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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第37話 レオパ

砕けた岩の上に腰を下ろした俺の向かいに、つむぎが体育座りで縮こまっている。ユキは2歩ほど後ろに控えていた。


「まず、さっきの乱暴を詫びる。怖い思いをさせた。」


「……は、はい。」


つむぎの声はまだ震えていた。膝を抱えた両腕に力が入っている。


話すなら、こっちから手札を見せるのが筋だろう。


「実は俺も、ダンジョンマスターだ。」


つむぎの目が丸くなった。


「……え?」


「攻略者もやってるが、それとは別に自分のダンジョンを持ってる。運営のことで分からないことが多すぎて、他のマスターに直接聞きたかったんだ。それでここまで来た。」


つむぎは数秒、口を開いたまま固まっていた。


「ダンジョンマスターが、攻略者もやってるんですか……?」


「必要に迫られてな。金も魔力も足りなくて。」


「で、でも、マスターって攻略者の敵じゃ……。」


「普通はそうだな。でも俺のダンジョンは攻略者を殺さない方針でやってる。滞在してもらって、その間に魔力を少しずつ吸収する。言ってみれば、サービス業みたいなもんだ。」


つむぎの表情が、怯えから困惑に変わった。理解が追いついていない顔だ。


「……サ、サービス業……?」


「ポーションや装備を売って、実戦エリアを使ってもらう。攻略者が長くいてくれるほど魔力が溜まるから、居心地のいいダンジョンにした方が得なんだ。」


「そんなことが……できるんですか……。」


つむぎが膝を抱えたまま首を傾げた。信じられない、という顔ではなく、考えたこともなかった、という顔だ。


「今もまだ手探りだけどな。」


俺がそう言うと、つむぎの肩から力が抜けた。変わり種だがマスターという同じ立場の人間がいる。それだけで、安心したのかもしれない。


「ちなみに、どうしてマスターになったんだ?」


「……ハイキングです。」


「ハイキング?」


「大学2年の夏に、山を歩いてて……道を外れちゃって。ほとんど遭難です。気づいたら、洞穴の中にいて……頭に声が聞こえて、マスターになってました。」


声のトーンが沈んでいく。


「それから、ずっとここにいます。2年くらい……。攻略者が入ってくるのが怖くて、とにかく深いところを守ろうって。モンスターを増やして、階層を重ねて……。いつのまにか攻略者も来て、どうしたらいいか分からなくて。」


2年間、この最深部に一人きり。攻略者が怖いから防衛を重ねて。


「実家にも帰れてないし、大学も行けてないし……。」


「そうか。……俺はダンジョンの外に出てるけど、マスターだってことは周りに隠してる。」


「え、そうなんですか?」


「攻略者として活動してるから、バレたら色々まずい。」


つむぎが少しだけ顔を上げた。同じ秘密を抱えている人間がいる、という事実に反応したらしい。


話を変えよう。重い話が続くと、この子の緊張が解けない。


「ところで、前から気になってたんだけど。ここのモンスター、ほとんど爬虫類系だよな。リザードにワイバーン、ドレイク、バジリスク。なんでこんなに偏ってるんだ?」


つむぎが一瞬きょとんとした。


「あ……それは……わたしの趣味で……。……わたしが、爬虫類、好きだから……。」


「好きだから?」


「はい……。実家でレオパ飼ってて……。ヒョウモントカゲモドキっていう種類なんですけど。わたしの子はスーパーマックスノーっていう品種で、全身が白っぽくて黒い斑点がぽつぽつあって、目が真っ黒で……すごく綺麗なんです。」


さっきまで語尾が消え入りそうだったのに、突然はきはきと喋り始めている。目の輝きまで違う。


「レオパって温度管理が大事なんですけど、スーパーマックスノーは視力がちょっと弱い個体が多くて、餌を見つけるのに時間がかかるんです。だからピンセットで口元に持っていってあげると……ぱくって食べるんですけど……その顔がもう……。」


つむぎの目が完全に据わっていた。


「それと、脱皮の時期は湿度を上げてあげないといけなくて、ウェットシェルターの水を毎日替えて……。あ、シェルターっていうのは隠れ家のことで、素焼きのやつが一番いいんです。保湿性が高いから。ちなみにうちの子は脱皮が下手で、毎回しっぽの先だけ残るんですけど、そこをぬるま湯でふやかしてそっと剥いてあげると……。」


