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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第31話 居場所

リンドヴルムが来て、2日が経った。


部屋からほとんど出てこない。朝食を用意して扉の前に置いておくと、いつの間にか皿が空になっている。


「ご主人様、無理に引き出す必要はないかと思います。」


ユキが朝の片づけをしながら言った。


「分かってる。本人のペースに合わせるよ。」


「ハヤテには、扉の前で話しかけないよう伝えてあります。」


「あいつ、やりそうだったか?」


「はい。既に昨日の時点で3回ほど。」


あんなにビビっていたのに……。


日中はいつも通りダンジョンの運営をこなし、夕方になって攻略者が引き上げると、ダンジョンはいつもの静けさに戻る。たまに遅くまで残る攻略者もいるが、うちのダンジョンはわざわざ夜に滞在するメリットが無い。洞穴の奥から微かに風が抜けていく。この時間帯が一番好きだ。


リビングで夕食の準備をしていると、ユキが食材を並べてくれた。今日のメインは魚の煮物。ハヤテの分も含めて4人分を用意する。


皿を並べ終えた頃、彼女は唐突にやって来た。


扉の前に立って、紫の瞳でリビングを見回している。角の影が天井に伸びていた。


「……腹が減った。」


「ちょうど準備できたところだ。座ってくれ。」


努めて普通に返す。ここで大げさに歓迎したら、リンドヴルムは引き返すだろう。


リンドヴルムがテーブルに近づいた。紫がかった長い髪が揺れ、尻尾が床すれすれを掃いている。4つ並んだ椅子のうち、端の席にゆっくりと腰を下ろす。


「おおー、リンドヴルムさん! 出てきたんすね!」


ハヤテが翼をばたつかせながら席についた。ユキの事前注意はどこへ行ったのか。ただ、ハヤテの場合は計算がないから嫌味にならない。


リンドヴルムがハヤテをちらりと見て、何も言わずに箸を取った。ぎこちない手つきで白米をつまむ。

しばらく黙々と食べる時間が続いた。リンドヴルムは煮物を一口含んだ。


「……悪くない。」


「ユキが作ったんだ。」


「ご主人様が味付けの指示をされました。」


「いや、俺は『醤油多めで』って言っただけだ。」


「的確な指示です。」


ユキの真顔での返しに、ハヤテが噴き出した。リンドヴルムの表情は変わらないが、箸の動きが少しだけ早くなった気がする。


食事が終わりに差しかかった頃、リンドヴルムが箸を置いた。


「……一つ、聞かせよ。」


視線がユキに向いた。


「エルダーエルフよ。召喚の場でも聞いたが、お主、なぜこのような場所におる。」


ハヤテの翼がぴくりと止まる。


「エルダーの気配は隠せん。お主の力は、人間の眷属に甘んじるようなものではない。……そうじゃろう?」


遠回しな探りを入れる気はないらしい。


ユキが箸を置いた。蒼い瞳がリンドヴルムを見つめ、その後俺をちらりと見やる。


「……お話しします。」


ユキの過去については、殆ど知らない。瀕死の状態で召喚に応じたこと。エルダーエルフであること、封印されていたこと。それだけだ。


「私はかつて、エルフ族を率い世界の守護者を務めておりました。」


いつもの淡々とした口調だが、いつもと違って視線がどこか遠くを見ていた。


「私は先頭に立って戦いました。長い、長い戦いでした。全てを守るためなら、どんな敵にも臆さなかった。」


箸を置いたまま、ユキの指先がテーブルの上で微かに震えた。


「戦いの果てに、私の身体はもう限界でした。満身創痍とは、あのことを言うのだと思います。……ですが、終わりを告げたのは敵ではありませんでした。」


「守るべきはずの者たちに、裏切られました。」


「理由は分かりません。恐れたのかもしれません。私の力を。あるいは、もう用済みだと判断したのか。……いずれにせよ、私は封印されました。時間の感覚もなく、暗闇の中で、どれほどの時が経ったのかも分からないまま。」


ハヤテが黙って俯いていた。翼が背中にぴったりと畳まれている。


「封印の中で、仲間への信頼は全て失われました。もう誰も信じない。何も守らない。そう決めていました。」


ユキの蒼い瞳が、俺を見た。


「そこへ、ご主人様の召喚が届いたのです。」


胸の奥が、じわりと熱くなった。初めての召喚。何が来るかも分からず、ただ目の前に倒れていた銀髪のエルフに、ありったけのポーションを注ぎ込んだ。


「瀕死の私を召喚し、治療し、文字通りすべてを用意してくださいました。戦えとも、従えとも言わずに。この世界で外出へ連れ出してくれたこともありましたね。」


ユキには珍しく、俺の目を見て微笑んだ。


「あの日から、ここが私の居場所です。」


沈黙が降りた。


ハヤテは目元を翼の先で拭っていた。……涙もろいのか、こいつ。


リンドヴルムは腕を組んだまま動かなかった。伏し目がちに、紫の瞳がテーブルの一点を見つめている。長い沈黙のあと、尻尾がゆっくりと床を叩いた。


「……わらわも、似たようなものじゃ。」


低い声だった。


「竜族を率いていた。他種族との抗争で、族は壊滅した。わらわだけが残り、行く当てもなく彷徨い、力尽きかけていたところを、ここに喚ばれた。何故応えたのかは……わらわにも解らぬ。」


それ以上は語らない。だが、ユキに自分の過去を重ねたことは伝わった。


俺はユキを見た。


「……ありがとう。」


ユキが初めて自分から話してくれたことに対して、ちゃんと受け止めたかった。


「いいえ。……いつかお話ししなければと、思っておりましたから。」


リンドヴルムが椅子から立ち上がった。


「お主。」


俺に向けた声だ。


「うん?」


「……しばらくは、ここにおってやる。わらわに何を望むのか、明日、聞いてやってもよい。」


召喚の日に聞いた「様子を見る」という距離ではなく、もう少しだけ、ここに近い。


「ああ。ありがとう。」


リンドヴルムが背を向けて自室に戻っていく。角と尻尾の影が揺れて、自室の扉が静かに閉まった。


「……泣けるっすね。」


ハヤテが鼻をすすっていた。


「ハヤテ、泣きすぎじゃないか?」


「だって、2人とも辛い過去があるのに、今はここで一緒にご飯食べてるんすよ。それってすごくないっすか!」


「そうだな。ユキのおかげだし、ハヤテのおかげでもある。」


「え?自分っすか?」


「そうだよ。」


そう言って俺はハヤテの頭を撫でつける。


「くすぐったいっす~!あはは!」


ハヤテの明るさにはいつも救われている。


ユキが食器を集め始めた。俺も立ち上がって皿を重ねる。


「ユキ、今日は俺が洗う。」


「……いえ、私が。」


「いいから。今日は休め。」


ユキが一瞬だけ黙って、小さく頷いた。


――――

貯金残高:300,000円 / ダンジョン蓄積魔力:500

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)/ リンドヴルム(祖竜)

――――

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