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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第52話 イヤーカフ

朝。まずはユキの転移陣の改良だ。


ユキが居住エリアの壁際に手をかざした。指先から蒼い光の紋様が広がり、小さな魔法陣が浮かび上がる。同じものを実戦エリアの外れや、宿泊エリアの裏手――攻略者の目につきにくい場所にも設置するらしい。まぁ、見られても使えないけど。


数分で完了。ハヤテが試しに踏むと、一瞬で消えて、すぐ戻ってきた。


「おー! やっぱり便利っす!」


攻略者が踏んでも何も起こらない、眷属だけが使える転移陣。これでダンジョン内の移動はほとんど解決だな。


さて、本題だ。食堂エリアの建設に取り掛かる。

意識を集中させ、宿泊エリアと森エリアの間に、新しい空間を割り当てる。食堂エリア、コスト250。実行。


魔力が流れた。空間が広がり、床と壁が形成されていく。テーブル席が8つ、カウンター席、厨房スペース。シノが事前にカタログから選んでいたレイアウトが数分で完成した。


コムギが窯を抱えて立ち上がった。30cmの体で自分と同じ大きさの窯をよっこらと抱えて走る姿は見ていて危なっかしい。


「コムギ、運ぶの手伝うか?」


「パン焼く!」


あまり会話が通じたことがない気がするな。


さっそく転移陣で食堂エリアに移動した。

三角帽子の突起をぽわぽわ光らせながら、新しい厨房に窯を設置している。自分の厨房が手に入ったことが嬉しくてたまらないらしい。


「あとは人が回ればいいんだけどね。」


シノがスマートフォンを操作しながら言った。


「しばらくはしょうがないな。パンはバイキング形式にして、パンに合うようなものを何種類かおいておく形にしよう。」


「そうね。あと、今日からキツネたちに来訪者の動きを記録させることにしたわ。何が売れてるかとか、時間帯ごとの混み具合とかね。」


「助かる。」


「データが溜まったら報告するわね。」


参謀が有能すぎて仕事がないな。ぜいたくな悩みだ。


さて。


「ハヤテ、準備できたか?」


「とっくにできてるっす!」


ハヤテが待ちきれないという顔で立っていた。


「シノさん、お願いっす!」


「はいはい。」


シノが立ち上がり、ハヤテの背後に回った。指先に琥珀色の光が灯り、翼をなぞるように動かす。翼が消えた。正確にはそこにあるのだが、目には見えない。


「ありがとうございますっす!」


「気をつけてね。狭いところで背中ぶつけないように。」


「了解っす!」


ユキが静かに近づいてきた。


「ご主人様、参りましょう。」


居住エリアの転移陣から、ユキと3人で祖父母宅へ。一瞬で和室に出て、ユキはそのまま引き返す。


「お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」


「ああ。帰りに連絡するよ、留守をよろしくな。」


祖父母宅から外に出ると、夏の日差しが肌を刺した。


ハヤテが大きく伸びをした。


「やっぱ外の空気って違うっすね。」


「前も同じこと言ってたぞ。」


「だって毎回思うっすもん!」



バスに乗って、商業エリアまで20分。

まず服を買う。ハヤテはそれほど服を持っていないので、不便だろう。


「好きなの選んでいいぞ。」


「マジすか! じゃ、ちょっと見てくるっす!」


レディースの売り場にハヤテが飛び込んでいった。



甘かった。


「ご主人、これどうっすか!」


試着室のカーテンが開いて、ボーダーのTシャツにデニムのハヤテが出てきた。


「いいんじゃないか。」


「じゃあこっちは?」


次はスポーティーなパーカーに黒のスキニー。


「かっこよくて、いいと思うぞ。」


「こっちも気になるんすけど!」


今度はオフショルダーのニット。それは夏向きじゃないだろう。


試着室の前のソファに座って、気づけば1時間近く経っている。ハヤテは次々に服を持って試着室に消えては、カーテンを開けて「どうっすか!」と飛び出してくる。本人は着せ替え人形を楽しんでいるようだが、こっちは少々疲れてきた。最近はダンジョンで魔物を殴り飛ばしても疲れないのに……。


