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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第33話 大空洞

朝食を終え、食器を下げたところで本題に入った。


「リンドヴルム、昨日の話の続きだ。新しいエリアの設計を詰めたい。」


リンドヴルムが腕を組んだまま頷く。ユキとハヤテもテーブルに残った。


「まず、今のダンジョンの構造を説明する。」


俺は意識を集中させ、ダンジョン全体の構造を脳裏に思い描いた。入口から奥に向かって一本道で繋がるエリアの配列が、立体的な地図のように浮かび上がる。


「入口から入ると、まず森エリア。ここがユキとハヤテが管理してくれている攻略者向けのエリアだ。その奥に物資補給エリアがあって、ポーションや食料を売っている。さらに奥が訓練エリア、居住エリア、一番奥にダンジョンコアがある。」


リンドヴルムの紫の瞳が、俺の説明を追うように細められた。


「で、この訓練エリアを取り潰して、そこに火山エリアを作る。」


「取り潰す?」


「もともと俺が素振りや打ち込みに使ってた場所だ。今はほとんど使ってない。以前から、いずれ攻略者向けの新エリアに転換しようと考えてた。」


ハヤテが身を乗り出した。


「つまり、森エリアの奥に火山エリアができるってことっすか?」


「そうだ。入口から順に、森エリア、物資補給エリア、火山エリア、居住エリア、コアの小部屋。森エリアが初級者向けの第1防衛ライン、火山エリアが中・上級者向けの第2防衛ラインになる。」


ユキが口を開いた。


「つまり、火山エリアを突破されれば、その先は居住エリアとコアですね。」


「ああ。森エリアは初級者向け、突破前提だ。だからこそ、火山エリアは突破させないつもりで設計する。リンドヴルム、ここが最終防壁になる。重い役目だけど、頼めるか。」


リンドヴルムの尻尾がゆっくりと揺れた。


「最終防壁か。……面白い。」


何とも頼りになるやつだ。


「ありがとう。それで、もう1つ相談がある。エリアを作っても、モンスターがいないと攻略エリアとして機能しない。森エリアにはユキの精霊魔法で操った樹木や植物がいるけど、火山エリアにはそれがない。」


リンドヴルムが片眉を上げた。


「配下の竜であれば、わらわが呼べる。」


「竜を?」


「祖竜は竜族の頂点に立つ者。配下の竜を従え、呼び寄せる力がある。……もっとも、今のわらわは全快には程遠い。呼べるのは知能を持たぬ低級の竜――飛竜の類じゃ。」


飛竜。翠嶺洞の深層にいたロックワイバーンを思い出す。中・上級者向けのエリアには十分な戦力だ。


「それは助かる。ただ、2つ聞いていいか。」


「何じゃ。」


「その竜が……攻略者に討伐されるのは、気にならないか?」


我ながら遠慮がちな聞き方になった。リンドヴルムは竜族の生き残りだ。同族に近い存在が人間に倒される光景は、いい気分ではないだろう。


だが、リンドヴルムは首を傾げるように俺を見た。


「竜と竜族は別物じゃ。」


「……別物?」


「知性を得て進化した者が竜族。竜はあくまで獣に過ぎん、わらわの同胞とは違う。それに、召喚と同時にわらわの加護を受けることになる。よっぽどの相手でなければ、大丈夫じゃろ。」


そこで一拍置いて、リンドヴルムは続けた。


「それに――戦って負けるのであれば、それは己の力が足りなかっただけのこと。討たれた側を憐れむのは、むしろ侮辱じゃ。」


彼女の矜持が滲む。


「……分かった。」


リンドヴルムは「ふん」と鼻を鳴らしただけだった。


「もう1つは、俺はダンジョンで攻略者を殺すことは、あまり考えていないってことだ。勿論、こちらを脅かす存在には容赦しない。だけど、最終的には攻略者を長く滞在させて、このダンジョンの運営を良くしたい。まず、リンドヴルムはこの考えに賛同してくれるか?」


「弱き者をいたぶる趣味はない。別によかろう。」


「ありがとう。で、低級竜って知能がないんだよな?殺すなって言って、理解できるものなのかなって。」


「ふむ、ケルベロスの教育のようなものじゃ。呼び出したときに躾れば、問題あるまい。ただ、己の命が脅かされれば、全力で迎え撃つじゃろうことだけ、頭に入れておけ。」


ケルベロス?と思ったが、こっちで言う犬みたいなものとして納得した。攻略者がガブっといかれないか心配だが、中・上級者向けだし、いいか……。ここは俺自身の安全とのバランスだ、難しいが、さすがに殺されるわけにはいかない。


「了解、よろしく頼むよ。」


さて、問題は実行のタイミングだ。訓練エリアを取り壊して新しいエリアを作るとなると、ダンジョン内部にそれなりの変動が起きる。しかも火山エリアは訓練エリアより遥かに規模が大きい。溶岩が流れる大地に、竜が飛翔できるほどの大空洞。ダンジョン全体への影響がゼロとは思えない。


「攻略者がいる時間帯は避けたい。夜間にやろう。」


ユキが頷いた。


「夜間であれば森エリアの樹木も攻撃態勢に切り替わっていますし、攻略者は入れません。安全です。」


「よし。今夜、日が落ちて攻略者が全員帰った後に実行する。念のため、全員森エリアに集合してくれ。居住エリアは訓練エリアの隣だから、万が一の影響を考えると離れておいた方がいい。」


