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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第14話 うぃんうぃん

朝の稽古を終えた後、ユキが淹れてくれた茶を一口飲み、本題に入る。


「昨日の話の続きなんだけど、拡張の優先順位、ちょっと考えてた。まず物資補給エリアからいきたい。」


「ポーションや装備の売買ができるエリアですね。攻略者を受け入れるなら確かに需要は高いかと。」


ユキが頷いた。ここまでは昨日の延長線上で、大きな異論はない。


「問題は、今の蓄積魔力で足りるかどうかだな。」


「現在の蓄積魔力は480。物資補給エリアの規模にもよりますが、余裕があるとは言えません。」


分かってはいたが、改めて数字を突きつけられると渋い。居住エリアは現金で、訓練エリアは魔力で作った。どちらも作った直後はカツカツだった。

とはいえ、いつまでも貯め込んでいても仕方がない。ダンジョンは投資してこそ回収できる。攻略者が来れば滞在による魔力供給が見込めるのだから、先に環境を整えるのが筋だ。


「まず確認しよう。」


目を閉じ、エリア拡張の情報へ意識を向ける。もう何度もやった操作だ。意識の奥に、見慣れたイメージが浮かび上がる。


――エリア拡張。

その項目を念じると、選択肢が一覧になって展開された。


〈物資補給エリア:魔力コスト350〉

〈食堂エリア:魔力コスト300〉

〈湯治エリア:魔力コスト400〉


脳裏に並ぶ選択肢を眺めながら、思わず唸った。


350。現在の蓄積魔力は480だから、ギリギリ足りる。だが――それで本当にいいのか?


物資補給エリアを作る。ポーションや装備品を取り扱う商業スペース。

攻略者にとっては便利だろう。だが、ここで一つ引っかかる。


「……ユキ、一個いいか。」


「はい。」


「物資補給って、つまり消耗品の売買だよな。ポーション、食料、その他諸々。でも今のうちのダンジョンにあるのは訓練エリアと居住エリアだけだ。」


「はい。そうですが。」


「訓練エリアで模擬戦やって、疲れたら帰る。それだけなら、ポーションはそこまで減らないし、装備もそこまで傷まない。つまり――物資補給エリアを作っても、肝心の客が消耗品を買う理由がないんだよな。」


言葉にしてみると、当たり前のことだった。


「消耗が激しい場所。つまり実戦に近い環境が必要、ということですね。」


「そう。実戦エリアだ。まずは攻略者が実際に戦って、ポーションを使い、装備を消耗し、経験を積めるようなエリアを作る。そうすれば物資補給エリアの需要も自然に生まれる。」


それならば攻略者の滞在サイクルが変わる。実戦エリアで経験を積み、消耗した装備とポーションを物資補給エリアで補充する。このループが回り始めれば、攻略者がダンジョンに長く留まる理由になる。滞在時間が延びれば、その分だけダンジョンの魔力蓄積速度も上がる。

