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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第42話 転移陣

バスを降りて、祖父母の家の前を通り過ぎる。相変わらずの古びた木造一軒家。ここに引っ越してきた時は瓦が割れて縁側の木も腐りかけていたが、最低限の修繕だけはしてある。最低限の、だ。


住めるようにはしたが、快適かと問われると首を傾げる程度の仕上がり。最近はダンジョンの居住エリアで寝泊まりしているから、この家に戻る用事もめっきり減った。


裏山の小道を登り、ダンジョンの入口をくぐった。


森エリアを抜ける。夕方だが、まだ攻略者が何組か残っている気配があった。木々の間を縫うように進み、物資補給エリアを通過する。棚の商品はほとんど捌けている。午後には品薄になるとダンジョンボードで読んだが、実物を見ると確かにスカスカだ。


火山エリアに入った。溶岩の熱気が全身を包む。頭上を低級竜が1体、旋回しているのが見えた。こちらを認識しているはずだが、攻撃してくる様子はない。リンドヴルムの躾が行き届いている。とはいえ、もし攻略者がこの時間帯に残っていたら鉢合わせるリスクがある。ソロの攻略者で通すにも限界がある。やはりこの移動問題は早急に何とかしないといけない。


火山エリアを抜け、居住エリアの扉を開けた。


「おかえりなさいませ、ご主人様。」


ユキがリビングのテーブルで茶を淹れていた。俺の姿を見て、静かに立ち上がる。


「ただいま。」


「おかえりっす! ご主人!」


ハヤテが奥の部屋から飛び出してきた。翼が半開きのまま、目をキラキラさせている。


「試験、どうだったんすか!」


「合格。」


「マジっすか! やったっすーー!」


ハヤテが跳び上がった。翼が全開になり、天井すれすれまで浮き上がる。リビングの空気がバサバサと揺れて、テーブルの上の湯呑みが危うく倒れかけた。ユキが無言で湯呑みを押さえる。


「ハヤテ、室内で飛ばないでくれ。」


リンドヴルムが廊下の奥から姿を現した。紫の瞳がこちらを見る。


「戻ったか。」


「ああ。Cランクに上がった。」


「ふん。当然であろう。」


リンドヴルムはそれだけ言って、定位置の椅子に腰を下ろした。


「戦闘試験は満点評価だったらしい。ただ、筆記がギリギリでな。24問正解で、合格ラインちょうど。」


「お主、頭は弱いのか。」


「……随分はっきり言ってくれるな。前回はひかりがノートを作ってくれたんだが、今回は独学だったから。」


「ご主人、自分がノート作るっすよ! ……あ、自分も読み書きあんまり得意じゃないっす。」


「その申し出だけで十分だよ。」


茶を飲みながら、話題を切り替えた。


「それで、今日みんなに相談がある。ダンジョンの現状について、一回ちゃんと整理しておきたい。」


ユキが静かに頷いた。ハヤテも姿勢を正す。リンドヴルムは目を閉じたままだが、耳は傾けている。


「まず、来訪者がかなり増えた。ダンジョンボードを見た感じだと、遠征で片道3時間かけてくる攻略者もいる。火山エリアも評判が良い。」


「ふむ。わらわの竜は、そう容易くは抜けぬ。」


「頼もしいよ。で、課題が3つある。」


指を折って数えた。


「1つ目。物資補給エリアの品揃え。今はポーションと携帯食料と強化丸薬だけだが、解毒薬や状態異常回復系の薬も欲しいって声が多い。火山エリアに行く前に消耗品を全部揃えたいってニーズがある。」


「確かに、森エリアには毒のある樹木もありますし、火山エリアでは火傷などもあるでしょう。」


「ああ、まずは解毒薬と状態異常回復系を追加しよう。生成コストはポーション(低)と同じでそれほど高くない。ポーションも、中・上級者向けにポーション(中)を足しておこうと思う。」


