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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第25話 石廊殿

side:ハヤテ


朝、ご主人が出かけた。


「じゃ、今日は頼んだぞ。」


「いってらっしゃいっす! 気をつけてくださいっすよ!」


ご主人が裏山の小道を下っていく背中を、森エリアの入口から見送った。今日はあの人間の女の子――空月ひかりって言ったっすか――とパーティーを組んで、どこかのダンジョンに潜るらしい。


ご主人がダンジョンの外で他の攻略者と組むのは初めてだ。普段は自分か、ユキ先輩と一緒に動いているから。


ちょっとだけ寂しいのは内緒っす。


「ハヤテ。」


振り返ると、ユキ先輩が立っていた。白銀の髪が森エリアの緑の光に透けて、相変わらず綺麗だ。


「今日の物資補給エリアの在庫ですが、ご主人様が出発前にポーションを多めに補充してくださっています。携帯食料も十分です。」


「さすがご主人、抜かりないっすね。」


「えぇ。私たちだけでは補充ができませんから。」


ダンジョン内のアイテム生成はご主人のマスター権限でしか操作できない。だから留守の日は、事前に補充してもらった分でやりくりする必要がある。今日は多めに入れてくれたから、余裕はあるはずだ。


「じゃ、自分は上から見回ってくるっす。」


翼を広げて、森エリアの上空に飛び上がった。天井近くまで上がると、エリア全体が見渡せる。木々の間を縫うように苔の光が地面を照らし、どこかで小さなモンスターが動いている気配がある。攻略者はまだ来ていない。


朝のうちは静かだった。だが昼前になって、状況が変わった。


「ユキ先輩、入口に攻略者っす。2人組。」


上空から声を落とすと、ユキ先輩が森エリアの入口に向かった。自分も高度を下げて様子を見る。


若い男2人だった。軽装の剣士と、杖を持った魔法使い風。入口で少し緊張した顔をしていたが、中に入ると表情が変わった。


「おー、噂通りだな。本当に森があるぞ。」


口コミで来た新規っすね。最近こういうのが増えてきた。


2人は森の中に進んでいき、モンスターとの戦闘を始めた。自分は上空からそれを見守りつつ、危険がないか監視する。ユキ先輩は少し離れた位置で、精霊魔法で森の環境を微調整していた。攻略者には気づかれない程度に、足元の苔の光を明るくしたり、風通しを良くしたり。


さすがユキ先輩だ。こういう細かい仕事が本当にうまい。


昼過ぎには、さらに3人が来た。1人は見たことがある顔だ。先週も来ていた常連の男の人。残り2人は連れてきた仲間らしい。


「ここいいぞ。森で適度に戦えるし、帰りにポーション買えるし。」


「へぇ、便利だな。」


常連が新規を連れてくるパターン。ご主人が言ってた口コミの連鎖が、実際に起きてる。


午後にはさらに1組。今日だけで合計6組の攻略者が来た。こんなに多いのは初めてだ。


物資補給エリアも忙しかった。攻略者が帰りに立ち寄って、ポーションや携帯食料を買っていく。ご主人が多めに補充しておいてくれたおかげで在庫切れにはならなかったが、棚はだいぶ空いた。


「ユキ先輩、ポーション残り7本っす。」


「十分です。」


夕方、最後の攻略者が帰った後、居住エリアで今日の集計をした。ちなみに夜間は樹木の攻撃性をものすごく高くすることで、中級攻略者程度では攻略不可にしているらしい。


来訪者6組。全員が森エリアを利用し、うち5組が物資補給エリアでも買い物をした。現金収入は合計で32,000円。ダンジョンの蓄積魔力は、朝の時点から15増えて40になっている。


「ユキ先輩、今日すごくないっすか? 6組っすよ、6組。」


「そうですね。」


ユキ先輩の返事は短い。でも、自分にもちょっとだけ分かるようになってきた。ユキ先輩が短く返す時は、大体2パターンある。興味がない時と、嬉しいけど表現しない時。今のは、多分後者だ。


