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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第43話 自分の部屋

翌朝、ユキと一緒に祖父母の家に向かった。


居住エリアから火山エリアを通って、ダンジョンの入口まで戻るだけでも一苦労だ。これが今日で最後になると思えば、我慢もできる。森エリアを足早に通過し、入口をくぐって外に出た。朝の空気が肌に心地いい。夏の朝はいい。日中の暑さが嘘のように涼しい。


裏山の小道を下り、すぐに祖父母の家が見えた。


「ここだ。」


鍵を開けて、玄関を開ける。埃っぽい空気が鼻についた。最後に来たのは、リンドヴルムの召喚前だったか。最低限の修繕はしてあるが、生活感はゼロに等しい。


ユキが玄関先から中を見渡した。


「……質素ですね。」


「悪かったな。」


「あ、いえ、悪い意味ではありません。ご主人様らしいと思いまして。」


褒められているのか微妙なラインだが、ユキの表情は穏やかだった。

家の中を簡単に案内した。6畳の和室が2つ、台所、風呂、トイレ。それだけだ。家具はほとんど処分してしまったので、がらんとしている。


「転移陣はどこに設置する?」


「あちらがよろしいかと。人目に触れず、十分な広さがあります。」


奥の和室に入った。ユキが畳の上にしゃがみ、指先で空中に何かを描き始める。指の軌跡に沿って、淡い蒼の光が紋様を形作っていく。幾何学的な円と、その内側に複雑な線が絡み合う模様が畳の上に浮かび上がった。


ものの5分で、直径2メートルほどの魔法陣が完成した。


「これで居住エリア側と接続されました。発動してみましょう。」


ユキが魔法陣の中央に手をかざすと、蒼い光が一際強く輝いた。足元から引っ張られるような感覚。視界が白く飛んで、次の瞬間には居住エリアのリビングに立っていた。


「おお。」


一瞬だった。火山エリアを20分かけて通過していたのが嘘のようだ。


「おかえりっす! もう出来たんすか!」


ハヤテが椅子から立ち上がって駆け寄ってきた。


「めちゃくちゃ早いっす! あ、ご主人。さっき森エリアがざわざわ言ってたっすよ。自分が見てくるっす。」


ハヤテが翼を広げてリビングを飛び出していった。朝から攻略者が来ているようだ。


「さて。」


改めてリビングを見回す。テーブル、椅子、最低限の調理スペース。壁は石材のまま。照明は天井の光源が1つ。確かに殺風景だ。昨夜ハヤテが言った通り、生活する場所としてはあまりにも味気ない。


「リビングの改装をやるか。」


意識をダンジョンに向ける。脳裏にダンジョン全体のイメージが広がり、居住エリアの構造が浮かぶ。家具の生成メニューに意識を集中させると、選択肢がずらりと並んだ。ソファ、テーブル、棚、照明器具、カーペット。種類も素材も、思った以上に豊富だ。


まずはソファ。大きめの、4人が並んで座れるやつ。生成コストは蓄積魔力3。安い。ポーションとかの不思議物質より、こういう家具などはコストが安いようだ。

生成を実行すると、リビングの壁際に革張りのソファが出現した。


「おお。」


座ってみる。悪くない。硬すぎず柔らかすぎず。


続けて照明を追加した。天井の光源を暖色系に変更し、壁にも間接照明を2つ。カーペットを敷き、棚を1つ設置する。本やら何やらを置けるやつだ。テーブルも一回り大きいものに入れ替えた。


リビングの空気が一変している。さっきまでの石造りの無機質な部屋が、ちゃんとリビングになった。


「悪くないな。」


自画自賛していると、ダンジョンの機能メニューの中に見慣れない項目が目に留まった。


【情報端末】


何だこれは。


意識を集中して詳細を読む。壁面に設置する大型の情報端末。ダンジョンの状態――エリアの稼働状況、蓄積魔力の推移、来訪者の動向、アイテム在庫、生成可能な設備やアイテムの全カタログ――を表示し、操作用の端末を介してダンジョンの機能にアクセスできる。


――これを使えば、つまり眷属たちが自分でダンジョンの機能を確認して、操作できる?


