表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/81

第21話 救出

ハヤテが翼を畳んだまま、ロックタートルの群れに突っ込んでいった。


6層の青白い苔明かりの中、4体のロックタートルが鈍重に身構える。甲殻の厚さは知っている。


ハヤテの選択は、直上からの急降下だった。

天井近くまで一気に上昇し、そこから翼を畳んで自由落下に入る。重力と自重を乗せた落下速度は凄まじく、俺の動体視力でもハヤテの姿がぶれた。先頭のロックタートルの甲殻に、踵が叩き込まれる。


鈍い破砕音。甲殻に亀裂が走り、ロックタートルの巨体がめり込むように地面に沈んだ。石畳にヒビが入っている。


「1体目っす!」


着地と同時に跳躍。2体目のロックタートルが首を引っ込めて防御姿勢を取るより早く、ハヤテの翼が風を巻いた。片手を振り抜くと、風の刃が甲殻の継ぎ目を正確に抉る。甲殻の隙間から灰色の体液が噴き出し、ロックタートルが悲鳴を上げて横転した。


速い。そして、正確だ。


残り2体が、ハヤテに向けて突進を始めた。鈍重とはいえ、ロックタートルの体当たりは重い。まともに受ければ骨が折れる。


だがハヤテは地上に留まらなかった。翼を一振りして5メートルほど浮き上がり、突進をあっさりと回避する。そのまま旋回して背後に回り込み、3体目の甲殻の背面に急降下。今度は風の刃を両手から2連射した。1発目で甲殻にヒビを入れ、2発目で割る。2発で甲殻を貫通させる判断の速さに、思わず感心した。


4体目が方向転換してハヤテに向き直るが、その時にはハヤテは既に天井付近にいた。地上の鈍重な敵は、空中の機動力についてこられない。


「ご主人、最後の1体お願いしていいっすか? 自分ばっかじゃ申し訳ないんで。」


上空から声が降ってくる。申し訳ないって、ハヤテが強すぎるだけだ。


「あぁ、もらう。」


身体強化を起動し、残った1体に踏み込んだ。ロックタートルが首を伸ばして噛みつきにくるのを横に躱し、剣を滑り込ませる。一撃で仕留めた。


「……ハヤテ、結構やるな。」


着地したハヤテに声をかけると、金色の瞳がきょとんとした。


「結構どころか、めちゃくちゃやるっすよ? 自分、空中戦なら群れの中でも上の方だったんすから。」


自信があるのは悪いことじゃない。実力が伴っているなら尚更だ。


「地上の敵にあそこまで一方的にやれるとは思わなかった。機動力が段違いだ。」


「っすね。地上で殴り合うのはあんまり得意じゃないっすけど、上から叩く分にはだいたい何とかなるっすよ。」


上から叩く。単純だが、地上に縛られた敵にとっては対処のしようがない。ハヤテの強さは個々の攻撃力だけじゃなく、戦場を三次元で使える機動力そのものだ。


「よし、もう少し奥に行くか。7層を見せたい。」


「7層! もっと強いのがいるんすか?」


「空を飛ぶやつがいる。」


ハヤテの目が、明らかに光った。


7層に降りた瞬間、更に空間が開ける。


「おー……広いっすね!」


「ここから先はワイバーンが飛んでる。ロックワイバーン。体長2メートル超えの飛竜型だ。」


「飛竜! マジっすか。燃えるっすね!」


燃えるのはいいが、油断はさせられない。


「ワイバーンの強さは空中機動にある。急降下攻撃と、口から岩の欠片を散弾みたいに吐くブレス。弱点は翼の付け根の飛膜だ。そこを斬れば飛べなくなる。」


「了解っす。翼の付け根っすね。」


言い終わるか終わらないかのタイミングで、天井の暗がりから甲高い鳴き声が響いた。


翠緑の光の中を、灰色の影が滑空してくる。ロックワイバーンだ。翼を広げた全長は3メートル近い。こちらを認識して、急降下に入った。


「ハヤテ、左から回り込め。俺が引きつける。」


「了解っす!」


ハヤテが翼を展開して跳んだ。俺は正面に立ったまま、ワイバーンの急降下を待つ。


灰色の影が落ちてくる。爪が空気を裂く音。半歩ずらして躱し、すれ違いざまに剣を振る。だが狙いは翼ではなく胴体への牽制だ。刃が鱗を浅く削り、ワイバーンが体勢を崩して上昇する。


その上昇先に、ハヤテがいた。


背後の死角から、風の刃が飛ぶ。翼の付け根の飛膜を、正確に裂いた。ワイバーンが悲鳴を上げ、片翼を失ってきりもみ状に落下していく。地面に叩きつけられたところに、俺が走り込んで首元に剣を突き立てた。


所要時間、10秒ほど。

前回1人で1分かかった相手が、ハヤテとの連携で一瞬だった。


「いけるっすね! 地上でご主人が動いてくれると、自分はもう弱点だけ狙ってればいいっすから楽っす。」


「こっちも同じだ。上にもう1人いるだけで、ワイバーンの動きが全然違う。片翼を落としてくれれば、あとは地上で処理するだけだからな。」


空と地上の連携。ハヤテが飛んでいるだけで、ワイバーンは上下両方に意識を割かなければならなくなる。空中の敵に地上から1人で対処していた時とは、根本的に戦い方が変わった。


