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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第51話 パン。

宿泊エリアが動き始めて6日目の朝。

リビングで情報端末を確認する。食堂エリアの建設に必要な250まで、あと少しだ。


「順調だね。」


隣のソファからシノの声。朝からスマートフォンを片手にダンジョンボードの書き込みをチェックしている。熱心なことだ。


「ああ。このペースなら、あと2日もあれば食堂を建てられそうだ。」


「それなんだけどさ。」


シノがスマートフォンから顔を上げた。


「食堂を建てるのはいいとして、誰が回すの?」


4人で回しているが、宿泊エリアが加わった時点でかなりギリギリだ。ここに食堂まで加わったら、どう考えても手が足りない。


「んー。そこなんだよな。」


「しかもね、宿泊の方もキツネだけじゃ限界が見えてきてるのよ。泊まりの攻略者が増えてきたし、夜間のトラブル対応もあるでしょ。うちの子達は便利だけど、触れないし、物理的なことは何もできない。酔っぱらった攻略者たちとか、今は放置してるわ。」


ごもっともだな。


「新しい眷属を呼ぼうと思う。」


「それがいいわね。」


そこにユキが朝食を運んできた。


「ご主人様、何のお話ですか。」


「眷属の召喚について。手が足りなくなりそうだから、増やそうと思ってる。」


「必要なことかと思います。」


「ただ、今回はやり方を変える。」


リビングの入口にハヤテが現れた。すぐ後ろにリンドヴルムもいる。朝食の匂いに釣られてきたな。ちょうどいい。


「これまで召喚した眷属は、結果的に全部最上位だったから、その分コストもでかかった。でも今のダンジョンに必要なのは最上位の火力じゃなくて、現場を動かしてくれる人手だと思うんだ。」


ハヤテが窓枠に座った。


「つまり、安く何人も呼ぶってことっすか?」


「そういうこと。1回の召喚コストを抑えて、下位の眷属を2体呼ぶ。魔力は食堂の建設用に温存するから、コストは全部現金で出す。」


「おー、賑やかになるっすね!」


「ただ、召喚はランダムだ。低コストだから皆みたいに格の高い眷属は来れないと思うし、それにどんな眷属が来るかは選べない。」


「ガチャっすね!」


ハヤテが妙に嬉しそうだが、そんな言葉をどこで覚えたのか……。



居住エリアのリビングの中央に立つ。シノを召喚した時と同じだ。

4人が壁際に並んで見守る中、シノがスマートフォンを構えていた。


「……なんで撮ろうとしてるんだ。」


「記録は大事よ。」


まぁいい。


意識を集中させる。ダンジョンコアとの繋がりが頭の奥で脈打つ。天賦【召喚】を発動――コストは現金40万円。


いざ!


「幽世の導に従い来たれ異郷の住人」


足元に淡い光が広がった。

今回は白っぽい柔らかな光だ。主張しない。静かに灯って、静かに集まっていく。


光が1点に集束して、輪郭が浮かび上がる。

小さい、明らかに人間サイズではないな。


光が消えた。


召喚陣の中央に、丸まった毛玉がいた。

灰色がかった白い毛並み。ふわふわの丸い体。そこから伸びる尾が――2本。


「……猫?」


寝ているようだ。すうすうと規則正しい寝息が聞こえる。


「寝てるっすよ、ご主人?」


ハヤテが召喚陣を覗き込んだ。


「……そうだな。」


シノがしゃがんで匂いを嗅いだ。


「猫又だね。妖獣だよ。でも面白い気配がある。」


「面白い気配?」


「この子の周囲、空気がやたら柔らかいのよ。安心するっていうか、眠くなるっていうか。」


言われてみれば、確かに召喚陣の周囲がぬるめの湯に浸かっているみたいに心地よい。

ユキが手を伸ばした。猫又の背中にそっと触れる。

猫又が薄目を開けた。ユキの蒼い瞳と、猫又の丸い金色の瞳が合う。

猫又はゆっくり目を閉じた。ユキの手のひらに頭を擦り付けて、また寝た。


「……マイペースな子ですね。」


ユキの声に戸惑いが混じっている。手はそのまま動かさない。


「おーい、起きろよ。召喚されたばかりだぞ。」


猫又の耳が片方だけぴくりと動いた。


それから、猫又がむくりと起き上がった。大きな欠伸。2本の尾が伸びる。のそのそと召喚陣から歩き出し、リビングの中をうろうろ歩き回って――リンドヴルムの足元まで行くと、その場でくるりと丸まった。


