『?』を浮かべているが、まぁいいだろう。


脳内のイメージに意識を集中させアイテム交換メニューを思い浮かべる。エリクサーの項目を選択。

蓄積魔力5,000分を、現金から支払う。


「よし。」


実行。一瞬、リビングの空気がふわりと震えて、テーブルの上に、小さな瓶がこつ、と落ちた。


拳にも満たない、掌サイズの瓶。中の液体は黄金色で、内側から微かに光っている。コルク栓には細い紐が巻かれていて、紐には小さな紙がぶら下がっている。紙には何も書かれていないが、触れると濃密な魔力の感覚が伝わってきた。


ユキが瓶を左手で取り上げた。瓶を目の前に掲げて、中の液体を見つめる。


「……これがエリクサーですか。初めて見ます。」


「わらわもじゃ。」


「これさえあれば、身体の欠損やあらゆる病気を治せると聞きます。」


「うちは一回だけ見たことあるよ。いつだったか、うちへの供え物に混じってたことがある。間違いなく本物だと思う。」


俺はポケットからスマートフォンを取り出した。DMアプリを開いて、ひかりの名前をタップした。


『エリクサー、用意できた。』


『今から弟さんを迎えに行くけど、いいか?』


送信。返事もすぐ来た。


『え、もうですか? はい、わたし病室にいます。よろしくお願いします、本当に、本当に。』


『泣くのは終わってからな。』


『はい、待ってます!』


――――

貯金残高:36,200,000円 / ダンジョン蓄積魔力:1,200

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2 / 【魔力操作】Lv.2 / 【マナバースト】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又(下位妖獣)/ コムギ(土精)


【ダンジョン構成】

入口 → 物資補給エリア → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:シノの式神「コンシェルさん」&猫又)→ 食堂エリア(管理:コムギ)→ 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――

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