「ご主人帰ってきたら驚くっすよね。」


「……そうですね。」


また短いっす。けど、ユキ先輩の蒼い目が、ほんのちょっとだけ柔らかくなった気がした。


ご主人がいない日のユキ先輩は、いつもより静かだ。いや、ユキ先輩はいつだって静かなんすけど、今日の静かさはちょっと違う。なんて言えばいいんすかね、仕事はいつも通り完璧なのに、合間にふとダンジョンの入口の方を見ている瞬間がある。


気のせいかもしれないっすけど。


side:遥

協会の入口前のベンチに座って待っていると、向こうから栗色のショートボブが走ってきた。


「鷹峰さん! おはようございます!」


ひかりが手を振りながら駆けてくる。大きな瞳が朝日に輝いていて、元気の塊みたいな子だった。背中には双剣の鞘が交差するように背負われている。


「おはよう。早いな。」


「えへへ、楽しみで早く起きちゃいました。」


まっすぐだなぁ、こういうところは。


「で、今日はどこに潜る?」


「あ、それなんですけど……。」


ひかりの表情が少し曇った。視線が泳ぐ。


「翠嶺洞は……正直、まだちょっと怖くて。あの時のことが、どうしても頭に浮かんじゃうんです。」


2層でロックリザードの群れに囲まれて、大型個体に肩を抉られた日のことだろう。あの時ひかりは血まみれで壁際に追い詰められていた。トラウマになっていても不思議じゃない。


「分かった。別のところにしよう。」


「すみません……。」


「謝ることじゃないだろ。で、どこか候補はあるか?」


ひかりの顔がぱっと明るくなった。どうやら、ちゃんと準備してきたらしい。スマートフォンを取り出して、ダンジョンボードの画面を見せてくれた。


「ここなんですけど、石廊殿っていう遺跡型のダンジョンです。電車で40分くらいの場所にあって、浅い層はゴーレム系のモンスターが中心で動きが遅いから、比較的対処しやすいって書いてあって。」


ゴーレム系か。翠嶺洞のリザードやサーペントとは全く違うタイプだ。


「ダンジョンボードの掲示板にも、浅い層なら落ち着いて戦えるっていう書き込みが何件かあったんです。」


情報収集をちゃんとやってきている。この辺りは、学校で基礎を学んでいる世代の強みだろう。俺なんか翠嶺洞に何の下調べもなく突っ込んだからな。


「いいな、そこにしよう。」


「本当ですか! ありがとうございます!」


電車で40分。車内で、ひかりがパーティー行動の基本を教えてくれた。


「まず、前衛と後衛の距離なんですけど。前衛は敵と接触して、後衛は5メートルから10メートル離れて支援するのが基本です。わたしたちは2人とも前衛タイプだから、並列前衛になりますけど、左右の間隔は3メートルくらいが理想で……。」


学校では今は丁寧に教えるのだろう。ひかりの説明は丁寧で分かりやすかった。声の合図、退路の確認方法、リーダーの指示系統、戦闘中の報告ルール。パーティー行動の基本が、一つ一つ具体的に組み立てられていく。


「鷹峰さん、パーティー組んだことありますよね?」


「いや、初めてだ。」


「え……初めて?」


「いつもソロで潜ってたから。」


ひかりが絶句した。


「じゃあ、今日はわたしがリードしますね。パーティー行動の経験はわたしの方がありますから。」


声に少し照れが混じっていたが、目は真剣だった。戦闘力では劣る自分が、それでもリードできる部分がある。その自覚と喜びが、ひかりの声にはあった。


「頼む。色々教えてくれ。」


「はい!」


石廊殿の入口は、小高い丘の中腹にあった。


崩れかけた石の門が、蔦に覆われて立っている。門の向こうは地下に続く階段で、古い石材が規則正しく積まれている。翠嶺洞の荒々しい岩肌とは対照的に、明らかに人工的な――あるいは何者かが意図して造った構造物だ。