「お兄さん、彼女さん可愛いですね。」


店員が話しかけてきた。にこにこしている。


「いや、彼女じゃ――」


「ご主人、これ!」


カーテンが勢いよく開いた。白いカットソーに黒のワイドパンツ。シンプルだが、ハヤテの引き締まった体つきに合っている。


「……ああ。いいと思う。」


「ホントっすか! じゃあこれもっす!」


「やっぱり彼女さんの前だと素直ですね。」


店員がにやにやしている。否定する間もなくハヤテが次の候補を物色しに行った。

結局、Tシャツ2枚、パンツ1本、パーカー1枚、カットソーとワイドパンツを買った。1時間近くかかった。



大きな紙袋を2つ抱えて店を出る。


「持つっすよ、自分の荷物なんだから。」


「重くないし、気にすんな。」


「でも――」


「いいって。次、行くぞ。」


ハヤテが何か言いかけたが、口をつぐんだ。

通りを歩いていると、ハヤテの足が止まった。アクセサリーショップのショーウインドウの前だ。

ガラスの向こうで、ネックレスやリング、イヤーカフが照明に照らされてきらきらと光っている。


ハヤテが動かない。

そういえば光物、好きだったな。


「入るか?」


「……いいんすか。」


店内に入ると、ハヤテはショーケースに張り付いた。金色の瞳にアクセサリーの輝きが映り込んでいる。


「おおおお~!!!ご主人、見てくださいっす。この石、赤いのに光に当てると金色になるっすよ。」


「ガーネットだってさ。へー、こんな風になるんだな。」


「これは? 青くて、中に光が泳いでるみたいな……。」


「アクアマリンか。」


「石ってこんな色するんすね……。」


しばらくショーケースを端から端まで眺めていたハヤテが、ぴたりと足を止めた。


「1つ選べ。買ってやるよ。」


「え、いいんすか!?」


「アクセサリー見たいって前から言ってただろ。」


ハヤテが真剣な目つきでショーケースを見て回った。さっきまでの浮かれた様子が消えて、獲物を狙う猛禽類の目になっている。


最終的にハヤテが指差したのは、小さなシルバーのイヤーカフだった。翼を広げた鳥のデザイン。


「これがいいっす。」


店員につけてもらい、鏡を見る。短い茶髪の耳元でシルバーの翼が光っていた。

ハヤテがこちらを振り向いた。


「どうっすか。」


「似合ってるよ。」


「……っす。」


ハヤテが鏡に向き直った。イヤーカフに触れて、また鏡を見て。


「ありがとうございますっす。大事にするっす。」



ポケットの中でスマートフォンが震えた。グループ「裏山ダンジョン運営部」にシノから。


『食堂稼働中。コムギのパン、午前で32個完売。攻略者に好評。「ダンジョンで焼きたてパン食えるの最高」だって。コムギは弱いから、食堂の厨房からは出ない様に言ってあるわ。』


すぐにもう1通。


『猫又が宿泊エリアからいなくなったと思ったら、リンドヴルムの部屋の前で寝てたわ。回収して膝に乗せたらそのまま寝た。リンドヴルムは「わらわは椅子ではない」と言いつつ膝の上の猫を撫でてたわね。証拠写真あり。』


ハヤテが横から画面を覗き込んで笑った。


「猫又、完全にリンドヴルムさん専属っすね。」


「あの2人、相性いいよな。」


「猫撫でてるとこ、自分も見たかったっす。」


雑貨屋を覗いたら、ハヤテが棚の前で止まった。


「ご主人、これ。」


手に持っているのはデフォルメされたドラゴンのぬいぐるみだ。2対の角があり、目つきが妙にふてぶてしい。


「リンドヴルムさんに似てないっすか。」


似てる。


「買って帰るか?」


「いやぁ、怒られるっすよ絶対。」


笑いながら棚に戻した。


クレープ屋で2つ買った。ハヤテはチョコバナナ、俺はいちご。

ハヤテが一口齧って目を丸くした。


「うまっ! なんすかこれ!」


「俺もそうだけど、何でも美味しく食べられるってのは、いいことだよな。」


「あはは、何すかそれ~。」


食べながら歩く。商店街を抜けたあたりで、急に人が増えた。週末の昼どきで、駅前の通りが混み合っている。


ハヤテが人波に押されてよろけた。

反射的に手を掴む。


「はぐれるなよ。」


「あ、すんません。」


そのまま歩いた。人混みの中を、手を引いて進む。はぐれたら面倒だし、ハヤテは背中に見えない翼があるから、人にぶつかると厄介だ。


人混みを抜けた。通りが広くなり、人もまばらになる。

手は繋いだままだった。

離すタイミングを逃した、というよりは、特に意識していなかった。


ハヤテが黙っていることに気づいた。さっきまであれだけ喋っていたのに。

横を見ると、ハヤテが前を向いたまま黙っている。耳が赤い。


「ハヤテ?」


「……っす。」


「うん?」


「いや、なんでもないっす。」


声が上ずっている。

なんだ。何か気に障ったか。

離そうとした瞬間、ハヤテが手を振りほどいて早足になった。


「あっ、あの店ちょっと見てくるっす!」


通り沿いの店に駆け込んでいった。

メガネ屋だった。

鷹の目にメガネは要らないだろう。


しばらくして、ハヤテがメガネ屋から出てきた。当然何も買っていない。顔の赤みは引いていたが、目が合った瞬間にすっと視線が逸れた。


「……行くっすか。」


「ああ。」


帰り道は、なぜかさっきより距離が開いていた。何だというんだ。


祖父母宅に戻り、ユキに連絡した。すぐに転移陣が起動して、一瞬で居住エリアに戻る。

リビングにシノとリンドヴルムがいた。リンドヴルムの膝には猫又が丸まっている。

ハヤテが買い物袋を持ってリビングに入ってきた。


「見てくださいっす! 服買ったんすよ!」


「おー、見せて見せて。」


シノが手招きした。


ハヤテが自室で着替えて戻ってきた。白のカットソーにワイドパンツ。耳元には翼のイヤーカフ。


「どうっすか!」


「いいじゃない、似合ってるよ。」


シノが目を細めた。


「でしょ! ご主人に選んでもらったっす!」


「ほう。」


リンドヴルムが猫又を膝に乗せたまま、こちらを見た。


「イヤーカフまで買ってもらったの?」


シノの声が楽しそうだ。


「ハヤテが気に入ったやつを買っただけだ。」


「ふーん?」


ユキが食堂から戻ってきた。コムギの焼いたパンを1つ手に持っている。


「お帰りなさい、ご主人様。ハヤテ。」


ハヤテを見て、一拍。


「似合いますね。」


「ユキ先輩、ありがとうございますっす!」


ハヤテがぱっと笑った。さっきまでの赤い耳のことは、もう忘れたのか。

いや、忘れてはいないだろう。さっきからイヤーカフを気にして、何度も耳に手をやっている。



夜。


食堂ではコムギがまだパンを焼いていた。明日の仕込みらしい。三角帽子の光は衰える気配がない。


にぎやかになったな。


――――

貯金残高:568,000円 / ダンジョン蓄積魔力:58

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又 / コムギ(土精)


【ダンジョン構成】

入口 → 物資補給エリア → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:シノの式神「コンシェルさん」&猫又)→ 食堂エリア(管理:コムギ)★New! → 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――

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