今まで、ダンジョンの操作は全て俺が意識を集中して行っていた。何が生成できるのか、どんな機能があるのかも、俺が1つずつ脳内のメニューを辿って確認するしかなかった。正直、膨大な量の情報があって、全容を把握しきれていない自覚がある。


この端末があれば、眷属たちが自分で調べられる。俺が見落としている機能を見つけてくれるかもしれない。


設置コスト:蓄積魔力50。


高い。だが、今後の運営効率を考えると――。


「……やるか。」


迷ったのは数秒だった。生成を実行する。


リビングの壁の一面が、淡く光った。石材の壁面に大きな画面が浮かび上がる。横幅は2メートルほど。ダンジョンの全体マップが表示されている。入口から森エリア、物資補給エリア、火山エリア、居住エリア、コアの小部屋。各エリアの現在の状態がリアルタイムで更新されている。森エリアには攻略者を示す光点が2つ。


同時に、テーブルの上に小さな板状の端末が1つ出現した。操作用のリモコンだ。


「ご主人様、これは。」


ユキが壁面のモニタに目を向けた。


「情報端末。ダンジョンの状態が見られて、このリモコンで操作もできる。俺以外でも。」


ユキの目が見開かれた。


「……画期的ですね。」


「今まで俺だけが脳内で確認してたけど、正直全部は把握しきれてなかった。これなら、みんなで分担して調べられる。」


リモコンを取って、ユキに渡した。ユキが受け取り操作する。壁面のモニタの表示が切り替わり、生成可能なアイテムの一覧が展開された。ポーション、食料、装備品、家具、設備。カテゴリごとに整理されて、それぞれのコストも表示されている。


「これは……かなりの量ですね。」


「だろ。俺も半分も見てない。」


ユキがリモコンを操作して、カテゴリを次々と切り替えていく。その目が真剣だった。知識欲の強いユキにとって、この端末は最高のおもちゃかもしれない。


火山エリアの対応を終えて戻ってきたハヤテが、リビングの変化に目を丸くした。


「えっ、なんすかこれ! めっちゃ変わってる! あとそのデカいの何すか!」


「情報端末。ダンジョンの機能が全部見られる。操作もできる。」


「マジっすか!」


ユキがハヤテにリモコンを渡すと、目を輝かせてさっそくいじり始めた。

リンドヴルムが廊下から顔を出した。騒がしさに釣られたらしい。壁面のモニタと、リモコンを握って興奮しているハヤテを見て、紫の瞳が細まった。


「何じゃ、騒がしい。」


「リンドヴルムさん、これ見てくださいっす! ダンジョンで作れるもの全部出てくるっすよ!」


今度はハヤテがリンドヴルムにリモコンを渡した。受け取ったリンドヴルムがリモコンを裏表ひっくり返して眺めた。


「……この小さき板で、あの壁の絵が動くのか。」


「触ってみてくれ。」


リンドヴルムがリモコンを操作した。壁面のモニタが切り替わり、火山エリアの詳細が表示された。低級竜の配置状況、エリア内の温度分布、地形データ。リンドヴルムの目つきが変わった。