ハヤテが翼をぱたぱたと動かした。


「了解っす!」


リンドヴルムは何も言わなかったが、異論はないようだった。



日が落ち、最後の攻略者が帰路についたのを確認する。


森エリアの入口付近に、4人が集まった。ユキは静かに佇み、ハヤテは翼を広げていつでも飛び立てる態勢を取っている。リンドヴルムは腕を組んで壁に背を預けていた。


「やるぞ。蓄積魔力、全部使う。」


目を閉じ、意識をダンジョンコアへと向けた。


脳裏に浮かぶダンジョンの全体図。入口から森エリア、物資補給エリア、訓練エリア、居住エリア、コアの小部屋。その中から、訓練エリアの区画を選択する。


取り壊し。


素振り用の広場、打ち込み台、的――それらが魔力の粒子に還元されていくイメージが流れ込んでくる。

続けて、空いた区画に新しいエリアを重ねる。リンドヴルムが語った故郷の情景を思い出しながら、イメージを組み上げた。


溶岩の流れる大地。赤熱する岩壁。そしてそれを覆う、果てが見えないほどの大空洞。


蓄積魔力が一気に吸い上げられる感覚。身体の芯から何かが引き抜かれるような、ぞっとする消耗感。

地鳴りのような振動がダンジョン全体を走った。足元が揺れ、森エリアの樹木がざわめく。ユキが片手を上げ、精霊魔法で樹木を鎮めた。ハヤテが上空に飛び上がり、周囲を旋回する。


数秒で振動は収まった。


「ご主人様、エリアに異常はありません。」


「上空からも多分問題なしっす! 」


拍子抜けするほどあっさりしていた。ダンジョンの構造変更はもっと大事になると覚悟していたのだが、既存エリアへの影響はほぼ皆無だった。


物資補給エリアを抜けた先に、見慣れない通路が伸びていた。かつて訓練エリアへ続いていた通路だ。だが、その先から漂ってくる熱気は、以前とはまるで別物だった。


足を踏み入れる。


熱い。


まず肌を打ったのは、むき出しの熱気だった。空気そのものが揺らいでいる。通路を抜けた先に広がっていたのは、想像以上の光景だった。


赤黒い大地を、橙色の溶岩が幾筋も走っている。岩壁は赤熱し、表面からじわりと陽炎が立ち昇っていた。足元の岩盤は固く、しかし靴越しにも伝わる熱がある。硫黄の匂いが鼻を突き、空気は乾いて喉の奥がひりつく。


そして、上を見上げた。


天井がない――いや、見えない。暗い岩盤の天蓋が遥か頭上に広がり、溶岩の赤い照り返しがその輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。森エリアの何倍もの高さ。竜が翼を広げて飛んでも、まだ余裕があるだろう。


「……すげえ。」


思わず漏れた感想は、我ながら語彙力に欠けていた。


ハヤテが空洞の中を見上げて、翼をばたつかせている。


「これ……広すぎるっす! 自分が全力で飛んでも端まで行くのに結構かかりそうっすよ!」


ユキは黙って空洞を見渡していた。蒼い瞳に溶岩の赤が映り込んでいる。


そして、リンドヴルムが一歩前に出た。

溶岩の照り返しが紫の瞳を赤く染めている。


「――悪くない。」


そう呟くと、リンドヴルムの身体が光を帯びた。


紫の光が膨れ上がる。人の形が崩れ、輪郭が引き伸ばされていく。角が巨大化し、四肢が太い柱のように大地を踏みしめ、背から展開された翼が空洞の幅いっぱいに広がった。


竜だ。


全長は目測で30メートルを超えている。紫がかった鱗が溶岩の光を受けて鈍く輝き、2対の角が天を突くように聳えている。翼の1枚だけで、居住エリアの部屋が丸ごと収まるほどの面積がある。


その竜が、大地を蹴った。


轟音。岩盤が砕け、熱風が渦を巻く。巨体が宙に浮き上がり、翼の一振りで大空洞の中層まで駆け上がった。旋回し、上昇し、降下する。溶岩の赤い光の中を紫色の影が横切るたびに、空洞全体が振動した。


ハヤテが呆然と空を見上げている。


「……マジっすか。」


ユキの蒼い瞳が見開かれていた。


俺もただ、見上げていた。

竜が飛んでいる。自分のダンジョンの中で、竜が飛んでいる。


リンドヴルムが翼を畳み、大地に降り立った。着地の衝撃で足元が揺れる。紫の光が再び灯り、人間の姿に戻った。長い髪が熱気に揺れている。


「……広さは、まあ及第点じゃ。」


あれだけ自由に飛び回っておいて「及第点」はないだろう。


「気に入ってもらえたなら何よりだ。明日から、低級竜の配置を頼んでいいか。」


「任せい。」


蓄積魔力はゼロ。貯金も心許ない。だが、ダンジョンの防衛力と収容力は確実に一段上がった。森エリアで捌ききれなかった中・上級者を火山エリアが受け入れ、リンドヴルムの低級竜が実戦の場を提供する。来訪者の増加に耐えられる体制が、ようやく整い始めた。


ハヤテが興奮冷めやらぬ様子で翼を広げた。


「自分もここで飛んでいいっすか!?」


「好きにせい。ただし溶岩には落ちるでないぞ。」


リンドヴルムの返答に、ハヤテが嬉しそうに飛び立っていく。

ユキが俺の隣に並んだ。


「ご主人様。」


「ん?」


「しばらくは、節約運営ですね。」


「……だな。」


現実を突きつけられた。ユキは淡々としていたが、口元に笑みが浮かんでいた。


――――

貯金残高:300,000円 / ダンジョン蓄積魔力:0

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)

――――


【ダンジョン構成】

入口 → 森エリア(初級者向け/管理:ユキ&ハヤテ)→ 物資補給エリア → 火山・大空洞エリア(中・上級者向け/管理:リンドヴルム)→ 居住エリア → コアの小部屋


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