リンドヴルムの足の甲に頭を乗せて、再び眠りについた。


「……おい。」


リンドヴルムが固まった。足を動かそうとしたが、猫又がむにゃりと足に絡みつく。


「お主、退け。わらわの足を枕にするでない。」


猫又はすやすやと寝息を立てている。

シノが口元を手で隠して笑っている。ハヤテは隠す気もなく声を出して笑っている。


「リンドヴルム、しばらくそのままで頼む。」


「何故じゃ。」


「猫が落ち着ける場所を見つけたんだ。邪魔しちゃ悪い。」


「わらわは椅子ではないぞ……!」


声を荒げても足は動かさない。



さて、1体目は猫又。使い道はあとで考えるとして、このまま2体目を呼ぶ。

再びリビングの中央に立った。リンドヴルムは足元に猫を乗せたまま壁際に立っている。もう諦めた顔をしていた。


2体目のコストは現金50万円。さっきより少し多い。


「幽世の導に従い来たれ異郷の住人」


足元に光が灯る。今度は茶色い、土の色をした温かい光だ。

光が収束して、何かが姿を現す。猫又よりさらに小さい。身長30cmくらいか。


土色の肌をした、ずんぐりした小さな人型の精霊だった。頭に三角帽子のような岩の突起がある。手には体と同じくらいの大きさのミニチュアの土窯を大事そうに抱えていた。


精霊がきょろきょろと周囲を見回す。全員の視線を受けて、窯をぎゅっと胸に抱きしめた。


「ようこそ。俺がここのダンジョンマスターだ。分かるか?」


精霊がこちらを見上げた。大きな丸い目が3回瞬いた。


「パン。」


「……ん?」


「パン、焼く。」


精霊は窯を置く場所を探し始めた。リビングの隅、棚の下、テーブルの脚の間をきょろきょろ見回している。


「何を探してる?」


「窯、置く場所。」


「まず名前とか、何ができるか――」


「パン焼く。」


迷いのない即答だった。

シノがしゃがんで匂いを嗅いだ。


「ノーム系の土精ね。特化型で――うん、本当にパンしか焼けない匂いがする。」


「匂いで分かるのか。」


「土と小麦と酵母の気配しかしないんだもの。多分、他の魔力適正がゼロね。」


ハヤテが床に膝をついて、精霊と目線を合わせた。


「ねぇ、パン以外は? クッキーとか、ケーキとかどうすか?」


精霊が首を横に振った。


「パン。」


「肉は?」


「パン。」


「スープは?」


「パン。」


ハヤテがこちらを振り返った。


「パンしか焼けないっすね。」


「みたいだな。」


リンドヴルムが猫又を足元に乗せたまま、低い声で言った。


「極端じゃのう。」


ユキが黙ってリビングの隅を片付け始めた。棚をずらし、空間を作る。


「ご主人様。ここに窯を置けば、当面は作業できるかと。」


手際がいい。ユキが空けたスペースに、精霊がちょこちょこと走って窯を設置した。小さな手で窯の位置をミリ単位で調整して、ようやく満足げに頷く。


「試しに1つ焼いてもらおうよ。」


シノの提案に、精霊がぱっと顔を上げた。待ってましたと言わんばかりに目が輝いている。


「焼く!」


返事と同時に、窯がぼわっと温かい光を発した。精霊が何もない手のひらから粉と水を――魔力で生成しているのだろう――練り始めた。30cm足らずの体で生地をこね、成形し、窯に入れるまでの動きに迷いがない。職人だ。