「……ふむ。これは確かに便利じゃな。」


全員が揃ったところで、本題に入った。


「で、今日はもう1つやりたいことがある。部屋の改装だ。」


ハヤテが即座に反応した。


「来たっす!」


「蓄積魔力を30ずつ渡す。その範囲で、自分の部屋を好きにいじっていい。」


3人の視線が集まった。ハヤテは興奮、リンドヴルムは興味、ユキは驚き。


「好きに、でよろしいのですか。」


「ああ。情報端末で何が作れるか調べて、30の範囲で自分の好きなようにしてくれ。ただし、1人ずつな。モニタは1つしかないから。」


「自分から! 自分からいいっすか!」


ハヤテが挙手した。翼まで開いている。


「どうぞ。」


ハヤテがモニタの前に陣取った。リモコンを操作して、生成可能な家具・設備のカタログを猛スピードで確認していく。


「天窓……天窓あるっす! 疑似天窓、環境制御で空を映すやつ! コスト2! 安い!」


ハヤテの目が輝いた。群れを飛び出して放浪していたくらいだ。閉じた空間が苦手なのは分かる。


「ハンモック……寝具カテゴリ……あった! 天井固定型! コスト3!」


「ベッドじゃなくてハンモックなのか。」


「高いところで寝たいんすよ。ホークアイは木の上で寝る種族なんで。ベッドだと地面が近くて、なんか落ち着かなかったんすよね、実は。」


初耳だった。今まで言わなかったのか。


「装飾品……おお、あるある。光る鉱石のオブジェ、コスト1。壁掛けの飾り、コスト1。」


ハヤテがカタログをスクロールするたびに、キラキラしたものを見つけて声を上げる。言わないけど、カラスみたいだな。


「えーと、天窓2、ハンモック3、装飾品いくつかで……28! 2余った!」


「きっちり使い切らなくてもいいんだぞ。」


「もったいないじゃないっすか。あ、風通し機能、コスト2。これだ!」


30ぴったり使い切って、ハヤテが自分の部屋に走っていった。生成を実行する音がして、しばらく沈黙。


「……最高っす。」


部屋の中から、心底幸せそうな声が聞こえた。


覗いてみると、天井近くにハンモックが吊るされ、そこにハヤテが翼を半開きにして寝転がっていた。天井には青空が映り、微かに風が吹いている。壁にはキラキラ光る鉱石のオブジェがいくつか飾られ、ハヤテの金色の瞳に光を反射させていた。


鳥の巣みたいだな、と思った。


「巣じゃないっすよ。」


「まだ何も言ってないが。」


「顔に書いてあったっす。」


ハヤテがハンモックの上でにへらと笑った。


「……まあ、巣っす。」


満足そうでよかったよ。


リンドヴルムが次にモニタの前に座った。


操作には戸惑わなかった。ハヤテのやり方を後ろから見ていたのだろう。指先でリモコンを操り、家具のカテゴリを静かにスクロールしていく。


「重厚木製テーブル、コスト5。」


リンドヴルムの指が止まった。次のページに進む。


「椅子……大型、高背、コスト4。」


迷いがない。見た瞬間に自分に合うかどうかを判断している。


「カーペット、深色、コスト3。照明、暖色間接型、コスト2。本棚、大型、コスト5。」


本棚か。リンドヴルムも読書をするのだろうか。いや、今は本がないか。今度聞いてみよう。


「書斎机、コスト4。」


リンドヴルムは30の魔力を使い切らなかった。合計23。残り7を黙って返してきた。


「余りはどうする?」


「必要なものは揃えた。無駄に使う趣味はない。」


リンドヴルムが自室に向かった。俺とユキも後について覗く。


重厚な木のテーブルと書斎机が部屋の両端に配置され、深い色のカーペットが床を覆っている。大ぶりの椅子が1脚、テーブルの前に。背の高い本棚が壁に沿って立ち、暖色の間接照明が部屋全体を柔らかく照らしていた。