言ってみれば、実戦エリアは集客装置で、物資補給エリアは収益装置だ。どちらか片方だけでは機能しない。セットで初めて意味を持つ。


「うーん、でも、実戦エリアなんてものはリストにはないんだよな。どうしたもんか。」


「ご主人様、提案がございます。」


「うん?」


「一つ、自然が多めのエリアをご用意いただくことは可能でしょうか。そのエリアで私が攻略者の相手をします。」


「それは……。ユキが危険じゃないか?と思ったけど、ユキを脅かせるような存在が、うちみたいな駆け出しダンジョンに来るとは思えないな。」


「はい、お任せください。それに自然エリアであれば、私の魔法も十全に機能します。」


「なるほど。自然を媒介する魔法が得意なんだっけ?」


「はい。程よい感じに攻略者を消耗させて見せます。攻略者もスキルが目覚めるかもしれませんし、うぃんうぃん、というやつです。」


……Win-Winのことかな。最近覚えたのか、いつも通り無表情だが、どこか得意げである。


「分かった。この森エリアってやつがよさそうだな。コストは、と……。」


〈森エリア:魔力コスト500〉


物資補給エリアの350と合わせると、850。現在の蓄積魔力は480だから、370の不足か。拡張を急ぐのであれば、この不足分は現金で賄うしか無いな。


ダンジョンのエリアを拡張したり、アイテムを得たりするコストには、魔力と現金が利用できる。

ざっくり魔力と現金を比較すると、蓄積魔力1に対して、現金ではおよそ5,000円相当といったところだ。


手持ちの蓄積魔力480をフルに注ぎ込み、足りない分を現金で補填する形なら――。


「残りの不足魔力370を現金換算で……185万円か。」


思わず天井を見上げた。

今の貯金はジャスト185万円である。


「……いや、ジャストすぎてびっくりだが。」


「ご主人様?」


「いや、ごめん、何でもないよ。」


さすがに生活費度外視で全額突っ込むのはNGだ。飯を食い、日用品を買う金は必要だ。

最低限の生活費を三ヶ月分確保するとして、拡張に回せる現金はせいぜい100万円程度。つまり85万円ほど足りない。

会社員時代なら「予算不足により計画延期」とExcelに打ち込んで終わりだったが、今の俺にはそれ以外の選択肢がある。


「翠嶺洞で稼ぐか。」


自然と口をついて出た。

この一ヶ月、攻略者としての修練を兼ねて通い詰めていた場所だ。モンスターを倒せば魔石がドロップする。魔石を換金して荒稼ぎする。


「ご主人様の現在の実力であれば、翠嶺洞の浅層から中層にかけてのモンスターは問題なく対処できるかと。稼ぎの効率を考えるなら、もう少し深い階層を狙う手もありますが。」


「中層か。たしかに、浅いところをチマチマやってたら時間がかかりすぎるな。無茶はしない程度に、ちょっとペース上げるか。」


頭の中で計画を組み立てた。

翠嶺洞の中層なら、1日の稼ぎは魔石の換金で3万から5万といったところか。85万を稼ぐには、安全マージンを確保すれば1か月程度。効率を上げられればもう少し短くなる。逆に、怪我でもすればポーション代で稼ぎが吹き飛ぶ。収支のバランスを崩さないギリギリのラインを攻めなければならない。


「よし、明日から本格的に翠嶺洞に入る。目標は――1か月以内に拡張資金を確保すること。」


「承知いたしました。お弁当を用意しますので、朝の出発前にお声がけください。」


今まさに翠嶺洞で荒稼ぎする覚悟を決めた直後に「お弁当」と言われると、なんとも調子が狂う。だが、そういうところがこの日常の良さなのかもしれない。


ともあれ、方針は固まった。攻略者として自分の足で稼ぎ、ダンジョンを育てる。


――翌日。遥は翠嶺洞の入り口に立っていた。

ユキの弁当が入ったリュックを背負い直し、薄暗い洞窟へ足を踏み入れる。今日から、ただの修練じゃない。稼ぎに来たのだ。


side:翠嶺洞 浅層


「なぁ、最近ソロで潜ってるやつ見たか? 黒髪の、二十代くらいの。」


翠嶺洞の浅層で、Cランクの攻略者二人が声をひそめていた。


「ああ、あの変なやつだろ。ロックリザードを親の仇みたいな技で叩き潰してる。」


「それがさ、最近ちょっとヤバくなってきてんだよ。今日、中層で見かけたんだけど、ロックタートルの群れを一人で処理してた。しかも余裕綽々で。」


「マジかよ。先月まで浅層うろうろしてたやつだぞ?」


「成長速度がおかしいんだよな。普通、ソロであの階層を回すには最低でも半年はかかる。それを1か月ちょっとだぜ。」


一人が缶コーヒーを一口飲んで、続けた。


「それにさ、噂によるとまだEランクらしいぜ、あいつ。Eランクがソロで中層って、聞いたことあるか?」


「……ねぇな。Eランクってのも、ガセとしか思えねえ。」


「だろ。なんか裏があるとしか思えないんだよな。装備も大したことないし、パーティーも組んでない。なのにあの速度で階層を上げてる。」


二人は顔を見合わせ、首を傾げた。結局、答えは出ないまま休憩を終え、それぞれの攻略に戻っていく。

だが、この手の会話は彼らだけのものではなかった。

翠嶺洞の攻略者たちの間で、「Eランクのソロ」の噂がうっすらと広がり始めていた。


――――

貯金残高:1,850,000円 / ダンジョン蓄積魔力:480

スキル:【剣術】Lv.3 / 【身体強化】Lv.1

眷属:ユキ(エルダーエルフ)

――――

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