数分後。明らかに現実離れした速さで完成し、リビングに焼きたてのパンの匂いが広がった。

ものすごくいい匂いだ。

窯から取り出されたのは、手のひらに乗るくらいの小さな丸パン。6個。


俺が最初に手を伸ばした。まだ温かい。外は軽い焼き色がついていて、持った瞬間にパリッとした感触が指に伝わる。


かじった。


外はぱりっと、中はふわふわ。噛むほどに麦の甘みが広がる。バターも砂糖も使っていないはずなのに、この深い味わいはなんだ。


「……うまい!」


ハヤテが飛びついた。1つ取って頬張り、目を丸くした。


「うっま! なんすかこれ! パンでこんなに感動するの初めてっす!」


シノが1つ取って一口。目を閉じた。ゆっくり咀嚼して、飲み込む。


「……すごくおいしいわ。」


ユキが小さく一口。咀嚼して、もう一口。もう一口。


「とても美味しいです。」


静かにもう1つ手を伸ばした。ユキが自分からおかわりするのは珍しい。

リンドヴルムは足元の猫を気にしつつ、片手でパンを受け取った。一口。


「……悪くないな。」


精霊がぺこりとお辞儀した。頭の三角帽子の突起がほんのり光っている。嬉しいらしい。


「パン。もっと焼く?」


「ああ、頼む。」



昼過ぎ。5人目と6人目の名前を決めることになった。


「猫又は……そのまま猫又でいいかな。」


「安直すぎないっすか?」


「じゃあハヤテが考えてくれ。」


「えっ、自分っすか? えーと……モフ丸?」


「えっ。」


「な、なんすか!もふもふしてるのは事実じゃないっすか!」


「名前はもう少し品のあるものにしたいのじゃが。」


リンドヴルムが自分の足の上で寝ている猫を見下ろしながら言った。

結局、猫又は「猫又」のまま落ち着いた。当人が名前に興味を示さないからだ。呼んでも寝ているし。


精霊の方は、いくつか候補を出し合った末に「コムギ」に決まった。コムギは名前を呼ばれるたびに三角帽子がぽわっと光るので、気に入ったらしい。



夕方。猫又の配置が決まった。宿泊エリアだ。


シノがキツネを通じて調べた結果、猫又の周囲には休息を促進する波動のようなものが出ていることが分かった。半径3メートルほどの範囲にいると、自然と眠りが深くなり、疲労回復が通常の倍近い速度で進むらしい。


「寝てるだけで攻略者の回復を速くしてくれるわけ。宿泊エリアに置かない手はないでしょ。まぁ、ふらふら動いちゃうでしょうから、あまり期待はしない様にしましょう。」


異論なし。


猫又は宿泊エリアの共用スペースに運ばれた。運ばれた、というのは、自分では歩かなかったからだ。ハヤテが両手で抱えて連れて行った。


「軽いっすね。ふわっふわだし……あ、いい匂いするっす。」


「何の匂い?」


「なんだろ……日なたの匂いっすかね。干したての布団みたいな。」


なんだそれ。


共用ベンチの端に猫又を置くと、そのまま丸くなって寝た。コンシェルさんが1匹、興味深そうに猫又の周りをくるくると回っている。


「新しいお仲間でございますか。大変結構でございます。……よくお休みになる方ですね。」


コムギの方は、食堂エリアが完成するまで居住エリアのリビングを仮の厨房にすることにした。食堂がないのにパン職人がいるのはおかしな話だが、コムギのパンは明らかに売り物になる味だ。


「食堂の目玉商品が、建設前に決まったわね。」


シノがリビングのソファで笑った。



夜。情報端末を確認した。蓄積魔力248。明日には食堂を建てられる。


リビングではコムギが3回目のパン焼きに没頭していた。今度は少し細長いパンを試みたようだ。


リンドヴルムがいつの間にか自室から戻ってきて、椅子に座っている。膝の上に猫又がいた。宿泊エリアに置いてきたはずなのに、いつの間にか居住エリアまで戻ってきたらしい。


「……勝手に来おった。」


リンドヴルムはそれだけ言って、猫又を降ろそうとしなかった。


「ちょっと待て。宿泊エリアから居住エリアまで、森と火山を通ってきたのか?」


「あー、それなんだけど。」


シノがソファの背もたれに頬杖をつきながら言った。


「この子、簡単な転移が出来るみたい。ぽんと消えて、ぽんと出てくるのよ。戦闘には使えないし、本人の気分次第だけどね。」


なるほど。だから宿泊エリアに置いても勝手にリンドヴルムのところに来るわけだ。


「それはいいとして、今後食堂エリアとか色々増えたときに、ダンジョン内の移動は課題だよなぁ。」


ユキが口を開いた。


「ご主人様。転移陣の件ですが、改良ができるかもしれません。」


「改良?」


「はい。以前は私が側にいなければ起動できませんでしたが、私も大分回復が進んで、術式を定着させることが可能になりました。ご主人様と、ダンジョンコアに繋がった眷属であれば、私がいなくても使える転移陣を設置できそうです。」


「それはでかいな。」


「ただし、ダンジョンの魔力を間借りするようなイメージで、ダンジョン内の移動に限ります。祖父母宅との転移陣は、これまで通り私の同伴が必要です。」


「十分だ。明日、食堂の建設と一緒にやろう。」


ユキが頷いた。


ハヤテがコムギの横に座って、焼き上がったパンを齧りながら話しかけている。


「なぁコムギ、明日から外のお客さんにも出すかもしれないんだけど、いけるか?」


「パン。いっぱい焼く。」


「やる気あるじゃないっすか!」


ユキはその後、コムギのパンを2個持って自室に引っ込んだ。よほど気に入ったらしい。


にぎやかだな。


ふと見ると、コムギが窯の横で丸くなって眠っていた。三角帽子の突起がぼんやり光っていた。パン職人は自分の窯のそばで寝るらしい。


明日は転移陣の改良に食堂エリアの建設、ハヤテとの外出もある。忙しくなりそうだ。


――――

貯金残高:498,500円 / ダンジョン蓄積魔力:248

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)/ シノ(九尾)/ 猫又 ★New! / コムギ(土精)★New!


【ダンジョン構成】

入口 → 物資補給エリア → 宿泊エリア(1泊5,000円/管理:シノの式神「コンシェルさん」&猫又 ★New!)→ 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――

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