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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第26話 依頼

朝、居住エリアのテーブルに座って、ノートを広げていた。

といっても大層なものではない。100円ショップで買った大学ノートに、手書きでダンジョンの収支をまとめているだけだ。


数日前に過去最高の来訪者数を記録してから、ダンジョンの稼ぎは目に見えて上向いている。

悪くない。悪くないのだが。


「……足りないな。」


ノートの余白に書き殴った計画メモを睨む。次に欲しいのは、新しい実戦エリアだ。

今のダンジョンで攻略者が戦闘できるのは森エリアだけで、今はまだ回っているが、来訪者が増え続ければ遠からず限界が来る。


解決策はシンプルだ。新しい実践エリアを作って、新しい眷属を召喚して管理を任せる。受け入れキャパが広がれば来訪者も増え、魔力も金も貯まる。

問題はコストだ。


森エリアの拡張に魔力500。物資補給エリアに350。攻略エリアの新設となれば、モンスターの配置や階層設計も込みで、それ以上は確実にかかる。加えて新しい眷属の召喚コスト。手持ちでは全く足りない。


「うーん……。」


ペンを置いて、天井を見上げた。


「ご主人様。」


声に振り向くと、ユキがお茶を持ってきてくれていた。湯気の立つ湯呑みをテーブルに置いて、対面に座る。


「ありがとう。」


「難しい顔をされていましたので。」


「まぁ、ちょっと計算を。」


ノートの数字を見せると、ユキは一瞥して静かに頷いた。


「新しいエリアですか。」


「うん。攻略者が増えてきて、ユキとハヤテだけじゃ対応しきれなくなる日が来ると思ってさ。新しいエリアを作って、そこに別の眷属を置きたい。」


「なるほど。」


「ただ、魔力も金も全然足りない。今のペースだと3ヶ月はかかる。その間に来訪者がもっと増えたら、先にこっちがパンクする。」


魔力か金か、もっと効率的に稼ぐ方法があればいいんだが。

お茶を飲みながらそんなことを考えていると、ポケットの中でスマートフォンが振動した。ダンジョンボードの通知だ。


DMが1件。差出人は空月ひかり。


『鷹峰さん、おはようございます! また一緒に潜りませんか? あと、鷹峰さんに相談したいことがあるんですが……!』


相談? 何だろう。


『いいよ。いつにする?』


返信すると、数秒で既読がつき、すぐにメッセージが返ってきた。


『明日の午後一はどうですか? 相談っていうのは、ランクアップに関することなんですけど、詳しくは会った時にお話しさせてください!』


『了解。前と同じ場所で。』


『はい! 楽しみにしてます!!』


元気なことだ。

翌日。協会の入口前のベンチに座って待っていると、見慣れた栗色のショートボブが走ってきた。


「鷹峰さん! おはようございます!」


「おはよう。で、相談ってなんだ?」


「それはですね~。あ、とりあえず座りませんか?」


近くのベンチに並んで座ると、ひかりがスマートフォンを取り出した。画面に表示されたのは、攻略者協会の公式ページだ。


「鷹峰さんって、今もEランクですよね。」


「そうだけど。」


「私もEランクです。Eランクだと、協会の依頼が受けられないの、知ってますか?」


「……依頼?」


「やっぱり知らなかったんですね……。」


ひかりが画面をスクロールしながら説明してくれた。


攻略者協会は、一般人や企業からダンジョン関連の依頼を受け付けている。素材の採取、特定ダンジョンの調査、魔石の大量確保。内容は多岐にわたり、依頼にはランクに応じた報酬がつく。Dランク依頼で1件あたり数万円、Cランクなら十数万円が相場らしい。