意識をダンジョンに向ける。脳裏にダンジョン全体のイメージが広がり、物資補給エリアの棚の構成が浮かぶ。商品リストに解毒薬と状態異常回復薬を追加する。


「登録完了。補充は随時だな。とりあえず初期在庫を作っておく。」


蓄積魔力がさらに減る。だが、来訪者が増えている今なら1日で回収できる程度だ。


「2つ目。宿泊の需要が出てる。遠征組が日帰りだときついらしい。これは蓄積魔力がもう少し貯まってからだな。宿泊エリアを作るとなると、それなりのコストがかかる。」


「急がずとも問題ありません。現在のペースであれば、数週間で十分ではないでしょうか。」


「そうだな。追い追いやっていく。」


「3つ目。これが一番切実なんだが、ダンジョン内の移動だ。」


全員の視線が集まった。


「火山エリアが広いから、入口から居住エリアまでの移動にかなり時間がかかる。しかも、途中で攻略者と鉢合わせるリスクがある。俺がダンジョンマスターだって知られるわけにはいかない。」


「あ。火山エリアで、ご主人にだけ攻撃してこないの、逆に怪しまれないっすか?」


ハヤテの指摘は的確だった。リンドヴルムの竜はマスターである俺を攻撃しない。もし攻略者がその場にいたら、「なぜこいつだけ攻撃されないんだ」と疑われる。


「それもある。要するに、入口と居住エリアを直接行き来できる手段が欲しい。ダンジョンの機能でショートカット通路みたいなものを作れないかと思ったんだが……。」


意識をコアに向けて確認してみる。エリアの追加や環境の変更はできるが、既存エリアを迂回する隠し通路のような機能は見当たらない。ダンジョンの構造はエリア単位で管理されていて、エリアを飛ばして接続する仕組みは存在しないらしい。


「駄目だな。そういう機能はないみたいだ。」


「ご主人様。」


ユキが口を開いた。


「転移陣であれば、私の魔法で設置が可能です。」


「転移陣?」


「はい。2地点間を魔法で接続し、瞬時に移動する陣です。設置には相応の魔力を消費しますが、一度設置すれば維持コストはほとんどかかりません。」


「それは助かる。居住エリアとダンジョンの入口に設置すれば――」


「ですが。」


ユキが遮った。


「入口付近は攻略者が最も多く通過する場所です。いくら隠しても、完全に気づかれなくすることは困難です。見慣れない魔法陣の存在が知られれば、マスターの正体への詮索が加速しかねません。」


確かに。ダンジョンボードの考察スレを思い出す。今でさえ「マスターって何者?」というスレッドが立っている。


「……それはまずいな。」


「はい。ですので、転移陣の片方はダンジョンの外に設置することを提案します。攻略者の目に触れない場所であれば、リスクはありません。」


ダンジョンの外。

俺は考え込んだ。ダンジョンの外で、居住エリアに繋がる転移陣を置ける場所。人目につかず、俺がすぐにアクセスできて、しかも転移陣を隠せる場所。

しばらく沈黙が続いた。


「……あ。」


頭の中で、古びた木造の一軒家が浮かんだ。

祖父母の家だ。

裏山のダンジョン入口から歩いてすぐの場所にある。人目につかない。鍵も俺しか持っていない。


「祖父母の家がある。ダンジョンの入口のすぐ近く。あそこに転移陣を設置すれば、家の中から直接居住エリアに飛べる。」


「適切な場所かと存じます。ダンジョン外であれば、攻略者に発見されるリスクはほぼゼロです。」


「じゃあ、それで決定でいいな。」


「はい、ですがもう一つ。」


ハヤテが首を傾げた。


「もう一つっすか?」


ユキが頷いた。


「転移陣の発動には私の魔力が必要です。私が側にいなければ、転移陣は起動しません。つまり、ご主人様が外出先からお戻りになる際は、私にご連絡いただく必要があります。」


