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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第32話 火山エリア

翌朝、リビングに降りると、リンドヴルムがすでにテーブルについていた。


腕を組み、紫の瞳を閉じている。寝ているのかと思ったが、俺の足音に片目が開いた。


「遅い。」


「……まだ朝の6時なんだが。」


「竜は夜明けとともに起きる。」


そういうものなのか。竜の生態について学ぶ機会は今のところ皆無だったので、素直に受け入れておく。

ユキが台所から顔を出した。手には炊飯器の内釜を抱えている。


「おはようございます、ご主人様。今日は少し早めに準備を始めました。」


「助かる。ありがとう。」


朝食を並べる。白米、味噌汁、焼き魚、漬物。ハヤテもすぐに現れて、4人が揃った。リンドヴルムは昨日と同じように黙々と箸を動かしている。

焼き魚を半分ほど食べたところで、リンドヴルムが箸を置いた。


「昨夜、わらわに何を望むのか聞いてやると言ったな。」


「ああ。」


周りくどい前置きは要らないだろう。リンドヴルムは率直な性格だ。2日間の観察でそれだけは分かった。


「新しいエリアを一つ作りたい。その管理を、リンドヴルムに任せたいと思ってる。」


「……管理?」


「このダンジョンには今、いくつかのエリアがある。森エリアはユキとハヤテが管理してくれている。ただ、来てくれる攻略者が増えて、今のエリアだけじゃ受け入れきれなくなってきた。」


リンドヴルムは黙っている。俺は続けた。


「新しいエリアを作って、そこを任せられる管理者が必要なんだ。リンドヴルム、頼めるか。」


沈黙が降りた。ユキは静かに味噌汁を飲んでいる。ハヤテだけが視線を俺とリンドヴルムの間で忙しなく往復させていた。


「……お主、わらわの力がどれほどのものか、分かっておるのか。」


「正直に言えば、まだ分からない。ただ、ユキが認めるほどの存在だということは分かってる。」


ユキが頷いた。リンドヴルムの視線がユキに移り、すぐに俺に戻った。


「管理などという小間使いのような役目を、祖竜に頼むか。」


試すような響き。


「小間使いとは思ってないよ。エリアが突破されることは、そのまま俺の命の危機につながる。簡単には任せられない。」


これは本音だ。

リンドヴルムの尻尾がゆっくりと床を叩いた。


「……話だけでは分からん。今のダンジョンとやらを見せい。」


「分かった。ユキ、案内を頼めるか?」


「はい。」


ハヤテが手を挙げた。


「自分も行くっす!」


「あー、悪い。ハヤテは監視を頼む。攻略者が来始める時間だ。」


「確かにそうっすね、了解っす!」


ハヤテが翼を広げて飛び出していく。


リンドヴルムが立ち上がった。長い髪が揺れ、角の影が天井を掠める。居住エリアの天井は決して低くないが、2対の角があると圧迫感がある。


居住エリアから通路を抜け、物資補給エリアに出た。


「ここで攻略者に物資を売っている。ポーションや携帯食料がメインだ。」


リンドヴルムは棚を一瞥しただけだった。興味を引くものではなかったらしい。

通路を進み、森エリアの入口に立つ。


木々が鬱蒼と茂る空間が広がっている。天井は高いが、樹木の枝葉が視界を遮り、奥は薄暗い。苔むした地面から湿った空気が漂い、かすかに土と緑の匂いがする。ユキの精霊魔法が行き渡っているエリアだ。


「ふむ、魔力に満ちている。ユキ、お主のものだな。」


「はい。ここは私が管理していますから。」


紫の瞳が森エリアの構造を観察するように動いていたのは見て取れた。

案内を続けようとした時、上空からハヤテの声が降ってきた。


「ご主人! また詰まってるっす! 森の入口から少し進んだところで2組がかち合ってるっす!」


振り仰ぐと、ハヤテが旋回しながら翼で方向を示している。


「……またか。」


森エリアの半ばは通路が狭くなる。そこで先行パーティーと後続パーティーが鉢合わせすると、どちらも進退が取れなくなるので、どちらかは森に分け入って道を譲るしかないが、嫌がる攻略者は多い。最近は来訪者が増えたことで、この手のトラブルが日に何度か起きている。