「分かった分かった。」


俺が手を上げて止めなければ、たぶんこのまま1時間くらい喋り続ける。


「……あ。す、すみません。つい……。」


つむぎが真っ赤になって口を押さえた。


「いや、いいんだけど。爬虫類の話になると人が変わるな……。」


「よく言われます……。」


まぁいい。空気がだいぶ柔らかくなった。ここからが本題だ。


「本題なんだけど、いくつか教えてほしいことがある。モンスターのリポップの仕組みとか。」


「リポップですか?」


「俺のダンジョンにもモンスターを配置する予定なんだけど、正直、仕組みを理解してない。一度倒されたモンスターって、どうやって復活するんだ?」


つむぎは体育座りのまま、少し考える仕草を見せた。


「えっと……わたしも独学なんで、正しいか分からないですけど……。モンスターの配置って、最初にダンジョンの魔力を使って生成しますよね。」


「ああ。」


「一度配置したモンスターは、攻略者に倒されても一定時間が経てば同じ場所に再出現します。追加のコストはかかりません。」


「消費なしで自動リポップするのか。」


「はい。ダンジョンに、モンスターの情報が刻まれるみたいな感じで……。一度刻まれたら、壊されてもまた同じ形に戻るんです。」


知らなかった。リンドヴルムの低級竜はまた別物だろうけど、今後モンスターを配置したときに、自動的にリポップするのは嬉しい。


「リポップの間隔は?」


「たぶん、モンスターの強さで変わります。弱いモンスターならすぐ。強いのは半日から1日くらい。わたしのところだと、ロックリザードは3時間くらいで戻りますけど、ロックタイタンは……壊されたことがなかったので、分からないです。」


最後の一言に、微かな恨みがこもっていた気がする。すまん。


「マスターが意図的にリポップを止めたり、間隔を変えたりはできるのか?」


「止めることはできます。でも間隔を短くするのは……たぶんできないと思います。」


なるほど、リポップ速度そのものはダンジョン側の自然なサイクルに任せるしかないわけだ。


「あと一つ。異種のモンスターを同じ階層に置いた場合、喧嘩したりしないか?」


「同じマスターのダンジョン内なら、基本的に共存します。マスターの魔力がモンスター同士の敵対行動を抑制するので……。」


ありがたい。その理屈が分かっただけでも収穫だ。


「助かった。ありがとう。」


「い、いえ……わたしの知識が合ってるか、自信ないですけど……。」


「実体験に基づいてるなら、十分だ。」


その後もしばらく他愛もない話をした。


「じゃあ、そろそろ帰るよ。長居して悪かった。」


立ち上がると、つむぎも慌てて立ち上がった。


「あ、あの……また、来られるんですか……?」


「またダンジョンについて聞きたいことがあったら来るよ。それに攻略者としては普通に来るかもしれない。ここは俺がいつも潜ってるダンジョンだからな。」


「あ……そう、ですよね。えっと……モンスターは、勝手に攻撃しますけど……いいですか?」


「もちろん。ダンジョンマスターとして当然だろ。」


つむぎが少し安心したように頷いた。


「……じゃあ、その、お気をつけて……。」


「ああ。そっちも元気で。」


背を向けて歩き出す。ユキが音もなく隣に並んだ。


……と、一つ思い出した。


「道中で倒したモンスターの魔石、拾って帰ってもいいか……?その、金欠で……。」


つむぎはぽかんとした顔でしばらく固まった後、少し笑ってくれた。


「ふふっ、はい、大丈夫ですよ。私は外に出ないので、必要ないですから。」


「助かる。」


帰路は来た道を戻るだけだ。リポップまでの時間を考えると、深層のモンスターはまだ復活していないはず。

翠嶺洞を出て、バスと電車を乗り継ぐ。夕方の車内は空いていて、俺とユキは並んで座っていた。ユキは変化の魔法で耳を隠し、白銀の髪を一つに束ねている。


「意外な方でしたね。」


ユキが窓の外を見ながら言った。


「ああ。翠嶺洞の深層を作ったのがあの子だとは思わなかった。」


「立ち向かってきた胆力は、評価に値します。」


「泣きながら竜になって突っ込んでくるのは、さすがに予想してなかったけどな。」


ともかく、ダンジョンについていろいろ聞けたのは助かったな。今日拾ってきた魔石は、明日換金に行こう。


――――

貯金残高:398,500円 / ダンジョン蓄積魔力:104

スキル:【剣術】Lv.5 / 【身体強化】Lv.5 / 【戦闘機動】Lv.3 / 【危機感知】Lv.3 / 【状態異常耐性】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)


【ダンジョン構成】

入口 → 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 物資補給エリア → 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋

――――

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― 新着の感想 ―
仮に実際には難しいにしても ご実家への手紙やら伝言やら、せめて様子を見に行くか?位さえ、どっちからも話に出ないのはなんか不自然に感じるなぁ
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