「わぁ……翠嶺洞と全然違いますね。」


ひかりが目を輝かせている。恐怖ではなく、好奇心が勝っている顔だ。


階段を降りると、1層が広がっていた。


高い天井を支える石柱が等間隔に並び、壁面には風化した紋様が刻まれている。苔ではなく、壁の紋様自体がぼんやりと淡い光を放っていて、薄暗いが視界は確保できる。空気はひんやりとしていて、土と石の匂いがした。遺跡、というのがしっくりくる雰囲気だ。


「退路の確認。階段はあそこです。何かあったらあの方向に走ります。」


ひかりが入口の階段を指さして言った。パーティー行動の基本を、さっそく実践している。


「了解。」


通路を進むと、前方に何かが動いた。


石柱の影から、ずんぐりとした人型の塊がゆっくりと姿を現す。全身が灰色の石で構成された、体高1メートルほどのゴーレムだ。腕が太く、頭部にあたる部分には目のような窪みが2つある。動きは鈍い。こちらを認識してから向き直るまでに3秒近くかかった。


「あれがゴーレムか。」


「はい。情報通り、動きは遅いですね。行きましょう、鷹峰さん。左からお願いします。わたしは右から。」


「了解。」


ひかりの指示に従って、左右から挟み込む形で接近した。ゴーレムが右腕を振り上げてひかりの方に向かうが、その動作は遅い。ひかりが軽いステップで回避し、双剣で脇腹を斬りつけた。石の表面に火花が散り、浅い傷が走る。


硬いが、ひかりの腕力でもダメージは通る。動きが遅い分、攻撃を当てやすいというのは確かだ。


俺も左から踏み込み、剣を振り下ろした。石の胴体に亀裂が入り、ゴーレムが崩れ落ちる。


「おお、一撃……。」


ひかりが目を丸くしたが、すぐに気を取り直した。


「1層はこのくらいの個体が中心みたいですね。先に進みましょう。」


1層を順調に進んだ。ゴーレムは数体出現したが、いずれも動きが遅く、ひかりの合図に従って連携して処理した。ひかりの指示は的確で、フォーメーションの維持、退路の確認、敵の配置の報告。全てが手順通りに進んでいく。


「鷹峰さん、動きがすごく的確です。合わせやすい。」


「そうか? ひかりの指示が分かりやすいからだよ。」


褒めてもらっているが、身体能力がユキのステータスの恩恵で底上げされているだけだ。勘が良いのではなく、反応速度と身体の出力が並の攻略者とは違う。その事実は、当然言えない。


2層への階段を降りた。


空気が変わった。1層よりも天井が高く、石柱も太い。壁の紋様の光が青白く変わり、温度も少し下がっている。


「ちょっと雰囲気変わりましたね。」


ひかりの声に緊張が混じった。初めてのダンジョンの2層目。翠嶺洞で2層に踏み込んで痛い目を見た記憶が、無意識に蘇っているのかもしれない。


「無理はしなくていい。きつかったら言ってくれ。」


「大丈夫です。今日はひとりじゃないですから。」


ひかりが笑った。少し強がりが混じっていたが。


2層のゴーレムは、1層とは明らかに違った。


体高が2メートル近い。石材の質も変わっていて、表面に青みがかった鉱物が混じっている。そして何より、動きが多少速い。1層の鈍重さはなく、こちらの接近に合わせて腕を振ってくる。


「硬っ……!」


ひかりの双剣が石の腕に当たり、弾かれた。衝撃で体勢が崩れかけたが、すぐに後退して距離を取る。判断は正しい。


だが、ゴーレムはひかりを追った。1層では見せなかった踏み込み。重い一歩が石の床を震わせ、拳がひかりの頭上に振り下ろされる。


「下がれ!」


俺の声に反応して、ひかりが横に跳んだ。拳が床を砕き、石の破片が散る。


その隙に、俺が踏み込んだ。身体強化を起動し、ゴーレムの肘の関節部分――石材の継ぎ目が最も薄い箇所――に剣を叩き込む。Lv.4の剣術が急所を正確に捉え、腕が根元から砕け落ちた。