「報酬、結構いいんだな。ん……待て、素材?」


「はい、素材です。鷹峰さんも見たことありますよね?」


「いや、全くないな……。モンスターって魔石しか落とさないんじゃないの……?」


「え、えぇ……。さすがの鷹峰さんにも今回ばかりはびっくりです。確かにこの前ご一緒したときも、素材集めてませんでしたよね。」


ランクアップを知らなかった時より衝撃だったらしい。


「すまん、何も知らなくて……。それで素材ってどうやって手に入れるんだ?あいつら、倒すと魔石になって消えるだろ?」


「い、いえいえ、こちらこそごめんなさい!倒す前に素材になる部位を採取するんですよ。そうすれば、消えることはありません。壊れやすい部位や、逆に固い部位、危険な部位とかは高値が付くことが多いんですよ。……私も、知識だけですけど。」


「なるほど、今までは確かにそんな風にはしていなかったな。で、その素材を集めてくれってのも依頼に含まれることが多いのか。」


「はい。依頼はソロで魔石を稼ぐより効率がいい場合も多いです。でもEランクだと依頼の受注資格がないんですよ。Dランク以上からなんです。」


「……マジか。」


今まで完全にノーマークだった。ソロで翠嶺洞に潜って魔石を稼ぐことしか考えていなかったが、依頼という収入源がある。しかもDランクで数万円。悪くない、どころか今の俺にはかなり大きい。


「それで、ランクアップの審査なんですけど。」


ひかりが画面を切り替えた。ランクアップの条件が箇条書きで並んでいる。


「ソロでの戦闘実績はもちろん必要なんですけど、審査ではパーティーでの活動実績も評価されるんです。協会としては、他の攻略者と協調して動ける人の方が信頼できるっていう判断みたいで。」


「つまり、パーティーで何回か潜った実績があると有利ってことか。」


「そうです! だから、えっと……わたしと一緒に潜るのも、ランクアップに役立つんじゃないかなって。」


ひかりが少し照れたように目を逸らした。


依頼の報酬で金を稼ぎつつ、パーティー実績でランクも上がる。ランクが上がれば依頼の幅も広がるし、攻略者としての社会的信用にもなる。マスターの正体を隠して動いている以上、表の顔の信用度は高いに越したことはない。


「分かった。ランクアップ、本格的に目指してみるか。」


「本当ですか!?」


「依頼で報酬が稼げるなら、やらない理由がない。」


「じゃあ今日も石廊殿にしましょう! 前回は2層の途中で引き返したから、その先を見てみたいです。」


「ああ、行こう。」


電車で40分。石廊殿の入口に着いた。


蔦に覆われた石の門は前回と変わらない。門の向こうから、ひんやりとした空気が漂ってくる。


「前回の2体同時出現の地点まで、まず一気に進みましょう。」


「了解。」


1層は手早く抜けた。小型ゴーレムが3体ほど出現したが、ひかりと並んで処理する。ひかりの動きが前回より明らかにスムーズだった。双剣の振りに迷いが減っている。


2層に降りると、大型ゴーレムが正面に現れた。体高2メートル近い石の巨体。青みがかった鉱物の混じった表面が、壁の光を鈍く反射している。


「行きます!」


ひかりが先に動いた。


前回は正面から斬りかかって弾かれていたが、今回は違う。ゴーレムの右腕が振られるのを待ってから脇をすり抜け、双剣を叩き込んだ。


硬い音。だが、亀裂が走った。


「通った……!」


ゴーレムがよろめいた隙に、俺が反対側の脚を斬り落とす。崩れたところにひかりがコアを突いて止めを刺した。


「やった! 」


「上手かったぞ。動きがよくなったな。」


「前回、鷹峰さんがやってるのを見て。実際に当てるのが難しくて、一人の間も1層で訓練したんですよ!」


さらに奥へ進んだ。2層の構造が少し変わり始めた。通路の幅が狭くなり、石柱の間隔が詰まっている。視界が制限される地形だ。


「ちょっと見通し悪いですね。慎重に……。」


ひかりが小声で言った直後、左右の石柱の影からゴーレムが同時に2体、現れた。


「2体!」


前回と同じ状況だ。だが前回とは違い、ひかりに焦りの色は薄い。


「わたしが左を抑えます!」


ひかりが左のゴーレムに向かった。双剣で脚部を狙い、動きを鈍らせる。


俺は右のゴーレムを処理した。身体強化を起動し、膝辺りを斬って崩す。振り返ると、ひかりがまだ左のゴーレムと交戦していた。片腕を落とすことに成功したが、残った腕が振り回されている。


