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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第18話 軌道

あの口コミ投稿から5日が経った。


結論から言うと、想像以上にうまくいっている。DMで問い合わせてきた4組のうち3組が実際に来訪し、そのうち2組がリピーターになった。さらに口コミが口コミを呼んで、一度も問い合わせなしで直接来たやつらまで現れ始めた。今は1日に2組から3組が森エリアに足を運んでくれている。

たった5日で、だ。あのダンジョンボードの投稿が「釣り乙」で埋まっていた頃が嘘のようである。


「ご主人様、本日3組目が入口に到着しました。」


隣のユキが、淡々と報告する。

居住エリアのテーブルで遅めの昼飯を食べていた俺は、脳内モニタに意識を向けた。入口に2人組の攻略者が立っている。軽装鎧と剣。駆け出しの装いだが、足元に変な力みがないのは経験者の証だ。Dランクあたりか。


「了解。いつも通りで頼む。」


「はい。」


ユキはそう言って――動かなかった。

テーブルの向かいに座ったまま、手元の湯呑みに口をつけている。


これが、ここ数日で確立された運用体制だ。

初日こそユキが直接森に入って訓練を仕切っていたが、2日目以降はユキが事前に組み込んだ制御プログラムが森を自律的に動かしている。蔦の巻き方、枝の打撃角度、弱点を検出して集中攻撃するパターン認識。全てユキが精霊魔法で森の植物に叩き込んだものだ。

ユキ本人が操る時と比べれば、精度は落ちる。攻撃のバリエーションが少なかったり、攻略者の成長に合わせた負荷調整がワンテンポ遅れたりする。だが「安全に鍛えられる」という訓練の本質は十分に満たしている。実際、自律制御モードでも2人のスキル覚醒者が出たようだ。5日で計3人。この数字はなかなかのものだと思う。


脳内モニタに映る森エリアでは、先に入っていた1組目と2組目がそれぞれ別の区画で訓練を続けていた。1組目の槍使いが蔦を薙ぎ払い、2組目の剣士が枝の連打を盾で受け止めている。森の植物たちはそれぞれの訓練者に合わせた動きを見せていて、なかなか様になっていた。

3組目が森に足を踏み入れる。周囲の木々がざわりと揺れ、蔦がゆっくりと地面からせり上がり始めた。自律制御の起動だ。


「……おい、木が動いてるぞ。」


「聞いてた通りだ。来るぞ、構えろ!」


ダンジョンボードの口コミで予習してきたらしい。初見の驚きが薄いのは、ある意味口コミの弊害だが、心の準備ができている分だけ訓練効率は上がるだろう。


しばらく3組の訓練風景をモニタ越しに眺めていたが、ふとスマホを取り出してダンジョンボードを開いた。例の投稿のスレッドは、もはや俺が立てた元投稿が埋もれるほどコメントが伸びている。


最新のコメントをいくつか流し読みする。


『3回目行ってきた。通うたびに自分が強くなってるのが分かる。森の攻撃パターンが毎回微妙に変わるから飽きない』

『物資の値段が良心的。帰りにポーション買って帰るだけでも価値ある』

『ところで今日ユキ様いた?』

『いなかった……』

『俺もここ3回行ったけど一度も会えてない。初日にいたってやつが羨ましすぎる』

『前回、森の奥でチラッと見えた気がした。マジで女神だった』

『レアボスかよ』


……いつの間にか「ユキ様」が定着している。ユキに直接名前を聞いた奴でもいたのか、度胸のあることだ。

評価はありがたいが、ユキの人気が独り歩きしているのは少し複雑な気分だ。まぁ、あの容姿であの強さなら無理もないか。初日に直接指導を受けた最初の2人組が「クソ怖い。でもまた行く」と書いたのが全ての始まりだった。以来、ユキに会えるかどうかが攻略者の間でちょっとしたイベントになっている。


「ご主人様。」


スマホの画面を見ていた俺に、ユキが声をかけた。


「森エリアの自律制御に、やや不安定な兆候が出ています。」


脳内モニタに意識を戻す。確かに、3組目が加わってから森の動きにわずかな乱れが見えた。2組目の訓練者に向かうはずだった枝の一撃が、タイミングがずれて隣の区画にいた3組目の攻略者の肩をかすめている。当たった攻略者は鎧の上からだったので怪我はないが、明らかに意図しない挙動だ。

