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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第22話 攻略者の常識

「空月ひかり、です。」


大きな瞳がまっすぐにこちらを見ていた。汗と砂埃にまみれた栗色のショートボブは乱れているが、その下の表情には、さっきまでの怯えはもうなかった。助かった、という安堵と、助けてくれた相手への素直な好奇心が混ざった顔だ。


「鷹峰遥。立てるか?」


「は、はい……大丈夫です。」


ひかりが壁に手をつきながら立ち上がった。右腕の傷はポーションで塞がっているが、肩はまだ痛むのだろう。左手で庇うようにしている。


ハヤテが近く寄ってきて、自然に話しかけてきた。


「自分、先に戻ってユキ先輩に伝えておくっすよ!」


「ありがとう、頼むよ。」


聞くが早いか、ハヤテはダンジョン入り口方向へ駆け出して行った。おそらく、ひかりがいると自分が同行できないことを悟ってくれたのだろう。


「あの、羽……。」


「スキルだ。」


「え、えっと……。」


「スキルったらスキルだ。」


しばし沈黙、耐えがたいので話題をそらすことにした。


「外まで送る。ゆっくりでいいから歩けるか?」


「歩けます。すみません、ご迷惑を……。」


「大丈夫、気にすんな。」


「あの、鷹峰さんって、相当強いですよね。2層のリザードを一瞬で……。」


「あー、まぁ、あのくらいなら。」


「あのくらいって……わたし、大型のやつに全然歯が立たなかったのに……。何ランクなんですか?」


何ランク。正直に答えるか一瞬迷ったが、隠す理由もない。


「Eランクだよ。」


沈黙。


ひかりが足を止めた。


「……え?」


「だからEランク。」


「え、Eって……登録したばかりの、一番下の……?」


「そうだな。」


ひかりの顔が完全に固まっていた。あの強さでEランク。どう考えても辻褄が合わない、という顔だ。気持ちは分かる。


「ランクアップしてないんですか? なんで?」


「いや、そもそもランクって、どうやって上げるんだ?」


3回目の沈黙。今度はひかりの目が点になった。


「……え。えぇ?」


「いや、登録した時に特に説明されなかった気がして。」


「協会でランクアップ試験を申請するんですよ!? 攻略者なら誰でも知ってますよ!? 学校でも習いますし!」


声が裏返っている。俺は学校で習ってない世代なので許してほしい。ダンジョンが出現したのは10年前だが、攻略者養成のカリキュラムが学校教育に組み込まれたのはここ数年の話だ。


「まぁ、ランクが低くても特に困ってなかったからな。」


「困ってなかった……。」


ひかりが信じられないものを見る目をしている。あの戦闘力でEランクを名乗り、ランクアップの仕組みすら知らない男。確かに意味が分からないだろう。


翠嶺洞の出口が見えてきた。午後の日差しが洞穴の入口から差し込んでいる。外の空気を吸って、ひかりが少し楽そうな顔をした。肩の傷は塞がっているが、消耗は大きいだろう。


「あれ、そういえば。鷹峰さん、魔石の換金っていつもどうしてるんですか?」


「え?いつも帰りに駅前の買取所に寄ってるんだけど。」


「駅前の……買取所?」


「あぁ。駅の近くにあるだろ、魔石を買い取ってくれるところ。」


ひかりの足が、また止まった。


「……鷹峰さん。」


「ん?」


「協会で換金した方が、倍以上の値段になりますよ。」


倍。


倍以上。


「あの簡易買取所って、協会を通せない人や急いでいる人が仕方なく使うところで……普通の攻略者は協会の換金窓口を使います。手数料も安いし、鑑定精度が全然違うから、同じ魔石でも査定額が上がることがほとんどです。」