片腕を失ったゴーレムがよろめいた。もう一撃。膝の関節を斬る。バランスを崩して倒れたところに、頭部の窪み――コアと思しき部分――を突き刺して、止めを刺した。


ひかりが荒い息をつきながら、目を見開いている。


「……鷹峰さん。どこを斬ればいいかって、どうやって見えてるんですか?」


「動きを見てれば、力が集中する箇所が分かる。そこが構造的に弱い。」


「見てれば分かるって……。」


この感覚は剣術Lv.4のおかげだ。動く急所が止まって見える。敵の動きと剣の軌道の交差点が、脳裏に浮かぶ。


「ひかりの当面の目標は、スキルの覚醒かもな。」


さらに奥に進むと、2体同時に出現した。


「2体……!」


ひかりの声に焦りが滲んだ。


「ひかり、左のやつを足止めしてくれ。倒さなくていい、動きを止めるだけでいい。」


「はい!」


ひかりが左のゴーレムに向かい、双剣で脚を連続して斬りつけた。倒せはしないが、ゴーレムの注意を引きつけて動きを鈍らせている。


その間に、俺は右のゴーレムを処理した。


振り返って、ひかりが足止めしている方に走る。背後から膝に一閃。ゴーレムが崩れ、ひかりがコアを突いて止めた。


「やった……!」


ひかりが汗を拭いながら笑った。だが、その目にはさっきまでとは違う感情が浮かんでいた。


「鷹峰さん、本当にEランクですか……?」


「一応、そうだけど。」


「2層のゴーレムを一撃で処理できるEランクって、聞いたことないですよ。わたし、1体を足止めするので精一杯だったのに。」


「ひかりの足止めがあったから2体目に集中できたんだよ。パーティーの力だ。」


「それは……まぁ、そうかもしれないですけど……。」


納得していない顔だったが、それ以上は追及してこなかった。代わりに、少し悔しそうな、でも嬉しそうな複雑な表情を浮かべている。


「わたし、もっと強くならないとダメですね。足止めしかできないんじゃ、パーティーの役に立ってるとは言えないです。」


「ゆっくりでいいんだよ。焦ってまた危険な目にあう方がマズイ。」


帰りの階段を上りながら、ひかりが振り返った。


「鷹峰さん、今日はありがとうございました。すごく勉強になりました。」


「こっちこそ。知らないことばかりだった。」


「それはそれで信じられないんですけど……。また、一緒に潜ってくれますか?」


「もちろん。」


「じゃあ、次はもう少し奥まで行きたいです。2層の奥、まだ見てないですし。」


ひかりの声に、怯えはなかった。パーティーでの戦闘が、あの日の恐怖を少しだけ上書きしたのかもしれない。


夕方、家に帰った。


ダンジョンの入口をくぐると、ハヤテが翼を広げて飛んできた。


「おかえりっす、ご主人! 今日すごかったっすよ!」


「どうした?」


「攻略者、6組来たっす! 過去最高っすよ!」


6組。今まで1日に3、4組だったのが、倍近い。


「ポーション、ご主人が多めに入れてくれてて助かったっす。」


「在庫は持ったか?」


「ギリギリっす。」


次は補充量を見直さないとな。


「ユキ先輩も頑張ってくれたっす。物資補給エリアの対応、ほぼユキ先輩がやってくれて。攻略者のみんな、ユキ先輩の顔見て固まってたっすけど。」


「……想像できるな。」


居住エリアに入ると、ユキがお茶を淹れて待っていた。


「おかえりなさいませ、ご主人様。」


「ただいま。留守中、大変だったみたいだな。」


「いいえ。ハヤテさんが空から監視してくれましたので、滞りなく。」


「ご主人様、ダンジョンの外はいかがでしたか。」


「初めてパーティーを組んで潜ってきた。知らないことだらけだったけど、勉強になったよ。」


「そうですか。」


短い返事。お茶を飲みながら、今日の成果を頭の中で整理した。


蓄積魔力が40になった。このペースが続けば、ダンジョンの拡張も現実味を帯びてくる。新しいエリアの増設、新しい眷属の召喚。一つ一つ、着実に近づいている。


――――

貯金残高:877,000円 / ダンジョン蓄積魔力:40

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)

――――


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