さらに、1組目への蔦の反応も普段より一拍遅い。攻略者が蔦を断ち切ってから次の蔦が出るまでの間隔が長く、訓練の負荷が下がってしまっている。


「3組同時が限界か。」


「2組までであれば安定して制御可能です。3組になると、植物ごとの制御命令が干渉し合い、反応の遅延や誤作動が発生します。」


ユキは湯呑みを置いて、まっすぐ俺を見た。


「私が直接制御に切り替えれば、5組同時でも対応できます。ですが、その間はご主人様のそばを離れることになります。」


それはつまり、ユキが森エリアに張りつくということだ。ユキだって常に森エリアにいるというのは流石に限界がある。

だが現実問題として、客が増え続ければ3組同時は日常になる。自律制御の限界は、そのままダンジョンの集客上限を意味していた。


「……もう1人いれば、な。」


新たな眷属の召喚。ユキ以外の眷属がいれば、他のエリアへ分散させたり、居住エリアやダンジョン全体の監視を任せたりと、ユキの負担を減らせる。

ただし召喚にはコストがかかる。しかもランダムだ。何が来るか分からない。今の蓄積魔力と貯金で、どの程度の召喚が可能なのか。


「前向きに検討しよう。」


「かしこまりました。」


ユキが頷く。その表情はいつも通り変わらないが、俺の判断に異論はないようだった。



翌日、俺は翠嶺洞にいた。


ダンジョンの運営が安定してきたことで、自分自身の鍛錬に時間を回せるようになった。ユキに留守を任せて、朝から中層に潜っている。

6層の通路を進む。足元の苔が青白く発光して、薄暗い洞窟を淡い光で照らしている。湿った岩の匂いと、かすかに流れる地下水の音。何度来ても、この層の空気には独特の重さがあるが、かなり慣れたものだ。


前方から重い足音。4つ。

ロックタートルの群れだ。


先頭の1体が、こちらを認識した瞬間に突進してくる。甲殻の隙間から覗く小さな目に、捕食者の光が宿っていた。

半歩右にずれる。突進が横を通過する。すれ違いざまに、甲殻の右側面――首元と胴の継ぎ目に剣を差し込む。【剣術】Lv.3の精密さが、刃を正確に導いた。ずぶりと食い込む手応えが柄を伝わり、ロックタートルがくぐもった音を上げて崩れ落ちる。


振り返りざまに2体目。こいつは学習したのか、低い姿勢で甲殻を前面に押し出してきた。

足音で3体目が背後から迫っているのを察知する。挟まれる前に動く。【身体強化】Lv.2が身体を加速させ、2体目の横を駆け抜けながら側面に回り込んだ。露出した脇腹を一閃。岩を断つような硬い感触のあとに、柔らかい肉を裂く感覚が続く。


3体目の突進を跳んで躱す。着地と同時に踏み込み、甲殻の上面と下面の境目を狙って突く。甲羅の表面を滑って刃が逸れかけたが、手首を返して軌道を修正する。


4体目は距離を取っていた。仲間が3体やられるのを見て、警戒している。動物的な本能としては正しい。だが、俺には時間を与えてくれる方がありがたかった。

間合いを詰める。4体目が咄嗟に甲殻を閉じて防御姿勢を取る。だが完全に閉じきる前に、首に剣先を差し込んでいた。


4体。1分もかからなかった。


足元に転がった魔石を拾う。中層のものは1層よりも一回り大きく、淡い緑色の光を帯びている。

強くなっている、と思う。3週間前に初めて中層を周回していた時は、4体の群れに5分以上かけていた。今は1分を切る。身体の動きにも、剣の軌道にも、明確な成長がある。


ただ、スキルレベルアップの気配はまだない。【剣術】も【身体強化】も、Lv.3とLv.2のまま据え置きだ。成長は感じるのに、「回路がもう一本通る」ようなあの感覚は訪れない。焦っても仕方がないのは分かっている。翠嶺洞の中層は、もう俺にとって適正難度のやや下になりつつある。次のレベルアップには、もっと深い層か、あるいは別の環境が必要なのかもしれない。


魔石をポーチにしまい、次の群れを探して通路を進む。今日の目標は魔石10個。換金すれば、そこそこの額になる。ダンジョン運営の売上とは別に、攻略者としての稼ぎも確保しておきたい。貯金は生命線だ。


翠嶺洞を出たのは夕方近くだった。買取所で魔石を換金し、電車に乗って帰路につく。車窓の景色を眺めながら、今日の収支を頭の中で整理する。

ダンジョンの蓄積魔力は、この5日間で20まで増えた。攻略者の滞在で少しずつ溜まる魔力と、物資補給エリアの商品補充に使う魔力を差し引いた数字だ。微々たるものだが、確実に増えている。貯金も翠嶺洞の稼ぎと運営売上を合わせれば、微減で済んでいる。


ダンジョンが育っている。攻略者としての自分も、少しずつだが確実に。

次の召喚をいつやるか。そろそろ本格的に考える時期だ。


――――

貯金残高:990,000円 / ダンジョン蓄積魔力:20

スキル:【剣術】Lv.3 / 【身体強化】Lv.2

眷属:ユキ(エルダーエルフ)

――――


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