「帰る時はユキに連絡して、陣を起動してもらう。逆に、出かける時はユキがいる居住エリアから家に飛ぶってことか。」


「その通りです。多少の不便はありますが、火山エリアを毎回通過する現状と比べれば。」


「やろう。ユキ、設置を頼む。」


「かしこまりました。ご祖父母のお宅の方は、私はまだ存じませんので、ご主人様にお立ち会いいただきたいです。本日は遅いですので、明日にでも。」


「分かった。居住エリア側は先に準備できるか?」


「はい。今夜中に。」


「ありがとう。さて。」


残りの茶を飲み干して、全員を見回した。


「課題の整理は以上だ。品揃えは対応済み、移動は明日で解決する。宿泊エリアは魔力が貯まり次第。他に何か――」


「部屋っす!」


言い切る前にハヤテが挙手した。勢いよく。翼まで開いている。


「部屋?」


「自分たちの部屋っす! 今、ベッドとテーブルと椅子しかないじゃないっすか。殺風景っすよ! もうちょっとこう、良い感じにしたいっす!」


ハヤテが身振り手振りで訴える。翼がバサバサと動いて、またテーブルの湯呑みが揺れた。


「……ハヤテ。」


「ご、ごめんなさいっす。」


ユキの冷たい視線を受けて、ハヤテが縮こまったので、助け船を出してやる。


「良い感じ、というのは具体的にどういう?」


「うーん、なんというか……自分の部屋に、自分の居場所って感じが欲しいんすよ。ベッドで寝るのも悪くないんすけど、ホークアイ的にはもうちょっと高いところに巣っぽいのとか、キラキラした装飾品が欲しいっていうか。あと、共用のリビングもなんか物足りないっていうか。みんなで過ごす場所なのに、テーブルと椅子だけって寂しくないっすか?」


リンドヴルムが片目を開けた。


「……一理ある。」


「リンドヴルムさんもそう思うっすか!」


「確かに現状は、わらわが住むには少々貧相じゃな。」


ハヤテの目がさらに輝いた。リンドヴルムは再び目を閉じたが、口元が緩んでいた。


「なるほどな。確かに、居住エリアは最初に急いで作ったから最低限の設備しかない。」


引っ越してきたばかりの頃を思い出す。あの時は余裕がなくて、寝る場所を確保するのが精一杯だった。今は当時よりずっと余裕がある。


「分かった。部屋の改装、考えてみるか。」


「マジっすか! やった!」


ハヤテが再び跳び上がりかけたが、ユキの視線を感じたのか、翼を畳んで着地した。学習能力はあるらしい。


「ただし、明日は転移陣の設置が先だ。部屋の話はその後でいいか?」


「もちろんっす! あ、でも考えとくのはいいっすよね? 今夜、どんな部屋がいいか考えとくっす!」


「あぁ、そうしてくれ。」


ハヤテが嬉しそうに自分の部屋に走っていった。ドアが閉まる音がして、中からバサバサと翼を動かす音が聞こえる。


リンドヴルムが立ち上がった。


「わらわも休む。」


「ああ。いつもありがとう。」


リンドヴルムは振り返らずに片手を上げ、廊下に消えた。

リビングに俺とユキが残った。


「ユキ。」


「はい。」


「……ありがとうな。いつも的確で助かる。」


「もったいないお言葉です。」


Cランクになって、ダンジョンの課題も1つずつ片付いていく。ひかりが戻ってきた時に、少しでもいい状況を作っておく。そのために、やれることをやる。


明日は転移陣の設置だ。祖父母の家、久しぶりに掃除しないとな。


――――

貯金残高:1,124,500円 / ダンジョン蓄積魔力:339

HP:9,100 / MP:17,600 / STR:10,600 / VIT:10,200 / DEX:9,700 / INT:15,000

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)


【ダンジョン構成】

入口 → 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 物資補給エリア → 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――


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