「もう1体、行ってみるか。」


「まだまだ余裕っす! ていうかご主人、今度は自分が正面から突っ込むんで、下で待っててくれないっすか?」


「ハヤテが囮か。大丈夫なのか?」


「空中で自分より速いやつ、そうそういないっすよ。」


自信ではなく事実を述べている顔だった。


次のワイバーンは通路の奥から2体同時に飛んできた。以前、俺が単独でこの状況に追い込まれた時は、身体強化がLv.3に覚醒するほどの死線だった。


だが今は、空にハヤテがいる。


ハヤテが2体の間に突っ込んだ。翼を使った急旋回でワイバーンの爪を掻い潜り、至近距離から風の刃を片方の顔面に叩き込む。ワイバーンが怯んだ一瞬で離脱。もう1体がハヤテを追って旋回するが、ハヤテの機動力には追いつけない。


その間に、顔面に風の刃を食らった方が体勢を崩して高度を落とした。俺の間合いだ。身体強化を全開にして跳躍し、剣を叩き込む。バランスを喪失したワイバーンが墜落。着地と同時に首を断った。


残り1体。ハヤテが上空で挑発するように旋回し、ワイバーンの注意を完全に引きつけている。ワイバーンがブレスを吐いた。岩礫の散弾が空中に拡散するが、ハヤテは翼の角度を変えるだけで弾幕の隙間を縫い抜けた。


そして急降下。落下の速度を乗せた一撃が、ワイバーンの胴体を叩き割った。バランスを失ったワイバーンが、翠緑の光の中を回転しながら落ちてくる。


俺が待ち構えていた場所に、落ちてきた。剣を振り上げ、落下の勢いごと首を断つ。


2体、合計30秒。


「……強いな、ハヤテ。」


素直にそう言った。ハヤテの空中機動は、ロックワイバーンのそれを完全に上回っている。速度、旋回性能、判断力。空のモンスターを空で圧倒できる味方がいるというのは、思った以上に心強い。


「えへへ。自分、飛ぶのだけは誰にも負けないっすから。」


照れたように笑ったが、直後に表情を引き締めた。


「でもご主人も相滅茶苦茶強いっす!攻略者になってから結構経つんすか?」


「いや、まだ数か月だよ。」


「ええ~!う、嘘はダメっすよ!自分、そんなに頭はよくないっすけど、そんなのありえないっす!」


「まぁ、それについてはダンジョンマスターの天賦が関連しているからな。追い追いちゃんと説明するよ。」


ハヤテはまだ納得していないようで、ジト目でぶつぶつ言っているが、まぁよしとする。


「よし、今日はこのくらいにしよう。十分な収穫だ。」


「む~。了解っす!」


魔石を回収し、来た道を引き返し始めた。



異変に気づいたのは、3層まで戻った時だった。


「ご主人、ちょっと待ってくださいっす。」


先行偵察していたハヤテが、急に声を落とした。


「2層の広間に人がいるっす。1人。囲まれてる。」


「囲まれてる?」


「リザード系が……8、9体くらい。大きいのも混ざってるっす。かなりヤバい感じっすよ。」


大型個体を含むロックリザードの群れに1人。3層の大型個体は鱗が硬化した強敵で、俺でも初見では手こずった相手だ。新人がソロで相手にする数じゃない。


「行くぞ。」


走った。3層から2層への下り坂を駆け抜け、広間に飛び込む。


苔の光に照らされた広間の奥、壁際に追い詰められている人影が見えた。小柄な少女だ。両手に短剣を構えているが、右腕から血が流れている。足元がふらついていて、壁に背中を預けてかろうじて立っている状態だ。


その前に、ロックリザードが9体。うち2体は通常の倍近い体躯の大型個体。半円形に少女を囲い込み、じりじりと間合いを詰めている。


大型の1体が飛びかかった。少女が短剣を振るうが、右腕に力が入らないのか軌道がぶれる。刃は鱗を掠めただけで弾かれ、爪が少女の肩を抉った。


少女が膝をついた。


「ハヤテ、大型を頼む!」


「了解っす!」


ハヤテが天井付近から急降下し、大型個体の頭部に踵を叩き込んだ。鈍い音と共にリザードが地面に叩きつけられ、動かなくなる。


俺は群れの横合いから突っ込んだ。身体強化を起動し、少女に最も近い3体を剣で薙ぎ払う。硬化した鱗ごと両断して、少女との間にスペースを作った。


残りのリザードが散開する。だがハヤテが上空から風の刃を連射し、逃げ道を塞いだ。壁際に追い込まれたリザードを、1体ずつ処理していき、やがて全滅。


少女の前にしゃがんだ。明るい栗色のショートボブが汗と砂埃にまみれている。大きな同色の瞳が、呆然とこちらを見上げていた。肩と右腕からの出血が多い。


ポーチからポーションを取り出し、傷口にかけた。低級品だが、応急処置には十分だ。出血が止まり、少女の顔にわずかに血の気が戻る。


「大丈夫か。飲めるか?」


もう1本を手渡すと、少女は震える手でそれを受け取り、一口飲んだ。呼吸が少しずつ落ち着いていく。


「あ……ありがとう、ございます……。」


息も絶え絶えの声だった。


「1人で潜ってたのか?」


「はい……。登録したばかりで、まだ1層しか行ったことなくて……でも今日はちょっと奥まで行ってみようと思って……。」


2層に初めて踏み込んで群れに囲まれた、というところか。気持ちは分からなくもないが、結果としてはかなり危なかった。


「名前は?」


少女が顔を上げた。汗にまみれた栗色の髪の下から、大きな瞳がまっすぐにこちらを見た。


「空月ひかり、です。」


――――

貯金残高:800,000円 / ダンジョン蓄積魔力:20

スキル:【剣術】Lv.4 / 【身体強化】Lv.3

眷属:ユキ(エルダーエルフ)/ ハヤテ(鷹獣人)

――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