加勢しようと踏み込んだ時、奥の通路の暗がりから、3体目が現れた。


ひかりの背後。


「ひかり、後ろ!」


叫びながら走った。ひかりが振り返る。背後のゴーレムが腕を振り上げている。


間に合うが、ギリギリだ。


ひかりが前方のゴーレムから距離を取りつつ、後方に半身で構え直した。双剣を交差させて防御姿勢。だが2メートルのゴーレムの一撃をまともに受け止められる体格ではない。

俺の身体が割り込んだ。剣でゴーレムの拳を横から弾き、軌道を逸らす。石の拳が空を切って壁に激突し、石材の破片が散った。


「遥さん!」


ひかりの声。


前のゴーレム――片腕の方が、俺の背中に迫っていた。振り返る暇はない。身を低くして回避し、すれ違いざまに膝を叩き斬る。


崩れたゴーレムにひかりがコアを突き刺し、直後に俺が背後のゴーレムの頭部を砕いた。


石の破片が床に散らばる音が、広い空間に反響して消えた。


「……はぁ、はぁ……。」


ひかりが息を切らしながら、双剣を下ろした。額に汗が光っている。


「3体同時は初めてだったな。よく対応した。」


「い、いえ、鷹峰さんが割り込んでくれなかったら、やばかったです。……あの。」


「うん?」


「さっき、わたし……遥さんって呼びましたよね。」


あ、気づいたか。


「呼んでたな。」


「す、すみません! とっさに出ちゃって。」


「いや、俺も勝手にひかりって呼んでたしな。好きに呼んでくれ。」


「え……いいんですか?」


「ああ。名前で呼ばれる方が、戦闘中は反応しやすいし。」


理由をつけたが、単純に「遥さん」の方が自然に聞こえただけだ。

ひかりが少し赤くなって、それから小さく笑った。


「じゃあ……遥さん、で。」


「ああ。」


2層の奥をもう少し探索してから、引き返すことにした。今日の収穫は十分だ。3体同時出現に対処できたのは大きい。


帰りの階段を上りながら、ひかりが言った。


「遥さん、今日の分もパーティー実績になりますから。もう何回か一緒に潜って、ある程度の実績が溜まったら、ランクアップ試験の申請ですね。」


「パーティーって、申請とかしなくても認められるのか?」


「いえ、ごめんなさい、実は前回忘れてて……。今日、協会に行ったらそっちも申請しましょう!今日の活動からはパーティーとして認めてもらえるはずですよ!」


「なるほど。ん? ランクアップって、試験もあるのか……。」


「あります。でも遥さんの実力なら、戦闘試験は余裕だと思います。問題はその他の常識問題ですけど……。」


「常識問題?」


「攻略者としての基礎知識を問う筆記試験です。パーティー行動の基本とか、ダンジョン内のマナーとか、魔石の取り扱いとか。」


「……それは、ちょっと、いやかなり、勉強がいるかもな。」


「わたしが教えますよ!」


ひかりが拳を握って力説した。ありがたいけど、なんで嬉しそうなんだ。

石廊殿を出て、丘を下る。夕方の空が茜色に染まっていた。


帰りの電車の中で、今日拾った魔石を数えた。大型ゴーレム3体分を含めて、そこそこの量だ。


ランクアップしてDランクになれば、依頼が受けられるようになる。月に何件かこなせれば、ダンジョン運営の収入と合わせて、拡張計画の見通しがだいぶ明るくなる。


ダンジョン拡張、道筋は見えたかな。


――――

貯金残高:943,000円 / ダンジョン蓄積魔力:55

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)

――――

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