リンドヴルムが腕を組んだまま、その情報を反芻している。

俺はリンドヴルムの方を向いた。


「見ての通りだ。来てくれる攻略者が増えて、今のエリアじゃ捌ききれなくなってきた。ポーションも午後には品薄になる日が多いし、森エリアでの鉢合わせも増えてる。」


紫の瞳が森エリア全体を見渡すように動き、天井を見上げ、通路の幅を測るように首を巡らせた。


「そこで、新しいエリアだ。リンドヴルム、何か希望はあるか。どんな環境がいいとか。」


間を置いて、リンドヴルムが口を開いた。


「……熱き大地が欲しい。」


「熱き大地?」


「溶岩が流れ、岩が燃え、空気が揺らぐ場所じゃ。」


リンドヴルムの声に、熱が混じった。


「わらわの故郷は、そのような土地であった。火山の麓に竜族の巣があり、溶岩の川が大地を走り、空は火の粉で赤く染まっておった。」


「それから――」


リンドヴルムが天井を見上げた。角の先が天井にぶつかりそうな距離だ。


「広さが要る。翼を広げて飛べるほどの。」


「翼?」


「わらわは祖竜じゃ。本来の姿はこのようなものではない。」


人間形態ではない姿があるということか。考えてみれば当然だ。


「この窮屈な場所では、身体を伸ばすこともできん。」


確かに、竜の姿となれば、森エリアの規模でも狭いくらいかもしれない。もちろんサイズが分からないが。


「火山と溶岩の大地に、飛び回れるほどの大空洞か。」


俺は頭の中でイメージを組み立てた。樹木等の生命が少なめな分、森エリアと同程度のコストで可能そうだ。溶岩の流れる地形、高熱の岩壁、そしてそれを覆う巨大な空洞。天井を吹き抜けのように高く取れば、竜が飛翔できるだけの空間になる。


攻略者にとっては、高熱環境と広大な立体空間。森エリアの平面的な戦闘とは全く異なる挑戦になる。初心者には厳しいが、中・上級者には格好の修練場だ。来訪者の層を広げることにもなるし、森エリアの混雑を分散させる効果もある。


「いいな。それで行こう。」


リンドヴルムが俺を見た。


「……あっさりと決めるのじゃな。」


「リンドヴルムが管理するエリアだ。リンドヴルムが一番力を発揮できる環境がいい。」


「……好きにせい。」


短い返答だった。どうやら嫌な反応ではなさそう、ということは分かってきた。


「ありがとう。準備ができたら声をかける。エリアの細かい設計はリンドヴルムと相談しながら決めたい。」


リンドヴルムが背を向けて、居住エリアの方へ歩き出した。角と尻尾の影が通路の壁に揺れている。途中で一度だけ足を止めて、振り返った。


「……悪くない飯であった。あのエルフに伝えておけ。」


それだけ言って、リンドヴルムは自室に戻っていった。


ハヤテが上空から降りてきた。


「ご主人、今の話聞こえてたっす。火山すね!」


「ハヤテは寒いのとか暑いの、平気か?」


「うーん、自分は空飛んでるっすからね。寒いのは苦手っす!熱いのは結構大丈夫っすね。……あ、でもリンドヴルムさんが竜の姿で飛ぶんすよね? 早く見たいっす!」


「そうだな。俺も見たい。」


ユキが森の奥から戻ってきた。鉢合わせの対応を終えたらしい。


「ご主人様、先ほどの件は解決しました。片方のパーティーを先に進ませ、片方は私が指導しました。概ね満足していたようです。」


「悪いな、毎回。」


「いいえ。問題ありません。それに……。」


ユキの蒼い瞳が、通路の奥――リンドヴルムが消えた方向――を見た。


「リンドヴルムさんのご希望ですか。」


「ああ。故郷に似た環境がいいそうだ。」


ユキが小さく頷いた。


「……良いことだと思います。」


その声には、どこか安堵のような響きがあった。昨夜、自分の過去を語ったユキだ。リンドヴルムの横顔を、静かに見守っていた。


――――

貯金残高:300,000円 / ダンジョン蓄積魔力:500

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)

――――

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