リンドヴルムが椅子に腰を下ろし、腕を組み、目を閉じた。


立ち上がる気配がない。


「リンドヴルムさん、めっちゃ馴染んでるっす。」


ハヤテが、俺の後ろから覗き込んで言った。リンドヴルムが片目だけ開けて、ハヤテを睨んだ。


ハヤテが首をすくめる。


「褒めてるっすよ。」


リンドヴルムは再び目を閉じた。口元が微かに緩んでいたのは、見間違いかもしれない。


最後にユキの番が来た。


ユキがモニタの前に座り、リモコンを受け取った。


画面にカタログが表示される。家具、寝具、照明、装飾品、環境設定。膨大な選択肢が並ぶ。


ユキの指が、動かなかった。


ハヤテは即座にカタログを駆け回り、リンドヴルムは迷いなく必要なものだけを選んだ。ユキは、リモコンを持ったまま画面を見つめていた。


1分。2分。


「決まらないか?」


声をかけた。ユキが振り返った。


「……申し訳ありません。何を選べばいいのか。」


「謝ることじゃない。」


ユキは長い間、自分のために何かを望むということをしてこなかった。封印される前は守護者として戦い続け、封印された後は暗闇の中で時間だけが流れた。ここに来てからも、ユキがやってきたのは常に俺や仲間のためのことだ。自分の部屋を自分のために整えるという行為自体に、多分慣れていない。


「じゃあ、俺から提案していいか。」


「ぜひ、お願いします。」


「本棚と、読書スペース。椅子と小さなテーブルがあれば十分だ。自分の時間に知識を深められる場所があってもいいだろ。本は今度、外で買ってくる。それから、観葉植物なんてのもあるんだぞ。気に入ってくれるはずだ。」


ユキがこちらを見た。蒼い瞳が、少しだけ揺れた気がした。


「……本棚、コスト5。読書用の椅子、コスト2。小テーブル、コスト2。」


躊躇いがちに選んでいく。


「寝具の変更……柔らかい素材への入れ替え、コスト3。ブランケットの追加、コスト1。小さな草花、コスト1。」


「合計14です。残りをお返しします。」


「全部使っていいんだぞ。」


「十分です。」


生成を実行した。ユキの部屋を覗く。


壁際に背の高い本棚が立っている。まだ空だ。その隣に、座り心地のよさそうな椅子と小さなテーブル。ベッドには柔らかそうなマットレスが敷かれ、畳まれたブランケットが置かれていた。


ユキが部屋の中をゆっくりと見回した。本棚の前で立ち止まり、空の棚板に指先を触れた。それからベッドに歩み寄り、ブランケットの端を手に取った。


しばらく、何も言わなかった。


「……ありがとうございます。」


静かな声だった。


「本は、一緒に選んでいただけますか。」


「もちろん。今度、街に行こう。」


ユキが頷いた。その手はまだブランケットの端を握っていた。


改装後のリビングに全員が戻ってきた。


ハヤテがソファに飛び込み、リンドヴルムが端の席に腰を下ろし、ユキが茶を淹れ始めた。壁面のモニタにはダンジョンの全体マップがリアルタイムで表示されていて、森エリアの攻略者の光点がゆっくり動いている。


「ご主人。」


ハヤテがリモコンを片手に、モニタを覗き込んでいた。


「この『環境制御オプション一覧』ってやつ、見たことあるっすか?」


「いや。」


「エリアごとに気温、湿度、重力、時間感覚って項目があって、全部個別に設定できるみたいっす。重力って何すか?」


「重力を変えられるのか……。」


知らなかった。メニューの奥の方にあるから見落としていたのだろう。訓練エリアの設定には重力調整の記載があった気がするが、実際に使ったことはない。


「ほかにもなんかいっぱいあるっすよ。『音響設定』とか『光源カスタマイズ・詳細』とか。」


「……こんなにあったのか。」


何だこれは。ライブ会場でも作れというのか。


50の魔力は高かったが、この便利さを鑑みると、安い買い物だったかもしれない。


――――

貯金残高:1,162,500円 / ダンジョン蓄積魔力:235

HP:9,100 / MP:17,600 / STR:10,600 / VIT:10,200 / DEX:9,700 / INT:15,000

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)


【ダンジョン構成】

入口 → 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 物資補給エリア → 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――


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