今まで俺が翠嶺洞で稼いだ魔石、全部あの買取所に持っていっていた。数か月分の蓄積だ。倍以上の差額。脳裏で計算が走り、思わず空を仰いだ。


「……マジか。」


「マジです。今日の分、これから一緒に協会に行きませんか? 第七支部ならここからそれほど遠くないですし。」


断る理由がなかった。


攻略者協会第七支部。駅から少し歩いた場所にある、5階建てのガラス張りのビルだ。入口には協会の紋章が掲げられている。


登録した時以来だから、数か月ぶりか。正直、中の構造をほとんど覚えていない。


受付カウンターに近づいた瞬間、栗色の髪の受付嬢が顔を上げ、硬直した。


「た、鷹峰さん……?」


朝霧さんだ。登録の手続きをしてくれた受付担当。あの時以来だから、向こうも驚いているのだろう。


「あ、お久しぶりです。」


「久しぶりって……生きてたんですか!?」


物騒なことを言われた。


「登録だけして一度もいらっしゃらなかったので、内部では死亡の可能性も検討されていたんですよ。登録後にダンジョンで命を落とす方は珍しくありませんから。」


「あー……。すみません。」


朝霧のこめかみに、うっすら青筋が浮かんだ気がした。


「生存確認が取れましたので、記録を更新しておきますね。……それで、本日はどういったご用件で?」


「魔石の換金を。」


「かしこまりました。」


朝霧の視線がちらりとひかりに向かった。ひかりは俺の少し後ろで、遠慮がちに立っている。


「空月さんもご一緒ですか?」


「はい。わたしが、協会の方がいいですよって案内して……。」


朝霧の目が、微妙に曇った。


「鷹峰さん、まさか今まで協会以外で換金されていたんですか?」


「駅前の買取所で。」


「……。」


数秒の沈黙。朝霧が静かに息を吐いた。


「今後は協会をご利用ください。」


「そうさせてもらいますよ。」


換金手続きは手際よく進んだ。鑑定台に魔石を並べ、朝霧が一つずつ査定していく。


「……鷹峰さん、何ですかこの魔石は。明らかに深層のものが混じっているようですが……?」


「え、あー、そうだな。深層まで行ってきたけど、なんとかなりました。」


「……。協会は攻略者の内情までは踏み込みません。が、今度ランクアップ試験を受けることを強くお勧めしますよ。」


「はい……。」


朝霧さんはもう呆れてしまったのか、深く追及されることは無かった。

横からひかりが俺の袖を引いた。小声で話しかけてくる。


「あの、鷹峰さんって、本当に登録したばかりなんですか? さっき受付の方が、登録後に一度も来なかったって……。」


「あぁ、登録したのは数か月前だな。」


「数か月……。」


ひかりの瞳が揺れていた。2層のリザードの群れを一瞬で殲滅する実力を、たった数か月で身につけた。確かに信じがたい話だ。普通の攻略者なら、数か月ではせいぜい2層のリザードの群れをパーティーで倒せるようになるかどうか、というところだろう。


だが、その疑問に正直に答えるわけにはいかない。ダンジョンマスターの天賦による眷属ステータスの恩恵。それを明かせば、俺がマスターであることがばれる。


「まぁ、色々あってな。運が良かったんだと思う。」


苦しい言い訳だが、それ以上は突っ込まなかった。ひかりは納得していない顔だったが、助けてもらった相手を問い詰めるのは気が引けるのだろう。


「鷹峰さん、査定が出ました。」


朝霧が金額を提示した。いつもの買取所の、ざっと2.5倍。


今まで数か月間、買取所で安値で売り続けていた事実が、数字になって突きつけられた。失った金額を計算しかけて、やめた。精神衛生に悪い。


「空月さんの分も、ございますか?」


「あ、はい。お願いします。」


ひかりも数個の小さな魔石を差し出した。1層のロックリザードのドロップだろう。こちらは少額だが、ひかりにとっては大事な収入だ。


手続きを済ませ、協会を出た。夕方の空が赤く染まり始めている。


「ありがとうございました、鷹峰さん。助けていただいた上に、ダンジョンの外まで送ってもらっちゃって……。」


「こっちこそ、協会のこと教えてもらって助かったよ。」


「いえ……。」


ひかりが言いかけて、何かを飲み込むように口を閉じた。そしてまっすぐにこちらを向いた。さっきまでとは少し違う、決意を含んだ目だ。


「あの、鷹峰さん。」


「ん?」


「お願いがあるんですけど……パーティー、組んでもらえませんか?」


「パーティー?」


「はい。 わたし、今日みたいなことにならないように、もっと強くなりたいんです。」


声は震えていたが、瞳はまっすぐだった。2層で死にかけた恐怖がまだ残っているはずなのに、それでも前に進もうとしている。


悪い話じゃない。だが、即答はできなかった。パーティーを組むということは、一緒にダンジョンに潜るということだ。翠嶺洞や他のダンジョンなら問題ないが、俺のダンジョンのことは当然隠さなければならない。行動を共にすれば、ぼろが出る可能性は上がる。


「……少し考えさせてくれ。」


「あ、はい。もちろんです。」


ひかりの表情がわずかに曇ったが、すぐに気を取り直した。


「じゃあ、ダンジョンボードのID、交換しませんか? お返事、いつでもいいので。」


ダンジョンボード。攻略者が使うSNSのようなサービスだ。掲示板機能とダイレクトメッセージ機能があり、パーティー募集や情報交換に広く使われている。DM機能は個別のやり取り専用で、掲示板の投稿履歴とは完全に分離されている。


以前、ダンジョンの攻略者募集で掲示板機能を使ったことがあるが、DMのIDを交換するだけなら、あの投稿が見られる心配はないだろう。


「あぁ、いいよ。」


スマートフォンを取り出し、IDを交換した。ひかりの表情がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます! 連絡、待ってますね。」


深々と頭を下げて、ひかりは駅の方に走っていった。右腕を庇いながら走る後ろ姿は危なっかしいが、足取りは軽い。


1人になった帰り道、考えを巡らせた。パーティーか。ハヤテと一緒に潜るのは難しいが、俺と一緒に潜る分にはいいだろう。

それに、俺も今日で攻略者としての常識が全くないことが分かったしな。


まぁ、もう少し考えてからだな。


家に着くと、ハヤテが人型に戻って待っていた。隣にはユキがいる。


「おかえりなさいませ、ご主人様。ハヤテから事情は聞いています。」


「ただいま。色々あってな、遅くなった。」


「あの子、大丈夫だったっすか? ご主人。」


「あぁ、怪我はポーションで塞がってる。一緒に協会まで行ってきた。」


「協会?」


「魔石の換金のことを教えてもらったんだよ。今までの買取所の2.5倍だった。」


「マジすか。」


「マジだ。」


ハヤテとユキが顔を見合わせた。ユキの表情はいつも通り読めないが、微かにあきれている気配がした。


「ご主人様……。」


「言わないでくれ。」


――――

貯金残高:848,000円 / ダンジョン蓄積魔力:20

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)

――――

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― 新着の感想 ―
学ばない人は損をするのは世の常識。 学校で学ばなかったから知らないが、通用しないのが社会の常識。
2.5倍は簡易交換所ぼったくり過ぎやろ
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