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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第46話 夜間飛行

頭だけが妙に冴えて眠れない夜。


ベッドから出て、居住エリアに足を踏み出した。リビングは暗く、誰もいない。ユキの部屋もハヤテの部屋も静かだ。


ふと、火山エリアに足が向いた。


転移陣を使わなくても、居住エリアから火山エリアへはダンジョン内の通路を歩けば着く。通路を抜け、熱気を帯びた空気に触れた瞬間、視界が一気に広がった。


大空洞。

天井は見上げても闇に呑まれて見えない。溶岩の川が地表を走り、赤い光が岩壁を染めている。火山エリアを作る時、リンドヴルムが「竜の姿で飛べるほどの広さ」を要求した。


何度見ても壮大な空間を見上げる。


大空洞の上空を、巨大な影が旋回していた。


リンドヴルムだ。全長30メートルを超える巨体が、溶岩の熱気に乗って悠然と円を描いている。翼を一度打つだけで、岩壁の間を突風が走る。紫の鱗が溶岩の光を受けて鈍く輝き、2対の巨大な角が闇を切り裂いていた。


溶岩が流れる音と、翼が空気を叩く低い音だけが、大空洞に反響している。配下の竜たちは岩壁の窪みや溶岩の脇の岩棚で眠っているのか、動いている影はリンドヴルムだけだ。


烈風との一件の後、リンドヴルムは少し変わったように思う。以前にも増してダンジョン防衛に精を出してくれている。その変化は、嬉しいことだった。


やがて、紫の竜が降下し始めた。旋回が徐々に小さくなり、俺の少し先の岩棚に降り立った。着地の瞬間、溶岩の川が大きく波打ち、すぐに静まった。


紫の光が竜の体を包んだ。光が収まると、そこには人間形態のリンドヴルムが立っていた。


「……お主か。」


こちらに気づいていたらしい。飛んでいる間から察していたのかもしれない。リンドヴルムはゆったりと歩み寄ってきた。


「眠れなくてな。散歩。」


「散歩に火山を選ぶ者は珍しかろう。」


「はは、そうだな。」


リンドヴルムは岩棚の端に腰を下ろした。俺もその近くの岩に座った。溶岩の川が足元を流れ、熱気が肌を撫でる。普通の人間ならキツイ環境だろうが、リンドヴルムはもちろん、俺もだいぶ丈夫になったものだ。


2人の間を溶光が照らしていた。リンドヴルムは黙って正面を見ている。横顔は相変わらず綺麗だが、未だに何を考えているのか、よくわからない奴だ。ユキとは違う種類の読みにくさだなと思う。


「毎晩飛んでるのか?」


「……。」


リンドヴルムは、少し間を置いて口を開いた。


「竜族の群れには、夜の巡回飛行という習慣がある。」


「巡回飛行。」


「群れの長が先頭に立ち、領域の上空を旋回する。配下の竜がそれに続く。異常がないかを確認すると同時に、領域の全てを見渡す……群れの長の務めじゃった。」


「夜回りみたいなもんか。」


「そうじゃ。わらわの群れでは、夜になると火山の麓から全員が飛び立った。先頭がわらわ、その後ろに古参の竜たち、最後に若い竜が続く。列を組んで旋回しする。それが終わると、各自の巣に戻って眠る。毎晩の、決まりごとじゃった。」


そして、ぽつりと、こぼれ落ちるように続ける。


「1人で飛んでも意味などないのだがな。」


「……本当は意味があると、思ってくれてるんじゃないか。」


リンドヴルムが、こちらを見た。


「俺はリンドヴルムが来てくれてよかったと思ってる。ユキも、ハヤテもそうだ。」


リンドヴルムが何か言おうとして、口を開き、閉じた。


「……ふん。減らず口を。」


それだけ返して、リンドヴルムは再び上空を見上げた。沈黙が落ち、溶岩が流れる音だけが響く。


俺は立ち上がった。


「そろそろ戻るよ。明日も依頼あるし。」


「勝手にせい。」


いつもの返事だ。俺は火山エリアを出て、居住エリアへの通路を歩き始めた。


通路を歩きながら、さっきのやり取りを思い出す。いつもの威圧感たっぷりな様子ではなく、慈悲のような何かを感じた。あれがリンドヴルムの素の姿なんだろうか。


居住エリアに戻り、自室のベッドに潜り込んだ。不思議と気持ちが落ち着いていた。目を閉じると、すぐに眠気が来た。



side:リンドヴルム


あの男が去った後も、わらわはしばらく岩棚に座っていた。


故郷の火山の麓もこうだった。熱気が空気を揺らし、竜たちの鱗が光を弾いている。あの頃は、隣を飛ぶ者がいて、後ろに続く者がいた。


全て失った。


他種族の連合軍が押し寄せ、竜族の巣は焼かれた。わらわは群れを守れなかった。1体、また1体と倒れていく仲間を見ながら、最後まで空にいたのはわらわだけだった。焼け落ちた巣の上を、わらわは何周も旋回する。降りたら終わりだと分かっていたから、飛び続けた。


それ以来、わらわは1人で飛んでいる。意味などないと知りながら。巡回飛行は群れの長の務めであり、群れがなければ務めもない。理屈では分かっているが体が覚えている。夜になると翼が疼く。空に出なければ落ち着かない。


『……本当は意味があると、思ってくれてるんじゃないか。』


あの男はそう言った。


だが。


同族でもない。人間と、エルフと鷹獣人。どう見ても群れではない。群れであるはずがない。竜族の群れとは血と誓いで結ばれた一族のことであり、異種族の寄せ集めとは根本が違う。


そう否定しようとして、言葉が出なかった。


少し先に見える居住エリアへの通路に、明かりがぼんやりと灯っている。あの向こうには、エルダーエルフが草花を愛でる部屋があり、鷹獣人がハンモックで眠る部屋があり、あの男が布団に潜り込む部屋がある。


わらわはこのエリアを「わらわの領域」と呼んだ。実際にそうだ。火山の環境を作り、配下の竜を配置し、侵入者を退けた。ここはわらわの場所だ。


だが、守っているのはあの通路の向こう側にあるものだ。


喉の奥が、熱かった。思い切りブレスでも吐きたくなるような、行き場のない熱が込み上げてくる。竜形態に戻って吼えれば楽になるだろうか。だがそんなことをすれば、ハヤテあたりが飛び起きてくる。


群れではない。だが――


尻尾が、無意識に揺れていた。わらわはそれに気づいて、すぐに止めた。気を抜くと勝手に動いて困る。


立ち上がり、居住エリアへの通路に足を向けた。キッチンのテーブルにはハヤテが置き忘れたマグが1つ。奥の部屋からは、あの男が寝返りを打つ音がかすかに聞こえた。


わらわは自室に入り、扉を閉めた。


書斎机の前に座る。故郷から持ち出したものは何もない。この部屋の家具は全て、あの男が与えたものだ。本棚も、椅子も、机も。


喉の奥の熱がまだ引かない。


――――

貯金残高:2,170,500円 / ダンジョン蓄積魔力:638

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)


【ダンジョン構成】

入口 → 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 物資補給エリア → 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――


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